表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/110

ミッション ナーシャ

そんなナーシャさんだが、何故かタリリは気に入らないようで小さな声でブツブツと文句を言っている。


「そんなに何回も転んだり、ベールがずれたりするか。ドジにも程があるぞ。わざとらしいぞ。」

「タリリ、そんな事言ってはいけませんよ。」

「分かっているが、何故かモヤモヤするんだ。」


俺はその他に手が滑って落ちてきた事もあったなと思い出していた。あれは良い思い出だ。ジェシカさんの件と合わせて永久保存版にしておこうと心に決めた。


「扉だ。」


滑り落ちた部屋から伸びていた通路を進んでいくと、その突き当りに両開きの扉が行く手を遮っていた。その扉に続く通路の壁はキラキラとランタンの灯りを反射している。


俺とタリリが扉を挟んで立つ、タリリが左、俺が右の扉に手を掛けカレンを見る。少し離れてカレンはミカンちゃんを左にマリリさんを右に待機してもらい合図を出した。


「良いわよ、開けて。」

「ぐっ?!」

「ふぬー!」


俺たちは体重を掛けて開けようとするが、扉はくっ付いているかの様にピクリとも動かない。何度もやっても同じことで1ミリの隙間も出来なかった。


「駄目だ。動かん。」


おれは諦めてカレンに報告するが、タリリは腰のショートソードを抜き扉の合わせ目に差し込もうと試みた。


「ふんぬーー!」


ショートソードに全体重を掛け押し込もうとするが、剣先は滑りタリリは肩から扉に相当な勢いでぶち当たる。


「ぐわああ!」


タリリの衝突音とは別にタリリが手離してしまったショートソードが床に跳ねる上がる音が響く。


「危ねぇ!」


跳ねたショートソードは俺の顔の横を飛び去ると壁でもう一度跳ねた後、床の上を滑っていった。


カレンやジェシカさんがその場で飛び上がって刀身を避けている。その後ろの神父さんやシスターたちの所まで行く前にはショートソードは止まった様だった。


「不覚…。」

「タリリだからな。」

「そうね。」


マリリさんは大きく溜息をついているが、その表情は固く、いつもの柔らかな微笑みは遥か彼方に消えている。


「レンちゃん、鍵が有るです。」


ミカンちゃんが壁際で鍵が有ると、ピョンピョンと飛び上がってアピールしている。その言葉で俺は扉を見ると小さな鍵穴が左の扉に確かに空いていた。


「カレン、鍵穴も有ったぞ。すまん確認不足だ。」


ミカンちゃんのナイスプレイで大した苦労も無く、解錠できると喜んでいたが、カレンの様子が思わしく無い。ただ鍵を受け取ってこちらに戻って来てはいる。


「はい、鍵。けど多分開かないわ。」


カレンは俺に鍵を手渡すとそう言いながら、壁を指差した。そこには無数の凹みとその凹みを埋める様に鍵が一面にビッシリと埋め尽くしていた。


「この鍵ね。引っ張れば簡単に取れるの、だけど1度に取れるのは1本だけ。その鍵がね、さっきの部屋からこの扉までの壁全部にあるみたい。」

「ハア?」


俺は念のために、鍵を鍵穴に差し込むが案の定回らない。これは外れの鍵と言う事だ。


「えー?何本あるの?1000本?1万本?!」

「分からん、もっと有るかも知れないな。」

「うへー。」


ついジェシカさんと会話してしまう。独り言として誤魔化そう。


「ノーヒントなのか!分からん、教えてくれ!」

「アンタ、バカね…。けど、ヒントを探すのは良いかもね。」

「そうですわね。これを全部試すとなると何日掛かるか分かりませんわ。」


苦し紛れの案にカレンとマリリさんが上手く合わせてくれた。本当に助かる。


「タリリは扉の近い方から順番に試してくれる?」

「おお。任せてくれ。」


そう言ってタリリは俺から鍵を受け取ると、ミカンの指差す凹みに鍵を戻すと順番に試し始めた。


「それじゃあ、その他の人はなんでも良いから手掛かりや他との違いがあったら教えて。」

「了解。」

「分かったです。」

「小さな事でも、自分だけで判断しないで教えて。みんなで考えましょう。」

「隊長了解でーす。」


返事は聞こえなかったが、神父さんやシスターさん達も壁に顔を近づけて鍵を1つ1つ観察している。


「ふんふんーふん。」


ナーシャさんは1人鼻歌を歌いながら、転々としながら壁を見ている。


「神父さん、マリーさん、ナーシャさん、こんな感じのトラップって聞いた事ありますか?」


俺は3人に向かい問いかける。本当は最初に聞いて置くべきだったと反省している。


