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ミッション 金貨、金貨、金貨

ジェシカさんの家のキッチンにてジェシカさんはおばあさんと2人きりで話し合っている。

おばあさんが椅子に腰掛け、その前にジェシカさんが立っている。横のテーブルには俺のスマホがジェシカさんの姿を映し出している。


ジェシカさんはおばあさんに、俺のスマホと手の感触を使って自分の置かれた現状を説明している。


「こんな不思議な事も有るんだね。長生きはするもんだね。」


おばあさんはジェシカさんの顔を優しく両手で包む様に確認している。画面の中のジェシカさんは目を閉じてじっとしている。


「ごめんね。おばあちゃんよりも先に死んじゃって。」

「本当にだよ。アンナがどれだけ悲しんだか。ずうっとあの子は泣いていたんだよ。」

「ごめん。」


おばあさんはジェシカさんから手を離すと、椅子にゆっくりと背中を預けた。


「大丈夫だからね。あの子が16になるまで、あと5年はアンタのとこには行かないよ。だから安心して行きたいとこへ行くがいいさ。」

「おばあちゃん…。」

「アンタはカレンさん達の仲間になったんじゃ無いのかい。」

「うん。」

「じゃあ、頑張んな。」

「うん!」


おばあさんはジェシカさんの返答に満足したのか、椅子から立ち上がると流し台へと歩き出した。


「あのね、アンナに悪い事が起きそうになると何故か分かるんだ。だから…。」


おばあさんは顔だけをジェシカに向けて続きを促す。


「また、直ぐにもどって来るかもしれないから。」


おばあさんは困った顔をして笑った。


「それじゃあ、アンタが戻って来ない方がいいねえ。」

「おばあちゃん、そんな。帰りづらいよー。」


「ほら、昼ごはんを作るから、みんなを呼んどいで。」


おばあさんはそう言うと、ジェシカをその場に残して昼食の準備を始めた。小気味好い包丁の音が響いていた。



その日の夕方、マリリさんとタリリがようやく戻って来るとおばあさんとアンナさんも交えて今後の事について打ち合わせが始まった。


「先ず、王都への報告の件ですが、神父様の手配した早馬が王都へ着くのが最短で3日後、その後王都から派遣された方が到着するのがさらに1週間後ですね。」


マリリさんの説明にみんなは頷いているが、内心はその時間にうんざりしている様に感じる。このあと俺たちがどれぐらい拘束されるのかも気になる。


「ミカンは嬉しいです。遊べるです。」

「ねー。あそぼー。」


ミカンちゃんとアンナさんは嬉しそうだ。手を取り合って喜び合っている。


「その間、私は教会からトーマスさんの交代要員としてダンジョンの監視を依頼されました。ただその業務は私とタリリだけでも対応可能ですし、あくまでも強制では無くこちらの任意です。」


