ミッション 謁見
フロース王国謁見の間、一段上がった最奥にはカクタス王とジンジャー王妃が座り、その横には宰相が控えている。赤い絨毯が敷かれたその両脇にはフルプレートアーマーで完全武装した騎士が並んでいる。
カレン、マリリさん、タリリ、ミカンちゃんの4人は玉座の前で下を向き片膝をついている。ジェシカさんはカレンの後ろで立ったまま、きょろきょろと周りを見回している。
「面をあげよ。」
宰相の指示でカレン達は初めて顔をあげると、宰相は目録を読み上げていく。
「貴殿ら4人がクブルムの地おいて、新たなるダンジョンを発見したその功績を称え、カクタス国王陛下が恩賞を下賜される。心して受け取るが良い。」
国王は宰相の言葉が終わると唯一言だけ
「大義であった。」
と口を開いた。それに合わせてカレン達は又頭を下げようとした時だった。
「うんうん、大義であったー。」
ジェシカさんが国王と王妃の玉座の中間で腰に手を当て、そう繰り返した。
カレンらは一瞬、目を見開いたが直ぐに頭を下げてその表情を隠した。国王に謁見した時よりも心臓がバクバクといっている。
そんな事は知らぬジェシカさんは、自分の足元にいつか見た丸い凹みが有るのに気付いた。そしてしゃがみ込むとその凹みに指先を這わせた。
「あれ?これって。」
ふと、顔を上げるとカレン達の退出の為に、兵士が扉を開けようとしているのが目に入った。
「あ、待ってー。」
ジェシカさんは玉座の段差を飛び降りると、ワンピースの裾を翻しながらカレン達を追いかけた。
その頃、俺は城下町でポーションの販売先を探していた。
販売価格は3000円から5000円の間だった。結構開きがあるが、薬屋にもブランドがあるらしく、しばらく見て回った結果の結論だ。もちろん買取価格は更に下がる事になる。
「すみません、これ買取幾らになりますか?」
俺はカウンターに1本のポーションを置く。少し脇に入った所にあるこの薬屋の店主はクマだ。クマ耳のおっさんだ。多分クマの耳だろう自信はない。
クマのおっさんは瓶を手に取り、透かしたり振ったりしている。
「鮮度は悪くないな、銅貨2枚なら買い取る。」
2000円か半額にしかならない。他店では銅貨1枚、1000円ってのも有った。
俺たちはマリリさんがいる為にポーションの消費量が他のパーティに比べて少ないのもあり、2000本ものポーションを使い切れるとは思われなかった。
「すみません、ちょっと考えます。」
俺はそう言うと店を後にし、宿屋への道を引き返した。
カレン達は王城を出て貴族街を歩いている。行きは馬車だったが帰りは徒歩の様だ。謁見までは兵士に案内され至れり尽くせりだったが、終わればこの有様だ。
「ジェシカさんアレは駄目よ、アイツなら叫んでいたわ。」
「本当ですわ、危ないところでした。」
「我慢したです。ギリギリです。」
カレンは言葉では非難しているものの、その顔には笑みが浮かんでいる。それはマリリさんらも同様だ。
「すみません。調子に乗りましたー。」
謝るジェシカさんも勿論、笑顔だ。
「カケルを採掘者にしておくんだったな。」
「どうしてよ。アイツ王様には会いたくなかったみたいよ。めんどくさいんだって。」
「功績は認められたがそれだけだった。前回の時は名誉男爵が下賜されたはずだ。今回は女だけだから、騎士爵すら無かった。」
「それは仕方ないわ。」
「教会も女だからってシスターのままだ、男なら助祭や司祭にも成れたかもしれないぞ。」
憤るタリリにマリリさんは、首を横に振りながら
「私は偉くなる為にやっている訳では有りませんよ。」
「そうだが…。」
「タリリはクブルムの街の人の笑顔をもう忘れましたか。私はあれで十分ですよ。」
マリリさんの言葉にカレンも続ける。
「男爵って言っても、領地も無い形だけよ。その分お金貰ったからいいじゃない。」
そんな会話をしながら、カレン達は俺の待つ宿屋に帰ってきた。
カレン達の戻りを迎えた俺は、みんな少し疲れた顔に見えた。さすがに国王との謁見は緊張したのだろう。
「お疲れ様。どうだった、王様は?」
「緊張し過ぎで疲れたわ。」
「国王陛下からは一言だけお言葉を頂きましたわ。」
「そうなんですか、では言葉以外は?」
カレンは懐から布の袋をだして、口を開けて見せる。中は100枚の金色のコインがぎっしりと入っていた。
「おおー!大義である!」
「ブフォ!」
「ゴホッゴホッ!」
「ぐっ」
カレンを俺が褒め称えると、カレンやマリリさんジェシカさんから変な音が聞こえた。
「ア、アンタね!ワザとでしょ?!くふふふ。」
「ふふふ」
「アハハハー。」
「大義であるです。」
