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ミッション 孤児院

中庭で子供たちが駆け回っているのが見える。小学生なら3年生にはなっていないだろう。建物の中では小学生の高学年から中学生までの子供達が幼稚園から赤ちゃんまでの小さな子の面倒を見ている。


「シスターマリリ、よく来てくれたわね。貴女達のことを子供たちもいつも楽しみにしていますよ。」

「おはようございますモーリエ院長先生。」

「いつも皆さんでいらして下さるので、他のシスターに休みを差し上げる事が出来ますので助かります。」


マリリさんと挨拶を交わしているのが、シスターであり、孤児院の院長モーリエ 院長先生だ。72歳になるおばあちゃん先生だ。子供も孫も既に成人しているし、牧師だった夫に先立たれてから孤児院に住み込みで子供達の面倒を見ている。


「今日はヘレナさんが、おやすみなんですね。」


この孤児院には専任のシスターが3人いる。モーリエ院長先生以外は2人の子持ちのヘレナさんと18歳のセシルさんだ。3人とは別に、マリリさんを含めた他のシスターは1〜2日づつ交代で子供の世話をする為に孤児院に来ている。これも教会の奉仕活動の1つである。


マリリさんと他のシスターと違う点は、他のシスターは1人だけで孤児院に来るが、マリリさんは俺たちパーティ全員でいつも来ている。孤児院と宿舎が隣と言う事もあるが、宿舎にタダで住まわせて貰っている御礼も兼ねて、いつのまにか全員で来る様になっていた。


「カケルにいちゃん、遊ぼ!」


俺の所に走ってきたタルトを始め、アイサ、ミル、ハルル、アピア、サリア、タタン、エミー、シリルの9人に会うことも孤児院に全員で来る理由になっていると思う。俺は彼女ら9人と会った時の事を思い出している。



「マリリ、今日は一日中、子供狩りだったよな?」


そんな物騒な事を他のシスターさん達もいる、食堂で大声で話しているのは、もちろん我がパーティのタンク担当タリリだ。


「タリリ浮浪児の保護です。そのような言い方はしないように前回も言ったはずですが。私の指導方法が甘かったようですわ。」

「すまん。マリリの指導は間違っていないぞ。周りがそう言うから、つい口からでてしまった。」


タリリが額の汗を拭いながら言い訳を始めた。実際に街の一部の人は子供狩りと呼んでいる。浮浪児は親に捨てられたり、親に先立たれ身内がいない子供だけでは無く、大人からの暴力や虐待から逃げ出した子供たちもいる。そう言う子供たちは大人への警戒心が強く、シスターの姿を見かけると逃げる事が多い。実際に子供たちは元いた場所に戻される恐怖から必死に逃げる。遂には泣き喚き抵抗する子供たちの姿を街の人たちは見る事となる。その様から子供狩りと言われる様になったらしい。



「皆さんにお集まり頂いたのは、浮浪児の保護に同行頂けないかと思いまして。」

「マリリさん、他のシスターさんが都合が悪いの?」

「いえ、普段の街中でしたら我々シスターだけで行いますが、今回は街の外で子供たちを見かけた方がいらっしゃいまして。」

「それで、私の出番って事ね。」


マリリさんは俺たちにキチンと頭を下げてお願いしてきた。


「どうか、お手伝い頂けませんでしょうか。」

「私からも、頼む。」


カレンは両手を前に出し、マリリさんのお辞儀を辞めさせようとジェスチャーをする。


「マリリさん、そんな他人行儀は辞めて。マリリさんのお願いを断る訳ないでしょ。いつもはこっちが助けられているんだし。」


俺は立ち上がって叫んだ。


「それだ!」


パーティメンバーだけでは無く、他のシスターの視線を集めてしまっている。


「他人行儀にはニックネームだ!普段からみんな名前で呼び合ってるから、実は仲良くないのかなーって心配してたんだ。」

「ニックネーム?」

「ああ、アダ名とも言う。カレンならカレカレとか、かれにゃんなんてどうだ?ミカンちゃんはみーたんやみーちゃん。マリリさんなら、まりりんとかまり姉ぇって言うのもあるな。」


