ミッション フロースのダンジョン
王都からフロースのダンジョンまでは1日に4本の定期便が出ている。俺たちは朝一の便に乗り込むと約6時間の馬車の旅に出た。
俺のポーター用の特大背負い袋は丸ごとジェシカさんのポケットの中だ。俺は小さな袋の中にポーションと水と1食分の保存食だけを背負っている。毛布はミカンちゃんの分だけを持っている。
この前みたいに突然、馬車を降りなくてはならない時に少しでも早くする為だ。カレン達も武器だけ手にしている。ジェシカさんに感謝だ。
朝6時の出発だったが、そろそろ太陽も高くなりつつある。だが、この馬車には幌がついているので日差しはそこまで気にならない為に快適な旅になっている。
馬車の後ろを見ると、同じ幌馬車が10台近く続いている。前にも何台かいたはずだ。王都も近く、この台数の馬車の隊列を狙う盗賊はいないようでのんびりとすごしている。
「アンタ達見たところ、ランク1だね。」
「ランクですか?」
「ああ、まさかノーランカーなのか?」
カレンにランクを聞いているのは、女性7人のパーティのリーダーのエルザという金髪の戦士だった。
「わたしらの様に専用のポーターを持たなかったり、臨時にパーティを追加したい時に参考にするのがランクさ。」
そう言うとエルザは胸元から首に吊るしたカードを取り出すとカレンに見せた。そのカードの色は黄色で大きくランク3と書かれている。
「ランク3ですか?」
「ああ、わたしらは現在ミノタウルスのダンジョンで34階層を攻略中だから、ランク3なのさ。」
エルザの説明を捕捉するのは、魔法使いのシャルルさんだ。彼女は鍔広の帽子を深く被り直しながら
「自分の攻略中の階層の十の位がランクと覚えれば簡単。9階層どまりならノーランカー、10層を超え19層までならランク1なの。」
とエルザさんの説明の不足点を補っていく。すると大剣使いの巨人族のカーネさんも話に加わって来た。
「地方の初級ダンジョンを攻略しただけなら、ここでは無く中難易度のダンジョンでランクを上げた方が良い。」
カレンは心配してくれるエルザさんのパーティメンバーに素直に喜び感謝している。
「ありがとうございます。せっかく王都に寄ったのでフロースのダンジョンを少し見学して帰るつもりでした。」
そう言いながら、カレンは俺を見る。
「この者が私達のポーターですが、ご覧の通り採掘する為の準備はしていません。」
エルザさんはカレンの言葉を聞いて頷いていたが、ポリポリと頭をかくと
「えーと、わたしはエルザそんなに緊張しなくていいから。」
と手を差し出した。
「じ、じゃあ遠慮なく。アザリアから来ました。カレンと呼んで下さい。」
「ミカンです。よろしくです。」
エルザさんとカレンが握手した上に、ミカンちゃんが手を乗せて来た。その様子にエルザさん達にも笑みが零れた。
それから1時間程走ったら、セーフゾーンの石柱が見えて来た。
「そろそろかと思ったら休憩か。」
「そう見たいね。」
「ん、違う違う。あの中がダンジョンだ。もう少しすると遺跡が見えて来るから、それがダンジョンだ。」
カレンとの会話にエルザさんが俺たちの誤解を指摘してくれる。セーフゾーンにはモンスターは入れないと思ったがダンジョンは影響外なのか。
「王都に近い分、ダンジョンからモンスターが溢れたら一大事なの。しかしあのセーフゾーンがあるお陰でモンスターが弱体化され、王都の安全が保障されている。昔の人は凄い。」
俺の疑問を見透かしたように、シャルルさんが帽子で目を隠す様にしながら語ってくれる。
すると間もなく、エルザさんの言う年代を感じさせる遺跡が見えて来た。その姿は次第に大きくなり、王城よりも大きなその遺跡の全貌が見えた。
「ありがとうございました。これ良かったら使って下さい。」
