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ミッション トラップ

「カレン手を止めて、みんなちょっと集まってくれ。」

「来たです。」

「どうした?」

「ジェシカきましたー。」

「早く教えなさいよ、何が分かったのよ。」


俺はカレンに向き質問をする。


「鍵穴はどこにある?」

「え?右よ。」


カレンは扉の鍵穴を一目見ると、右と即答する。


「タリリが1番最初に試した時はどっちだった?」

「え?まさか。」

「そんな筈は無いだろ!」


カレンとタリリは俺の予想を信じられないようだ。


「どっちだった?」


タリリは扉をチラッと見ると右に穴が空いている。しかしそう言われると左の扉だった気もしている。


「右と思うが、自信は無いぞ。」

「じゃあ、ついさっきは左だっただろ?」

「え?今か?カレンと代わる前だろ?」

「ああ、そうだ。」

「あれ?左だったか?」


駄目だ、タリリの記憶に頼ろうとしたのが間違いだった。鍵穴の変わる条件はなんだ?時間か?ランダムか?まさか全員の視線が外れる事だったりして。


「いま、右なのは覚えておいて。右な。」

「右ね。」


俺は扉と反対側の通路を指差して


「あっちを見てください。全員お願いします。」


皆、指示通りに後ろを向いてくれたが、ナーシャだけは何故か暫く俺と見つめ合っていた。俺が指でナーシャさんの背後の通路をつつくジェスチャーをすると、クルッと回って背中を見せた。回る時少し笑っていた気がするが、気のせいかも知れない。


「…98、99、100!」


念のため100を数えてた後に俺は振り向いた。


「いっ良っしゃー!」

「あらあら。」

「最悪ね。本当アンタみたいなダンジョンね。」

「うわぁ、これは引きますねー。カケルさんはこんな方なんですねー。」

「困ったです。困ったです。」


俺の右手を築き上げた喜びの歓声と反してパーティメンバーからは悲痛な声が上がる。カレンとジェシカさんはダンジョンより俺の悪口の気がするが、この際は構わない。


先程まで右の扉に空いていた鍵穴が無くなり、左の扉に空いていた。


「とても悪質な罠、どうにかなりませんか?そろそろこの狭いダンジョンから出たいのですが。」

「ナーシャ、こっちも必死やっているのだが。それなら貴女も少しは何か考えたらどうだ。」


ナーシャさんの催促にカチンと来たタリリは文句を言いながらもナーシャさんの所へ歩き出そうとした為に、マリリさんはその進行方向に自らの体を割り込ませてタリリの歩みを止めた。


