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ミッション 酒

「うむ、これがその手紙か。」


兵士が恭しく、丁寧に手紙を差し出すと竜騎士は机の上に俺たちにも見える様にピンク色の手紙を広げた。



『カケルさんへ


クブルムの街からすぐのところに洞穴があります。


ゴブリンがいるので倒して下さい。


妹のアンナが心配なので頑張ってね。


待ってます。


貴方のジェシカより♡ 』



「ぐっ?!」


俺がピンクの手紙に目を通して、ハートマークで耐えられなくなると、すぐ横でカレンはテーブルに顔を伏せて肩を震わせている。


「すまぬな、辛いことを思い出させてしまったな。」

「い、いえ。」

「いや、情報提供の手紙がまさか恋文とはな、想像してしていなくてな。誠に申し訳ない。」


竜騎士のハロルドは真面目な男の様で、本気で申し訳なさそうにしている。それを俺は何度も気にしなくていいと繰り返し伝えたい。


「だが、その方らの考えは分かった。今回は例外として2人を情報提供者として並べて記載するように取り計らおう。」

「え?! 2人ですか?」

「そうだポーターとしては載せられないが、仲良く2人とも並べてやる。彼女1人じゃ寂しかろう。」


するとマリリさんが頭を下げ始めたので、慌てて机に頭をつけた。カレンは下を向いたままで竜騎士に感謝の意を伝えた。


「竜騎士 ハロルド様この度のお気遣い誠にありがとうございます。当方からは本ダンジョンの命名をお願いしたく宜しくお願い致します。」


竜騎士はカレンの言葉に大きく頷くと


「うむ、命名の件確かに受けたぞ。また追って連絡する、それまで待機しておれ。」


俺たちはその言葉を受け立ち上がると、付き添いの兵士の誘導でテントを後にした。その後俺たちは一言も喋らずにジェシカさんの家へと帰ってきた。


ジェシカの家に入り、扉が閉められた途端に大爆笑が起きた。


「あははは、可笑しいわ。ジェシカさんあれは無いわ。」

「そうですわね、ピンクの恋文はいけませんわ。フフフ。」

「アンタもう終わりね、彼女がいる事が大陸中に知れ渡るから、もうだれも寄ってこないわよ。」


カレン達が笑っていると、何事かとジェシカさん達も集まって来た。ジェシカさんとアンナさんに竜騎士の勘違いと情報提供者として2人ならんで記載される事を説明すると、ジェシカさんはその場で膝から崩折れた。


