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ミッション クブルムの街

クブルムの街はあまり大きな街では無い。ダンジョンが無い為に採掘者が留まることが無く。もっぱら王都とアザリアを結ぶ街道の宿場町として栄えていると言った街である。


その日の夕方前には、問題なくクブルムに到着した俺たちは宿屋を探しに街を歩いていた。


「この辺りよね?御者さんが教えてくれた宿屋は。」


定期的な乗合馬車らしく、オススメの宿屋を紹介してくれていた。もしかしたら、系列店なのかも知れないが。


「アンタ!あの子!」

「ん?」


カレンが指差す方向には緑色の髪をした少女が歩いてるのが見えた。


「ジェシカさんか?」

「似てるわね。」


俺たちは急いで走って追いかけていくと、間も無く追いつく事が出来たが、少女は俺たちの足音に気づいて振り向き、警戒の眼差しを向けている。


「ごめん驚かせて、ジェシカさんだよね?」

「え?」


少女は戸惑いつつも返事をするその顔は、写真よりも少し幼く見えた為に俺も少女と同じ事を呟いた。


「え?」


俺が戸惑っているとカレンがフォローを入れる。

カレンは少し前屈みになり、少女と同じ目線になると話し出す。


「私はカレン。アザリア来た採掘者なの、それでジェシカさんが私達に用事があるらしいから、探していたの。その余りにも似ていたからごめんなさい。」


少女は警戒しつつも、会話には応じてくれそうでだ。


「あの、カレンさんはお姉ちゃんの知り合いですか?」


「会ったことは無いんだけどね、手紙とかでお願いされてね。」


「そうなんですか、わざわざ遠いところからすみません。けどもう大丈夫です。」


「え?どうして?」


少女のもう大丈夫と言う断りの言葉に、訳が分からなくなる。


「お姉ちゃんは去年亡くなりましたから。」

「え?」

「なんだって?!」


じゃあ何だ?誰かのイタズラか?


