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ミッション 墓場巡り

俺たちも運ばれて行った3人と同様に行方不明者だった訳だが、依然とテントの前にそのまま放置されている。待てど暮らせど声が掛からない。


「皆さん、中へ入っちゃいましたねー。」

「じゃあ、ジェシカさん家に戻りましょ。」

「いや、宿を探すぞ。こんな時間に失礼だ。」

「それもそうね、そうしましょ。」

「えー良いのにー。」


夜明けにはまだ時間がある。きっとアンナさんとおばあさんの2人は寝ている時間だ。起こすのは忍びない。


俺たちは2回目となる街の壁の穴抜けを済ませて、宿屋へ向けて暗い夜道を進んでいる。途中ジェシカさんの家の前を通過したが、やはりまだ窓から灯りは見えなかった。


「宿屋ってこの辺りだったわよね。」

「なあ?宿屋ってこの時間、開いてるのか?」

「え?開いてるわよ。ただシャルルさん所みたいな家族だけでやってる宿屋は部屋には泊まれないわよ。」

「それ、開いてるって言うのか?」


カレンは振り向きもせずに、宿屋を探しながら言葉だけを返してきた。


「アンタも何度も見てるはずよ、1階の酒場の奥よ。」


それは確かに有った、俺は利用した事は無いが。その場所は酒場の奥にあり、2階への階段の下のスペースを利用して作られた板の間だ。


「あの酔っ払いの墓場か?もしかして。」


そこは客室を取っていても、いなくても酔い潰れた客を放り込んで行く場所だ。パーティメンバーによっては部屋までつれていく事もあるが、後衛の女性たちにとって、前衛の酔っ払いの大男を部屋まで連れて行くのは重労働かつ、セクハラの危険が有る。


よって基本的に酔い潰れた順にそこに投げ込まれて行く、そんな酔っ払いが雑魚寝する様子から酔っ払いの墓場と呼ばれている。


「そうよ。」

「いや、駄目だ!夜中まで受け付けがいるところを探そう。」


酔っ払いの中にマリリさんの様な女性を寝かすなんて、俺が1人でダンジョンに行くより危険だ。


「んー。王都みたいな都会ならあるけど、こんな田舎の街じゃあ、そんなの無いよー。」

「じゃあ、酔っ払いのおっさんと雑魚寝が確定かよ。」


地元民のジェシカさんが言うのなら、24時間営業の宿屋は無いんだろう。こんな事なら、ダンジョンで寝た方が安心できる。


「アンタね。私だってそんなの嫌よ。そんな所で寝れる訳ないじゃ無い。」

「え?何を言ってるんだ?え?」


この街には酔っ払いの墓場しかなくて、しかしそこは嫌だと?


しかしカレンの考えは単純だった。この街には10軒の宿屋が軒を連ねている。その全ての酔っ払いの酒場を見て行き、女性のみが寝ている所で寝ようと考えていた様だ。


「ここで8軒目よ、アンタ見てきて。」

「了解。」


ここまで、女性のみの酔っ払いの墓場なんて無く、男性に混じって女性が寝ていることも無かった。だから多分ここも同じだろうと俺は宿屋に入ると、すでに静かになっている酒場を進み板間を探した。


ここは2メートルはありそうな大男が大の字になって寝ていた。その周りには2人の採掘者らしき男の姿も見えた。


「男3人だった。しかも1人が超デカイ奴だった。」

「ありがと、ダメね。どうしようかしら。」


あまり寝てない事もあり、疲れがピークに達して来た。ミカンちゃんはカレンの背中で既に夢の中だ。


「もう少しで夜が明けます。それまで待ってジェシカさんのお宅にお世話になりましょうか。」

「マリリ、カケルは毛布も持って来てないぞ。」


今回はポーターの背中袋を持って来ていない、その為に毛布もジェシカさんの家に置いて来ている。


「カレン?こんな時の為にテントを買うか。」

「そうね、小さいのじゃなくて大きいのが欲しいはね。ゆっくり横になれるぐらいの。」

「そうですわね、サイズは両方買ってもいいのかと思いますわ。珍しくお金に余裕が有りますから。」

「もう、ベッドも人数分買っちゃえばいいですよー。全部持ちますよー。」


だんだんとみんなの要求が膨らんでいるが、ジェシカさんがエプロンのポケットを広げながら、ベッドの事を話すとカレンもマリリさんもさらにどんどんとエスカレートしていった。


