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ミッション 棺桶

「ミカンちゃん、お願いします。タリリを助けて下さい。」

「助けるです。」


ミカンちゃんはマリリさんの心からの願いにハッキリと約束をした。その目には意志の力が宿っている。


「ミカンちゃんどうするんだ。」


ミカンちゃんは俺の問い掛けにも答えずに、じっとその場で考えている。


「ぴろりろーん!」

(ミッション 4つの壺を同じ重さにしろ。 制限時間 300)


お?また同じミッションが出た。こんなことは初めてだ。


「さっきと全て同じだ。4つの壺を同じ重さにしろ。」


ミカンちゃんを見守るマリリさんは祈る様にしている。


「タリリは出来たです。だから出来ない事は無いです。」


俺たちはミカンちゃんの邪魔をしないように、側でじっと見守っている。ジェシカさんは両手の拳を握りしめ、全身に力を入れている。凄く前屈みだ。

カレンは時折、左の壁の向こうを見通す様な視線を送っている。


「あっマリリさん、ヒールは壁越しに出来ませんか?」


するとマリリさんは返事もせずに、ヒールの魔法を何度も唱え続けだした。


「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール!」


制限時間は残り80を切った。まだマリリさんはヒールの魔法を唱えつづけている。


「ミカンちゃん、頑張ってー。タリリさんに出来るならミカンちゃんなら簡単だよー。」


ジェシカさんは黙っていられなくなったのか、遂に応援を始めている。


「それです。タリリだから簡単です。分かったです。」


ミカンちゃんは持っていた、水の入っている壺をひっくり返した。


「きゃあ?!」

「冷たっ!」

「ミカンちゃん?!」

「ああ!」


ミカンちゃんは自分の足が水浸しなのも気にせずに壺を上下に振り、中の水分を完全に無くそうとしている。


「これでいいです。」


ミカンちゃんは魔方陣の上に迷いもなく、壺を戻した。すると、さっきよりも小さな振動がすると左の壁の中央部が崩れ落ち、タリリのいる部屋へと繋がる通路が見えた。


「タリリー!!」


マリリさんは壁が崩れ落ちる前に走り出しており、既に通路を駆け抜けている。マリリさんの瞳には片膝をつきながらも、迫り来るゴブリンナイト達の攻撃を凌いでいる姿が見えている。今もまた、タリリに向かい遠方からゴブリンメイジが火の玉を打ち出している。


「クッ」


タリリには遠距離を攻撃する術は無く、ひたすら耐えるしかなかった。しかしいつの頃か火の玉から受けるダメージが少なくなっていた。


タリリは今も火の玉を淡い緑色の光に包まれたショートソードで切り裂くが、火の玉片割れがタリリに衝撃を与えていく。


しかしタリリの右足は床に固定されている為に、吹き飛ばされる事も倒れる事も許されない。


体勢を崩したタリリの元にゴブリンナイトが追い討ちを掛けるべく、駆け込んでくる。


「未だだ!」


タリリは体勢の崩れたままゴブリンナイトの剣を受けると、タリリのショートソードは又しても緑の光を帯びていた。


その光を帯びたショートソードは腕だけで振ったにも関わらずにゴブリンナイトの両手剣を受け切ると、そのまま振り抜きゴブリンナイトの両手剣を彼方に飛ばした。


「ヒール、ヒール、ヒール」

「ファイア、ファイア、ファイア」

「バンバンバンバン」

「ハーちゃんです。ストーンです。」

「やっちゃえー!」


タリリの前にジェシカさんも含めて全員が並び立ち壁となった。その壁は瞬く間に部屋のゴブリンを殲滅していった。


「タリリー、ヒーッル、ヒール。」


マリリさんはタリリに抱きつくと、大粒の涙を流しながらヒールの魔法を嗚咽を交えて、延々と繰り返していた。


「死ぬかと思ったぞ。」

「本当に死んでしまいますよ、タリリ。」

「ギリギリだったわね。本当に良かったわ。」

「タリリ1人は駄目です。ダメダメです。」


みんながタリリとの再会を喜んでいるとジェシカさんが俺の所に来ると、エプロンのポケットを摘んだ。


「カケルさん、毛布を出したいんで手を貸して下さい。」

「毛布1枚でいいのか?」

「はい。服はまだ入ってませんので。」


ジェシカさんに毛布を手渡すと、それをタリリの肩から掛けた。タリリは前を合わせるように持つとジェシカさんにお礼を言っていた。


攻撃を受けてヨロイと服が酷いことになっていたようだ。


1人だけ、輪に入れないでいるとカレンが手招きをする。


「アンタ、右足だけを見なさいよ。他の所に目を向けたら、その目を潰すから。」

「了解。」


タリリの右足はトラバサミの様な物で、太腿、膝、ふくらはぎを両側から挟まれている。見るからに痛そうだ。出血もかなりあった様。


戦闘中に何本かポーションを使っている内に足の痛みはそれ程でも無くなったと、本人は言っている。


「手で掴んで外そうとしたが、無理だった。」


なるほど、俺がトラバサミに手を掛けようとしたが、既にタリリが試した後だった。


「カケルさん、こっちは準備オッケーですー。」


見るとジェシカさんがタリリの太腿を挟み込んでいるトラバサミにエプロンのポケットを当てていた。


「収納」


俺がトラバサミに手を添えるとポケットの中に消えて行った。万能だな収納。ふくらはぎのトラバサミはジェシカさんの姿勢がキツそうだった事を除き、問題無く外すことが出来た。