「ふん、貴女のせいでこうなったんでしょ?短気なお嬢さん。」


ナーシャは床に散乱する鍵を見下ろしながら、タリリに侮蔑の言葉を吐き捨てると、腕を組み後ろを向いてしまった。


その様子を見ていたミカンちゃんは、カレンの所までリズミカルに駆けて行くと何やら身振りも交えて話していた。


「ああ、腹立つ!あんな奴置いて帰るぞ、カレン!」


まあ、タリリの気持ちも分かるが、流石にそのどちらも駄目だと思う。放置も直ぐに帰るのも。


「タリリ、落ち着いて。ナーシャさんも慣れないダンジョンで不安と疲労で限界なんですよ。ここで貴女が頑張らなくて誰か頑張るのですか?」


マリリはタリリの頬を両手で包むように抱えると、真剣な眼差しでタリリに思いを込めた言葉をかけて行く。


「マリリ、すまない。」


タリリはそれだけを言うと、ナーシャに背を向けて歩き出す。


「ナーシャ、すまなかった。責任もって貴女を地上に帰すと約束する。」

「そう、精々頑張って下さいませ。」


タリリはナーシャの言葉を流して、俺に話し掛ける。


「カケル、私は責任を持って彼女を地上に戻すと約束した。だから、どうにかしてくれ!」

「おい?!潔すぎるぞ。」


約束した瞬間から丸投げか、流石タリリ漢らしい潔さだ。まあ、みな我慢の限界に近い少し反則しようか。


俺はジェシカさんに手招きをすると、ジェシカさんは快く駆け寄ってくる。


「え?なになに?出番ー。」


俺はジェシカさんの手を引いて、扉の前に来るとジェシカさんのエプロンのポケットの口を扉に触れるように指示をした。


ジェシカさんはエプロンを引っ張ると自分も扉にくっ付く感じで、扉に寄り添った。そのポケットの口の横に俺は手を添えると小さく呟いた。


「収納。」

「ゴホっゴホ!」

「あっ?!」


カレンの驚きのあまりに咽せる音とジェシカさんの小さな悲鳴が上がる。期待通りの結果が出た。


さっきまで俺たちを苦しめていたの扉は、左の扉だけを残すだけとなった。それは俺たちだけでは無く、向こう側の部屋の住人にも自由を与える事になった。


「ギャギャ!」

「グオンー!」

「ギギギャー!」


続く部屋にはゴブリンを始めとするモンスターがビッシリとひしめき合っている。そうモンスターハウスだ。


「タリリとミカンちゃん、扉の手前で抑えて!」

「マリリさん、私達は中の数を減らすわよ。」

「アンタは前に来る奴と魔法使いの牽制をして。」

「ナーシャさん、攻撃魔法で私と一緒に少しでも数を減らして下さい。」

「マリーさんと神父様はタリリとミカンちゃんの回復をお願いします!」


俺たちのパーティメンバーは返事と同時にそれぞれの役割をこなしだす。神父さんとマリーさんは心配そうな面持ちで杖を握り締めている。


「ウオーターアロー。」


ナーシャさんの右手から10センチぐらいの透明な水の矢が浮かび、ゴブリンを目掛けて飛んでいく。

それはゴブリンの心臓あたりに命中したが、そのゴブリンはよろけた拍子でゴブリンジャイアントに寄り掛かるが、ゴブリンジャイアントの太い腕で吹き飛ばされると生死不明のまま何処かへ行ってしまった。


その様子を見ていたナーシャさんは眉をしかめたが、唇をキッと結ぶと再びウォーターアローを唱えた。


そのウォーターアローはゴブリンジャイアントに真っ直ぐに向かっていくが、その腕の一振りで水の矢は水飛沫に変えられた。


しかし、振り抜いた腕が伸びて止まった瞬間に石造りの天井が落下して来て中にいる全てを押し潰してしまった。いま目の前は部屋に同じサイズの重い石柱が降りて来ている状態だ。