カレンは20本のポーションをエルザさんに手渡している。
「良いのかい?ポーションは何本あっても足りないからね。有り難く貰っておくよ。」
挨拶を交わした後、エルザさん達はポーターの集まる酒場へと繰り出して行った。
「良し、目標は1階層の攻略よ。私とアンタとジェシカさんで地図や情報を集めるわ。マリリさんとタリリは宿屋の手配をお願い。」
カレンはミカンちゃんと手を繋ぎ、教会を目指す。
それの後から俺とジェシカさんが歩いていく。
お目当ての教会は直ぐに見つかった。遺跡の一部が教会として活用されていた。そこは大きな広間だった場所にコの字のカウンターがあり、カウンター業務のシスターさんだけでも30人はいる。採掘者はそこに列を作っている。
「整理券とか無いんだな。」
「なんの券って?」
「こんな風に立って待たなくても、紙に番号を書いた券を配って置けば、呼ばれたら行けばいいだけだから楽なんだけどな。」
「それ、シスターさん達にメリットあるの?」
「え?」
「次の人を呼ぶ時には番号を調べなきゃいけないでしょ?それに最初に券を配る人も必要だし、文字読めない人もいるわよ。」
俺たちは列が進むのを待ちながら、そんなたわいも無い会話を楽しんでいると、俺たちの番が来た。
「1階層は主に植物系のモンスターになります。動きは遅いのですが、様々な方法で採掘者を陥れてきますので注意が必要です。」
「ハエトリ草は近づかなければ脅威では有りませんが、挟まれると金属の鎧でも簡単に切断されます。腕を無くされた方は昨日もいらっしゃいましたので、くれぐれもご注意下さい。」
「ホオズキは種の入った袋を飛ばしてきます。この種も木の盾では防ぐ事は出来ませんので、出来るだけ遠くへ避難下さい。毎年低ランクのパーティが全滅されていますので、対策は充分にお願いします。」
カレンが1階層の情報を希望すると、5階層までの地図と各階層のモンスターやトラップなどを書いた資料を渡された。
その資料を元にシスターさんが説明をしてくれている。腕の切断やパーティ全滅などの物騒な単語が聞こえたが、シスターさんは淡々と説明していく。
因みにこれで銅貨5枚、5000円だ。元が取れるのだろうかと疑問になる。
カレンは1階層の情報を聞き終わると、シスターさんにお礼を言って踵を返した。
「なかなかね、油断してると危ないわね。アンタは特に気を付けなさいよ。」
「ああ、ポーションで腕、くっ付かないよな。」
「ハイポーションやエクスポーションなら付くかも知れないわね。」
「そうか。自分の腕で試さないようにしないとな。」
教会を出て、マリリさん達を探すために歩きだした。
エルザは6人の仲間とポーターを雇いに、酒場の中に入って行った。そこは昼間にも関わらず、何人もの男達がテーブルを囲い酒を交わしている。みな一様に空の大きな袋を椅子の横に置いている。中には首からランクカードをぶら下げているポーターもいる。
窓側の4人掛けのテーブルに1人きりで座っている、女性ポーターを見つけるとエルザは足早に近づいて行った。
「私はランク3のエルザだ。15層までの予定だが、1日銀貨1枚、食事付きだがどうだろうか。」
黒髪で後ろに1つにまとめた髪型のポーターはエルザ達を眺めると口を開く。
「先払い、2週間を超える場合は追加1枚なら。」
エルザは往復で2週間程度を考えていたので、ついか費用も発生しないと考えて条件を承諾した。
「よろしく頼む。」
「こちらこそ、すぐに詰め込みを始めよう。」
するとそこに青いフルプレートの金髪角刈りの大男が割り込んで来た。
「女ポーターお前、俺が予約したよな、ああ?」
「1日銅貨1枚など受ける訳ない。」
すると大男はポーターの女性に摑みかかろうと手を伸ばした。
「邪魔をするな。」
エルザはその手を払いのけると、大男を睨みつけた。