「かれにゃん?!」

「はーちゃんとお揃いです!みーちゃんです。」

「あらあら、まりりんですか?まり姉ぇもまた。」

「か、カケル?私は!私には無いのか?」


「うーん。タリリか、タリリだから…。」


タリリはタリリで良かったんだが、本人に希望されたからには何か無いかと一応考えてみる。


「シスコンとか筋肉はどうだ?」


タリリは露骨に嫌な顔をしている。


「もっとかわいいのは無いのか?私だって怒るぞ。」

「そう言われてもな、タリリはタリリだし。」

「タリリはタリリよね。ね?まり姉ぇ。」

「タリリはタリリですわ。かれにゃんさん。」


まり姉ぇとは言っているが、カレンもマリリさんもタリリも17歳で同じ年である。マリリさんは他の2人より落ち着いて見えるからそう付けただけだ。一応マリリさんは双子の妹だ。ミカンちゃんは2つ下の15歳だ。小学生に見えるのはドワーフだからだろうか?採掘者は14歳からしかなれないから、それ以下では無いのは確かだ。ただ、採掘者になれないだけでポーターとして小さな子供が大きな荷物を背負って採掘者の後をついていくのは良く見かける光景だ。因みにこの国の成人は16歳らしい。まあ、俺の中ではカレンもマリリさんもバリバリの未成年だ。危険なダンジョンなんかに入らずに、街中でタピオカミルクティでも飲んでいればいいとマジで思う。危険な作業はオッサンにさせればいい、オッサンなら多少怪我しても心は痛まないから。


「かれにゃんもカレカレもなんだか恥ずかしいわ。ところでまり姉ぇ、子供たちの居場所はどこなの?」


「それは、そのティアーズ湖の先の廃砦と聞いています。」

「あー。ねこにゃんさんが騙されたところか!」

「ちがうわよ。どっちも!」

「カレンちゃんはミカンが付ける!」

「え?ありがとう?」


ミカンちゃんはカレンの顔をジーっと見つめて何やら真剣に考えている。


「レンちゃん!」


ミカンちゃんは満面の笑みでカレンにあだ名を付けた。もっとも付けられる側には昔から拒否権は存在しない。俺なんか小さい頃はかっちゃんだったのに、高校からの知り合いには女王と呼ばれている。 理由は磁石のS極とN極をS極とM極と言い間違えたたったそれだけで25歳になっても女王と呼ばれていた。


「レンちゃん!まり姉ぇ!」

「何?みーちゃん?」

「はい、みーちゃん。」

「ぐぬぬぬ。」


1人悔しそうにしているシスコンがいるが、誰もがわざと気に掛けないでいる。するとカレンが俺をアゴで指し示して聞いてきた。


「アンタのあだ名は何よ?」

「俺か?小さい頃ならかっちゃんって呼ばれてたな。」


敢えて自分の汚点を晒す必要は無いと、もう一つは心の奥底にしまっておくとする。


「何がかっちゃんよ。キモいわね。」

「知るか。子どもの頃はそう言われてもいたんだ。」

「アンタのあだ名は全部名前から来てるわね。あだ名じゃないけど私は容姿から赤髪とか赤ねことか言われる事があるわ。」

「私達姉妹は金髪の大きい方と金髪の小さい方と呼ばれていましたわ。背の高さはタリリのが高いのに、私が金髪の大きい方と呼ばれていてよく分かりませんでしたが。」

「それは私がガサツだから、妹のマリリがより落ち着いて見えるから姉と勘違いしてるからと思ってたぞ。違うのか?」


タリリの考えは多分違うな、俺はマリリさんとタリリの上半身のある部分の大きさを視線だけで比較する。ついでにカレンに顔を向け確認するが絶壁だ、貧富の差が激し過ぎる。カレン強く生きろよ。カレンへの哀れみからかつい口が滑ってしまう。


