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ミッション ジェシカとエプロン

「また、ここだな。」

「そうね。」

「天使さんです。」

「また、お目にかかれて光栄ですわ。」

「デカイな。」

「あ、あれは何ですか?こ、ここはどこなんですか?」


目の前には20メートルはあるだろう巨大な天使が立っている。白い壁には黄金の装飾が施され、その装飾が脈動するかの様に輝いている。


足元の魔方陣の光は既に消え、大理石の様な床に模様だけが残っている。



「我が名は@$¥&&@ダンジョン初踏破者に栄誉の証を与える者 」

「渡し者に狭間の鍵と扉を与える。」


2対の羽根を持つ天使が話始めると俺の両手とジェシカさんのワンピースとエプロンが光だした。

緑のワンピースはエメラルドの様に鮮やかに輝き、白いエプロンはダイヤモンドの様に七色の光を放って煌めいている。


また、ジェシカさんの白いエプロンの両側にはかわいいクマの刺繍が入った小さなポケットが付いている。そのポケットが周りよりも強く輝いている。ワンピースの裾には金色の刺繍が入り、白いエプロンの肩や裾の縁には可愛らしいフリルが付けられた。



ジェシカさんは自分の服が突然光ったのに驚いていたが、その光が落ち着くとクルクルとその場で回って自らの格好を確認している。


「狭間の鍵と扉によって、質量、重量を無視した保管が可能となる。」

「これよりクブルムダンジョンへ転移となる。」


「渡し者は俺とジェシカさんなのか?」

「栄誉の証は1名のみに与えられる。例外は無い。」

「え?じゃあ私の服はどうして?」

「…。」


「授与完了につき、転移開始」


「今回はカケルだったな。」

「狭間の鍵と扉って凄い名前ね。少し恥ずかしいわ。」

「おい、止めろ。バチが当たるぞ。」

「ローレンシウム様 ありがとうございます。」

「わたりし者?レンちゃんは赤き者だったです。何です?」


「ローレンシウムに渡ってきたって事だろ。多分。」

「どんな凄いものかしらね。分かるの?」


「質量、重量を無視した保管が可能となるって言っていたから、もしかしなくてもスゲーぞ。」


俺は内心ドキドキが止まらない。異世界に来たらぜひ欲しいスキルの1つ、アイテムボックスやイベントリなどの名前で呼ばれる異次元収納、猫型ロボットのポケットが手に入ったかもしれないのだ。