「ああ?じゃあお前が持つか?それともそこの巨人族の女か?」
そう言いながら、大男はエルザの肩に手を掛けようと伸ばしてくるが、それをエルザは又してもはたき落とした。
「痛ってじゃねぇか。」
その言葉と共に振るわれた右腕は、エルザには見えなかった。それはポーターにとっても同じ事だった。
いくつもの鈍い音と共にエルザは窓を突き破り、広場まで転がっていく。
「ぴろりろーん!」
(ミッション ドラゴンから指輪と宝石を守れ 制限時間 120秒)
大きな音と共に女性が窓を突き破って、転がってくるのと同時にミッションの音が鳴り響く。
「きゃあーー!」
「なに!」
「うわっ?!」
目の前の女性も気になるが、ミッションの残り時間が少ないのもあり読み上げておく。
「ドラゴンから指輪と宝石を守れ、ドラゴンか。」
「ドラゴン?」
カレンもジェシカさんも女性に向かおうとした足を止めて空を見上げた。
「いないわよね?」
「ドラゴンなんて、無理ですよ。早く逃げましょうー。」
「ダンジョンの中なのか?」
悩んでいると、酒場から7人の女性が走り出てくると、横たわる女性に駆け寄ってくる。
「あの魔法使い、シャルルさんじゃない?!」
カレンは酒場から出てきた1人の女性を見え叫ぶ。
では、あの倒れている女性は。
「エルザさん!!」
カレンとジェシカさんが走りだした時、酒場の窓が壁ごと、こちらに吹き飛んで来た。
「なんだ?!」
砂埃でよく見えないが、壁をぶち抜いたそこには青いフルプレートアーマーを着込んだ、大男が大剣を右手に持って倒れた女性を見下ろしていた。
「たかが、ランク3如きが、このランク5のドラゴンブレスのタルナード様に楯突こうとはな。」
大男の名乗りに周囲の人々が驚きの声を上げている。
「ドラゴンブレスだってよ。ひどいのに絡まれたな。」
「けど、奴らランク5だから、だれも逆らえねえよ。」
「謝っちまえよ!死ぬぞ!」
「ヤレ、ヤレ!採掘者なら負けんじゃねーぞ!」
タルナードはそんな雰囲気を楽しんでいるのか、ゆっくりと歩みを進めている。エルザは身動き1つしない、3人かがりで回復魔法やポーションを使っているが、まだそのままだ。
「てめえら全員が夜の相手をするなら、ソイツの命は助けてやらんでも無いぞ。どうする。」
そう言いながら、タルナードは大剣を両手で持つと頭上に掲げた。その大剣は赤と緑に輝き出している。
「ファイア!」
「バンバンバン」
「ストーンウォール。」
「女の敵だー!死ねー!」
タルナードの眼前には炎の柱が立ち上がり、タルナードは余りの熱量に驚き尻餅をつく。手にしていた大剣はレーザーによって半ばから切断されている。
ミカンちゃんのストーンウォールは炎の柱の熱風か
エルザさん達を守っている。
エルザさんのパーティメンバーもタルナードの攻撃を防ごうとしていたが、そのランク差から死を覚悟していた。そんな緊迫した場面に突然現れた、炎の柱に周りの見物客も含めて呆然としている。
「シャルルさん!エルザさんはどう?」
「ダメなんです、まだ息はありますが私達のヒールでは現状維持しか…。」
シャルルさんを含め3人かがりで治療しているが、思わしく無いようだ。
「あー、いたいた!マリリさーん!こっちです!」
ジェシカさんが爪先立ちで大きく手を振りながら、マリリさんを呼ぶ。
「ちっ、油断した。おいお前ら手をかせ!コイツらここで殺すぞ。」
「おいおい、その剣どうした。金貨10枚だろ?」
「殺して金をぶんどるのかよ?」
「女はおれにも寄越せよ。」
タルナードの仲間だろうか12人の男達が集まってきた。それぞれの手には武器が握られている。
「カレン、マリリさん。こっちは頼んだ。ちょっと行ってくる。」
「殺すのは駄目よ、きちんと手加減しなさいよ。」
