ミッション アザリア孤児院
風呂の後、更に1回の休憩を挟みアザリアへの街道をゆっくりと戻っている。10才のエミーは俺が、6才のシリルはカレンが背に負ぶっている。彼女らは入浴の後しばらくは自分で歩いていたが、ますはシリル、次にエミーに限界が来たらしく、健気にも歩きながらも瞼が閉じかかっていたので、負ぶって行く事にした。
夕暮れが近づいて来た頃に、アザリアの街の門が見えてきた。さあ、勝負だ。
「カレン、お前今ノーパンだろ?」
「はあ? そ、そんな訳ないでしょ!何よ、急に。」
「自分の着替え持って行ってなかったよな?だから、ノーパンだろ?。」
「バカじゃないの!何回もノーパンって言わないで、恥ずかしいじゃない!」
突然のノーパントークにマリリさんの視線が痛い。不味いみんなの緊張を解そうとしたが、話題のチョイスを間違えたみたいだ。
「俺、実はカレンと同じノーパン派なんだ。同志よ、ほれ確認するか?」
俺はズボンを引っ張りアピールする。1人だけの門兵も何だこいつはとやや呆れ顔で俺たちを見ている。よしこのまま通過出来そうだ。
「おい、そこのポーター。」
俺はその声に驚き、直ぐさま門兵を見る。何かミスったか?サイリサスの伯爵の手はここまで伸びていたか。色々と考えないと行けないが、俺は取り敢えず返事を返す。
「はい、何でしょうか?」
門兵は俺を一瞥するとタリリへと顔を戻す。俺じゃない?
「そこの女ポーター、お前だ。」
「ああ、私か何の用だ?」
タリリもまさか自分だと思わずに、慌てて返事をする。
「女1人で9人分の荷物持ち大変だな?金が欲しければ夜、俺のところに来いよ。そんなケチな野郎さっさと別れちまえよ。ヒヒヒ。」
カレンとマリリさんの表情が途端に変わる。汚物を見る目だ。サリアさんとタタンの表情には恐怖の色が見える。
「こんな野郎でも金払いはいいんだ、すまないがお前のところに行く気は無い。だろ、リーダー?」
タリリが俺を見て来る。ああ、了解した。
「悪いな、これでも大事なポーターなんだ。」
俺はポケットに手を入れた後、門兵と握手を交わす。もちろん手の中には何枚かの硬貨が握られている。門兵は握手の後、チラッと手の中を確認すると下卑た笑みを浮かべた。
「通っていいぞ、稼ぎがいいと女も選び放題なんだな。ヒヒヒ。」
タリリの機転に助けられて、俺たちはなんとか無事に街の中に入る事が出来た。
「何なのよ!あんな下品な門兵見た事ないわ。」
「はい、見かけない顔の門兵でした。しかも新入りにしては態度が横柄で怒りを覚えましたわ。」
「バルトルト団長に言って首にしてもらうわ。」
「カレン落ち着け、子供達が引いているぞ。」
「え?ごめんなさい。」
カレンの声で下の2人も目が覚めてしまった様で、今は全員が夕暮れの中商店街を歩いている。
視線を上げれば、教会の建物が正面に見えている。
「ぴろりろーん!」
(ミッション 教会まで走れ! 制限時間 60秒)
俺は直感でこのミッションはヤバイ奴だと感じた。街の人々に聞かれるのも構わず叫んだ。
「みんな、教会まで走れ!全力で! 60秒」
カレンはシリルを、俺はエミーを、タリリは背負い袋を投げ捨てタタンを抱きかかえる。マリリさんはサリアの手を引きそれぞれが全力で真っ直ぐに教会に向かって走り出す。ミカンちゃんが最後尾だ。
「騎馬です。2頭です」
まだ蹄の音は聞こえないが、ミカンちゃんの情報に間違いはないだろう。普段は2名体制の門兵がさっきは1人だったので、もう1人が戻ってきて俺たちのパーティの事を聞いたのだろう。俺たちは全力疾走中だか蹄の音が聞こえてきた。教会は目の前だか僅かに間に合わない。
「ミカンちゃん、一瞬だけハーちゃんお願い!」
カレンの声が響くと、直ぐに石畳の街道の真ん中にハーちゃんが騎馬の前に現れ、0.5秒も経たずに土に還った。だが、それだけで十分だった。騎馬は驚きたたらを踏んだ。落馬まではしなかったが、騎士は余りの一瞬の出来事かつ馬の対処に精一杯だった為に、すぐさま追跡には戻れないでいた。
そうして教会の敷地内に入った俺たちは、孤児院へ向けてまだ全力疾走を続けている。