「物が沢山入る、魔法のカバンや袋ってあるか?」

「え?童話の中とかにはあるわね。良い子にオモチャを配っていく話とかに出てくる袋とかね。」

「勇者はレインボーソードを空中から取り出すです。」

「「勇者は右手を掲げると、その手にはいつしか七色に輝く剣が握られていた」よねミカンちゃん。」


「はいです!」


カレンはミカンちゃんの勇者の説明をしてくれる。この勇者の話も子供向けの絵本なんだろう。


ミカンちゃんはカレンの説明に何度も頷いている。


俺はニヤニヤが止まらない。ショートソードの鞘を右手に持ち頭上掲げると叫んだ。


「収納!」

「…。」


みんなの視線と沈黙が痛い。ショートソードの鞘はまだしっかりと俺の頭上にある。手の感触もあるが

見上げて見ても、天を突くかの様に主張している。

ああ、恥ずかしい。


「あ、あれ?おかしいな。」

「そんな都合の良い話なんて無いわよ。」

「じゃあ、どう言う意味なんだよあれは!」

「顔が赤いわよ。」


ミカンちゃんがメイスを掲げると叫ぶ。


「収納です!収納です!」

「ぷっくく。ミカンちゃん辞めてあげて。」

「ぐは!」


ミカンちゃんの表情は真剣だから、勇者のつもりなんだろう。辞めてほしい。


「レインボーソードです!」

「あはは、駄目よ。」

「ふふふ、ミカンちゃん。」


マリリさんもタリリも堪えながらも笑っている。ただジェシカさんだけがおずおずと話し出した。


「カ、カケルさん、私のポケットにそれを入れて貰えませんか?」

「え?ジェシカさんのポケットに?」


俺は持っていた鞘をジェシカさんに渡すと、ジェシカさんは右のポケットに差し入れた。


「あれ?駄目ですね。」


鞘は5センチぐらいポケットに入るとそれ以上は入っていく事は無かった。その様子をカレン等は笑うのを辞めて見守っている。


「駄目か。」


俺はジェシカさんがまだグイグイと押し込んでいるのを少し助けようと鞘の中ほどを掴んだ瞬間に鞘はポケットの中に全てが入っていった。


「きゃあ!」

「やった!入った!」


俺はジェシカさんのお腹あたりのエプロンのポケットの中に手を入れたまま、鞘が入った事を喜んだ。


「おお!凄いな消えたぞ!」

「あらあら。いけませんわ。」

「アンタ、ワザとなの?」

「あ、あの。くすぐったいので、もうよろしいですか?」


3名の女性陣の声で、自分がどこに手を入れているかを理解した。エプロン越しに柔らかな感触が伝わる。


「すみません、つい。嬉しくて。」

「はあ、分かりましたから、その」


カレンが飛びかかってくると俺の腕を掴み、ポケットから手を抜いた。


「いつまで触ってるのよ!」


カレンは怒りでジェシカさんは羞恥で顔を赤らめている。俺は必死に謝りながらもポケットがもう少し上だったら最高なのにと悔やんでいた。



「レンちゃん、あったです。ここです。」


強制的に転移され洞穴の入口に戻った後、俺たちが収納に関して試行錯誤している間、ミカンちゃんが独りで何かを探していた。


ミカンちゃんは行き止まりの部屋に入る少し前の通路に人が寝そべって通る事が出来るぐらいの隙間を発見し、その隙間を見上げて指差していた。


「うわ、これは無理よ。」

「荷物が持てないぞ。」


通路の天井までは2メートルぐらいの高さがあるが、その天井ギリギリの所に隙間は空いていた。


「帰りもここだけなら、怪我でもしたら戻れないな。あーカレン様ありがとう。」

「何よそれ。」

「腕輪が無かったらと思うと、感謝したくなるんだ。アーリーガートー!」

「ありがとうです。ありがとうです。」

「いえいえ、どういたしまして。ミカンちゃん。」


俺たちは隙間を見上げてしばらくの間、話し込んでいたがジェシカさんが声を上げた。


「あ、こんな近くにダンジョンが有ったら、危険ですよね。ヴァンパイアですよね。どうしましょう?」

「ジェシカさん、妹さんが心配なのは分かりますが。今よりも安全になりますわ。」

「え?それはどうして?」


マリリさんは姿勢を正すと


「ダンジョンは例外なく教会によって管理されます。王国からの兵士が派遣されなくとも、教会騎士団には例外はありません。」

「は、はい。よろしくお願いします。」


マリリさんの受付嬢オーラがジェシカさんを飲み込んでいる。俺はその様子を見るとカレンに耳打ちする。


「カレン、ジェシカさんの望みはゴブリン退治だったんだろ。」

「それが?」

「望みが叶った今、ジェシカさんは大丈夫なのか?」

「嬉しいんじゃない?」

「そう満足したら、ジェシカさんはこの世に未練が無くなって消えてしまうとか。」


カレンは俺からの内緒話に最初はくすぐったそうな素振りを見せていたが、次第に表情が抜け落ちていった。


「そうなの…。」


カレンはジェシカさんを見て、口を開くが声にはならなかった。


「カレンさん、アンナさんも心配してますからそろそろ戻りませんか。」


マリリさんの提案にカレンは頷いて、静かに街へ向かって歩きだした。


「ああ!どうするカレン!」


街に辿り着いた俺たちを待っていたのは、固く閉ざされた門だった。俺たちがどうするか思案するなかタリリの叫び声だけが夜空に響いていた。


「こっちよ。静かについて来て。」


ジェシカさんは俺たちを手招きすると、壁沿いに歩きだした。


「ここよ。少し汚れるけど我慢してね。」


ジェシカさんは膝をつくと、草をかき分け壁の穴を抜けて行った。


「流石、地元ね。こんな抜け道があるなんて。」


カレンがジェシカさんを褒めると、先に抜けてみんなを待っていたジェシカさんは、照れながら笑っていた。


