ミッション 王都
ウインテを出た馬車はその後も順調に兵士達に守られて進んで行った。2度の野営を経て今日中には王都に到着予定だ。
「盗賊もこんなに兵士がいたんじゃ、襲って来ないわね。」
「途中で襲われた馬車もいませんでしたねー。」
「転んだ薬屋さんもいなかったです。ごめんなさいです。」
「村には近づく事も無かったな。」
「もう、あとはアンタのミッションだけが頼りよ。」
ここまでの2日間何事も無く、無事に来た為にポーションの事が気掛かりで仕方ないみたいだ。
「別に無理して使うこと無いだろ。王都で売ってもいいだろ?元は取れるよな。」
「王都のポーションの相場しだいだぞ。」
「ダンジョン特需でクブルム用にポーションが値上がりしていればいいんですが。」
「そうね、使わないで売れるなら、その方がいいわよね。」
王都フロースはローレンシウム大陸の中央部に位置するフロース王国の首都である。三角形状をした丘の頂上に王城がそびえ、王城の後ろは段階絶壁となっている。
また丘の斜面と広がる裾野には沢山の建物が密集している。王都は3つの城壁を備えている。
1つは王城の周り、2つ目は丘の中腹に貴族街と平民街を隔てている。3つ目は丘のすそ野の広大な農業用地と平民街を囲むように巨大な城壁が外部からの侵入を堅牢に防いでいる。
丘の周りには肥沃な麦畑が広がっているが、それは丘の後ろから左側面を周り、裾野を横切るように流れるロロヌ川の恩恵によるものだ。
「大きいわね。」
「こんな凄い壁で何から守ってるんですかねー。」
「そりゃあ、ドラゴンだろ!」
「えー。ドラゴンは飛んできますよね、壁意味ないですよねー。」
「ぐ、そうか。」
確かにこの分厚い壁を見れば、ドラゴンぐらい大丈夫な気がしてくる。ドラゴンは誰も見た事が無いので、あくまでも想像上の話だ。
そんな壁を抜けて、俺たちは丘の中腹にある城下町まで来ている。後1回壁を超えると貴族街に入る。
「明日の朝、お迎えにあがりますのでこの宿屋にてお待ちください。」
「ありがとうございます。」
兵士はそう言うと、俺たちをその場に残して坂を登って行った。
「とうとう、王都まで来たわ。」
「人がいっぱいですねー。」
王城まで続く石畳みの道路は馬車が4台並んでも、余裕がある大きな道だ。それでも道路には列になった商人の馬車が渋滞している。
「とりあえず、中に入りましょう。」
宿屋に入ると黒服の中年の男性が声をかけて来た。
「ようこそ、いらっしゃいませ。ご予約のカレン様ですね。お部屋までご案内致しますのでこちらへ。」
「よろしくお願いします。」
「お邪魔しまーす。」
「よろしくです。」
三階にはツインルームが6部屋あり、俺たちはそれぞれ1部屋を割り当てられていた。この三階はほぼ貸し切りみたいだ。
「2人で1部屋で良いのに。落ち着かないわ。」
「レンちゃんと寝るです。」
「私もタリリと離れて寝るのは久しぶりです。」
「もったいないから、私は両方のベッドで寝るぞ。」
「ジェシカさんはミカンちゃんの部屋を使ってね。」
部屋割りも決まったが、まだ寝る時間でもない。何をしようかと思っていると扉をノックされた。
「アンタ、買い物に行くから付き合いなさい。」
せっかくの王都だし、寝ていてるのも勿体ないとの事で出掛ける事にしたらしい。
「何を買うんだ?金無いだろ。」
「見るだけでもいいじゃない。」
「そんなもんか。」
女性陣は既に準備を終えており、普段着になっている。カレンは白い猫耳付きのパーカーに赤と白のチェック柄のミニスカートに見えるショートパンツを
履いている。ミカンちゃんはカレンと同じパーカーに茶色のショートパンツでお揃いの格好をしている。