「そのオッサン達の呼び名は、実に正確ですねー、アッ!」

「あら?どうして男性だけが呼ぶ事がお分かりになるんですか。」

「カケル。マリリ?!どうしたんだ?」

「アンタは私も見たわよね。どうして溜息をついたの!」


マリリさんとカレンはお怒りの様だ。マリリさんは笑顔だが目が全く笑っていない。カレンについては溜息なんてついた記憶は無いが同情したのは事実だ。しかしカレンまでお怒りなのは俺の失敗としか言えない。確認するまでも無く分かり切っていた事実だったのだから。



「ヘンタイ、ヘンタイ、ドヘンタイ!」

「カレン、気にする事はないぞ。大小で人の価値は決まらないぞ。私なんて気にならないぞ。」

「タリリは普通なんだから、いいわよ!」

「タリリは余計な事を言わないで黙っていた方がいいですよ。」


俺は例によって床に正座させられている。タリリは気にしてない。マリリさんは理由が分かった時は多少不機嫌そうであったが、今は王者の貫禄すら感じられる。流石金髪の大きい方でいらっしゃる。


少しのゴタゴタが有ったが、昼前には準備を終えて出発する事が出来た。タリリを先頭にティアーズ湖に向け街道を南下している。


「ぴろりろーん!」


(ミッション より女性らしく! 制限時間 140分)


「ぴろりろーん!」


ミカンちゃんが初めに反応した。他のメンバーは慣れて来たのか文字が表示されいるのを確認すると、俺に視線を集めてくる。


「ミッション より女性らしく。 制限時間140分って書いてある。」

「何よ、ミッションも私が女らしくないって言ってるわけ!ムカつくわ!」

「お、おい。」


カレンは食堂での件を思い出した様で怒りが再燃している。俺だけでは無く他のメンバーもかける言葉を見つけられないでいる。


「本当にハラタツわ!こんなミッション無視よ。無視!意味ないわよ。」

「あー。」


ダメだ。何を言えばいいのか分からない、下手なフォローはかえって火に油を注ぐ事になりかねない。

実際にカウントは減り続けている。


「けどミッションは完了してないよな。」


俺のつぶやきにマリリさんが答えてくれる。つぶやきを聞かれたのが少し恥ずかしいが冷静を装った。


「そうですわね。しかしながら指示の意味する所が不明で、ミッション失敗した時のデメリットが分かりませんわ。」

「ただ、俺たちが廃砦に到着するぐらいの時間が制限時間なので向こうで何かあるかもしれませんね。」

「ええ、それは私達が誰にも邪魔されずにこのまま進みながら、かつミッションも達成出来ると考えた場合の話をですよね。」

「なるほど。」

「廃砦までの道中で事件が有り、その危険回避の為のミッションならば街へ引き返して何らかの準備が必要になりますわ。」


タリリが単独で歩いている後をカレンとミカンちゃんが並んで歩き、そのすぐ後ろに俺とマリリさんが会話しながら歩いている。すると俺たちの会話を黙って聞いていたカレンが不意に振り向き


「じゃあ、このまま歩きながら出来る「より女性らしく」って何よ!アンタは私のドレスを持って来てるわけ?タリリやミカンちゃんのは。」

「いや、カレンのは替えのローブだけだな。タリリやミカンちゃんは鎧の下に着る服を上下は入っているな。それよりカレンはドレスなんて持ってたんだ。」

「バカ、持ってないわよ。」

「ああ、すまん。」


俺たちはそのまま引き返す事も無く、進みティアーズ湖まで来たのだった。


「これを右折して、後は道なりだったよな。」

「はい、そのようでしたわ。あの時は先を行く採掘者について行くだけでしたが。」

「あと30分ぐらいで目的地だな。このまま何事も無ければいいけどな。」


(ミッション より女性らしく! 制限時間 20分)


俺たちは盗賊にも遭遇せずに、廃砦の前に辿りついている。ただし制限時間は未だ減り続けている。


「マリリさん、子供達いますね。多分。」

「はい、盗賊で無ければ。」


以前来た時は門は開放されており、そのまま中に入る事が出来た。今、目の前の門は扉は開放されているが、机や椅子や小さな板切れが乱雑に2メートルぐらいの高さに積み上げられ、バリケードと成している。


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