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ミッション 報告

「私はアザリア教会のマリリです。司祭様はいらっしゃいますか?ダンジョンに関する件で重要なお話があります。」


次の日朝早くから、俺たちはクブルムの教会に来ていた。この教会はダンジョンを所有しない為、カウンターはふっくらとした3児の母になるシスターが1人で対応している。ただ採掘者も滅多に来ない為に余裕はあるようだ。


「はいはい、司祭様はここにはいないから、神父でいいね。」


シスターは立ち上がらずに、顔だけを後ろに向けると声を張り上げた。


「スミスさーん、お客さんだよー。」

「おう、待っとれ。今行くー。」


奥から神父らしき男の声が聞こえる。若くは無い感じだ。お爺さん神父だろう。


しばらくすると、白髪頭ではあるが腰は真っ直ぐと伸びている腹の出たドワーフの神父が本を何冊か持って現れた。


「いやー、すまん。本が中々見つからなくてな。」


神父は額の汗を首に掛けた手ぬぐいで拭きながら、シスターの横に腰を掛けた。


「いえいえ、こちらこそ朝早く申し訳ありません。

どうしても急ぎでご報告しなければならない事が有りまして。」


マリリさんに合わせて俺たちはお辞儀をする。慌ててジェシカさんもしているのが見えた。


「それで、こんな田舎の教会にどんなご要件で。」

「スミスさん、ダンジョンの件らしいですよ。」

「アザリアかのう。王都は遠いしの。」


何故か神父の問いにシスターが答えている。マリリさんは話すタイミングを伺っているようだ。


「神父様、実はこのクブルムの街から10分の距離に新たなダンジョンを発見しました。階層はおそらく1階層のみ、モンスターはゴブリン、ボス部屋には多数のゴブリンとゴブリンヴァンパイアが1体と言うモンスター構成となっています。」