(ミッション 教会まで走れ! 制限時間 5秒)
ミッションは残り5秒を残して停止している。教会の敷地内に騎乗したままで乗り込んで来た兵を教会所属の騎士や神父やシスターが制止し、尋問を始めたのが視界の端で見えた。
「ハアハアハア、みんないるわね?」
「いるです。」
「子供たちも全員います。サリアさん大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
無事に教会まで逃げ込めた様だ。あの騎馬の様子だとサイリサスの兵だったのかもしれない。しかし、俺たちは全員揃って孤児院の中庭に逃げ込む事が出来た。息を整えていると俺たちが必死の形相で駆け込んで来たのを孤児院の子が知らせたのか、奥から白髪をベールに隠した温和な顔をしたモーリエ院長が小さな子達を周りに連れてゆっくりと歩いてきた。
モーリエ院長は子供達を順に眺めた後
「例の街はずれの子たちだね。おやおや、酷い事を。辛かったね。」
マリリさんはモーリエ院長に頭を下げ、子供達の事をお願いする。モーリエ院長は4人を自分の元に引き寄せると4人纏めて抱きしめた。
「シスターマリリ、誰が来ても例え領主が来てもこの子たちには合わせないよ。それでいいかい。」
モーリエ院長はマリリさんが希望する事を先に口にした。強い意志と共に。
「はい、重ねてお願い致します。」
「モーリエ院長、私からもお願い致します。」
マリリさんとカレンの声に合わせて俺たちパーティはモーリエ院長にお願いをする。
「で、シスターマリリとカレンお嬢ちゃんは、まだ何かするつもりなのかい?そんなに鬼気迫った顔をしていちゃ、子ども達も寄ってこれないよ。」
マリリさんはこの4人以外にも、残り5人がサイリサスの領主に狙われており、今も街の外に身を隠している事とその子達を必ず助けると4人と約束した事をモーリエ院長に伝えた。
モーリエ院長は静かにマリリさんの話を聞き終えると微笑みながらマリリさんの頭を柔らかく撫でた。
「ついこの前までは、世話好きのお姉ちゃんっ子だったのに、いつの間にかこんなにも立派なシスターにおなりに。シスターマリリ残りの子たちもお願いしますね。」
マリリさんは感極まって泣きそうになっているが
「ありがとうございます。では行って参ります。」
気丈に振る舞い出立を宣言した。
「シスターマリリ、そして皆さん子ども達をどうぞよろしくお願いします。サイリサスの教会へは私からしっかりとしてもらう様に話を通して置きます。」
あれ?既に辺りは暗くなって来ているのに、マリリさんは今からサイリサスへ行くつもりなのか?
それにタリリが投げ捨てた背負い袋を回収する必要もある。なんと言っても汗をかいたから風呂に入りたいし、歩き通しでとにかく横になりたい。
「アンタが背負い袋を取って来たら、サイリサスへ行くわよ。」
「それなら食料の買い出しが必要だ。子ども達が腹空かせてるからな。1時間で戻るから待っててくれ。」
「じゃあ、私も行くわ。」
「助かる。」
カレンは俺と出かける準備を始めるとマリリさんにも1つだけお願いをした。
「マリリさんはその間だけでも、情報収集をおねがいします。」
俺はこれからの買い物の為にポケットの中の硬貨を確認した。
「あれ?銀貨が3枚位あったはずなのに?」
タリリがあちゃーと言う顔をしている。あのクソ門兵に銀貨3枚も渡した事になる。鉄貨と銅貨を何枚か握らせたつもりだったのに。
「仕方ないわ。あそこで時間を取られていたら、もう1人が戻って来てたかもしれないから。だから結果オーライよ。本当に仕方なくアンタの報酬から引いておくわ。」
「仕方ないなら、引かないでくれよ!お前は鬼か。」
「ふふふ、どうしようかしら。」
俺の背負い袋は教会に届けられていた。まあ、採掘者と言えば教会で間違い無いだろうと言う判断だろうが助かった。あとで御礼に行こうと思う。
俺たちは1時間後にそれぞれの準備を終えて、教会の門の前に集まっている。既に言い争うアザリアの門兵の姿は見えない、渋々引き返したのか別室で話し合っているのかは分からないが。しかし俺たちは念のためサイリサスとは反対側の北門へ向かっている。
