ミッション ホオズキ
「どうして、そんなに強いのにランク無しなの。しかも彼はポーターなのに?」
今、俺たちは酒場でテーブルを2つ繋げてパーティ合同の女子会をしている。この後ダンジョンにはいる予定なので、ノンアルコールだ。
「アイツは本当にポーターだし、1年もかかってアザリアのダンジョンをクリアしたのは最近のことよ。」
カレンはシャルルさんの質問に答えている。
「で、コイツらどうするんだ?」
「エルザさん達の好きにしたらいいわ。私達はこの後ダンジョンの1階層だけ攻略したいから。」
エルザさんは足下に正座する13人の男達の事をカレンに問いかけるが、カレンはエルザさんに任せたいようだ。
「慰謝料を取っても良し、衛兵に突き出してもどちらでもいいんじゃない。」
「コイツら評判悪いみたいだから、再起出来ない様に利き腕切っとく?」
カレンとシルバーさんが男達の未来を左右する提案すると、男達は怯えた顔でシルバーさんを見た。
「あー利き手がどっちか分からないから、両方とも落とせばいいか。」
シルバーさんはワザと言っているのだろうか、薬師だけあってマッドサイエンティストなのか、判断がつかない。
俺たちはエルザさん達に後は任せようとしたが、絶対に無理だと断固、反対された。
「足はもう大丈夫だと思うけど、しばらくは無理はさせないで。」
カレンはタルナードに話しかけると、俺から箱を受け取るとタルナードに渡した。
「はいこれ、ポーション100本有るからケチケチしないで使いなさいよ。死なれても困るから。」
カレンは一呼吸おくとタルナードを指差した。
「使わないで売ったら、殺すから。」
カレンの口癖を知らない、タルナードは必死に何回も頷いていた。
エルザさん達は大事をとり宿屋に行くとの事だ。カレンは男達を追っ払う様に解散させると、テーブルから立ち上がった。
ダンジョンに向けて街の中を歩いているが、周りからの視線が少し気になる。
「アンタがやり過ぎた所為で、ポーション損したじゃない。」
「別に渡さなくても良かっただろ。」
「嫌よ、死んだら呪われるわよ。」
カレンは両手首を曲げ垂らした、幽霊のポーズをしている。
「こっちもそのポーズなんだな。」
「え?アンタのスマホで見たのよ、これのポーズ。」
「そんなのあったか?」
スマホにそんな動画を入れていた記憶が無い。ジェシカさんは何を見せたのかとジェシカさんを見る。
「あー、夜遅くまで起きてると、空の彼方まで連れて行かれちゃう奴ですよー。」
ジェシカさんは説明してくれるが、余計に分からなくなった。もういいか。
そう言えば、いつの間にかミッションは完了していた。タルナード率いる男達はドラゴンブレス、エルザさん達のパーティ名は「リング&ジュエル」だったと言うオチだ。
「あー本物のドラゴンじゃなくて良かったな。」
「ええ、エルザさん達が指輪と宝石だったのは、びっくりしたわね。」
「コインを集めて、王都でリングとジュエルを買うのが目的のパーティなんて素敵ですねー。」
「宿屋での予約時にもパーティ名を聞かれたぞ。」
「なんて答えたんだ?」
「それは…。」
「タリリはマタカミなんて言ったので、まだ無いと訂正しておきました。」
「マタカミね、どう言う意味なの?」
「それは、」
「4人の名前です。ジェシカとカケルが無いです。」
さすが名探偵ミカンちゃん、タリリの考えることなんて丸分かりだ。
「そうね、ジェシカさんが入って無いのは駄目ね。」
「おい!」
「これから、必要みたいだから考えましょ。」
しかし無駄話が長過ぎた様で、パーティ名を考える前にダンジョンの入口に到着してしまった。ところが、ここでカレンが門番の兵士にキレかけた。
「ダンジョンに入るのに、お金がいるなんて聞いてないわよ。」
「初級ダンジョンでは稼げないから、取ってないだけだ。そんな事も知らない奴らが来る所じゃないぞ。」
「1階層だけなのよ、それでも1人銀貨1枚って高すぎるわよ!」
しかし、兵士は断固として譲らない。
「無理な物は無理だ。諦めて払うか、払わずに帰るか早く決めろ。」
だんだんと対応が荒くなって来た。怒られる前に払ってしまおう。
「すみません、これでお願いします。」
俺は銀貨を4枚手渡した。
「ん?1枚足りないぞ。ポーターの分も必要だ。」
「え?ポーターも銀貨1枚ですか?」
「もちろんだ、こっちは採掘者とかポーターとか気にしている暇は無いからな。」
「そうですか、どうぞ。」
兵士は5枚の銀貨を受け取ると、さっさと行けと顎を使ってダンジョンを指した。
「ポーションを100本も渡したくせに、銀貨5枚ぐらいケチるなよ。」
「は?ポーションを渡したから節約してるのよ!アンタだって銀貨1枚ケチってたじゃない。」
「ぐっ、あれは知らなかっただけだ!」
「何よ!私だって知らなかっただけよ!」
俺が軽い気持ちで一言、言ったら、その一言が余計だった様でカレンに火が着いてしまった。
「まーいいじゃないですか。次からはタダですし。すぐに元は取れますよー。」
確かに俺たちはカレンの腕輪があるお陰で、出費は今回限りだ。他のパーティには悪いが抜け道は使わせてもらう。
「そうね、だけど少しでも元は取りたいわね。」
