ミッション 王都へ
誤字訂正しました。
帰る→買える
「あー、失敗したわ。伯爵の息の根を止めておけば良かったわ。」
俺たちは王都に向け乗合馬車に5人揃って揺られている。最終的な目的地は帝国との国境の街であるリーリオだ。
カレンの物騒な独り言が出るのも仕方ない事だ。俺たちは伯爵邸に乗り込み子供達を救出したが、やはり伯爵からのクレームが付いた。モーリエ院長やアザリア教会の司祭様が伯爵との話し合いを行い、なんとか犯罪者として指名手配される事は免れた。
しかし無罪とは行かなかった、その為にマリリさんはアザリア教会から辺境の街リーリオの教会へ転勤を命じられた。
また屋敷の修繕費と賠償金として白金貨2枚を請求された。日本円にして約2000万円の借金を一夜にして背負う事になったのだった。
ただ乗り合わせている他の乗客から向けられる視線が痛い。なおこの馬車には俺たち以外には商人風の客が3人、4人家族と思われる客、男ばかりの採掘者
風の3人パーティが乗っている。
俺たちの乗る馬車を先頭に5台の馬車が連なり、その周りに馬に乗った護衛が2人と各馬車に2人づつ護衛が乗り合わせている。
「私達もいつかは、馬が欲しいわね。騎馬なんて高級品じゃなくてもいいから」
「馬は高いからな、とくに騎馬なんて贅沢品は家が買えるぐらい高いぞ。」
荷物運び用の馬でも、現代の自動車を買うのと同程度の費用が掛かるらしい。さらに騎士が乗る騎馬については、騎馬用のヨロイ迄含めると超高級外車のスポーツカーぐらいの費用がかかると聞いた。
「まあ、騎馬なんて騎士の叙勲の時か、戦争ぐらいしか乗らないって言われてるぞ。」
タリリの騎馬の説明が続いていく。本人曰くマリリさんの騎士らしいから騎士についての知識は豊富にあるようだ。
なるほど普段使いの馬は別にあるのか、超高級外車のスポーツカーが盗賊の矢で死んだりしたら、悲惨すぎて目も当てられないからだろう。
「帝国は馬では無くモンスターを騎馬代わりしていると聞くが、私からすればそんなのは騎士では無い
!邪道だ!」
タリリはいつにも増してヒートアップしている。その横ではマリリさんがタリリを横目で見ながら微笑んでいる。
王都へ続く真っ直ぐな街道は、この先の小さな丘の先に消えている。また、少し前までは木立が並んでいたが、いまは見渡す限りの草地になっている。
それにしても日差しが気持ちいい。朝夕は少し肌寒くなって来たが馬車で揺られるには、丁度いい感じだ。なお、この馬車は乗員数を増やす為に屋根や椅子といった物は一切付いていない。荷台の中央に各人の持ち物がまとめてあり、荷台の板壁に沿うようにして座っている。
俺の横にはミカンちゃんが座り、その隣にはカレンが座っている。その隣にはマリリさんとタリリが腰掛けている。ミカンちゃんは毛布を頭から被りカレンにもたれかかる様にしている。
「お嬢さん方は採掘者なのかい?」
商人風の男の1人がカレンに話し掛けて来た。
「え?は、はい。」
「いや、私はオウル。王都にオウル商会って店を開いてるんだよ。知ってるかい?」
カレンは申し訳なさそうにオウル商会を知らない事を伝えるが、オウルは気を悪くする素振りも無く話を続けた。
「王都の近くにはダンジョンが3つあるのは知ってるかい?」
「はい、中級が1つと上級が2つあると聞いています。」
「カレン、3つもあるのかよ。王都大丈夫かよ。」
「騎士団も精鋭揃い、採掘者も有名どころが集まっているらしいわ。だから大丈夫でしょ?」
オウルは俺が会話に割り込んだにも関わらずにニコニコと話を繋いでいく。
「アザリアからだから、王都の中級ダンジョンを拠点にするつもりなんじゃないのかなと思いましてね。」
「その中級ダンジョンが何か有るんですか?」
「いやいや、アザリアダンジョンを踏破されているんですから実力は十分でしょうが、余りにもその装備品が実力に合っていないと言うかですね。」
オウルは中央に置いてあった袋から、茶色のローブを取り出すとカレンの前で広げて見せた。
「この胸元の石にですね、精霊の加護が掛けてありましてモンスターの攻撃や魔法から身を守る効果があるんです。是非おひとつ如何ですか?」
なんだよ、結局は商売かよと思いながらオウルに話し掛ける。
「すみません、ローブとかヨロイを良いものに変えるより、守りの護符をより効果が高い物へと変えた方がいいんじゃないのですか?」
「いえいえ、守りの護符も勿論大事です。しかし護符の効果とローブの精霊の加護は重複できるんですよ。だからより多くの加護の付いた装備品を身に付ける事が安全な採掘の基本なのですよ。」
「そ、そうなんですか。ちなみにお幾らですか?」
カレンの身の安全が高まるのならと、質問を投げかけながらカレンの方を見るとカレンもまたローブに釘付けになっている。
「このローブは王都で仕入れたんですが、アザリアでは効果が高すぎて結局は売れ残ってしまいまして、持って帰る所でして。」
「効果が高すぎるの?」
カレンが更に質問を追加していく。
「はい、このローブにはオーガの攻撃にも耐える加護が付与されています。ですから、ボスがオークのアザリアダンジョンでは売れませんでした。金額は金貨2枚でかなりお得にしていたんですが。ハハハ。」