「ただ、発見者でもあるのでダンジョン探索でも構わないと言われています。」


シスターとしてはダンジョンの監視、採掘者としてはダンジョン探索の選択肢があると言う事らしい。

神父やマリーおばあさん、トーマスさんだけでは大変だろうと言う気持ちがあるのだろう。


そんなマリリさんの報告にカレンは自分の希望を話す。


「ダンジョン初踏破は魅力的よね、ただどの位の広さがあるかも分からないし、時間の予測つかないわよね。」


カレンはダンジョンの探索に乗り気の様だが、俺たちはダンジョンの頭と尻尾しか味わっていないので全体的な広さが想像出来ない。


「カレン、実は1階層だけじゃない可能性は無いのか?」


俺はカレンを名指しはしたが、ここにいる全員に聞こえるようにした。


「え?意味が分からないわ。ボスがいたじゃない。」


俺は人差し指で空中にUの字を描きながら説明していく。


「入口と出口が1階層で、出口に辿り着く為には一度10階層まで降りる必要があるとか。」

「そんなダンジョンあるの?マリリさん?」


俺の考えをカレンはマリリさんに確認するとマリリさんは軽く頷いた。


「そこまで極端なダンジョンは知りませんが、何度も階層を行き来する必要がある上級者むけのダンジョンは王都の近くに有ると聞いています。」


マリリさんに意見を肯定して貰った為に、気分が良くなったので、続いて根拠を披露する。


「アザリアダンジョンのボスはオークだっただろ?それに比べてここはヴァンパイアゴブリンって超強力なボスモンスターだろ、銀貨と金貨の差があるぐらいの。」

「それで?」


カレンは食い気味で俺に促して来る。


「アザリアのダンジョンを例にすると、最初は芋虫やゴブリンで鉄貨だった。それがゴブリンスケルトンになり、ヒーターワームで銅貨を経て、オークで銀貨になる。」


ここまでは大丈夫だろう。様子を見ながら続けていく。


「モンスターの強さはコインの種類と比例しているし、その強さは連続的に強くなってるんだ。突然強くはなっていないんだ。だから、鉄貨から金貨になるまでは相当な広さがあると考えている。」


「ふーん。なるほどね。そう言われるとそんな気がするわね。」

「はい、はーい!けど、たまたま1階層だけって事や、1階層に色々なモンスターがいて、出口に近いほど強いモンスターがいる事は無いですかー。」


カレンは俺の意見に納得しかけたが、ジェシカさんの意見の可能性もある。ただ、後者の意見は複数の階層が1階層に纏まったと考えると結局は攻略時間の目処が立たないことには変わりはないと思う。


「じゃあ、アンタの意見は何よ?」

「俺か?俺は誰も来ないうちに金貨を稼ぐだけ、稼いでしまった方が良いと思うな。」


金貨と聞くとカレンの目が最大限に開かれた。


「そういえばボスは金貨だったわね。アンタ、セコいことしてたわ、確か。」


カレンは魔方陣作動の為に俺が鉄貨から試した事を、残念ながら覚えていた様だ。金貨と言えば10万円だぞ、そんな簡単には捨てられない。


「マリリさんとタリリはトーマスさんの交代要員で待機、他のメンバーが金貨を集めるだけ集めるのもいいわね。」


「2人も抜けても、大丈夫か?ボスは良いとしても、その前にゴブリンが沢山いたぞ。」


カレン案にタリリが不安点をあげる。ミカンちゃんだけでは確かに危険な気がする。ハーちゃんもいるが多数に無勢で万が一の事故が無いとも限らない。


「それなら俺が昼間の監視をするのがベストかな。トーマスさんに夜間をお願いしなくちゃいけないけどな。」

「えー?カケルさん1人で、ですか?」


ジェシカさんが心配してくれる。その優しさを見習わせたい。


「それも良いわね。」

「本当ですか?カケルさんは頑張ってましたが、結局は胸触った分は返してもらっていないですよ。」


確かに前回はゴブリンと互角の闘いを繰り広げてしまっていた為に、結局は討伐数は0だったから、お詫び分を倒していないのは確かだ。だけれども、アンナさんやおばあさんの前で胸を触った事は言わなくてもいいと思う。ああ、2人の目が見れない。


