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ミッション サリアの願い

サリアの口から出たセリフは驚くべき内容だった。


「カレンお姉ちゃん助けて下さい。お願いします。」

「ええ。もちろんよ、任せなさい。」

「アイサ、ミル、ハルル、アピア、タルトの5人はまだサイリサスから出られていません。彼女達が囮になってくれたお陰で私達はここまで逃げて来ました。だから5人を助けて下さい。」


「え?」

「おい。」

「あらあら。」


カレンは驚きながらも聞き返す。


「ごめんね。5人の名前をもう1回いいかな?」

「アイサ、ミル、ハルル、アピア、タルトの5人です。」

「ありがとう。」

「サイリサスの教会にはどうして行かなかったの?」

「街にはサイリサスの兵隊がいるから、見つかると連れ戻されるから。」

「よーく分かったわ。」


カレンは俺たちを見回すと


「いいわね?やるわよ。」

「伯爵が敵か、相手にとって不足はない。」

「はいです」

「ああ。」

「子供の虐待は教会としても放置できません。」

「虐待?」

「ええ。」


カレンは視線でサリアの首を指し示す。そこには首輪の跡かキツく締められた痣が残っている。良く見ると手足にも無数の痣が見られた。


初めから痣に気付いていたカレンとマリリさんの2人は、子供達と話しをしている間も、静かにそして激しく怒っていた。


「サリアさん、みんなアザリアの教会へ行きましょう。いいわね。そしたら私がアイサちゃん達を助けにいってくるから。絶対に。」

「絶対に?」

「うん、約束する。」


こうして俺たちはサイリサスへの救出行が決定した。



「よーし、アザリアに向けて出発ー!」


カレンの発声の元、9人の新カレンパーティは歩き出した。子供達の私物をスーパーポーターの俺がが持とうとしたが子供達の荷物は何も無かった。持ち物は各人が着ている服だけだ。着替えももちろん無い。こんな劣悪な環境にも関わらずに良く生きていてくれたと思う。最年長のサリアで14才、最年少のシリルは6才でしかない。これではサイリサスの子供たちが心配だ制限時間なんて言ってられない。俺は今すぐにでも子供達を抱えて走って行きたいが、カレンもマリリさんも子供達と手を繋いでゆっくりと歩いている。


「えー?ミカンちゃんは私より年上なの!」

「15才です。」

「こんなにちっちゃいのに。」


サリアさんは自分より小さな子がヨロイを着て、武器を持って歩いているのが気になり、ミカンちゃんと話し始めた様だった。


「ちっちゃいけど、この中では1番強いわよ。」


カレンの説明に驚きが、上乗せされた様でミカンちゃんを見る目がキラキラとしている。だんだんと子供達も慣れてきた様で会話が増えてくる。


「カレンお姉ちゃん、サリアお姉ちゃんは男の人には危ないから近づいたら駄目って言うけど、どうして?」

「え?男はヘンタイなのよ。ヘンタイがシリルちゃんに移ったら大変でしょ?」

「でも?カレンお姉ちゃんはシスターの格好した男の人と友達なんでしょ?」


「「え?」」


俺とカレンの声が重なる。


「嫌ですわ、わ、私は女性ですわよ。ホホホ」

「そ、そうよ。ホホホ」


「シリル、その男の人は大丈夫よ。伯爵はそんな恥ずかしい事はしないから。」


サリアは苦虫を噛み潰したような表情で、シリルにシスターの格好をした俺の安全性を保証した。


1時間程歩くとティアーズ湖の湖畔にたどり着いた。来るときよりも時間が掛かっているが、小さな子がいるので仕方ない。


「ここで、少し休憩しましょう。アンタお願い。」

「はい、分かりましたわ。カレンお姉さま。」

「はい?アンタまだ、言ってるの?」


その辺りに落ちている木の枝を集めて火を起こす。少し湿っている為か時間が掛かったが、子供達はその様子を見ている。火の付いた薪の上に鍋を置くとミルクと砂糖を入れホットミルクを作る。


「熱いから、気をつけてね。」

「ありがとう。」


カレンとマリリさんがカップに移したホットミルクを子供達に配っていく。子供達は美味しそうに味わっている。


「カレンさん、アザリア門の騎士は大丈夫と思いますか?力関係ではサイリサスのが上ですから。」

「サイリサスがソロウム伯爵でアザリアがオルス男爵だったわね。」

「はい、オルス男爵の寄親はソロウム伯爵ではありませんから直接的な指示は無いとは思いますが、搜索依頼が出されていても不思議では有りません。」

「確かに男爵としては行方不明の子供の搜索依頼を断る理由なんてないわね。」

「なんとか、モーリエ院長の所までこの子たちを連れて行ければ教会が守ってくれるのですが。」


カレンとマリリさんはアザリアの方角を見据え、立ち込める不安を払拭すべく思案を続けるのだった。

俺はそんな2人に声をかける。


「マリリさん採掘者は身分証とかあるんですか?街に入る時に何かチェックされていますか?」

「私達みたいに、シスターのいるパーティは基本ノーチェックよ、今までもそうだったでしょ?」


俺のマリリさんへの問いにカレンが答える。それを楽しげに見ながらマリリさんも答えてくれる。


「ダンジョンに入るならば、教会と国のどちらかの許可がいりますね。誰でも入れる訳では有りません。ただ、全員の資格が必要と言うわけでは無く、代表者だけでも問題ありません。」