「ヒール。」


もちろん、トラバサミの傷跡も残らないぐらいに念入りにマリリさんはヒールの魔法をかけていた。


俺はタリリの回復が一息ついたのをみると


「タリリさん、申し訳ありませんでしたー。」


と90度に腰を曲げて謝る。


「胸を触ろうとした時の、タリリさんの嫌がる反応が可愛くてついやり過ぎました。すみませんでした。」


「ふぉ?か、可愛くて?!」

「アンタねー。」

「カレンさん、この方謝る気があるんですか?」

「ふふふ。」


俺がそのままの姿勢でいると、マリリさんが一言だけ言った。


「タリリ、そろそろ許してあげたらどうですか。カケルさんに聞きたいことがあるんでしょう?」

「ああ、カケル。今後この様なことは慎んでくれ。それでなスマッシュの事なんだが。」


俺はタリリの言葉を全て聞く前に、ゴブリンナイトの持っていた両手剣を拾いに歩き出した。そして歩きながら


「トーマスさんにスマッシュの事を聞いて来たんだ。なんでも騎士になって3年以内に会得出来ない時は騎士を辞めさせられるって話だ。」


タリリの顔色が優れない。騎士でも会得出来ないかもしれない難易度と聞き不安なんだろう。


「コツは力じゃないそうだ。精霊にお願いするって言ってた。詳しくは朝になったらでいいか?」

「どうして朝なんだ、今でも構わないが。」

「すまん、光が無いと無理だ。」

「は、ああ、それでいい。」


俺はゴブリンナイトの両手剣と近くに落ちていたハンドアックスを1本拾うと、ジェシカさんのエプロンのポケットに突っ込んだ。


「アンタ、それで珍しく酔っ払ってたのね。」

「ああ、初めて酔っ払いの墓場で寝たよ。そこまで

歩いて行った記憶は無いんだけどな。起きたらトーマスさんと見知らぬおっさんが横にいた。」


カレンは俺を見て溜息をついている。ジェシカさんが何やら話しかけてくる。


「トーマスさんなら、カーターおじさんのお酒ですよね。味よりも強さを追求したお酒らしいですよ。」

「アンタもそれを?」


ジェシカさんの説明にカレンは首を傾げる。


「ああ、最初は差し入れて帰るつもりだったから、トーマスさんが呑んでる同じものを注文したんだ。」

「だけど、帰らずか帰れずか分からないけど付き合った訳ね。」

「ああ」

「カーターおじさんのお酒は強すぎて、ザルクって呼ばれています。」


ジェシカさんの言ったザルクの意味が分からずにカレンと俺は顔を見合わせる。


「ああ、ザルクってのはここら辺の言葉で棺桶を意味してまして、カーターおじさんのお酒を呑んだ人がみんな酔っ払いの墓場に行くから、そう呼んでますよ。」

「棺桶か。」

「棺桶ね。」


こんな最低な名前の酒でも、昨日の酒場では結構呑まれていたので人気はあるんだろう。タリリが少し回復してきた様で口を挟んできた。


「その酒はフクロウの瓶か?」


タリリの問いかけにジェシカさんが頷くと同時にマリリさんもピクリと反応している。


「はい、ラベルにフクロウの絵が描いてありますよ、確か。家もお父さんが飲んでいましたから。」


「マリリの酒はここの酒だったのか。アザリアでは良く2人で開けたな。」

「開けたって?」


タリリの思い出話しにカレンが問う、マリリさんは若干引きつっている。


「そのままの意味だぞ、一晩で1瓶を空にするんだ。

けどマリリが酔い潰れた事は見た事ないけどな、まぁ、私はいつも1杯しか呑んだ記憶が無いけどな。」

「え?!」


「いえいえ、タリリと半分づつですわよね、タリリ。」


「そうですよねー…。」

「あ、そうだな。半分は呑んでるぞ…。」

「そうね、タリリの記憶が無いだけよね…。」


マリリさんの視線が怖いから、みんな目が泳いでいる。そう言う俺も目を合わせられない。シスターさんはストレスが凄いんだろうか。俺で良ければ相談に乗ろうと思う。もちろん酒抜きで。

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