「え?カケルさんが手加減ですかー?」
「大丈夫よ、今は無敵よ。」
おれがショートソードを手に取り、カレンとマリリさんにエルザさんの事を頼むとカレンは相手の事を気遣った。
「カレンさん、あの人ポーターでしたよね。死んじゃいます!」
「私達はいいから、関係ない君たちは逃げたまえ。」
「うんうん、逃す時間ぐらいは作れるよ。」
エルフのフリューゲルさん、巨人族のカーネ、銀髪イヌ耳の薬師のシルバーさんがカレンに逃げる様に進めると、武器を構えてエルザさんの前に立つ。
「ヒール!」
そんな彼女らの代わりにマリリさんはエルザさんの傍らに膝をつくと魔法を行使した。
「うう、ううん」
「もう、大丈夫ですね。少し危ない所でしたが。」
エルザさんの容態は明らかに良くなり、顔色も少しづつ良くなって来ている。
「あ、エルザ?!」
「うそっ!」
俺はそんな声を聞きながら、ゆっくりと男達の輪の中へ進んで言った。
「ああ?だれだテメエ。」
「ええい、控えおろう!この袋が目に入らぬかー!」
おれは左手に持っていた袋を見せつけるように掲げる。
「ハァ?なんだそれは?ポーターの袋か?」
「そうだ、正解だ。俺はポーターだ覚えておけ。」
男どもは嘲笑うかの様に俺を見ていた。多勢に無勢で実際に余裕があるのだろう。彼女達ランク3を軽く、あしらうぐらいだから。
俺は言葉を言い切る前にショートソードを前方の斜め下に向けて半円状に軽く振った。その瞬間13人の男達がブレたかと思うとその場に崩折れた。
「ぎゃあーー!」
「ぐわぁー!」
「痛てー!」
男達の悲鳴が煩い。おれはウエストポーチからポーションを取り出すと男達の膝にこぼしていく。
「おっと。」
俺は地面に転がる男達の26本の膝から下を避けながらポーションをかけて歩く。途中でタルナードが半分の剣を構えたので右手も肘から落としておいた。
「おい、ポーションが勿体ないからじっとしてろ。」
仕方なくタルナードの右肘にもポーションを掛けてやる。
「アイツやり過ぎよ、マリリさんいける?」
「ええ、それをするかはエルザさんに決めて頂きましょうか。」
「そうね、それがいいわね。」
そんな会話を耳にしながら、魔法使いらしき男を重点に見張っておく事にする。
「エルザさん、調子はどう?」
「ん?カレンか、私は一体…。」
「青い大男にここまで、飛ばされたみたいよ。」
「エルザー!良かったのー!」
シャルルさんがエルザさんに抱きついて来た。
「全く動かないから、もう駄目だと思ったの!」
「ああ、その上奴らの仲間まで出て来たからな、死を覚悟した。」
「ポーションも全然効かなかったんだよ。」
「ならどうして、生きているんだ?」
するとカーネさんもシルバーさんもカレンに視線を合わせた。
「彼女が?」
「いえ、彼女たちがです。」
そう言いながらエルザさんが体を起こそうとするのをシャルルさんがサポートしている。
「こ、これは。」
エルザさんの視界には13人の男達が無様に転がっていた。
「奴らはランク5のドラゴンブレスですの。」
「あ、あのドラゴンブレスか?」
「ええ、リーダーはとんでもない奴らに目を付けられたの。」
「で、どう言う状況だ?」
シャルルさんとエルザさんの会話にカレンが割り込んで行く。
「ウチのポーターがやり過ぎたのよ、今なら仕返しも簡単よ。一発殴ったら?死ななければ良いから。」
「はい、死ななければ責任もって治します。どうせ足を元どおりにしなくてはなりませんので。」
カレンとマリリさんの言葉にエルザさんは若干引き気味だ。しかし、シャルルさんの手を借り立ち上がるとタルナードへと歩きだした。
「そうだな、採掘者たるもの舐められたら終わりだな。この借りは必ず返す。」
広場にはエルザがタルナードの顎を蹴り上げる音が響いた。