「私、もうお嫁に行けないじゃん。」

「お姉ちゃんが調子に乗ってハートマークなんて書くからだよー。」

「不束者なお姉ちゃんですが、宜しくお願いします。」


アンナさんが俺に丁寧なお辞儀と共に、ジェシカさんを差し出して来た。


「アンナー。カケルさんはカレンさんの男なんだよ。あっ!マリリさんのだっけ?」


突然、話を振られたカレンは顔を真っ赤にすると全否定を始めた。マリリさんは余裕な表情を浮かべて微笑んでいたのが対照的だった。



その日の夕方にカレンとマリリさんが、また呼び出しを受けてテントまで出掛けていた。


「ミカンちゃん、暇なら街に散歩に行かないか?」


俺はミカンちゃんに声を掛けたが返事はない。


「カケル、ミカンなら先ほどアンナと出掛けて行ったぞ。用があるなら、今なら間に合うぞ。」

「あ、いないのか。」


ミカンちゃんの代わりにタリリが回答を返して来た。コイツもマリリさんがいなくて暇なんだろう。

けどタリリと2人きりで出掛ける気には何故か、ならない。それならばジェシカさんはと見回すが、残念ながら見つからない。


「カケル、トーマスの剣技どう思う?」

「トーマス?あ、タンクトップに短パンのオッサンか。」

「ああそうだ。あんな見た目の御仁だが、あの剣技は素晴らしいものだった。」


タリリは真っ直ぐな眼差しで、言葉にもいつものバタバタ感が無い。少し凹んでいる様でもある。


「スマッシュだったか。」

「ああ、力強くて素早い一撃だった。思わず目を奪われた。」


タリリは静かに俯いたまま、グッと手を握りしめる。


「やはり、女の身では何かが足りないのか。余りにも差があり過ぎて辿り着ける気がしない。」


初めて見るタリリの心細そうな顔に俺は溜息を1つつくと、タリリへと腰をあげた。


「ちょっと、すまん。」


俺はタリリの右腕を手首から肩まで触ると、左手も同じ様にした。薄い長袖のシャツの外からでも、鍛えられた筋肉が感じられた。


「なるほど。」


タリリは突然の事に俺をただ見ている。俺はタリリの背中に回ると肩から背中全体を指先で軽く押しながら確かめていく。


「あ、あのカケル…。恥ずかしいのだが。何を。」

「ああ、剣を振るための筋肉を確認してるんだ。後は大胸筋と下半身も確認するから。」


タリリは顔を真っ赤にして、イヤイヤをしながら壁際までさがっていった。


「ま、待て。大胸筋とはなんだ。下半身は駄目だろ。」

「下半身は足首やふくらはぎ、太ももだな。大胸筋は胸の筋肉だ。剣に必要かは知らんけどな。」


タリリは胸の前に腕を組んで、俺に背を向ける様にし、叫び始めた。


「く、来るな!近づくな! 胸は駄目だ!足も駄目だ!カケル止めろ!」


俺は無理に触るつもりは無かったが、タリリの滅多に見ない態度からイタズラ心に火がついた。俺はニヤニヤしながら、タリリに向けた両手のひらで揉みしだく素ぶりをしながらゆっくりと近づいていった。


「先ずは胸の筋肉から、確認しまーす。」

「止めろー!頼むから、それはマズイから…。」


だんだんとタリリの声が小さくなって来た。なんか涙目で少し震えている?ヤバイやり過ぎたか、どうしよう。


「あー!何やってるんですか?!」


ジェシカさんは俺を突き飛ばし、タリリの腕を組んで掴んで引き寄せると抱きしめた。


タリリを俺から遠ざける様に、自らの背中を俺に向けている。


「タリリさん、泣いてるじゃないですか!」

「いや、筋肉を確かめようとしてただけで。」

「馬鹿なんですか?!誰だって筋肉女って思われたくないですよ!それにどこを触ろうとしたんですか?」


ジェシカさんの非難は正しい、タリリだって必要以上にムキムキにはなりたくなかったのかも知れない。俺が勝手にアマゾネスの様に成りたいのかと勘違いしていた様だ。


けどジェシカさんには感謝している。タリリの涙を見てどうすれば良いのか分からなくなっていたから。


「タリリ、ごめんな。悪ふざけが過ぎた。」


俺は頭を下げたあとで、タリリを見て宣言した。


「トーマスさんの剣技、タリリなら出来るから。俺も全力で手伝うから。なんならこの街にいる間に出来る様するから。」


タリリはジェシカさんの胸に抱かれていたが、俺の宣言にそのままの姿勢で小さく声をだした。


「この街にいる間に?」

「タリリさん、落ち着いてカケルさんのワナよ。」

「2人だとあれだから、ジェシカさんにも付き合ってもらってやろうか。俺は今からトーマスさんに聞いてくるから。ごめんな、タリリ。」


俺はタリリの事をジェシカさんに任せて、家を出てトーマスさんを探しに教会へ向かった。


「ただいま!戻ったわよ。え?!」

「只今帰りました。タリリ大人しくしていましたか?!どうしたのタリリ!」


カレンとマリリさんが俺と行き違いでジェシカさんの家に戻って来た。すると、ジェシカさんに抱かれているタリリの姿を見ると2人は慌てて駆け寄って来た。


「ジェシカさん、何が有ったの?」

「タリリ、タリリ!大丈夫ですか!!」


マリリさんの悲痛な声が部屋に響き渡る。マリリさんはタリリに覆い被さるように抱きつくと何度もタリリの名を呼びかけた。


その側でカレンはタリリとジェシカさんの顔を伺いながら心配そうに佇んでいる。


「ただいまー。ってええ?!」

「ただいまです」


4人が団子の様に密集している様に、帰宅したアンナさんは驚きの声を上げた。


ちびっ子2人の帰宅で4人はジェシカさんの部屋に移りベッドに腰を下ろした。タリリの横にはマリリさんがベッドに腰掛け、ジェシカさんとカレンとミカンちゃんとアンナさんの4人はアンナさんのベッドの上にいる。ちびっ子2人は横になり転がっている。