「ダンジョン以外に跳べたらいいのに。」
カレンは腕輪を見ながらボヤく。その気持ちは痛いほど分かる。5人の子供達を救出した後、再度門兵を撒いて教会まで辿り着かなくてはいけないのだ。
人数も増え、シリルちゃんより1才小さい子もいるのだ。さらに門兵は警備を厳重にしてくるのは予想される。前回に比べて難易度は確実に上がっているを考えるとボヤきたくなるのも分かる。
「お疲れ様でーす。」
北門の2人の門兵たちに向かいカレンが勢いよく挨拶をする。そのうちの1人の門兵はカレンを一目見ると
「気をつけていけよ。」
と一言声をかけ、視線を街の外に続く街道に戻した。
「マリリさん。」
「ええ、あの方は以前から門兵をされている方です。」
「私も覚えているわ。」
「今のところは北門は監視対象外かもしれません。」
2人は頷きあいアザリアダンジョンに続く街道を進んで行った。それから10分程歩き、街道脇の林の中で俺たちはサイリサスダンジョンへ転移した。
ここはサイリサスダンジョンの1階層の端だ。1階層はミニマムラットの為に足が速く、倒し辛い上に鉄貨しか獲得できない割の合わない階層である。よって採掘者は入口からボス部屋へ直行する。だからそのルートから外れたこの場所に他のパーティがいる事はない。
「よし、ネズミがいるから無事に着いたみたいだ。」
「良かったわ。」
俺は出口までの道すがら、疑問に思ってた事を聞いて見る。
「伯爵が兵士を使ってまで子供達を捕まえる理由がわからないんだか。」
俺はカレンに向き直り続ける。
「4人を教会が保護したのも、馬なら明日には伯爵の耳に入るだろ、だから残り5人の事は諦める可能性は無いのかってな。伯爵が子供を監禁していた事を秘密にしたくても既に手遅れだからな。」
「いいえそれは無いわ、伯爵が屋敷に子供を囲う事は問題無いからね、それが子供の意志で無くともね。」
カレンは伯爵が悪くないと言っているのか?
「この国には奴隷はいないんじゃないのか?」
「ええ、奴隷じゃないわ。親がお金を借りて子供を奉公に出すのよ。何年かの期間付きでね。」
「一緒じゃないのかよ。」
「違うわ、男手が亡くなったり怪我をして働けなくなった場合に家族全員が路頭に迷わない為に、子供を質にしてお金を借りるのよ。」
「はい、小さな村では不作だった場合には、行商人が引き取り街で斡旋すると言った事もよく聞きます。」
「その子は家族が借りたお金を返せば家に返してもらえるし、返せなくても決められた年数だけ働けば家に帰る事ができるわ。」
カレンとマリリさんは借金のかたに子供を働かせる事はありふれた事と認識しているようだ。カレンはさらに説明を加えてくる。
「それに奴隷には色々と制限がつくらしいわ。魔法の使用禁止だったり、行動範囲の制限だったり色々とね。」
「いつぞやの司祭が使っていた道具か。」
「多分ね、奴隷を見た事ないから断言はできないわけどね。」
伯爵が血眼になって子供を探す理由がやっぱり分からない。貸した金にしたって伯爵からすれば大した金額では無いだろうし、子供が逃げたなら親に借金を返せと言えば済む話だと思う。だからわざわざ他の街まで費用を掛けて兵士を派兵する意味がわからない。ただ一つだけハッキリとしてることは子供達が借金の代わりとしたら、親元に返したら伯爵の要求で簡単に連れ戻される事が目に見えている。だから虐待されている子供達を教会で保護する事は必要な事だと思う。
「アンタ、さっきから難しい顔をしてどうしたのよ。」
カレンの声掛けにより、思考のループから現実に引き戻される。
「伯爵が子供を付け狙う理由は金か?」
「知らないわよ、伯爵に聞けば?」
「存じ上げませんわ。」
「伯爵のメンツの問題かもしれないと私は思うが。」
ミカンちゃん以外のメンバーが回答をくれるが、きちんとした回答がタリリのみというのも珍しい。尚ミカンちゃんはミニマムラットをメイスで叩こうと空振りを繰り返している。超ハードモードのモグラ叩きゲームでもしている気分なんだろうか、おれの話には興味は無いようだ。