マリリさんが一気に捲し立てると、神父もシスターも驚いて目を丸くしている。


「マリーさん、新しいダンジョンって聞こえたんだがな。」

「はい、確かにそう仰ってますよ。」

「そうか。ここから10分ってのもか。」

「はい、そう仰ってますよ。」

「ゴブリンヴァンパイアもか。」

「はい、そう仰ってますよ。」


神父はマリリさんとマリーおばさんの顔を交互に見ると震えだした。


「え、え、えらいこっちゃ!ど、どうするんじゃったかの?!」

「はい、まずは王都へ連絡してくださいな。」

「そ、その次は?」

「モンスターが溢れ出ない様に、兵僧の配置をしてくださいな。」

「ああ、トーマスか。やつは酒場じゃろ。」


マリーおばさんが優秀で適切な指示を神父に与えていく。


「マリリさんでしたか、すみませんがトーマスさんを呼んできますので、ダンジョンまでの案内をたのみますね。」

「はい。分かりました。」


俺たちは手持ち無沙汰だが、ダンジョンまで同行する必要があるので、皆教会内でぶらぶらとしている。


「アンタ、ちょっと良い?」

「ん、何だ?」


カレンは俺の腕を取ると、隅の方へやって来た。


「ごめん、早くアンタを採掘者にしてあげれたら良かったんだけど。本当にごめんなさい。」

「どうしたんだ?」

「新しいダンジョンの発見でしょ。私達以前の発見は10年前に有ったのよ。その時は国を上げてのお祭りだった。小さかったけど良く覚えているわ。」

「ん?ああ、ポーターだと発見者とみなされないんだろ?」

「ええ、そうなの。一応専属のポーターだって説明はするけど、多分無理ね。前例が無いもの。」

「ありがとうな、気を使ってくれて。」


俯くカレンの頭をポンポンとしようと手を伸ばすと、上目遣いのカレンと目が合い、手は止まってしまう。


不思議そうな顔をしたカレンは言葉を続ける。


「けど、凄い名誉な事なのよ!名前を登録されたり、表彰されたり、お金だっていっぱい貰えるんだから!」

「じゃあ、俺はいいから。情報提供者を1人ねじ込んでくれよ。その人の遺言だったって言えば教会も甘くなるだろ?」

「ジェシカさんね。けどアンタがいなかったらあの洞穴がダンジョンだったなんて分からなかったわ。本当にそれで良いの?」


俺は今度こそ、カレンのフードの上からポンポンとすると、頑張った笑顔で話しかける。


「カレン、俺を誰だと思ってる?スーパーポーターだぞ。ダンジョンの1個や2個楽勝で発見してやるよ。だから今回で最後じゃないから大丈夫だ。」


カレンは置かれたままの手を払い除けると、背を向けて歩きだした。


「アンタが変なポーターだって事は知ってるわよ、そうよ、そうよね。私達の秘密兵器を秘密に出来るんだからそれがイチバンよね。だれにも渡さないんだから。」

「そうか。」


そして振り向くと涙が滲んでいたが、ビシッと俺を指差すと


「そうよ。ビシバシと働かせてやるんだから、覚悟しなさいよ!」


それだけを言い切るといつの間にか、カレンの側に来ていたミカンちゃんがカレンの手を引いて教会の外に出て行った。



「おーい、どいつだ。酒の邪魔をした奴は!」

「うるさいね。お客さんに失礼じゃないか!」


怒鳴り込んで入って来たのは、タンクトップに短パンのおっさんだ。しかも顔が真っ赤だ。たぶん近くに行くと酒臭いんだろう。


そのおっさんの背中をバンバンと叩きながら、ついて来たのは、マリーおばさんだ。


「この方達がね、新しいダンジョンを見つけたんだってさ。ほら仕事だよ。行って見といで」

「あーお前らか、そんな簡単にダンジョンが見つかるかよ。仕方ねー行くぞ。」


「マリリさん、頼まれてた酒樽は外の荷車に乗せて置いたからさ。忘れずに持って行きなね。ほらさっさと行ってきな。」


マリーおばさんはマリリさんの背中もバンバンと叩きながら、俺たちを教会の外まで送り出してくれた。


「おい、トーマス何してんだ?」

「ああ?仕事だよ、仕事。」

「お前が仕事だと、笑わせる。」


街を出る時に門番に捕まった。ただ俺たちじゃなくトーマスが。


「仕方ねーだろ、コイツらがダンジョンを見つけたって来たから、ばーさんが見て来いってうるさくてよ。」

「何言ってんだ、お前酔っ払ってるだろ?」

「ああ、さっきまで呑んでたからな。ガハハハ。」

「まぁ、気をつけて行けよ。」

「おう、散歩してくるぜ。またな。」


先頭はマリリさんとトーマスだ。並んで歩いているがその距離は常に一定だ。トーマスがマリリさんに手を掛けようとすると、丁度届かない距離まで離れている。カレンとジェシカさんはそのトーマスの様子を睨んでいる、2人は今にも食って掛かりそうだ。


洞穴の前に着くと、マリリさんは受付嬢スマイルでトーマスに一言伝える。


「ここになります。」

「あ?ここか?ガキの頃によく来たな。奥の壁を触って来れる奴が度胸のある奴だったから、何度も触りに来たぞ。」


マリリさんは隙間の下までくると立ち止まり、振り返って俺を伺う。その動作に釣られてトーマスも振り返る。


「おい、ポーターその樽は何だ。こんな所まで持って来やがって。」


「こうするんです。」


俺は荷車から空の酒樽を下ろすと、転がしながら隙間の下に立てると、手で上から押し体重をかけて無事乗れる事を確認する。また、樽にロープを巻き付け解けない様に結ぶとその端をベルトに通しておく。