カレンは抗議もままならないようで、みんなと笑い転げている。そんな中おれは訳も分からず立ち尽くしていた。
その後、しばらくして落ち着くとカレンの口からジェシカさんのイタズラの話が出た。
「そんな場面で噴き出したら、これか?」
俺は首を横から手を当てるジェスチャーをした。
「流石にそこまではしないんじゃ無い。牢屋ぐらいでしょ?」
「いや、不敬罪はもっと重いぞ。最悪死罪だ。」
タリリは真剣な表情で断言した。そこには息を飲むジェシカさんの姿も有った。
「本当に、ごめんなさいー。」
ジェシカさんは宿屋の床の上に膝をついて謝っている。
「もう良いわ、気にしないで。」
「いいです。けどジェシカはカケルに似てきたです。」
「「えー?!」」
ミカンちゃんの突っ込みに俺とジェシカさんは驚きの声を揃って上げた。
「なるほどね、確かにね。」
カレンはその様子を目を細めて眺めていた。
その日の夕食時に俺たちはテーブルを囲んでいる。この宿屋での最後の夕食だ。明日からは採掘者様の少し安い所へ移る予定だ。
「第1回、王都ダンジョン攻略会議を始めるわ。ホラ、アンタ、ダンジョンの情報を詳しくね。」
「え?俺。王都には3つダンジョンが有ります。以上。」
カレンの突然の振りだが、ボケるほどの情報も持っていない。
「北には超高難易度ダンジョン、フロースのダンジョンが有ります。これは現在52層まで確認されています。ただ、52層は全て氷に覆われているらしく先に進む事は出来ていないとの事です。」
「西は中難易度のミノタウルスの迷宮と呼ばれています。全50層の攻略は完了しています。」
「東も中難易度のダンジョンでロサと呼ばれています。魔法使いがいないと攻略が困難と言われています。こちらも全40階層が攻略されています。」
マリリさんが受付嬢の顔でスラスラとダンジョンの特徴を説明してくれる。俺とジェシカさん以外は既存の情報らしい。
「フロースのダンジョンの52階層は有名だぞ。階段を降りると始まり部屋が天井まで氷で埋め尽くされており、進む事ができないってな。」
タリリが意気揚々と説明をするが、マリリさんの説明を繰り返しているのかと思う程の、新鮮さの無い説明だった。
「ここから1番近いのは、どこですか?」
「それはもちろん、フロースのダンジョンよ。」
王都へ戻ってくる為なら近い方が楽だ。マリリさんに聞いたのにカレンから回答が帰ってきた。
「王都への移動の為なら、フロースでいいんじゃないか。」
「私は3つ全部入りたいぞ。」
「タリリ、私たちはリーリオへ行かなければならないのですよ。あまり長居はできません。」
「そ、そうか。」
タリリのその俯く、その様子が余りにも気の毒だ。
「マリリさん、1階層のボスだけなら3つ行けませんか?」
マリリさんはしばらく考えた後、テーブルにコップを並べて説明を始めた。王都を表す皿からフロースのコップは真上に、ミノタウルスは右横に、ロサは左上にコップを置いた。
「フロースのダンジョンまでここから、約1日の距離が有ります。ロサまでは2日、ミノタウルスまでも2日の距離があります。」
「往復だけでも10日必要なんですね。」
思ったより遠かった、これに1階層攻略の時間を入れたら2週間近いな。
「リーリオへの到着は大幅に遅れているわ、今回はフロースのダンジョンだけにしましょう。みんなそれで良い?」
カレンの言葉にタリリも渋々と頷き、攻略ダンジョンが決定した。タリリは何を思ったのかフロースの位置に置かれたコップを手に一気に取り飲み干した。
「フロースのダンジョンなんて、こうだ!」
そんなセリフと共に空のコップをコッンとテーブルに置く。
「あら、タリリそれはカケルさんのですわ。」
「なに…。」
みるみる内にタリリの顔が赤くなっていく。
「そ、それが、どうした。カケルが飲まないから悪いのだ!」
「ああ、もう腹一杯だから気にするな。」
タリリはコップを俺に押し付けると、
「私が気にするのだ!失礼する。」
と言うが早いか、1人先に部屋へと戻って行った。それを見るマリリさんの目が生暖かった。
「カレン、今日はもう買出しも無いだろ?」
「ええ、ダンジョン分は大丈夫でしょ。リーリオに出発前には色々とあるから、覚悟してなさいよ。」
「「サー、イエッサー!」」
ん?俺の掛け声にジェシカさんは敬礼のポーズ付きで合わせて来た。
どこでそんな知識を付けているんだと疑問に思いながら、ジェシカさんを見ると意味ありげに片目をつぶった。
「アンタ達、何よそれ…。流行ってんの。」
カレンの呆れかけた問いかけに、俺たちは顔を見合わせて苦笑いをした。




