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ミッション 逃避行

サイリサスダンジョンから出ると、屋台から漂ってくる香ばしい匂いに嗅覚を奪われる。カレンとミカンちゃんは手を取り合い屋台に向かう。


「おじちゃん、5つちょうだい!はいこれ。」

「はい、5つね。ちょっと待ってね。」


カレンは屋台の白髪のおじさんにコインを渡す。


「この辺りで子供達見なかった?5人ぐらいの小さい子たち。」


おじさんはカレンの顔を覗き込む様にして見ると


「いや、見てないね。ただ今朝も兵士から同じこと聞かれたな。」

「ありがとう。」


カレンはコッペパンに分厚いステーキを挟んだホットドッグのような物を買ってきた。これが晩飯だろうか。


「1つ鉄貨5枚だったわ。香ばしくて美味しいわね。」

「ああ美味いな。ただ何の肉だ噛み切れないぞ。」

「多分グチグチだな、この味は。」

「ええグチグチですね。」

「グチグチってあんななのに、食べると美味しいわよね。」

「グチグチは気持ち悪いけど、ウマウマです。」

「え?グチグチ?」

「そうよ、グチグチよ。」


すると夜空にファイアボールが2つが打ち上げられたのが見え、ゆっくりと放物線を描きながら辺りを照らしているのが遠目に分かる。


「照明弾だ。」


タリリが盗賊退治のとき、後方部隊が次々と打ち上げでいた炸裂しないファイアボールの名前を告げた。


「行ってみましょう。」


カレンの声でみんなが走り出す。おいグチグチって何だよ。まだ残ってるんだけどと思いながらもパンを片手に着いて行く。


サイリサスの街とダンジョンの分岐地点まで来ると、サイリサス方面から馬に乗った兵士達が俺たちの前を通り過ぎていく。


照明弾はさっきよりも森の中に向けて、放たれている。盗賊か子供達なのか不明だか、追われる者は森の奥へと逃げ込んだようだ。


「兵士に見つからない様に、様子を見ましょう。」

「はい。まだ子供達と決まった訳ではありません。」


俺たちは暗闇の中、手探りで森の中を進んでいる。方角は空を照らす魔法の灯りを目印に進んでいるので迷う事は無いが、足元を照らす灯りが無い為にその歩みは遅々としていた。


「カレン、どんどん置いていかれているぞ。ランタン使うか?もし盗賊だったなら怪しまれるぞ。」


前を進むカレンは照明弾を見上げながら、少し考える素ぶりをする。


「このまま行くわ、この距離では先回りは無理よ。」


照明弾は街道からも、サイリサスダンジョンからも遠ざかる様に森の中へ更に進んで行く。それを俺たちは無言で追いかけている。


「おい。どうする?」

「ええ、手前に行くわ。」


照明弾が二手に分かれ、手前と奥とを別々に照らし出した。手前の照明弾までは200メートル程だろうか。目を凝らせば木々の間からランタンの灯りが動いているのが分かる。


「慎重にいくわよ。」


カレンの注意を促す声も低く抑えられている。


今から約1時間ほど前に、2人の少女アイサとハルルは5人の空腹を満たす為にダンジョンの入り口に並ぶ屋台へ出掛けていた。しかし少女達は手持ちのお金も無く、少女達に食事を与える者もいなかった。今まではダンジョン帰りのパーティが保存食をくれたりした為になんとかなっていたが、この日はそんなパーティはいなかった。それでも空腹を満たす為にゴミ捨て場や屋台周りの客の捨てた残り物を探して回っていたが、何も得る者が無く森の方へとトボトボと歩いて行った。その一部始終を見ていた白髪の屋台の店主は店を開け、ダンジョン入り口にいる兵士の所へと足早に歩いて行った。


そして現在、少女達5人は兵士から逃れる為に、暗い森の中、月明かりだけを頼りに手を取り合って走っている。しかし追われていると言う緊張と視界の悪さと疲労が重なり、逃げる5人の少女の内最年少のタルトが木の根に足を取られ地面に倒れこんでしまう。