「私は手鏡だけでは少し不便と思っていたので、鏡台と言うかドレッサーがあれば助かりますわ。」

「私はお風呂が欲しいわね。ゆっくりと浸かりたいわ。」

「もう、私の家持っていっちゃいますか?お風呂もベッドも可愛いアンナも付いてますよー。」


徹夜明けの異様なテンションで、ドンドンと盛り上がっていく3人を尻目に、俺は街の広場を目指した。


街道から町に入ってすぐの広場に来ている。そこには馬車の乗客の内、宿屋に泊まらない人達が出発までの時間を過ごしている場所だ。


テントを張って休む人もいれば、数人で焚き火を囲んでいる姿も見える。もちろん酒を飲んで、だらしない格好で寝ている採掘者も多くいる。


俺たちも空いているスペースを確保すると、輪になって座る。少し肌寒いが薪を持って来ていない為に火を起こす事が出来ない。


「ストーンウォール。」


マリリさんの一声で俺たちの周りに、4面の壁が出来上がった。天井は無いが風が当たらなくなった分だけ暖かい。


この時間まで起きていた人から響めきが起こったが、指を指されようが、何をされようが視線を遮っている為に特に気にならない。それはマリリさんをはじめカレンもジェシカさんも同じよう様だ。


マリリさんは初めの頃の様には、ストーンウォールの維持に神経を使っていないようだが、それでも維持したまま休憩するとか、睡魔を取るとかは無理なようだった。


「マリリさん、ダンジョンでは出来ないかも知れませんが、外ならもっと楽に出来るかも知れませんよ。ストーンウォール。」

「え?どう言う事よ!アンタ、まだ何か隠してるの?早く教えなさいよ。」


マリリさんよりもカレンが喰いついて来て、酷い言い方で急かしてくる。


「この地面の土を引っ張って来て、壁の形に変化させればその後の維持をしなくても良いのかなって。」

「なるほどですね、ストーンウォールを魔法で作り出すのでは無くて、土を変形させるのですね。」

「ふーん、変形させる時に硬めにすれば、問題無さそうね。」


マリリさんは一度ストーンウォールを解くと、地面に指先をつけて感触を確かめると


「土が盛り上げ、城壁の様な硬い土壁をイメージしまして、ぐぐぐーっとそれ!」


マリリさんは小さな声で呟きながら、身体をグッと縮めたあと、手をパーにして両手を広げた。イメージ強化の手段だったんだろうけど、普段のお淑やかなマリリさんと違って、幼稚園児のお遊戯みたいでかわいいかった。もう一度お願いしたい。


マリリさんの声で再び、俺たちの周りにアースウォールが立ち並んだ。厚みも硬さも触ってみたところ問題無いとマリリさんとカレンが話している。そのマリリさんの表情はいつもの柔らかな微笑に戻っている。


「ストーンの魔法を打ち出した後の様な感じです。今は特に集中する必要も有りませんわ。」

「アイツの言う通りなの?」

「はい、その様ですわ。」

「実は凄い事よね、これも。」

「そうなんですかー、私には同じにしか見えないんですけどねー。」

「だから凄いんですわ、同じ物なのに大変さが段違いですから。」


マリリさんは自ら作り出した壁を見上げている。ジェシカさんは納得できていない様で、腕を組んで唸っている。


「あー、悔しいわ。最近魔法の使い方が少し分かって来たのに、どうしてアイツより先に気付かなかったのよ!私!」


カレンはそう言うと壁に背中を預けて、夜空を見上げた。その足はバタバタとその気持ちを表している。その為にローブの裾は膝まで捲れ上がって来ている。よし、もうちょっとだ。視線を悟られない様にどうにかしてベストポジションである横たわりの姿勢になれないか。そう試行錯誤していた時に


「カ、カレンさん。ちょっと、ちょっと!見えちゃいますよ!」


しまった。もう1人敵がいた。ジェシカさんだ。カレンはジェシカさんの声で体を起こすと、膝を立て裾を直した。


「アンタ?見たの?」


俺は既に上を向いている。そしてゆっくりとカレンの方に視線を向ける。


「何の話だ?」


良し完璧だ。間違いは無いはず。


「これ見て下さいよー。絶対に覗こうとしてましたよー。」


何故かジェシカさんの手には、スマホが握られておりその画面にはカレンのローブの中を覗こうと体を横にずらし掛けている俺の姿がハッキリと映し出されている。


「ち、違うっ!」

「何が違うのよ?見なさいよ!」

「いや、俺じゃないし。」

「アンタよ。」

「カケルさんです。」

「カケルさんですわ。」

「カケルだな。」


敵しかいない、最悪だ。


「本当にカケルさんて、すけべーなんですねー。」

「本当死ねば、良いのに。」

「もしかして、マリリさんに教えたのも、カレンさんを悔しがらせて下着を見る為だったんですねー」


いや、それは無い。そこは男として否定しなくては


「ジェシカさんそれは間違っている。それでは俺がカレンのローブを手で捲り上げている事になるんだ。それじゃあ意味が無いんだ。俺は偶然見えたり、見えそうな感じのハプニングを望んでいるんだ!」


俺がそこまでを一気に叫ぶ様に言うと、外野から拍手だったり、うるさいぞとのお叱りの言葉が飛んで来た。


「何開き直ってるのよ!バカ!」

「サイテーですねー。」

「カケルさんはそんなご趣味がお有りだったんですね…。」


壁の中からは言葉と杖が飛んで来た。まだ見ても無いのにこの扱いは酷いと思う。今度こそは見てやると心に誓って、俺は謝罪を始めた。

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