オウルは頭を掻きながら笑っているが、金貨2枚と高額な値段を聞いたカレンも乾いた笑いを返している。
「ごめんなさい金貨2枚は無理です。ハハハ。」
「そうですか?私もこのまま持って帰っても仕方ありませんので、半額の金貨1枚で如何でしょう?」
「え?半額?!いいの?」
カレンは目を大きく開き、口元が緩んだ顔で俺を見てくる。嬉しさの余りに言葉遣いも普通に戻っている。
「ど、、どうしょう?金貨2枚が半額で金貨1枚で良いんだって!オーガも大丈夫なんだって。あのオーガよ!」
オーガには会ったことは無いが、腕の一振りで木を薙ぎ倒す程の強さがあると聞いたことがある。その攻撃を防ぐ事が出来るなら、10万円の価値もあるのではと思う。マリリさんの高級護符で金貨2枚、つまり20万円だったからお得な気もする。
「落ち着け、とりあえず落ち着け。」
「お、落ち着いてるわよ。ア、アンタの方が落ち着きなさいよ。」
「いや、俺は慌ててないぞ。」
「ぴろりろーん!」
(ミッション ローブを手に取れ。 制限時間 60秒)
「うそだろ?」
「え?!」
「うにゅ?」
「あら?」
「ふむ」
ミッションの音でカレンにもたれて寝ていたミカンちゃんが起きた様だ。
「カレン、オウルさんにローブを見せてもらったらどうだ?」
俺は目ヂカラを込めてカレンに提案を持ちかけた。
「え?そうね。それがそれなの?」
「ああ、それがそれだ。」
カレンはオウルさんにローブを試着したい事を伝えると、オウルさんはカレンにローブを手渡してきた。
「きっとお似合いになりますよ。はい、どうぞ。」
「すみません、ありがとうございます。」
(ミッション ローブを手に取れ。 制限時間 21秒)
カレンがローブを手に取った瞬間にカウントダウンは停止し、ミッションが達成した事が知らされた。
「止まりましたわね。」
「カケル、これは買えと言うことなのか?」
「分からん。ただ物は良いから買ってもいいけどな。」
ミカンちゃんは荷台から身を乗り出し辺りを見回して警戒をしているようだ。
「ぴろりろーん!」
(ミッション オウルにローブを着せろ! 制限時間 10秒)
「ぴろりろーん!ぴろりろーん!」
「また?」
「あらあら。」
「ふむ」
やばい奴だ、制限時間が無いミッションは危険度が高い気がする。
「カレン、オウルさんにローブを着せろ!今すぐ!」
「ええ?これを?」
カレンは両手に持ったローブを広げると立ち上がり、オウルさんに近づく。
「ど、どうしました?ご自分が着るのでは無く、私ですか?」
オウルさんは俺たちの行動に狼狽ながらも、俺とカレンを交互に見回している。
「ごめんなさい!」
両手を挙げ少し抵抗の素振りを見せたオウルさんにカレンは頭からローブを被せた。その直後オウルの背中に1本の矢が直撃した。
「うう!」
「何?」
「ら、ラッキー?」
左手前方を進む騎乗した護衛が叫ぶ。
「敵襲!盗賊だー!」
後ろの馬車にも矢が何本か頭上を飛んでいく。この馬車にもまた1本矢が飛来し荷台に突き刺さっている。
「オウルさん、大丈夫ですか?」
「は、はい。ローブを掛けて頂いたお陰で怪我は無いようです。」
「そう、良かったわ。」
「バン、バン、バン」
「アースウォール」
「アースウォールです。」
「フッ!」
俺は目視出来る範囲の盗賊をレーザーの魔法で、行動不能にしていく。ミカンちゃんとマリリさんは馬車を囲うようにアースウォールを並べて盗賊の矢を防いでいる。また、タリリは馬車に降りかかる矢をラウンドシールドで防いでいる。
「馬車は止めるなー!そのまま進めー!」
「敵は残り20!」
騎乗した2人の護衛は馬車に指示すると前方の盗賊目掛けて馬を走らせていく。また馬車に分乗している護衛は手にした武器で矢を払っている。
「クソっ!どうして商隊じゃなく乗合が襲われるんだ!」
「うわああ」
「ヒィイ」
乗り合わせた3人の採掘者が悪態をつき、商人たちがうずくまり悲鳴をあげる。まだ丘を登り切っていない為に、盗賊の包囲を抜けていないようだ。
「ぴろりろーん!」
(ミッション 荷台を軽くしろ。 制限時間 60秒)
「なるほど、荷台を軽くして速度を上げろって事か?」
「え?それが今度の?」
「ああ、荷台を軽くしろって」
しかし、俺たちが自分の荷物を放り出すかを決断するよりも早く動く者がいた。
3人の採掘者の内の1人がオウルに剣を突き付け、叫ぶ。
「聞いた通りだ。おっさん、降りてくれよ!それとも今死ぬか?」
「ヒィィ!」
オウルは剣先にビビり、荷台の端まで後退りした。
「きゃあ!」
ドンと言う音と共に、そこには悲鳴を上げながらバランスを崩し、荷台から落下して行くカレンがいた。
「カレン?!」
「カレンちゃん!」
「カレンさん!」
ミカンちゃんとマリリさんはカレンが落下するのを見るとすぐ様、荷台から飛び降りる。ミカンちゃんが周囲の警戒をし、マリリさんは倒れているカレンにヒールの魔法を掛けているのが馬車の上から見えた。
「タリリ、これを頼む。」
俺はポーターの装備を背負うとマリリさんとカレンの荷物を持ち、ミカンちゃんとタリリの荷物を中央の山から取り出すとタリリに投げる。
「俺たちはここで降りる。」
俺は護衛に声を掛けると荷台から飛び降りた。その瞬間に視界の端で制限時間が止まるのが見えた。