「儂は無いの。鍵が必要な事は有るがこんな数は聞いた事ないわい。」

「私も無いね。だいたい私達が行くのは攻略済みのダンジョンだからね。」

「申し訳ありませんが、記憶にありません。」


残念ながら3人とも聞いた事が無いとの回答で、俺は最後の望みでマリリさんを見るが、目が合うと申し訳なさそうに首を振られた。


考えろ、考えろ。ヒントを探せ。今タリリが鍵穴に差し込んでいる所だ、試しに壁の鍵に指を掛けるが言われた通り取る事が出来ない。


「タリリ次は鍵を2個同時に取ってみてくれ。」

「了解した。」


しかしそれは、どちらかの1個しか取れないとタリリからの回答が来た。その後会話も無くなりタリリが独り黙々と作業を繰り返している。


「ああああー!駄目だーー!」


タリリの絶叫と甲高い金属音が通路に響く。


「タリリ?!貴女何を!」


マリリさんのタリリを叱る声がする、タリリは我慢の限界から鍵を投げ捨ててしまっていた。鍵の紛失は新しい鍵を取る事が出来なくなる事から脱出が不可能となる事と同じ意味を持つ。


マリリさんの声で正気に戻ったタリリは投げ捨てた、鍵を探しに走り出した。


「タリリ、気づかなくてごめんなさい。その役目、変わるわ。」


そう言いながら、落ちている鍵にカレンが手を伸ばした時ダンジョンが揺れた。


「うわぁ?!」

「地震か?」

「きゃあ!」


結構大きな揺れだった、俺は壁に手を付かなければ立っていられなかった。それ程の揺れだった。


「ええ?」

「そんなのって?」

「うそだろ?」


それは最悪の光景だった。揺れが収まりカレンが鍵を取ろうとすると床一面が鍵で埋め尽くされていた。そう壁の鍵が全て凹みから落ちてきていたのだった。


「また初めからやり直しって事?」

「考えたく無いが、これもトラップの1つかも知れないな。」

「どういう事?」

「えーどうしてー?」


カレンとジェシカさんが揃って聞いてくる。


「今回はタリリが投げつけてしまったが、そうで無くとも疲労で鍵を落としてしまったりした時に、この状態なるように仕組まれていた可能性をな。」

「そんなの性格悪過ぎよ。そんなの思いつくのはアンタだけよ。」

「そうですよー。考え過ぎですよ。」


「だか、これでやり易くなったぞ。一々戻さなくて済む。」

「それもそうか、それじゃあここにスペースを空けるぞ。ここは使用済みを入れる場所にするから。」


俺は足を箒がわりにして、鍵を掃き出し床の一部に何もない場所を作り上げた。


タリリから引き継いだカレンは黙々と鍵穴に挿す作業を繰り返している。どれぐらいの時間が経ったのか、今はミカンちゃんからマリリさんへとバトンが手渡されている。


マリリさんも疲れてきたようで、鍵穴に1度では入らなくなってきた様だ。そろそろおれと交代だな。


「マリリさん、お疲れ様です。代わりますね。」


マリリさんは持っていた鍵を床の上に置くと、扉の前のスペースを空けてくれた。俺は新しい鍵を手に取り右の扉に空いている鍵穴に差し込んだ。


1発では開かなかったか。その鍵を使用済み置き場に置くと新たな鍵を手に取り右の扉の鍵穴に差し込んだ。


何本差し込んだか数えていないが、そろそろ空腹も限界だ。水は飲んでいるが水も残りが心配になってくる。


俺は背負い袋から固く焼いたパンを取り出して、みんなに配っていく。あとパンがあと4人分と干し肉が20枚だ。


「よし、今度こそ。開けるぞ」


気合いを入れてタリリから、2周目のチャレンジを始める。タリリはガッと力強く鍵を握り締めると左の扉の鍵穴に鍵を差し込んだが、残念そうな顔でその結果が分かった。タリリは次の鍵を取ると再度左の扉の鍵穴に差し込んだ。


「ん?あれ?」

「アンタ、どうしたのよ?」

「何かがおかしい。」

「何よ?イライラするのは分かるけど、落ち着きなさいよ。」


俺はマリリさんにも同じ事を尋ねる。


「おかしいところですか?特には。」

「そうですか、なんかモヤモヤとするんですよね。」


俺がマリリさんと話している内にカレンはタリリと早めの交代をした様だ。いま鍵を手に取り右の扉に差し込んだ。


「はあー?」

「何よ?さっきから」


カレンが俺の気の抜けた声に反応して振り向いている。そこにははっきりとこの罠の正体を見る事が出来た。ようやく俺は違和感の正体に気づき、このトラップの狙いが分かった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