ミッション ガチャ
今日は朝からダンジョン前にいる、ただし俺とジェシカさんは別行動だ。カレン達は並べられた椅子の最前列に並んでいる。
式は司祭様によって滞りなく粛々と進められている。カレン達は緊張からかカチコチなのが笑いを誘う。
「この時より、ローレンシウム様の名の下に、この地をアナスタシアのダンジョンと認定する。」
司祭様の宣言により、認定式を取り囲むクブルムの街の人々から大きな歓声が上がった。アナスタシアとは人名の様だが聞いたことは無い。
「ジェシカさん、アナスタシアって聞いたことある?」
「どこかの貴族なんじゃないですか?奥さんの名前を付けてプレゼントにって。」
俺たちがそんな会話をしていると、カレン達の名前が呼び上げられていく。
「アナスタシアのダンジョンの発見と言う、偉大なる功績を挙げた採掘師を発表する。教会所属 シスター マリリ、カレン、タリリ、ミカン。並びに情報提供者としてジェシカ、カケルの以上の者となる。」
観衆の拍手と声援が地鳴りの様に響く。
カレン達4人は、司祭様の横で街の人の方に向いて、胸を張って立っている。嬉しそうだ。小さく手を振るカレンと目が合ったので手を振ったら、横のジェシカさんも振っていた。くそっ俺じゃ無いのかと少し恥ずかしい思いをしながら式は過ぎていった。
「あーもう飲めないぞ。世界が回っている。」
「タリリ、だらし無いですよ。しっかりして下さい。」
「それは、無理よれー、わたひも回ってるわ。」
式が終わると、会場は街に移されダンジョン発見祭が始まった。その中で主役のカレン達は事あるごとに捕まって呑まされていた。
「ジェシカちゃーん、好きだったぞー!ありがとー!」
酒の勢いと祭の雰囲気で、酒瓶片手に禿げたおっさんが叫んでいるし、その周りでは笑いが起きている。
「なんだ、あのハゲオヤジ変態か。年の差を考えろ。」
俺はハゲたおっさんの文句を呟く。それを聞いていたジェシカさんが申し訳なさそうに言う。
「あれ、家の裏の叔父さんです。お父さんの弟さんです。すみません。」
「!? こちらこそ、すみません叔父さんだったなんて知らずに。」
いかん、狭い街だ。下手すると全員が知り合いかも知れない、気をつけよう。
「けど、浮かれるのも仕方ないですよねー。この街は王都とアザリアの通り道でしか無かったですから、採掘者が利用する宿屋と僅かな食料品やお酒ぐらいしか有りませんでしたから。」
ジェシカさんはくるりとその場で一回転して、周りを見回すと
「これから採掘者さん達がダンジョン目当てで、この街に来るんですよー。だから、肉屋のロゴスさんも酒屋のカーターさんもみんな、みんな浮かれちゃいますよー。」
「そうか、ところでジェシカさんのおばあさんは何をしてるんだ?両親もいないんだろ?」
街の人々じゃなく、アンナさんとおばあさんの事が気になった。街が良くなってもあの2人の生活が良くならなければ意味がない。
「畑で野菜と薬草を作ってるけど、おばあちゃん1人だからね。カレンさん達が来てくれる前までは大変だったみたいってアンナが言ってた。」
「なるほど、こんなジェシカさんでもおばあさんの役には立ってたのか…。」
「こんなって。けど見直した?」
「ああ、見直しついでに、一肌脱いでもらおうか。」
おれはジェシカさんのエプロンに手をかける。
「え?え?」
「ほら、脱げー!」
「カレンさーん!!」
「ふふふ、カレンは酔っ払ってるから、呼んでも来ないぞ。ははははー。」
グイグイっとエプロンを捲り上げる。
「きゃあ?!ちょっと待って下さい!ちょっと!」
「ファイア…。」
街の真ん中で炎の柱が上がり天を焦がす。街の人々から大きな歓声が上がり拍手が渦巻く。
「次は無いから…。」
目の座ったカレンが俺に抱きつくとそう言った。周りから口笛やら野次が飛んでくる。俺たちの横でジェシカさんはぽりぽりと頬をかいていた。
翌日の昼過ぎに起きた俺たちは、覚め切らぬ顔でテーブルを囲んでいた。
「えーと、第1回ジェシカさんに一肌脱いでもらう会議ー!でいいの?」
カレンは俺に渡された紙を見ながら、会議の開催を宣言した。その手はこめかみを押さえており、頭痛を我慢しているようだ。
ミカンちゃんとアンナさんとおばあさんは飲んでいないから普通にしているが、あとは呑んだ人は皆死んでいる。例外のマリリさんを除いて。
「ローレンシウム様が見てますよ、タリリしっかりして下さいね。」
そんなマリリさんの声にもタリリは低く返事を返すだけだった。
「本当はプレミアで1肌も2肌も脱いだのも考えたんだけど、他人にジェシカさんの裸を見られるのは納得いかないんで止めた。」
そう言って1枚の木の板をテーブルの上に乗せた。俺の言葉を聞いて眉を寄せた女性陣は怪訝な表情でテーブルの上の木の板をみる。
「うぁ!お姉ちゃんだ。」
「えー?!」
「あら、可愛いわね。あの時の奴ね。」