「カレン、カケル、もういいか?倒していいのか?」
タリリの声がしたので視線をカレンからタリリへと移動させると、厚みのある丸い葉が閉じている植物にタリリがショートソードを振り上げていた。
「タリリ、止めろ!そいつはハエ取り草だ。」
「え?」
まるで聞こえていたかの様に、閉じられた葉がパックリと開くと葉の縁に沿ってビッシリと細かい歯の様なものが並んでいるのが見えた。
「くっ!」
タリリが咄嗟に飛び退くと、ハエ取り草はタリリのいた位置を獰猛な猛獣の様に噛み付いた。
「バグン!!」
「おい、植物らしく無い音がしたぞ。」
「タリリ、退がって下さい。」
ハエ取り草の攻撃は躱したものの、その威力にタリリは冷や汗をかいている。
「ファイア。」
カレンの魔法がハエ取り草を跡形も無く燃やしていく。跡に残るのは鉄貨が1枚だった。
「カレン、この草人の手を噛み切る癖に鉄貨1枚だ、ふざけてる。」
「残りはホオズキよね、あっちが高いのかしら。」
俺たちは足元に気を付けながら、慎重に進んでいく。足元は石畳では無く、土がむき出しになっている。全体的に土をくり抜いたトンネルの様だ。
「タリリ、ホオズキだ。止まってくれ。」
タリリの10メートル先にはオレンジ色の袋を下げたホオズキが風も無いのに、ゆらゆらとリズミカルに揺れている。
「あっ?!」
「え?」
ホオズキの茎からオレンジ色の袋が外れ、遠心力でフワリと舞い上がった。それはタリリの頭上を越え、放物線を描いてカレンの前にオレンジの袋が落ちてくる。それを見たタリリとカレンが声を上げた。
それはスローモーションの様に見えた。タリリとミカンちゃんの背後、カレンとマリリさんの目の前の僅かな隙間にオレンジ色の袋が落ちた。
それは地面で少しだけ跳ねたかと思うと、オレンジ色の袋が膨張していき、中から小指の先の大きさの黒い種が全方位に飛び出して来た。
俺も目で追うだけで体は動かない。ヤバイと思うが足は動いていない。しかしただ1人だけ反応していた。小さな身体が飛び込んで、オレンジの袋に覆い被さる。
小さな身体は、鉄球の様な黒い種の猛威で小刻みに上下する。種の爆散が終わるとそこには、床にうつ伏せで横たわるミカンちゃんがいた。
「ああああああーーー!!」
「え?え?ミカンちゃん?」
「くっ、ミカン!」
カレンは目の前に倒れるミカンちゃんに覆い被さる様に倒れこむ。ジェシカさんは口に手を当て、目を見開いている。
タリリは素早く踏み込むと、ホオズキを一刀のもとに切り捨てると、後ろを振り返った。
俺はウエストポーチからポーションを取り出そうとしているが上手くいかない。焦れば焦るほど時間だけが過ぎていく。
「ヒール!ヒール!ヒール!」
マリリさんの声が響いている。瀕死のエルザさんも男たちの脚も治した治癒魔法だ。治らないハズが無い。死ななければ治すって言ってたんだから、絶対に大丈夫だ。
「ミカンちゃん!ミカンちゃん!」
カレンは床の上に膝をつき、ミカンちゃんを胸に抱き抱えている。しかしミカンちゃんの瞳は閉じられている。
「マリリさんヒールを続けて下さい。カレン、ミカンちゃんのキズを見せてくれ。」
俺はカレンの横にしゃがむとカレンの肩を少し押して、ミカンちゃんの鎧の前面が見える様にした。
鎧には穴は無い、カレンと協力して防具に覆われていない部分を目視と指先で触りながらケガの状況を確認していく。
「ケガはもう無いな。」
「防具と服には穴は無いわ。」
「ヒールって服も治るんですかー?」
「いえ、治りません。」
カレンはミカンちゃんの口元に耳を当て、呼吸音を確かめる。
「良かった、息してるわ。」
「ああ、脈もあるな。」
俺はミカンちゃんの籠手をとり、手首の脈を診ている。その後俺たちは、この場所でミカンちゃんの様子を見守ることにした。
「レンちゃん…どうしたです?」
その声にカレンの涙を湛えた目が大きく見開かれた。
「ミガンぢゃーん、良かったー!」
「ミカン!」
「ミカンちゃーん」
「ミカンちゃん!」
「ミカンちゃん!」
モンスターを警戒していたタリリも、駆け寄ってくる。
「ごめんなさいです。」
ミカンちゃんはみんなの顔を見ると、だんだんと思い出して来たのか、申し訳ない表情で謝りだした。
「ううん、ミカンちゃんは悪くない!私が悪いのごめんなさい。」
ミカンちゃんが身を呈していなかったら、俺たちは下手したら全滅していた。ミカンちゃんが悪く無いのは決まっている。
だけれども、ミカンちゃんはカレンの涙を見て、心配させてしまったことを悔いて、謝っている。
悪いのは俺たちだ、植物モンスターのホオズキが10メートルも袋を飛ばせないと侮っていた、油断していた。
ランク5を退け、新たなダンジョンを見つけ、ボスのヴァンパイアを瞬殺して来たことで油断していたのだ。気の緩みが大切な仲間を死なせてしまう所だった。
「ハーちゃんです。守ってくれたです。」
あの一瞬にミカンちゃんは自分とホオズキの袋の間にハーちゃんを召喚し盾にしていたようだ。ただ、種の直撃は免れても衝撃からは逃れられ無かったとカレンに説明している。
カレンに力強く抱きしめられ、窮屈そうにしながらもミカンちゃんは頭をカレンの胸に預けてカレンの顔を見つめていた。




