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ミッション クブルムのダンジョン攻略完了

通路を右に進んでいくと、先ほど俺が落とした物と酷似した扉が道を塞いでいた。


「これを開けて、モンスターハウスなら戻ってきたって事よね。」

「だな。ジェシカさん頼む。」

「はい、喜んでー。」


なんだその掛け声は?と考えている間にジェシカさんが準備を終えてしまったので扉に手を添える。


「収納。」

「ファイア!ファイア!」

「ストーン。」

「ストーンです。」


通路に出てきそうなモンスターを魔法で倒していく。想像通りにモンスターハウスだった。もちろん天井落下のオプション付きだ。みな、通路から部屋の天井をチラチラと覗き込みながら、魔法を打ち込んでいる。


「なかなか、天井が落ちて来ないわね。」

「まさか行きだけか?帰りは無しとか。」

「アンタの感がそうなら、そろそろよ。」

「ストーンウォール。」


カレンのそろそろ言う言葉と共に、天井が落下してきた。その質量が目の前に突然現れるのは2度目にしても度肝を抜かれる。その轟音、振動がモンスターを押し潰した事を物語っていた。

ただ今回は、マリリさんのストーンウォールが衝立になっている為に、自分の目で伺い知る事は出来ない。


「マリリさんありがとう。また、汚れる所だったわ。」

「いえいえ、タリリのあんな姿は見たく有りませんから。」


駄目だ、このダンジョンに来てから、トコトン予想が外れる、外れまくっている。流石に凹んでくる。

俺が密かに落ち込んでいると、カレンが話し掛けて来た。


「ジェシカさん、ほらアンタもこれをお願いするわ。」


カレンは天井から降りて来た石柱を指差している。

俺とジェシカさんは言われた通り石柱に触れ収納を試みる。


「収納っと」

「きゃあ?!」


そこには床一面にゴブリンだった物が散らばっている。うん、グロい。鉄貨が生成されかけているが遠慮したい。


「コインは要らないですよねー。」


コイン拾いのもう1人の担当者も弱音を吐いている。


「そうねトラップが怖いから、早く行きましょう。」

「はい、ありがとうございます。」


みんな部屋に入る時に天井を見上げている。丁度部屋の高さと同じぐらいの空間がポッカリと口を開けている。


反対側の扉も収納すると、鍵が無数に壁の窪みに埋まっているのが見えた。


「繋がったわね。引き返してさっきの道を左に行くわよ。」

「了解、さっさと終わらせようか。」

「賛成ー!」


反対側の探索は簡単に終了した。左側の坂道を下った先の部屋が壺の部屋の真下と思われる部屋だった。サイズ的にも似ている。


「どうやって確認しようかしら。」


天井を見ても壺は見えない、天井が落ちてくるような仕掛けも見えない。


「俺たちがそこの通路で見てるから、カレンとジェシカさんとミカンちゃんで壺の罠をわざと失敗したらいいんじゃないか。」

「どうしてこの3人なのよ。」

「カレンは必須だろ、ミカンちゃんに壺の仕掛けを担当してもらい、ジェシカさんがスマホにそのタイミングを知らせる。」


俺は名誉挽回のドヤ顔を決めるが、ミカンちゃんの駄目出しが入った。


「レンちゃんとカケルでいいです。タイミングはミッションで分かるです。残り250でするです。」

「そうか、そうだね。ミカンちゃん。」

「アンタいいとこ無しね。ふふ」


マリリさん達が坂の中腹まで、引き返したのを確認すると俺たちは壺の部屋に跳んで、罠をわざと失敗し床を崩落させた。ただ、今回はミッションが発生しなかった。


「ブブブ」

『埃が凄いですし、石も飛んで来ました。マリリさんがいなかったら結構危なかったですよー。』


壺の部屋の出口に跳んで、崩落の様子を見ていたが

スマホにジェシカさんからのメッセージが来た。


カレンに画面を見せると頷いて、俺に腕を絡ませ、前振りも無く跳んだ。


カレンは俺を連れみんなの前に現れると


「みんなお疲れ様。これで完全攻略ね。」

「はい、カレンさんこそお疲れ様です。これで教会への報告もキチンとした物が提出できますわ。」

「うーん、皆殺しのジェシカを丸裸にした資料か、興味あるな。」

「カケルさん、勘違いする言い方しないで下さいー。」

「そんな事ばかり言ってると、皆殺しの前にアンタから殺されるわよ。」


こうして俺たちはクブルムのダンジョン全1階層を完全攻略したのだった。今日は疲れたから、一旦休んだ後にジェシカさんの家で完全攻略お祝いパーティーを開く事にしてダンジョンから出た。あとはベッドに倒れこんで寝るだけだ。


