ミッション ウインテの高級な宿屋
翌日、ジェシカさんの幸せ配達人ボードをみんなでワイワイと作っていると王国の兵士が神父さんを連れてやって来た。なんでも王都にて式典をするので出席しろとの事だ。
「えー?明日の朝には行っちゃうの?」
「ごめんねー。王様からの命令だからねー。」
俺は既に出来上がっている内の何セットかをジェシカさんのエプロンのポケットへ突っ込んでおいた。どうせなら王都で宣伝してやるつもりだ。
なにせ、写真をそのまま版画にした様なものだから繊細さがその辺の絵とは比べ物にならないし、真似する事も困難なハズだ。きっと需要はあるはずだ。
そんな気持ちでいた。
「昨日の今日なのに、もう人でいっぱいね。」
ダンジョンの前には入場待ちの採掘者で溢れている。俺たちはそんな景色を遠目に眺めている。チラホラと俺たちの書いたダンジョンの地図を持っているパーティも見受けられる。
「誰もがケガしなければ、いいんですけどねー。」
「宝箱や壺は触らない様に警告の紙が貼られていましたわ。」
「けど、それでも行くのが採掘者だぞ。」
「そこまでは面倒見れないわよ。それは私達の所為では無いわ。」
「それはそうだな。」
俺たちは今日中に神父さんやマリーおばさん、トーマスさんに挨拶を済ませておこうと街を巡っている。
「ほら、スミスさん安定化だよ。トーマスさんきちんと並ばせて!」
教会にマリーおばさんの声が響いている。1つだけのカウンターでマリーさんがシスターの格好をして採掘者の対応に追われている。スミス神父はマリーおばさんから受け取ったコインを裏へ持ち込んで安定化をしている様だ。
トーマスさんは押しかけ続ける採掘者を順番に列に並ばせる為に走り回っている。酒を飲んでいる場合では無い様だ。
結局この時間の挨拶は無理だった。採掘者がいなくなった夜遅くに再び出向いて挨拶を交わした。
次の日の朝、俺たちは王国の用意した馬車に乗り王都に向けて出発するところだ。すでにアンナさんとおばあさんには挨拶は済ませている。
「いよいよ王都ね。」
「ああ、本来ならすでにリーリオに着いてる頃だぞ。」
「予定より大幅に遅れていますので、先方にご迷惑をお掛けしているのが申し訳なく。」
「マリリさんそれは仕方ないわよ、しかもまだ王都でも時間がかかりそうよね。」
マリリさんの懸念を乗せて馬車は走り出した。クブルムの街の人々からのお礼の言葉を背に受けて。
俺たちの馬車は6人乗りの2頭立ての箱馬車だ、雨風を凌ぐ屋根も有り、3人掛けの椅子が前後に並んでいる。御者が1人と護衛が1人、前の御者台に座っている。
「なぁ? これ馬車か?」
俺の質問にカレンは又何を言い出したのかと、視線だけを返して来た。
「馬じゃないだろ?アレはなんだ?」
「馬よ。」
「馬ですよねー。」
「はい、馬ですよ。」
馬車の窓から見える場所には、馬車と併走する騎士の姿が見える。その騎馬も俺たちの馬車を引く馬も同じだ。
「形は馬の様だ、けどあの鱗は何だ?尻尾は何だ。あの牙は間違い無く肉食だろ!」
馬と言うか、脚の長いトカゲか翼の無いドラゴンの様だ。
「アンタ、乗合馬車の馬なんて、矢とか魔法に耐えられないでしょ?馬に鎧を着せる訳にもいかないし。」
いや、俺たちの世界では鎧を着せていたぞと言う言葉が喉まで出かかったが、辛うじて我慢出来た。ウロコが鎧の代わりなのか、確かに頑丈そうだ。
ワイバーンに乗る竜騎士がいるくらいだから、こんな馬もいるのだろう。馬とは呼びたく無いが。
通常の乗合馬車で王都までの道のりは5日間だ。ここから2日程行った所にあるウインテと言う街を経由して行くのが一般的だ。
「次の街はウインテだったよな?どんな街なんだ?」
おれは隣に座るカレンに問いかける。正面はジェシカさんだ。
「私達は行った事は無いわ、ジェシカさんはどう?」
「私はクブルムの街から出るのは今回が初めてです。すみません。」
「別にジェシカさんが謝る必要ないわ。みんな同じよ。」
「ウインテもダンジョンを持たない街です。クブルムと同じように王都からの街道の宿場町ですね。」
マリリさんがウインテの街を説明をしてくれる。クブルムと似たような感じなんだろう。
「名物とか旨い物は無いのか?」
そんな事をタリリが言い出したが、ジェシカさんもマリリさんからも特に有名な物は無いとの返事しか返ってこなかった。
途中昼食の為に停車したが、俺たちは馬車の横に用意されたテーブルで昼食をとっている。簡単な日除けも有り快適だ。
「旨いな、だがこのテーブルは目立つな。」
料理は王国の調理兵が全て手配してくれて、俺たちは食べるだけだ。もっとも他の兵達も同じ物を食べているが地面の上に胡座をかいて食べている。椅子とテーブルを使っているのは俺たちぐらいだ。
「タリリの言う通りね。恥ずかしいわ。」
「わがままを言って困らせてもいけません、我慢しますわ。」
「えー、美味しそうですよー。1つ貰いますねー。」
そう言うとジェシカさんは俺の皿から、小さなヒレステーキの様な物を取ると頬張った。
「おい?!それメインだぞ。1つしか無いんだぞ。」
「んー?!美味しー。カレンさん、ミカンちゃんこれすっごく美味しいよ!早く食べないと無くなっちゃうよー。」
ジェシカさんは俺の後ろでピョンピョンと跳ねながら、感想を述べている。この幽霊は飯まで食べるのか?