「いやー、薬屋に行くのにこの壁沿いの道を行くと早いんだよね。まさか、この穴からゴブリンが入ってくるなんてねー。運が悪いよね、ハハハ」

「ええー?!」

「軽いな。」


俺たちは笑っていいものか、判断が付かずに微妙な顔のままアンナさんの待つ家に辿り着いた。


「カレンさん、お帰りなさい。大丈夫でしたか?」

「おやおや、この方達がジェシカの知り合いかい?」


アンナさんとアンナの祖母が出迎えてくれた。


「こんばんは、ゴブリンは退治してきたわ。これからはもっと安全になるからね。」

「こんばんは、はじめましてジェシカさんとパーティを組んでいます。カレンです。そしてこれがメンバーです。」


マリリさん、タリリ、ミカンちゃん、俺の順に挨拶をしていく。アンナさん達は夜も遅いので家に泊まればいいと言ってくれたが、カレンは断る方向で話を進めている。


「カレン、確かにこんな人数が泊まるのは迷惑かもしれないが、泊まれる宿屋はあるのか?」


タリリの一言でカレンの言葉は止まった。一方でアンナさんとジェシカさんは姉妹そろって、満面の笑みを浮かべている。


「おばあちゃん、お姉ちゃんの話を聞きたいからカレンさん達泊まってもらってもいいよね。」

「ああ、構わないよ。ただ、ベットが足りないね。」

「いや、採掘者ですから床で寝るのは慣れています。」


祖母の言葉に速攻でタリリが回答を返すと、俺たちは家の中に招待された。祖母は夜遅いこともあり、少しだけジェシカさんの話を聞くと先に休むといって部屋に戻って行った。


「お姉ちゃん、本当に返って来たんだ。」

「そうだよ、不思議よねー。」


アンナはジェシカに抱きついている。ただ、外観的にはアンナさんが腕で輪を作っているだけのシュールな絵ではあるが。


「だけど、嬉しい!お姉ちゃんに、ぎゅってされるの久しぶりだー。」

「なんかねー、さっきまでふわふわだったのが、ぎゅってなった感じなの。」


最初アンナさんに会った時はジェシカさんがアンナさんに触れても、アンナさんには感じる事は出来ていなかった。しかし今は見えないだけで普通に抱きしめている。


そして今カレンはジェシカさんの通訳はしてない。ジェシカさんはアンナさんの前に立て掛けられた、俺のスマホに自らを映してリアルタイムで会話をしている。


「なんて非常識な」

「タリリ、アンナさんもジェシカさんも喜んでいらっしゃるんだから、それでいいんですよ。」

「そうだな、そうだぞ、マリリ。実にいいことだ。」


確かにタリリの言う通りに非常識な幽霊だ。時々すでに亡くなっている事を忘れてしまう。ただ、朝起きるといなくなっているかもしれないと言う心細さはあるが。


「お姉ちゃん、これからどうするのー?」

「うーん、どうしょかー。」


ジェシカさんはアンナさんを抱きしめたいまま、考える素振りをすると


「カレンさん、ポケットの話していい?」

「ん、いいわよ。アンナちゃん今からジェシカさんが言う事は本当の事だからね。そしてとっても秘密にして欲しい事なの。だから内緒のお話ね。」


カレンは唇に縦に伸ばした人差し指を当てると、アンナさんに軽く頭を横に傾けた。


「はい、カレンさん、お姉ちゃん。内緒にします。」


アンナはコクンと頷くと、ハッキリと返事をした。


「お姉ちゃんは凄いんだよ。見て見てー」


ジェシカさんはエプロンのポケットの口を指先で摘んで広げるとカケルに向けて頷いた。俺はカバンの中からフライパンを取り出すとアンナさんに手渡した。把手を握るアンナさんの手に俺は手を添えるとジェシカさんを見る。


「なんで、アンナの手を握る必要があるのかなー。」


ジェシカさんは顎に人差し指を当て疑問を口にした。俺はその言葉を聞くとしぶしぶとフライパンの把手の最後尾を握り直した。それを見届けるとジェシカさんは頷きながら口を開いた。


「準備はいいよー。さあ来い!」

「え?どうするの?」


不安がるアンナさんの手を誘導する感じで、フライパンをポケットに近づけて行くと、ポケットの口に触れた部分からフライパンがポケットの中に入って行く。


「えええー?!」


アンナさんが驚いている間に、フライパンはその姿を完全に消してしまっていた。


「どうよー、びっくりしたでしょ。」

「お姉ちゃん凄い!採掘者さんて凄いんですねー」


カレンは乾いた笑いをしながら、間違いを訂正する。


「アンナちゃん、普通の採掘者はこんな事できなし、お姉ちゃんとコイツは採掘者でも無いんだよ。だけど、お姉ちゃん凄いよね。だから秘密なの。」


「アンナ、だからね。お姉ちゃんはカレンさん達と行かないとカレンさん達困っちゃうから。」

「直ぐに行っちゃうの?」


アンナさんは俺たちをぐるりと見回すが、その目には少し涙が滲んでいる。


「明日の朝にならないとそれは分かりません。教会に連絡を入れ、その指示次第となります。なにぶん、新ダンジョンの発見という経験のない事ですから時間はかかるかもしれません。」


マリリさんの言葉静かに聞いていたアンナさんは小さな手を握りしめて喜んでいた。


「時間かかるんだ。よーし。」

「だから、アンナも寝よっか。明日もあるし。ほらミカンちゃん、もう寝てるよー。」


ミカンちゃんはジェシカさんのベットに寝ているのでカレンはそこに潜り込んだ。ジェシカさんはアンナさんのベットで一緒に横になる。俺はそのまま床に毛布を敷くと横になった。

マリリさんとタリリは両親の寝室だった所で寝るようで部屋から出て行った。


「アンナ、おやすみーまた明日ー。」


ジェシカさんはスマホの画面を指先で消すと、アンナにぎゅっと抱きつき目を閉じた。

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