板切れには黒く焦げた跡があり、その跡によってジェシカさんが街の広場を背景に緑のワンピースに白いエプロンといういつもの格好で手を後ろに組んで微笑んでいる姿をが描かれている。ジェシカさんがスマホに一番最初に送ってきた写真だ。
「あら、文字も書いてありますわね。」
「ああ、アンナさんに書いてもらったんだ。幸せの配達人 ジェシカって」
ニコニコとしているアンナさんと違ってジェシカさんは顔が真っ赤だ。恥ずかしいんだろう。しかし他のメンバーには好評のようで手にとって興味深く見ている。
「この1って数字は何?」
「これは、これは絵の種類の通し番号だ。」
「いくつも作るの?」
カレンは番号の意味がわかっていないようだ。それは他のみんなも同じようだ。
「これは悪魔の数字だ。これがあるせいでアンナさんとおばあさんはウハウハになる。」
「そんな事はいいから説明しなさいよ。」
カレンは二日酔いのせいかいつもより短気だ。俺はあと2枚の板を取り出すと3枚の板を別々の袋に入れた。
「カレン好きなもの選んでくれ。」
「じゃあ、これ?」
俺はカレンが指差した袋の口を開けると、中から板を取り出す。その板切はジェシカさんが手を振っている絵が描かれている。
「あら、違う絵ね。これは数字が2ね。」
俺はもう1つの袋もあけ、ジェシカさんが手を振っている絵が描かれた板を取り出す。それの数字も2だ。
「同じのが2枚あるの?」
「いや、実際はこの2が100枚で、3、4、5も100枚づつ作るんだ、ただし1は1枚だけしか作らない。」
「ふーん、それがウハウハなの?」
「販売時にはさっきの様に、中が見えない袋に入れて売るんだ。看板に全部で5種類と書いておけば2、3、4、5が集まった人は全部揃えようと1が出るまで何回も買いたくなるんだ。」
「うわー。」
「アンタね。」
ジェシカさんとカレンが引いている。
「しかも、ある程度金を使った人程、ここで止めたら今までの金が無駄になるって心理が働いて更に突っ込むんだ。」
「アンタ、鬼ね。」
「カレンさんがカケルさんから目が離せない訳が分かった気がします。離せないじゃなくて、離したらいけないんですねー。」
「え?!あれ?そうなのかな?」
「カケルさんはタリリとは違った危うさがありますから。」
「まぁ、全部同じ数作っても全然構わないけどな。集めたい奴は集めるだろうし。普通は1枚買えば十分だろうしな。」
「そうね、普通の人はお土産や御守り代りに1枚だけ買うのよね。」
「だけど、この1の絵が1000枚に1枚とか10000枚に1枚とかしか無いと分かると、これを銅貨1枚で売ってたとしても、世間では金貨で取引される事になるかもな。」
「この板切れが金貨になるの?!」
カレンは驚きのあまり大声で叫ぶ。外にも聞こえているだろう。
「板の作り方は簡単だ。板切れはその辺で買って来れば良いとして、この鍛冶屋で買ってきた金属の板にこのスマホの写真を光精霊に彫ってもらったのがこれだ。」
金属の2センチぐらいの厚みの板に焼き付ける線を残して彫り込んだ物を取り出して見せる。
「これを火や魔法で熱して、板を押さえつけると完成だ。」
キッチンのコンロに金属の板を乗せて火を付ける。
鍋敷きがわりに木片を1枚敷いた上に、ほんのりいろいろが赤くなった金属の板を乗せ、直ぐに焼印する木片を乗せて押さえつける。
ジューッと言う音と共に焦げた匂いがする。木片をゆっくりと剥がすとジェシカが手を振っている絵が現れた。
俺は鉄で出来た火バサミをカチカチとさせながら、アンナさんに注意点を説明していく。
「熱いから火傷に注意して、キチンと熱すればゆっくりでも大丈夫だし、失敗しても木片なんて安いから。」
「はい。」
「この金属の板は何回も使ってると、綺麗に押せなるから新品と交換する事。」
「分かりましたー。」
「とりあえず10種類ぐらい作っておいて、種類を増やしたり、季節やイベント毎に特別な絵を用意すれば繰り返し買ってくれる人もいるかもな。」
「それはいいわね、ジェシカさんの誕生日だけに発売したり、毎年今日だけとかね。」
アンナさんやおばあさんよりもカレンの目が金貨になっている。
「アンタ、早く作りなさい。これならおばあさんやアンナさんでも作れるわ。ジェシカさんもいい?」
「恥ずかしいですけど、アンナの為なら…。」
「よーし、ジェシカさんそうと決まれば撮影会だ!」
俺はスマホのカメラアプリを立ち上げて、ジェシカに近づこうと椅子を蹴倒し立ち上がる。
「アンタは木切れと金属の板と看板をお願いね。撮影会は私達だけでするから、しばらく家には入らないでね。」
カレンはスマホを手に取ると死刑宣告をした。
「は??ジェシカさんのあんなポーズやあんな格好は?えー。」
カレンとジェシカさんに頼むから、見るだけで良いからと泣きついたがその見るだけが駄目だったらしい。残念だ。
しかし奴らは写真データの消し方を知らないハズだ、教えて無いし。それに賭けよう。俺は密かな野望を胸に秘め街に出た。