「なるほど、アイツのやりそうな事ね。人の弱みに付け込む詐欺師の常套手段よ。」

「そう言う事なんですか?!強くなりたいなら胸を触らせろって、サイテーです。」

「何回も断った、だけど止めてくれなかった。」

「アイツ、ジェシカさんだけで無くタリリの胸まで揉むなんて許せないわ。燃やしてやるわ。」

「触られてはいない。ジェシカさんが助けてくれたから。」


その後、カケル抹殺委員会が発足し、俺への罰を女性6人で検討するための女子会がベッドの上で始まった。


同じ頃、俺は教会への道の途中で酒場を覗いていた。何軒か目の宿屋の酒場で目的のトーマスさんを発見した。この人、教会本部が来ているのにこんな所で呑んでいて大丈夫なんだろうか。


「トーマスさん、お疲れ様です。」

「ああ?ポーターか?疲れてないぞ。働いて無いからな、ガハハハ。」


もう結構呑んでいるみたいだ。顔も赤いしご機嫌そうだ。トーマスさんを見るとグラスの中の蒸留酒らしき酒が少なくなっている。おれは店員にトーマスさんが呑んでいる物を1瓶と適当なつまみを頼み銀貨を1枚渡した。


何故かお釣りが来ないで、酒ビンが2瓶来たがそう言う仕組みなんだろうか。俺はその2瓶ともトーマスさんの方に寄せると1本目を開け、トーマスさんのグラスに注いだ。


「おお、悪いな。どうしたんだ?」

「じゃあ、早速ですがトーマスさんのスマッシュってどうやってるんですか?」

「ああ?スマッシュか?」

「はい、ダンジョンで2度ほど見て、感動しまして。」


トーマスさんは注がれたグラスを飲み干すと、再び自分で注ぎながら


「ポーターには無理だが、コイツ貰ってるし話だけはしてやるよ。」

「ありがとうございます。」

「ほら、お前も呑めよ。」


俺はグラスに並々と注がれた酒をグイっと流し込む。これは強い焼酎を割らずに呑んでいる感じだ。40度ぐらいはありそうだ。


「あれはな、騎士になったら必ず覚えさせられる技だ。あれを3年以内に覚えられなかった奴は騎士を辞めさせられる。」

「では騎士はほとんどの方が使える訳ですね。」

「ああ、あれが全ての剣技の基本だ。」


トーマスさんが2杯目を継ぎ足してくるので、俺は水を店員に頼んだ。俺は少し飲み量を減らすと、水をグラスに入れて指でかき混ぜた。


「なんだ、それ?」

「ああ、水割りですよ。自分にはちょっと強すぎるんで、飲み易くしてるんですよ。」

「お子ちゃまか?」

「本当は氷も欲しいですね、冬にはお湯で割るのもいいですよ。量も増えますしね。」

「それはいい事聞いた。良しとっておきを教えてやる。」


トーマスさんは俺に顔を近づけると、大声で話し出した。


「誰にも言うんじゃ無いぞ。騎士の秘密だからよ。あの技はな、精霊に剣を強くしてくれ、良く切れる様にしてくれって丸投げしてるんだ。騎士が凄い訳じゃ無いからな。」

「そうなんですか。」


おれがあの時見た、剣が黄色く輝いたのは精霊の光だったのか。


「まあ、その頼み方にコツがいるんだけどな、これはナイショな。」

「いえいえ十分です。騎士って凄いんですね。」

「ああ、凄えだろ。だけどよ、やっとこさ騎士になったと思ったら、ダンジョンも無い地元のクソ田舎街に配属されてよ。やる事なしに酒浸りの毎日よ。」


トーマスさんは少し乾いた笑いをした後、俺を睨みつけると


「テメーらのお陰で、騎士らしい仕事が回って来ちまったよ。これから忙しくなる。」

「けどまだ呑んでますよね?」

「ガハハハ、これは祝い酒だ。別物だ。」


タリリの為の情報も十分過ぎるぐらい手に入ったし、トーマスさんもご機嫌な様でいい事尽くめだ。

後はジェシカさんの家に帰るのが少し怖いだけだ。


「トーマスさん、どんどん呑みましょう。カンパーイ!」


俺は水の量を半分に減らして呑み始めた。今日は墓場で寝よう。

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