「ジェシカさんコイツはね。昼・だ・け・は強いのよ。」


カレンの恣意的な説明に問題がある気がするが、ジェシカさんは意味が分からずに首を傾げている。


「昼だけですかー?」

「コイツの精霊ね、光なの。変わってるでしょ?」

「それで暗い所は強くないんですねー?」

「違うわ、強くないんじゃなくて、弱いのよ。コイツはモンスターよりも私達の胸を見てる方が長いからゴブリンも倒せないのよ。」


散々な言われ方に俺も反撃をする事にした。本当はおっぱい星人なので胸なら誰のでも大好きだがここは心を鬼にして対抗する事にした。


「お前らな、俺が見てるのはマリリさんのだ。マリリさんのに比べたら、ジェシカさんのや、カレンのなんてただの起伏だ。そこに感動は無い。」


マリリさんは自分の事を言われるとは思ってなかったのか、少し慌てているが怒ってはいない。しかしそれとは正反対の反応が2名いる。


「起伏じゃないわよ!見た事ないくせに!」

「起伏ですか!あんなに触っておいて失礼です!」


赤色はバンとテーブルを叩いて立ち上がっている。緑色はいつもの語尾を伸ばす口調も無く、カレン同様立ち上がって抗議を始めた。


圧倒されるアンナさんとそれを宥めるミカンちゃん、タリリはカレンが叩いた振動で、倒れてしまったスマホを元の位置に戻している。そんな風景をニコニコと眺めるおばあさんがいた。



ジェシカとアンナの勧めで、俺たちはこの街を出て行くまで、この家でお世話になることになった。もちろんカレンはおばあさんに宿代としてお金を渡している。初めは受け取らなかった様だか、俺たちの金貨回収作戦が順調に回り出し、その金貨を夕食後にいつものテーブル会議の場にてジェシカさんの取り分として分配する事で受け取ってくれた。


朝早く俺を除くパーティメンバーはジェシカさんの家からダンジョンまではアザリアの腕輪の転移にて移動している。ジェシカさんもきちんと飛ぶ対象入っている様で何よりだ。ただし帰りは監視者がトーマスさんに代わっている為に転移で壁の向こう側にわざわざ跳んだ後に、ロープを使い壁の隙間から出口に戻ると言う段階を踏むことにしている。


「ふう。疲れたわね。さあ帰りましょ。」


暗くなり始める頃、いつもより少しだけ早めに切り上げたカレン達が洞穴の出口に辿り着いた。そこには引き継ぎの途中の俺とトーマスさんの姿があった。


「奥の広場には今日も、ゴブリンは湧きませんでした。」

「そうか了解した。そこには湧かないのかもな。」

「最初の時は6匹いましたので確率が低いのか、その隙間から出て来たのかのどちらかですね。」

「どちらにせよ、ここから出さねーよ。後は任せろ。」


「アンタ、お疲れ様。こっちは大量よ!フフフ」


オッサン2人の会話が終わるのを見計らって、カレンが今日の成果をじまんしてくる。溢れ出る笑みがその金貨の量を想像させる。


「おう、いい身分だな。嫁に出稼ぎに行かせて貢がせるたぁ、羨ましいぜ。」

「嫁じゃないわ…よ。コイツが足手まといだからよ。」


トーマスさんのからかいに言い返してはいるが、どんどんと語尾が小さくなっていっている。最後の方はトーマスさんには聞こえていないだろう。


「私なんか、カケルさん以下のお荷物よー。自己嫌悪ー。」


言葉の内容とは裏腹に、声が軽いのがジェシカさんだ。彼女はモンスタードロップのコインを集める係になっていると聞く。ゴブリンやヴァンパイアゴブリンには彼女の姿や声は聞こえない為に安全にコインを集める事ができるそうだ。


洞穴から離れた位置まで来ると、皆ジェシカさんに普通に話し出した。


「そんな事ないわよ。これでエプロンのポケットをジェシカさんだけで使えるようになれば、アイツは本当にヒモね。」

「ふふふ、カレンさんはヒモにするんですね。普通の採掘者は不要なポーターさんを雇わないですよねー。」

「え、まあこれでも結構頼りになるから、だからね。千切れるまで酷使してやるんだから。」

「ジェシカさん、大丈夫ですよ。カレンさんが捨てたらわたくしが拾いますから。」

「いや、私が拾うぞ。なんと言っても飯が美味いからな。」

「ミカンも拾うです。カケルは1人だと危ないです。」

「くうー、妬けるなー。ハーレムですなー。」


そんな姦しい会話を耳にしながら、夕暮れの道をゆっくりと進んでいく。明日には王都からの騎士が来るのだろうかとぼんやりと考えながら。

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