「ジェシカさん、ごめんね。馬車の中まで待っててね。」
「全然、大丈夫ですよー。お腹が空くだけで多分、死なないと思いますからー。」
そうは言っても1人だけ食事をともに出来ない事がカレンやマリリさんには気が引けるようだ。タリリもミカンちゃんはガツガツと食べているが。
「野犬5、魔法部隊迎撃準備」
そんな時、敵襲を知らせる声が上がった。俺たちは武器を手に立ち上がろうとしたが、近くにいた兵士に止められた。
「ただの野犬です。直ぐに終わりますので、そのままお寛ぎを。」
「は、はい。」
遠目に見える野犬は黒くて大きい。犬と言うよりもオオカミだ。一際大きい個体を先頭にこちらに駆けてくる。食事の匂いに引き寄せられたのだろうか。
10人の兵士が野犬の進行方向に立つと、後ろの5人から火の玉が20個近く野犬の群れ目掛けて飛んでいく。
この一撃で先頭の個体以外は吹き飛ばされ、動かなくなった。大きな個体は何発かの火の玉を受けるがそのスピードは緩めない。
「第2射 放て!」
号令によって再び、同数の火の玉がリーダーらしき野犬に集中して浴びせられる。
「第3射用意。」
しかし、再び火の玉が放たれる事は無かった。5匹の野犬は2度と魔法攻撃によって再び動く事は無かった。
「護符が何枚有っても足らないな、あんな攻撃されたら。」
「アンタ止めてよね。お願いだから。」
「私も国相手には戦いたくないぞ。」
「しないって、俺だって死にたくないし。」
その夜はセーフゾーンにテント張りその中で寝た。もちろん、見張りは兵士が交代でするので俺たちは不要と言われたが俺とカレンとジェシカさんの組みとマリリさんとタリリの組みとに分かれて起きていた。
ただ、座っていると外から分かるらしくて、寝袋の中で横になったままだったので俺もカレンもつい寝てしまい、慌てて起きる事もあった。
その後は盗賊や野犬の襲撃も無く、ウインテの街に到着した。出発は明日の朝との事だ。今日は指定の宿屋に泊まることになっている。
「宿屋よ、この旅始まって以来の宿屋よ。」
「確かにそうだな。」
ここは「カッパの川流れ亭」と言う高級なランクの宿屋だ。1階の食堂は宿の客のみしか使用出来ないし、酔っ払いの墓場も無い。
ただ、貴族が泊まるような場所ほど高級では無く、兵士達もこの宿屋に部屋を取っている。ただ高級な部類に入るだけあり浴場もある。浴場は浴槽に3人、洗い場に3人ぐらい入れる大きさの風呂が2つある。基本的に混浴で女性だけで入りたい時は、1つの浴場に鍵を掛けて入る事になる。
その浴場の前に我ら女性陣が様子を伺っている。
「ジェシカ偵察隊行ってきますー。」
「お願いね。」
「お願いしますね。」
「頼む。」
ジェシカさんは浴室の扉を開けると中を見る。脱衣所には荷物も無い。一応念の為に洗い場の方まで見るが誰もいないようだ。
「オッケーでーす。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「感謝する。」
マリリさんが鍵を締めて、他の客が入らないようにするのを確認すると服を脱ぎ始める。ミカンちゃんは既にスッポンポンで走り出して、カレンに止められていた。
「ふー、いい湯ですねー。」
「ホントね。」
「座ってばかりでしたから、腰も痛いですし。」
「ブクブクです。」
「マリリ、この石鹸も良いものだぞ。持って帰りたいぐらいだ。」
「タリリさん、使い過ぎですー。残しておいて下さいねー。」
「お前はさっきも洗っただろ?!」
「何回あらってもいいんですー。」
「ジェシカさん、私の分まである?」
「カレンも洗っただろ!」
「タリリ残しておいて下さいね。」
「マリリまで!」
その頃俺は、筋肉隆々とした兵士の方々と混浴していた。ポーターと男性兵士の混浴だ。こんなの詐欺だ。こんな奴らがいたんじゃ、女の人が入ってくるわけが無い。タイミングを間違えた。
仕方なく、とてつもなくいい匂いのする石鹸を狂った様に泡だてて体を洗ってやった。流石高級宿屋、金をかけるところが違うな。ヤケクソだ。
兵士達を置いて先に出て行く。通路に出ると見知った女性陣に遭遇した。カレンはローブを着ておらず普段着だ、白色の飾りの少ないストレートワンピースだ。赤髪も洗いたてで艶を帯びていており、ほんのり上気した顔に目を奪われた。
「うぉ?!誰かと思ったらカレンか?」
「何よ、悪い?」
「いや、別に…。」
「カレンさん行きましょうー。」
「ハイハイ。」
「ジェシカさん、今度は俺も混ぜてくれー。」
「言い訳ないでしよ!」
「混ぜませんよー。」
「ふふふ」
「ブクブクです。」
俺は湯上りのパーティの最後尾で、宿屋と言う名のダンジョンの攻略を始めた。階段を上がり客室が並ぶ廊下に出た。目的の場所まではもう直ぐだ。
「どうして、部屋までついて来てるのよ。アンタの部屋があるでしょ?」
「あれ?」
無情にも目の前で扉は固く閉ざされ、ダンジョンの攻略は終了した。