「きゃあ!」

「タルト!」


横を走っていたアイサは立ち止まり叫ぶ。


「みんなは先いって!タルトは私が。」

「アイサお姉ちゃーん!」


横たわったままのタルトは、迫り来る兵士の恐怖から助けを求めて力の限り叫ぶ。しかしアイサがタルトの手を取り合い引き起こした時には兵士が目の前にいた。


「2名確保!街へ連行する。」

「残りは増援が来次第、追跡を開始する。」


カレン達に動揺が走る、悪い予感が当たったのだ。

既に2人の子供が兵士に捕らわれてしまった。


「先に3人を助けるわよ。兵士を抜かしたらそこからは全力でいくわよ。いいわね。」


はやる気持ちを抑え、なるべく音を立てない様に進んで行く。今はタルトの泣き声が響いている為に多少の無理はきいている。


「よし兵士達よりも先に出たわ、みんな勝負よ。」

「ああ、何か案があるのか?」


カレンは俺たちの顔を見ると軽く頷いて、両手のひらをメガホン代わりに顔の前に持ってくると、正面の森に向かって叫んだ。


「アイサちゃん、ミルちゃん、ハルルちゃん、アピアちゃん、タルトちゃんー! どこー! サリアちゃんに頼まれて助けに来たよー!」


カレンは、ど直球で勝負した。マリリさんも少し驚いていたが続いて声をかける。


「サリアさんたちは、教会で保護しました。だから私達を信じて出て来てください!」


カレンとマリリさんの声に正面の草むらが、わずかに動いた。2人の声に反応した兵士が背後から怒声を上げる。


「何者か!我々の邪魔する奴は!」

「逆らうならば容赦せんぞ!」

「照明弾をあげよ!」

「敵はアザリア教会!人数は不明!」


兵士達は口々に叫び、こちらに警告を与えてくる。


「マリリさん、アザリア教会って言いました?」

「いえ、教会とだけですが。」

「アンタたちそんな事はいいから、急ぐわよ。」

「ああ」

「はい」


カレンは走りながら叫び続ける。


「アイサちゃん、ミルちゃん、ハルルちゃん、アピアちゃん、タルトちゃん。お願いだから出て来て!」


カレンの頭上を照明弾が流れていき、カレンの鬼気迫る表情を照らし出していく。その時カレンの左前方の草むらから1人の女の子が顔を出した。


「助けて!」

「アイサさんとタルトちゃんがいないの!」


続いて2人の女の子も出て来てカレンに助けを求める。


「3人いるわね。」

「みんな跳ぶわ、急いで!」


カレンは膝をつき子供達3人を抱えると、俺たちを急かす。俺たちの後方から聞こえてくる兵士達の足音からは余り時間が無い事がわかる。


「動くな!跪いて武器をすてろ!」


兵士は草むらから飛び出すと、剣を前方へ構える。

しかしそこには誰もいない。つい先程まで声がしていたのは確かだ。遅れてもう1人の兵士も駆けつけて来た。2人は辺りの草むらを剣で薙ぎ払う様に確認するが、動く気配は感じない。いくら耳を澄ましてもアザリア教会の者と子供達の足音はおろか、息が上がっているだろう呼吸音すら聞こえない。


「どこへ逃げた、クソ。」

「灯りも無しに進んでいるんだ、まだその辺にいるはずだ。照明弾を増やす様に伝えろ。」


複数の兵士が見失った子供達の捜索に森の中をさまよっているその同じ時間、既に3人の子供達はアザリアダンジョンの1階層入口にいた。子供達を連れての転移の為に最も危険の少ない場所を考慮した結果、目撃され難い10階層よりも子供達の安全を優先しモンスターが最も弱い1階層をカレンは転移先を選択した。


「あれ?ここは?」

「ダンジョン?」

「え?」

「もう追っ手はないわ。大丈夫よ。良く頑張ったわね。」


カレンは転移前と同じ膝立ちの姿勢のまま、子供達を抱きしめ続けている。マリリさんはカレンの後ろから膝を曲げて子供たちの顔を確認し微笑んでいる。


「ちょっと待っててね、直ぐにご飯にするからね。」

「了解、コーンスープとハンバーガーな。すぐ温めるからな。」

「ハンバーガー?」


3人の中で最年少6才のアピアが首を傾げている。


「肉をパンで挟んだ奴よ。屋台でもあるでしょ?」


3人はカレンに頷き返している。焚火でハンバーグを炙っていると子供達のお腹からグーとかわいい音が聞こえて来る。そんな空腹にも関わらず子供達は置いてあるパンに手を出さずにきちんと出来上がりを待っている。うん、良い子達だ。


「はい、お待たせ。熱いから気をつけてね。」


カレンが出来上がったハンバーガーを皿に移し、年少者から順に渡していく。アピアは一口かぶりつくき目を大きく見開くと、声も出さずに口に押し込んだ。


「ゆっくりでいいから、まだいっぱいあるからね。」


まともな食事を取れてなかったんだろう。頷きながらも止まる様子は無かった。


少し落ち着くとミルがカレンに話し出した。


「タルトちゃんが転びました、それを助けようとしたアイサさんも兵隊さんに…。」

「大丈夫、わたしが必ずアイサさんとタルトちゃんを連れ戻すから。」

「本当?」

「本当よ。」

「だから、まずはアザリアの教会にいきましょう。そこで、2人を待っててくれるかな?サリアさんたちもいるから大丈夫よね。」

「うん、待ってるから、きちんと待ってるから、アイサさんを助けて!アイサさんはサリアさんの時もみんなを庇ったの。だから兵隊さんたちや伯爵様はアイサさんの事怒ってる。」

「そうなんだ、アイサさんはそんなにいい子なんだ。うん、分かったからアイサさんもタルトちゃんもみんな助けてくるから。」


ミルは泣きながらカレンに必死に訴え続けた。それは泣き疲れて寝てしまうまで続いた。他の子も釣られて泣く子やマリリさんに抱きついて離れない子もいたが、今ではみんな疲れ果て寝てしまっている。


「教会までダッシュよ、急がないと門が閉まるわ。」


俺がミルちゃん、カレンがタルルちゃん、マリリさんがアピアちゃんを背負って教会を目指している。結構揺れるはずだが、安心したのか起きる気配が全く無い。このまま教会まで何事も無くいってほしいと背中の重さを感じながら祈っていた。


それから1時間30分ほど、やや急ぎ足で進んだ結果アザリア街の北門が見えてきた。そこには定時になり門を締め始めている門兵がいた。


「すみませーん! 入りまーす!」

「もう時間だ。出直して来い。」

「遅くなってすみません。そこをなんとかお願いします!」



カレンの言葉も虚しく門兵は門を閉じていく。俺はあらかじめの打合せ通りに、門兵と両手で握手をし

て入門の許可を願いでる。もちろんワイロ付きだ。

2人の門兵にワイロ付きの握手を終えると門兵たちは採掘者は時間を守らないとか、次回は守れよなど文句を言いながらも俺たちが通り過ぎるまでは閉門を待ってくれた。


辛くも北門を通過できた俺たちは教会を目指して、夜の人通りの無い道を無言で進んでいる。伯爵に捕らわれた2人の子供達をいかにして助け出すか、ただそれだけを考えながら。

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