両手を広げて伸びをしながら、ダンジョンの入口からでると眩しい朝日と兵士達からハキハキとした朝の挨拶を受ける。


「もう朝なのね」

「ああ、眩しいな。」


だが、ここに1人だけ、朝日を待ち望んでいた女性がいた。


「カケル、朝だ!早く続きを」


羽織った毛布が飛んでいきそうな勢いで、タリリが迫ってくる。何故このタイミングで朝になったのかと太陽を恨めしく見上げた。


タリリのテンションは高く、マリリさんも苦笑いだが止めようとはしてくれない。仕方なくテントの位置から離れ、街とダンジョンの間で拓けた場所を探した。


「コツは力じゃない。精霊にお願いするってとこまでは説明したと思う。」


俺はゴブリンナイトの両手剣を振りながら続ける。


「剣を強くしてくれ、良く切れる様にしてくれって」


だが俺のへっぴり腰から繰り出す両手剣は、緊張感の無い風切り音を出すだけだった。それでもタリリは俺から一度たりとも目を離していない。


「ここからは俺の推測だ。精霊に頼むって事は要は魔法剣って事だ。カレン達やフランシスカさんがしたようにイメージを明確にして精霊に頼むんだ。」


「例えば、風なら風で出来た透明な髪の毛よりも薄い刃物で触った物を力を入れる事なく切り裂いて行くイメージ。光なら剣を熱く、眩しく太陽の様に輝かせる事で触れた物を溶かしながら切り裂くイメージを持つ事が必要なんだ。」


両手剣をタリリに持たせると、ゴブリンから取り上げたハンドアックスを取ると木に立て掛けた。


「太陽の様に熱く、眩しく、全てを溶かす。チーズの様に柔らかく!」


俺はいつものショートソードをその言葉と共に振り抜いた。


「ああ!!」


タリリの絶叫だ。俺の振ったショートソードは眩いばかりの光を放ち、ハンドアックスの分厚い刃の部分をチーズの様に溶かしながら分断した。


「そ、それがスマッシュなのか。」

「原理は同じのはずだ。」

「私でもそれが出来るのか?」


タリリはいつもの騎士の顔では無く、気の弱い少女の様だ。昼の事件を想像してしまう。だから俺はマリリさんの騎士だった凛々しいタリリを取り戻す為に自信を持って答える。


「いや、既に出来ている。その両手剣の刃の中程を見てくれ。」

「何?」


マリリさん達の見つめる中、タリリは息もせずに大剣の中程にできている、刃の欠けを凝視している。


「その欠けはタリリが体勢を崩した後で、腕だけでショートソードを振った時に出来た傷だ。」


タリリは両手剣を持ったままで俺の言葉の続きを待っている。


「その時のタリリのショートソードは緑色の光に包まれていた。そしてゴブリンナイトが両手で振り下ろして来たその両手剣をタリリは片手で受け止め、弾き飛ばした。その時に出来たのがその欠けだ。」


「確かにゴブリンナイトが剣を手離したから、助かったと思った事は覚えている。だが、ゴブリンナイトの剣は感触が無いくらいに軽かった事も覚えている。」


「それがスマッシュ、風の魔法剣だ。」


タリリはマリリさんに手を借り、少しフラつきながら立ち上がるとショートソードを握り直した。右手はショートソードを下げ、左手は胸元で毛布をしっかりと握っている。心なしか毛布の裾が風も無いのにふわふわと踊っている様だ。