床と石柱の僅かな隙間から、通路へ様々な液体が流れ出ている。扉の外にいて辛うじて潰され無かったタリリとミカンちゃんはその液体を被り、呆然としている。


「ミカンちゃん、大丈夫?!」


カレンは部屋から飛び散ったゴブリンの腕を飛び越えながらミカンちゃんの方へ走り寄る。ミカンちゃんは全身をぐちゃぐちゃに汚したままカレンに抱き着いた。


「これ、最悪全滅も有ったな。」

「ええ、もう少しモンスターが少なければタリリはあの中だったでしょう。」


マリリさんは珍しく青い顔をして震えている。いつもは茶化してくるジェシカさんもダンジョンでの死を実感し何も言えないでいた。


残り少ない水で、ミカンちゃんとタリリの顔を拭くとみんなで滑り台で降りて来た部屋へ戻ってきた。

俺は干し肉と飲料水を全て配り終えると、カレンの脇に腰を下ろした。


「もう、進むのは止めよう。」

「じゃあどうするのよ?助けを待つの?」


俺はカレンの相手をしているが、全員に聞こえる様に少し大きめの声で説明する。


「始めの落とし穴、次は鍵付きの扉、今度は天井トラップ全て俺たちを本気で殺しに来てる。」

「扉も?」

「ああ、もしかしたら本物の鍵なんて無いの知れないな。」

「…。」

「うへえー。」


俺の想像にカレンは無言で応え、ジェシカさんは思いっきり嫌な顔をしている。


「アンタの事だから、案があるんでしょ?」

「特別なのは無いが、ここで救援を待ちながら休むとしよう。きっと一晩寝たらいい事あるさ。」


カレンは俺の言葉を聞くと頷きながら


「そう、寝たらいい事あるのね。」


俺は1つ頷いた。


「万が一の時の為に、この隅でみんな固まって休んでもらうわ。」


カレンが一角を指差すと、重い体を引きずる様に皆が集まって来て腰を下ろしていった。


「見張りを3交代で立てるわ。最初は神父さんとマリーさんとナーシャさんの3人、次は私とカケル、最後はマリリさんとタリリにお願いするわ。いいわね。」


カレンの立てた順番に文句も出ずに、そのまま寝ることとなった。みんな限界だっただろう直ぐ眠りに就いた。


俺たちが眠りについたあと、ナーシャさんは神父さんとマリーおばさんに不満をこぼしている。


「お2人は実戦から離れて長いですから、お疲れだろうにこの人達が先に寝るんですか。信じられませんわ。」

「まあまあ、カレンさんたちの様に睡眠時間が分断されるよりはマシじゃろ。」

「じゃあ、あの騎士かぶれの男女とシスターは?」

「私らの見張りが1時間、カレンさんが2時間、マリリさんが3時間だったろ?マリリさん等が1番休む時間が少ないね。」

「そんなの計算すれば分かる事です。」

「儂らの頃は、みな2時間づつの睡眠だったな。不平不満の出ない様に平等にな。」

「不慣れな私らに気を使ってくれてるんだよ。」


だがナーシャさんは納得出来ない様子だ。


「わたしは不慣れじゃありません、王国教会本部のシスターです。そこの田舎者のシスターとは違うんです。」

「そうかい。だけどアンタここまでにそのシスターさん達がいなかったら何回死んでるか分かるかい。」


「それは…。」

「あの扉にしても、どうなってんのか。私にゃ分からないが。あの子らにはここで死ぬ気は全然ないみたいだね。」

「そうだの。こんな罠、アザリア出の彼女らには本来なら荷が重すぎる。普通ならとっくに全滅しとるわい。」

「私らはこの見張りを頑張るよ。そして彼女らと生きて帰るんだよ、アンタもね。」


ナーシャさんはシスターの話を聞くと、通路の方に体を向けてその先の暗闇を睨みつけた。


俺とカレンはマリーさんに1時間丁度に起こされた。その時にナーシャさんはカレンに


「気分が高ぶって寝れなかったから、この順番で丁度良かったわ。」


と捨て台詞を吐くと、マリーさんの横で膝を抱えるようにして眠りに就いた。しばらくすると3人の寝息が聞こえてきた。


「良しカレン、ジェシカさん頼んだ。」

「了解よ。ジェシカさんいいわね。」

「はい、行ってきます。」


カレンはジェシカさんを通路の隙間を潜らずに進んだ先にある、6匹のゴブリンがいた部屋の隅に転移させた。


「ブブブ」

「この部屋にはだれもいません。」


スマホにバイブ音と共にジェシカさんからのメッセージが届く。


「良かった、最悪ボス部屋に飛ぶ必要があったからな。」


神父さんら3人以外は既に起きており、戦闘の準備を終えているが、その必要無かったようだ。


「みんな大丈夫?その3人も大丈夫よね?」


カレンの問いに俺とマリリさん、タリリは頷く。一応ナーシャさんの担当はマリリさんだ。おれは神父だ。


「転移。」


カレンの声で俺たちはジェシカさんの待つ広場に降り立った。俺たちは3人を背負い直すと洞穴の外に歩き出した。壁の隙間の横を足早に通り過ぎ、出口に近づくと篝火や大規模なランタンの様な物で煌々と照らされ昼間のような明るさの広場に出た。そこには教会の印の入った大型の四角いテントが4張建っており、その存在感を主張している。


街から10分なんだから、わざわざテントなんて建てなくてもとは思うが、これが今まで通りのやり方なんだろう。別にどうでもいいが。


テントの脇に立つ兵士は俺たちを見つけると、テントに向かい声を張り上げた。


「要救助者、自力にて帰還!」

「おう?!」


「ナーシャは無事か?全員いるのか?」

「ええ、全員いるわ。ナーシャさん達は寝ているだけよ。怪我もないわ。」

「おおお、それは良かった。」


俺たちの無事を確認すると、再度声を張り上げる。


「ナーシャ他全員生還!」


テントの入口から竜騎士が取り乱した様に慌てて飛び出してくると、続々と他のテントからも兵士が出て来る。慌てた様子でシスターさん達も出て来たが、だれもケガをしていない事が分かるとホッとしたようだった。


竜騎士がマリリさんからナーシャさんを、兵士達が俺たちの背中から残る2人を奪い取るかの様に、抱えるとテントの中へ連れて行った。さすがに俺たちの背中から引き剥がされた時には3人は目覚めていた様だったが、されるがままに運ばれて行った。


それにしても、竜騎士の慌て様には驚いた。部下が心配だったとしてもここまで慌てるだろうか。


そんな俺の予想を覆す呟きが聞こえて来た。


「ナーシャさんは竜騎士さんの彼女さんなのかなー。すっごく心配してたからねー。」

「そうなの!」

「そうなんですか!」


ジェシカさんの呟きにカレンもマリリさんも凄い勢いで喰いついた。2人の目がキラキラと輝いている。


「だって、他のシスターさん達のナーシャさんへの態度ヤバイでしょ?転んでるのにだれも見向きもしないんだよー。」

「憧れの的な竜騎士をナーシャさんに取られたから、そんな態度だったということですか。」

「うんうん、嫉妬よね。」


ジェシカさんの大袈裟な身振りの説明に、マリリさんは溜息混じりに、カレンは拳を握り締めて頷いている。


「そうそれです。ジェラシーって奴ですよー。」

「アンタ、竜騎士に殺されない様に気をつけてなさいよ。」


いきなりカレンがとんでもない事を言い出す。俺は別にナーシャさんを口説いてないぞ。


「そうですよー、「カケルさんからスケベーな目で見られて嫌だった。」なんて彼女から言われたら竜騎士さんは速攻で飛んで来ますよー。」

「直ぐにワイバーンで飛んで来るわ。」

「頑張って下さいね。ふふふ。」


そんなの最悪だ。マリリさんも笑ってないで助けて欲しい。そんな中カレンの左手を握り、立ったままうつらうつらと眠そうにしているミカンちゃんは俺の清涼飲料水だ。その姿は乾いた心にスーッと染み渡って行く。ああ、やっぱり可愛いな。カレンもジェシカさんも見習って欲しい。

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