「ほっ」


樽の上に登ると、壁の上部にある隙間に体を滑り込ませる。手にはランタンと短剣が握られている。


「お、おい!私が行くぞ。ま、待て危ないぞ!」


壁を超えると、想像通り幅2メートルぐらいの通路が伸びている。俺はゴブリンがいない事を確認すると両腕の力を使ってぶら下がった後、飛び降りる事に成功した。


「敵影なし。いいぞ。」


ベルトからローブを外して壁からぶら下げておく。これで戻る時も大丈夫なはずだ。


壁の向こうからトーマスの声が聞こえる。少し震えている様だ。


「おいおい、マジなのかよ。どれ?スマッシュ!」


トーマスは腰の剣を抜くと、正面の壁を斬りつけた。その剣は一瞬だけ黄色く輝くと壁に当たり甲高い音を上げた。


トーマスの剣が当たった場所には小さなキズが出来ていた。そのキズをトーマスは爪の引っ掛かりで確かめている。しばらく静寂が支配する。


「クソ、キズが消えやがった。ポーター俺もそっちに行くぞ。」


トーマスの付けたキズは跡形も無く消えていた。それはここが自然の洞穴では無く、修復作用を持つダンジョンと証明したのだった。


「コイツは狭めーな、フルプレートの奴らや、巨人族は無理だな。荷物も一度には通せねーぞ。」


おっさんは一人で飛び降りさせたが、続くパーティメンバーには横で降りるのをサポートした。カレンは例の如く騒ぎながら降りて来たが無視をした。


「アンタ、変なところ触らないでよ。分かった?」


ミカンちゃんは俺が両脇を抱えて下ろしたが、マリリさんは魔法でステップを作り一人で降りて来た。


ジェシカさんは壁をすり抜ける事が出来ないようでマリリさんのステップを使って降りてきた。トーマスの前でジェシカさんの手助けはしない事になっている。


「トーマス様、確認はどこまでされますか?」


マリリさんは今回の予定を伺う。まさかボス部屋までとは言わないだろう。


「ふう、酔いが覚めちまった。すまねぇな、疑っちまって。新しいダンジョンの発見なんて採掘者の夢みてーなモンだからな。」

「いえいえ、私達もまだ信じられませんわ。」

「良し、ゴブリンを1匹コインに変えたら帰るぞ。いろいろとやらなきゃいけない事が有るからな。」


トーマスを先頭に少し進むとYの字に別れた道があり、その右側通路に1匹のゴブリンがランタンの灯りに照らし出された。


「俺がやる。」


そう言うとトーマスは独りでフラフラと前に出ると、次の一瞬でゴブリンまで近づき剣を一振した。


「スマッシュ!」


先程と同じく剣が輝くと、ゴブリンの頭部が身体から離れて行った。


「凄いな、私も使えるようになるだろうか。」


タリリはトーマスの剣技に感動し、マリリさんに夢中になって話しかけている。


「はい、タリリなら出来ますよ。頑張って下さいね。」

「ああ、日々精進だな。あんな酔っ払いにも出来るなら私だって!」

「タリリ、声を少し抑えて下さいね。」

「ああ、了解だ!」


それでもタリリは興奮状態から冷めずに、声の大きさはいっそうヒートアップしていった。


トーマスがゴブリンの死体を見下ろしていると、その視線の先に金色の糸が空に向かい立ち昇ってきた。


「ここはダンジョンだ。お前等一応ダンジョンの名前考えとけよ。まぁお偉いさんにその権利を譲る様に言われるんだろうけどな。」


トーマスは俺たちにそう告げると来た道を引き返してきた。


「名前ね、情報提供者がだめならジェシカのダンジョンにしましょうか。」

「カレンナイスアイデアだ。それで行こう。」


俺たちの会話に反対する者が1人だけいた。


「ダメです。そんなの恥ずかし過ぎて死んじゃいますー」

「それじゃあ、ジェシカアンナにすればいいんじゃない?」

「ジェシカアンナのダンジョン。悪くないな。」

「ジェシカアンナですか、いいですわね。」

「もう、良くないですよー」


その後、街まで戻った俺たちは、マリリさんとタリリの2人だけはトーマスと教会へ戻ったが、その他のメンバーはお役御免となってアンナさんの待つ家へと戻ってきた。


「あ、ミカンちゃんおかえりー。」

「ただいまです。アンナちゃん遊ぶです。」

「うん、行こ!」

「あーアンナがお姉ちゃんを置いていくー。寂しいよー。」

「いいじゃない、姉離れよ。」

「嫌よー。寂しいよー。シクシク。」


アンナさんがミカンちゃんの手を引き、街中へ消えて行った。その後ろ姿を泣き真似をしながら見送る姉の姿があった。

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