「薄くて透明な風の刃、触れただけで全てを切る。ハンドアックスの刃も紙のように切れる!風の精霊よ頼む!」


タリリは呪文の様に3回同じセリフを繰り返すと、ハンドアックスへ向けてショートソードを振り抜いた。


タリリのショートソードは俺が分断した残りのハンドアックスの刃を抵抗もなく切り裂いた。


少し遅れてハンドアックスの刃が地面に落ち、重い音がした。


「ああ…。」


暫く呆然としていた、タリリは思い出したかの様に突然再起動すると


「出来たぞ!これで足手纏いにならずに済む。マリリを守れるぞ!」


タリリはショートソードを持ったまま、両手を広げ走り出した。


何故かタリリは側にいるマリリさんでは無く、俺の所まで駆け寄ると抱き着いてきた。ショートソードを持ったままだった為に避けるに避けれなかった、危なくて。


「マリリ、マリリ、マリリー」


これは嬉しさのあまり、動揺して勘違いしているのだろうか?カレンを見ると首を横に振られた。ジェシカさんを見ると毛布を拾い上げてこちらに歩き始めた。最後にマリリさんを見ると苦笑いをされた。


俺がタリリから離れようとしているのを見て、ジェシカさんがそれを制する。


「駄目ですカケルさん、そのままで目を閉じて下さいね。」


その言葉でつい抱きついているタリリをみてしまう。白くて柔らかい胸が俺と彼女の間で潰れているのが見えた。咄嗟に目を閉じて上を向く。さっきから感じていた柔らかいけどジェシカさんよりは硬めな感触をタリリに気づかれない様に長く味わう為に俺は全ての抵抗を放棄し、されるがままになる。


「コイツ、全く反省してないわね。」

「本当ですね、こんなに鼻息荒くして、気付かれてないと思っているんですかねー。」

「ふふふ、タリリを女性扱いしてくれるのはカケルさんぐらいですから、少しぐらいは良いではないでしょうか。もしもの時は責任を取らせますから。」

「うわぁー、マリリさん黒?!」


俺は爽やかな紳士を演じる様に、呼吸を落ち着かせながらも、タリリが落ち着くまでの間、感触を楽しんだ。


あの後ジェシカさんの家に帰り着いた俺たちは、朝日の中ベッドへ潜り込んだ。俺が昼過ぎに起きると、マリリさんとカレンとジェシカさんが俺のスマホを見ながらテーブルを囲んで作業をしていた。