マリリさんに目をやると、彼女はいつもの修道服だった。タリリは長袖のフリルが少しだけ付いた白いシャツに細目の黒いスラックスと言った出で立ちだ。
ジェシカさんはいつものワンピースとエプロンだが、バスガイドさんの帽子を被り、王都ツアーと書かれた小さな旗を持っている。
「え?!」
俺が驚いているのを見ると、してやったという風に笑うと俺のスマホを振って見せた。
「この中の動画に有ったんで、真似して見ましたー。どうですかー。」
「どうって、ビックリしたよ。」
「へへ、けど、このワンピとエプロンは変えられないんですよー。」
どんな原理か分からないが、彼女は色々と自由だから考えても仕方ないと納得した。
そんなこんなで、ジェシカさんを先頭にして王都観光ツアーがスタートした。カレンとミカンちゃんは手を繋いでジェシカさんの後を歩いている。
「うわぁ、高いですねー。塔ですー。」
「王都の教会本部の建物です。時間になると鐘が鳴るそうです。」
肝心のガイドさんがキョロキョロとして、ガイドになっていない。簡単な説明はマリリさんがしてくれている。
「王都での用事が終わったら、ダンジョンに入るんだろ?腕輪的にも。」
「そのつもりよ、当たり前じゃない。」
「おお?!王都のダンジョンか。楽しみだぞ。タリリエアリアルスマッシュが火を噴くぞ。」
風属性が火を噴いてたまるかと、思うがキラキラと瞳を輝かせているのを見ると突っ込むのも躊躇われた。
「ジェシカエプロンガオーも火を噴いちゃいますよー。」
ジェシカさんはカレンさんを見る。
「え?カレンファイア燃やすわよも火を噴くわ…。」
「ミカンハーちゃんパンチです。」
「カケルライトバンバンバンも火を噴くぞ。」
みんなの視線がマリリさんに集中する。
「マリリ…アース…プレス?クラッシュ?マッシュ?も火を噴き…ます。」
耳まで真っ赤になったマリリさんは、珍しくタリリをポカポカと叩いている。相当恥ずかしかったんだろう。
カレンが、ある店の看板を見つけると、興奮して手招きしている。
「あ、タリリ、ミカンちゃん。ドワーフ&ドワーフよ。武器と防具の高級ブランドショップよ。」
そう言いながらも、カレンは自分が先頭になって入っていく。
「こんにちは。」
「「「いらっしゃいませ。」」」
カレンが入店すると複数の女性店員の声によって迎えられた。人間やウサギ耳、猫耳の若い女性ばかりでドワーフはいないようだ。
真っ白な壁とガラスケースが並んでいる。全ての武器、防具はその中だ。壁に掛けられていたり、樽に無造作に差し込まれていたり、棚の上で手に取れる状態では置かれていない。
「うわぁ、綺麗ですねー。」
ショートソードでは刃の部分に彫り込みによる装飾があり、持ち手や鍔には金の刻印や加護石が埋め込まれている。
「こんなにゴテゴテしてて、実用性あるのか。」
「しっ、声が大きいわよ。」
カレンに怒られた。店員さんは気にしていないようだ。
「精霊を通して見なさいよ。彫り込みや刻印は加護石に繋がってるでしょ?加護石の力を剣に伝える為の精霊の通り道になってるのよ。」
「剣の強度上昇効果 大って書いてありますねー。
「そう、大なら元の剣の3倍から5倍ぐらいかしら。」
「マジか。」
「いえいえ、お客様そちらの商品の倍率は7倍となっております。あちらには10倍以上の商品も取り揃えてございます。」
そう言って、ウサギ耳の店員さんはカウンターのガラスケースを指し示した。
「か、カレンさん。7倍で金貨30枚だって。」
ショートソード1本で300万円か、折れたら命が無くなると思えば安いのか?タリリのショートソードは1万円ぐらいだった気がするが。
カウンターの10倍以上のショートソードは数百万ぐらいか?ジェシカさんが今確認している。