一呼吸おき、俺の質問に回答をくれた。


「私がいない場合のダンジョンへの入場には、採掘師証明書を購入する必要があります。」

「採掘者の証明書ですか。」

「はい、正式には採掘師です。その証明書を教会にて販売しております。1回使い切りから、最長で1年間有効の証明書まで取り揃えてあります。」


俺はこのパーティはマリリさんに凄く助けられているんじゃないかと思い直した。


「これからも、よろしくお願いします。」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますわ。」


お互いにお辞儀をしていたら、子供達の視線を集めてしまったようだ。


「アンタ、何か言いたいことがあったんでしょう?」


カレンは呆れた感じで、腰に手をやり溜息をついている。


「その子達を門の兵に止められない様にするから、カレンとマリリさんにお願いできないかなと。俺よりは2人が適任かなと。」


子供達も自分の事だからと興味深く聞いている。


「子供達、気分悪くしたらごめんな。何日も廃砦暮らしだったから、カレンとマリリさんに身体を拭いてもらって欲しい。髪も洗えたらいいな。そうすれば行方不明の子供として見られる可能性は減ると思う。」


カレンが何か言いたそうにしたが、手で制して言葉を続ける。


「カレンあとで聞くから、その次はおれの修道服、ミカンちゃんの鎧、タリリの鎧を子供達に着せて採掘者らしく振舞ってもらう。」


「えーとサリアさんには修道服で、タリリの鎧はタタンちゃんに、エミーちゃんは私のローブを着てもらって、シリルちゃんにミカンちゃんの装備を着て貰えばいいか。」


カレンとマリリさんとサリアさんの3人は実際に誰がどの服を着るのかを話し合っている。


「サリアさん、ごめんね。ヘンタイが着た服だけど。」

「うるさいわ。だけど最初着るときはすげーいい匂いがしたぞ。」


おれは肩の辺りに鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。


「あ、あの…。」

「アンタ!」


マリリさんとカレンは別の理由で顔を赤らめ、直ぐさまカレンの蹴りが飛んできた。大丈夫です、マリリさんのいい香りはしませんでした。おっさんの汗臭い匂いだけでした。サリアさんごめんなさい。


カレンに追いかけられ、更に汗をかく事になったがようやく2人に許してもらう事ができた。

身体を拭く件では、持ってきた飲料水を沸かす事を提案したが却下された。子供達は自らティアーズ湖で洗うといい出したがそれもカレンが却下した。尚ティアーズ湖は綺麗な湖で季節になれば水遊びをする光景も見られるらしい。ただ、今の季節は水浴びには適していない、風邪をひくからとカレンは子供達を止めた。


「よし、ならば温泉を作ろうか。」

「温泉?」

「浴場だ、風呂を作ろうと思う。」


俺の案では湖の岸から1メートル四方をストーンウォールで壁と床を作る。湖の水を入れた大きな鍋を作るイメージだ。後はカレンのファイアでお湯にすれば風呂になると考えた。


「マリリさん、ミカンちゃん出来そう?」

「私がお湯を入れる湯船を作りますわ、ミカンちゃんは目隠しの板を湯船の周りにお願いします。」

「マリリ、私は念のため毛布で壁を作っておく。」

「ありがとう、タリリ。」

「レンちゃんお湯出せるです。湖近いからお風呂のお湯出せるです。水の精霊さんが言ってるです。」


おおー。やはりミカンちゃん最強説は揺るがない。結局湖の岸にマリリさんが湯船を作り、ミカンちゃんがお湯を張る事になった。お湯を張った後はミカンちゃんはストーンウォールで目隠し板を作っていた。


女の子達のはしゃぐ声が聞こえる。髪や体をカレン達が洗ってやっている様だ、この世界にも石鹸はあるが、庶民用のは大概茶色をした固形石鹸だ。これで頭も体も纏めて洗う。


俺は修道服を脱ぎいつもの服に着替えている。流石に子供の入浴シーンには興味はなく、真面目に周囲の警戒に当たっている。


「アンタ、覗いたら燃やすから!」

「誰が覗くか!」


俺の心はティアーズ湖よりも澄んでいるぞ。


「マリリさん、ヤッパリ大きいわね!」

「カレンさんもスベスベですよ。」


あれ?あれ?どう言う状況だ?子供達だけだろ?罠か罠なのか?


「ミカンちゃん、頭洗うわよー」

「タリリ、交代ですよ。」


俺は慌てて叫ぶ


「カレン、俺も汗かいたから気持ち悪いなーって」

「ア、アンタ今来たら本気で殺す!マリリさん、アイツ来てないわよね?」

「あらあら、どうしましょうか。」

「サリアさん、タタンちゃん、アイツ止めて!お願い!」

「こんな壁なんか、俺様のレーザーで穴だらけだ!」

「バカ!危ないから、それは本気で危ないから!」


俺は壁に背を向けたまま叫び続ける。カレンたちだけなら本気で行く可能性もあったが、虐待を受け男性に恐怖を感じる子供達がいるのに流石に覗きには行けない。良心が痛むので、カレンをからかうだけに留めておく。覗きは次回に取っておく事にする。


みんなが風呂から上がり、湯上りのサッパリした顔でこっちへ歩いてくる。サリアさんの修道服は洗濯しファイアウォールの魔法で乾かしたらしい。それは良い事だ。


次は俺の番かと風呂に近づいたら、壁も湯船も目の前で崩れ去った。おれは振り向いて叫ぶ。


「おい?俺は?」

「アンタはダメよ。ヘンタイだから湯船のお湯を飲みそうだから。気持ち悪いわ。」

「飲まねーよ。いつ俺が飲んだ!それは本当のヘンタイだ。」

「だからよ!」

「マリリさーん、カレンがあんな事言うんですよ。」

「バカね、その湯船を崩したのはマリリさんよ。」


俺はショックでその場に膝をつき、崩折れた。


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