「おはよう。何してるんだ。」

「あ、おはよう。ちょっと借りてるわよ。」

「おはようございますー。」

「おはようございます。」


カレンはジェシカさんの操作するスマホを指差している。ジェシカさんが使う分には何故かバッテリーが減らないので特に問題はない。


どうやら、ダンジョンの地図を書き起こしているようだ。マリリさんが提出する資料なんだろう。


「ふーん、ここは結構長く感じんだけど、そうでも無いのね。」

「そうですね、この部屋のサイズから見てもそんなに長くないですねー。」

「これはとても、素晴らしい地図になりすわ。」

「そうよね、その辺に売ってる地図になんて、通路の長さなんて適当よ。繋がっているだけましってレベルよ。」


カレンとマリリさんの余りの賞賛にジェシカさんが何をしているのか気になった俺はスマホの画面を覗き込んだ。


「ん、地図アプリ、ネットもGPSも無しで何をしてるんだ。」

「これ便利ですよねー。タリリさんの時に気付いていればーって思いますよ。」

「いやいやいや。ここの地図データなんてないだろ。あれ?」


確かに映し出されている通路や部屋の配置がダンジョンのそれと似ている。


「もしかして、王都のダンジョンも見えたりするのか?」


俺はジェシカさんに問いかけると、3人は驚いてこっちを見ると直ぐにスマホに視線を落とした。


「そんな事良く、思い付くわね。」

「出来たら便利ですねー。」

「ジェシカさん、便利どころでは有りませんわ。腕輪、エプロンのポケットに並ぶくらいですわ。」


しかし、上手く行かなかったようだ。溜息をついている事でそれがよく分かる。


「クブルムより先は灰色で何も無いわね。アザリアへは細い道や森の位置まで描かれているわ。」

「へー、アザリアの街ってこんな感じなんですねー。」

「ええ、そうよ。ここが良く使ってた宿屋。そしてここがアザリアの教会なの、最近まではここにいたんだけどね。」

「そう言えばカレンさん達はどうして、王都に行くんですか?」


カレンは俺の顔をなんとも言えない顔で見るとジェシカさんに説明を始めた。


「目的地は王都じゃないの、国境の街リーリオなの。」

「そうなんですか、遠いんですよね。」

「遠いわね、王都からでも馬車で8日はかかるらしいわ。」

「そんなに遠くまで、何をしに行くんですか。」


するとマリリさんが申し訳なさそうにその答えを紡いだ。


「私が少しばかり問題を起こしまして、その償いとして担当教会の変更を申しつけられました。」


カレンはマリリさんの言葉を否定する。


「マリリさんは悪くないわ。悪い伯爵に拐われた子供たちがいたから、ちょっと屋敷に乗り込んで助けただけよ。」

「そうなんですか。だけど皆さん子供たちを助けた事を後悔していないんですよね。」


ジェシカさんの問いかけにマリリさんは強く頷いた。カレンは1度頷いたが、首を横に振りだした。


「それはいいんだけどね、伯爵を燃やさなかった事を後悔してるわ。馬車はお尻痛いし、またサリアさんに手を出さないか心配でね。」


「子供たちの事はモーリエ院長がいらっしゃる間は大丈夫ですわ。それに心配ならいつでも見に行けますわ。」


マリリさんは最後にカレンの腕輪を視線で示した。


その後は俺も交えて提出用の資料作成を進めていると、しばらくしてタリリが戻ってきて、ダンジョンを完全攻略した事と地図を含む資料を作成中の事の報告を終えたとマリリさんに話していた。


「明日、認定式と祭りがあるから出席しろとの事だ。いまも街中が準備で賑やかだったぞ。」


今朝からクブルムの街は屋台の準備や飾り付けがはじまっており、はしゃぐ子供たちが走り回っている。



ジェシカさんの家にはアトラおばあさんを訪ねる街の人が先程から増えてきている。


「アトラさん、アンタの所のジェシカちゃんのおかげでこの街もダンジョン街になったんだってね。これあの子に供えて貰えないか。」


そう言って花束を持ってくる商人もいれば、ジェシカちゃんが好きだったと言う、小麦粉と蜂蜜で作ったお菓子を持ってくる隣人もいる。


「わざわざ、すみませんね。あの子も喜びますよ。」

「ありがとうございますー。」


おばあさんの横でジェシカさんもお辞儀をしている。もっとも見えてはいないが。ジェシカさんは何度もマリリさんとおばあさんのあいだにを行き来して忙しく過ごしている。


「また、お客さんみたいね。ジェシカさん大変ね。」

「ああ、けど本人は嬉しそうだな。」

「亡くなった皆さんは、こんな感じなんでしょうか、わたし達に見えないだけで。なんかいろいろと考えさせられます。」


教会のシスターさんを考えさせてしまったジェシカさんは何も考えていないような笑顔でいまもおばあさんの隣でニコニコと微笑んでいる。


「レンちゃん、お菓子貰ったです。」

「お姉ちゃん、おばあちゃん、わたしもいっぱい貰ったよー。」


ミカンちゃんとアンナさんが両手にいっぱいのお菓子を抱えて帰って来た。ミカンちゃんもアンナさんも頬がハムスターの様になっている。2人はお菓子をカレンとおばあさんに手渡すとまた外へ走って行った。


「あーアンナ!きちんと座って食べなさーい。」

「ミカンちゃんも、ほら!」


ジェシカさんとカレンの注意も聞こえていないのか、もう2人のその姿は見えなくなっている。


「もう、この街でゆっくりするのもいいかと思うな。」

「いえ、それは私はリーリオへの転籍があるので。」

「アンタ、借金は白金貨2枚よ、金貨なら200枚もあるのよ。採掘するなら400枚必要なのよ。ゆっくりなんてしてられないわよ!」


「こんな事なら、金貨をもっと集めておくべきだったな。教会に教えるのをもっと遅くして。」

「そんなの無理よ、さすがに毎日毎日持って行ったら金貨の出所を聞かれるわよ。」


ああ、このダンジョンは転移無しでは行きたくない、何故もっとボス部屋を周回しておかなかったのかと今更ながらに後悔している。

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