「カレン、カケル。前だ!」


タリリの声に顔を上げると、少女の後ろにも緑色の髪のワンピースの少女がもう1人立っており、こちらに手を振っている。


「ジェシカさん?いや、3人姉妹って事もあるのか。」

「手を振ってるから、本人なんじゃないかしら。」


俺たちは後ろの少女を視界に捉えながらも、妹に話し掛ける。


「妹さんの上には、ジェシカさんだけ?他のお姉さんはいないの?」

「いえ、いませんがそれがどうしたんですか?」

「ごめんなさいね。後ろを向いて貰ってもいいですか?」


少女は首を傾げながらも、体ごと振り返る。


「これで良いですか?」

「うん、今正面にいる人は誰かな?」


「肉屋のロゴスさんです。」


少女はジェシカさんらしき人の後ろの、筋肉質な男性の名前を呼ぶ。


「え?その手前の女の子なんだけど。ほら手を頭に…。」


カレンは今は困った風に頭をポリポリとかく、少女の事を伝えるがその声も次第に途切れていった。


「魔力は感じませんね。」

「霊的な何かですか?マリリさん。」


すると、俺の質問にマリリさんは申し訳なさそうに


「前も申しましたが、霊を見るとかは普通のシスターにはできませんので。」

「ああ、そうでしたね、すみません。」

「けれども、そちらの方はわたくしにもハッキリと見えていますわ。」

「私も見えているぞ。」


「妹のアンナ。かわいいでしょ。」


ジェシカは両手を妹の肩に乗せると、妹の名前を伝えて微笑んだ。


「あ、あの。どうしたんですか?」


アンナは不安そうな顔でカレンに話し掛ける。


「ええと、お名前はアンナさんで合ってる?」

「はい、アンナです。お姉ちゃんは私の事まで手紙に書いていたんですか?」


アンナさんにはジェシカさんは見えていないし、聞こえていないようだ。俺は直接確認する為にジェシカさんに向かい右手を伸ばした。


うん、柔らかい。サイズはそれ程でも無いがとてもいい物だ。


「あ、アンタ。何してるのよ!」


右手だけでは無く、左手もと伸ばし掛けたらカレンに突き飛ばされた。


「ジ、ジェシカさん大丈夫?」

「だ、大丈夫です。そのいきなりだったから…。」


ジェシカさんは目を丸くして、口に手を当てて驚いている。


「え?お姉ちゃんがどうしたんですか?」

「いやー、ジェシカさんは柔らかかったです。」

「バカ、アンタは黙っていて。」


カレンに再度突き飛ばされると、ジェシカさんはコロコロと笑っている。1人何が起きているか分からないアンナさんに向かってカレンは説明を始めた。


「私も信じられないんだけどね。今ここにジェシカさんがいるのよ。」


カレンはアンナさんの後ろを指差す。


「え?お姉ちゃんが?」

「ええ、試しに何か聞いてみて。」


アンナさんは眉間にしわを寄せながら、警戒心マックスでしぶしぶと口を開けた。


「お姉ちゃんの好きな物は?」


その言葉を聞くとジェシカは間をおかずに


「アンナー!」


と言いながらアンナに頬擦りをした。


「えーと、貴女みたい。」

「え!はい、お姉ちゃんならきっとそう言います。」


アンナは少し遠い目をした後で


「それじゃあ、去年の夏祭、タンスと言えば?」


ジェシカは少し考えたが、大きく頷くと


「友達と行く夏祭に着ていく服がないってアンナが言ってたから、私のお古の丈を直してあげた事かなー。」


カレンはジェシカの言葉をそのまんま、アンナに伝えていく。するとアンナは目に涙を滲ませながら見えないはずの姉に向かって体全体を使って怒った。


「最初は嬉しかったんだけど、お姉ちゃん裁縫苦手だったからスカートの後ろがぐちゃぐちゃで友達にいっぱい笑われたんだからー!」


「ごめん。」

「ごめんだって。」


カレンはジェシカの謝罪を伝えるが、2人を見るカレンもいっぱいいっぱいの様だった。


「お姉ちゃん、会いたかったよ。」


涙を拭う妹の頭を優しく撫でるジェシカはどこか寂しそうだった。


「会えてないぞ。」

「タリリ、貴女は。」

「いや、そんなつもりでは…。すまん」


タリリの空気の読めない心無い一言はマリリさんに一蹴され、タリリは口を閉ざして小さくなった。

代わりにジェシカさんがカレンに質問のお願いをする。


「私からもいいですか?「私が薬を買いに行く途中であんな事になったから、おばあちゃん大丈夫だった?」ってお願いします。」


カレンは頷くと、ジェシカの言葉を復唱した。その言葉にアンナさんはカレンに向けて言葉を返す。


「おばあちゃんは自分の事よりも、お姉ちゃんの事が大変だったよ。」

「ごめん、そうだよね。ハハハ。」


「せっかくお姉ちゃんが買ってきてくれた、薬もモンスターが持って行っちゃったから、飲めなかったんだよ。」


ジェシカは顔の前で手を振る仕草をすると


「カレンちゃん、アンナに伝えて。私、薬を買う前に襲われたんだけど。」


「ジェシカさんは薬を買う前だったんだって。」

「え、だってお姉ちゃんが握りしめていた財布の中は空っぽだったよ。」


すると、ジェシカはカレンの所に走ってくると肩を揺さぶった。


「いやいや、おばあちゃんの薬のお金なんて勝手に使わないってって伝えて。」


「分かったから、伝えるから揺らさないで。」


カレンはやれやれといった感じで


「ジェシカさんは、おばあちゃんの薬代のお金使ってないって。必死にアピールしてるけど、昔なんかしたのお姉さん?」


アンナは不自然な揺れ方をしていたカレンを見ながら


「お姉ちゃんはまだお父さんとお母さんが生きていた頃、お使いに行くって言ってお金をもらうと、良く内緒でお菓子を買って来てくれたんだ。」


ジェシカはポリポリと頬をかいている。


「だけどね、お菓子を買うとお金が足りなくなるから、違うもの買って帰って良くお母さんに怒られてた。」


「なるほどね、前科ありなんだね。お姉さん。」


カレンはふふふと笑っていたが、急に何かを思い出したかの様に俺を軽く蹴る素振りをした。


「アンタ何が頼まれてたんでしょ?」

「あ!そうそう。ジェシカさんゴブリン退治だっけ?」


俺がそう問いかけると、ジェシカは真剣な顔で俺たちを手招きした。


「私が襲われたのはゴブリンだったんだけど、そのゴブリンが居た場所にまた湧いたみたいなの。アンナが襲われる前にそいつ等を退治してほしいなーって」


ジェシカは両手を合わせてお願いしている。


「近いの?」

「うん、すぐそこ。30分もかからないかな。」


「みんな、どうする?」

「私はいいぞ。」

「私も頑張りますわ。」

「ミカンも行くです。」

「俺はそろそろ日が暮れるから、役に立たなくなるけど、俺はいきたい。」

「私の胸を触ったお詫びに頑張って下さいね。」

「アンタのせいで断れないじゃない!」


俺たちはアンナさんを家まで送り届ける為に、揃って歩いている。みんなの荷物をアンナさんに預かってもらう為でもある。


「アンナちゃん、お姉さんが私達が帰ってくるまで絶対に家から出ないでって。今お姉さんはアンナちゃんの左にいてそう言ってるよ。」


アンナは左横を見上げながら


「うん、約束する。待ってるから。」


と約束すると家のドアを開けて祖母の待つ自宅へと入って行った。


「良し、ゴブリンなんかチャッチャッと倒して寝るわよ。」


カレンの号令で俺たちは街の外を目指して歩いて行く。先頭を行くのはジェシカだ。裏門を出て馬車1台分の道幅の未舗装路を10分ぐらい歩くと、脇道を少し入ったところの山肌に入口が3メートルぐらいの洞穴が見えた。


俺たちは草むらの陰に身を隠して、洞穴の様子を伺っている。辺りは既に暗くなり始めており、視界は随分と悪くなっている。


「いないわね。」

「いや、中にいるぞ。騎士の感だから確かだ。」

「はい、騎士さんの感は合ってます。私にも分かります。」

「そ、そうなの。じゃあいきましょ。」


カレンはバツが悪そうに、草むらから立ち上がると

ローブに着いた土をパンパンと打ちはらうと、入り口に向けて歩き出した。


「お、おい待てって。」

「先頭は私だ!」

「レンちゃん、1人では駄目です。一緒にです。」


カレンを追いかける様に、タリリとミカンちゃんが慌てて走り出す。タリリが大声で叫んでいるので、確実にゴブリン共に気付かれたなと諦めながら俺たちも草むらから立ち上がった。


俺はジェシカさんを見ると、俺たちパーティの余りにも素人ぽい立ち回りにやや呆然としていたので、その小さな手を取り歩き出した。

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