「カレンさん、こっちの金貨200だって!」
「2000万円かよ!家が帰るぞ!」
「アンタ…。」
ジェシカさんの声は店員さんには聞こえないから、俺は大きな独り言で訳の分からない事を言っている変な奴決定だ。
「失礼しました。」
「また来ますねー。」
俺はカレンに手を引かれ店を出た。カレンの視線が痛い。
「ごめん、つい。」
「アンタがそんなんだから、ジェシカさんも気を使って私に話しかけているんだけどね。カレンさんって。それでも駄目みたいね。」
カレンはプンプンと怒りながらも手を離さずに、何処かを目指している。その後をゾロゾロとみんながついてくる。
「じゃーん!」
カレンが誇らしげに紹介するのは、黄色巨体なカボチャの家だ。パンプキンズという店らしい。
「この店にも来たかったのよ。」
「ミカンもです!です!」
「くーパンプキンズかー。そう来たかー。」
黄色いお揃いの制服の女性店員さんの挨拶を受けながら、店内にはいると驚いた。通路にギッシリと客が詰まっている。その客割合は女性客が99%、つれの男性が1%だ。男は俺以外は彼氏だろう。この時間に親子連れはいない。
店の壁際の棚や中程のテーブルには、いろさまざまなぬいぐるみが置かれている。
「勇者です!キラキラです。」
ミカンちゃんが早速手に取ったのは純白な鎧に真紅のプリーツスカートの金髪少女のぬいぐるみ人形だ。その右手は七色の糸で着色された剣を掲げている。
「勇者って女の子なのか。」
今まで勇者はイケメン男性だと思っていた。しかし、実際は違うらしい女性で子供だった。アザリアの子供達のごっこ遊びでは男の子が勇者をしていたから、そう勘違いしたのだろうか?
そんな事を考えながら、俺は机に置かれている人形のスカートを摘む。
「ちょっと、止めてくださいよー。下着なら、なんでもいいんですか?」
「え?ち、ちがうって!」
ジェシカさんの言い掛かりで少し焦りつつ、カレンをチラ見するが、ミカンちゃんとの会話で忙しいらしく敵は1人の様だ。
「いや、勇者って男だと思ってたから、ちょっと確認のつもりで。」
「カケルさんは、確認でスカートを捲るんですか?」
腰に手を当てて怒っている。怒り方がなんかカレンとダブった。やっぱり顔が近い。
「ええ、そうなんです。では失礼します。」
と、ジェシカさんのワンピースへ両手を伸ばす振りをする。
「え?!わ、私?確認必要ないですよね?え?」
ジェシカさんはスカート部分を押さえて後退りしていく。
「最近物忘れが酷くて、どっちだっかなって。」
「わー!わー!カレンさんー!」
「残念ながら、奴は会計中だ。ふふふ」
肩にトントンと感じた。
「駄目ですよ、独り言が多なくなってますよ。」
声に振り返ると、マリリさんが苦笑いしながら俺の肩に人差し指を乗せていた。
「あ、すみません。ありがとうございます。」
「気をつけて下さいね。」
すると、会計を終えたカレンとミカンちゃんが揃ってやって来る。
「アンタ…。懲りないわね。」
「勇者です。早く帰るです。」
ミカンちゃんの手を引きながら、呆れ顔のカレンと勇者のぬいぐるみで早く遊びたいミカンちゃんが袋を抱えて戻ってきた。
「あー、カケルさん。私もミカンちゃんと同じ物を1つお願いします。」
「ん?これでいいのか?」
「ジェシカさん、アンタも良いわよ。アンナさんの分なら同じの買ったから。ミカンちゃんがね。」
ミカンちゃんは袋を目の前に掲げながら、自慢気にしている。
「お土産です。一緒に遊ぶです。」
「うわぁ、ミカンちゃんありがとねー。アンナも喜ぶよー。」
全財産でポーションを買ったはずなのに、良く持ってたなと感心しながら宿屋への道を戻って行った。




