ミッション サイリサスダンジョン
盗賊捕縛後、俺たちは軽い食事の後みんな揃って睡眠を取っていた。兵士達も交代で休みを取っている為にしばらくここに滞在するみたいだ。
「お嬢さん、協力を感謝する。」
「バルトルト様、こちらこそ無礼な態度を取りました事、申し訳ありませんでした。」
「いや、それはもういい。十分働いてもらったしな。」
俺は2人の会話で目が覚めたが、目を開けず寝たふりを続け聞き耳を立てた。
「囮の作戦を考えたまでは良かったのだか、上手くいかなくてな。時間だけが過ぎて困っていたのだ。今回の商人と領主様は古くからの仲だったため、今回の任務は領主様の信頼回復の為に絶対に失敗が許されない重大な任務だったのだ。」
「その大事な時に、この後先を考えないポーターが口を出してしまったと。」
「おや、彼は本当にポーターなのか?部下から聞いてはいたが。リーダーの君を差し置いて私に意見したのは事実だったのか。」
「申し訳ございません、今後この様な事がない様にキツく言って聞かせます。」
「いや、そうじゃない。羨ましいと思ってな。部下の意見が私まで意見が上がってくる事はまず無い。ましてや私の間違いを正す者はいない。」
「この者は逆に考えも行動も自由過ぎます。」
「確かに兵には向かぬかもしれぬな。」
「はい。いつも無茶苦茶でひやひやさせられます。」
「だか、彼の言葉通りに結果が出たのも事実だ。」
「はい、ありがとうございます。」
バルトルトは頭を下げる、カレンと寝ている俺を見て軽く頷くとその身を翻した。
「では失礼する。寝たふりをしてる彼によろしくな。」
「え?アンタ起きてるの?」
「フハハハハ。」
バルトルト様率いる騎士団は、王都から来た商人アウルスの信頼を回復せんとする領主の命によりアザリアの街を出立し、見事に盗賊団を一網打尽にしボスをも捕縛したのだった。そして捕らえた盗賊からの情報を元にその翌日にはアジトを強襲し、残りの盗賊の捕縛や積荷の回収が完了したとの事らしい。
コーヒー豆がどうなったかまではわからないが。
盗賊のアジト強襲後、騎士団が野営地に引き返して来ると騎士団も撤収に入ったらしく後方部隊の動きが慌ただしくなって来た。この時点でようやく囮の必要性が無くなったと判断され、晴れて俺たちは自由の身となった。
カレン率いるパーティは騎士団の野営地を離れ、サイリサスへの街道を南下している。もちろん徒歩で。あと半日もすれば着く予定だか、ここまで5日かかっており当初の予定より遅れている。
「予定より2日遅れているか、しかし1階層だけでもクリアしないと来た意味無いしな。」
「そうだけど、マリリさんは大丈夫?」
「盗賊討伐に協力した事実がありますから、多少の遅れは説明はつきますわ。」
「よーし、急ぐわよ。」
カレンは先頭に立って、弾む様に進んでいく。何か良いことが有ったんだろうか?カレンの後ろ姿を眺めながらしばらく付いていくと、分れ道に当たった。真っ直ぐ行けばサイリサスの街、右に曲がればサイリサスダンジョンだ。
「サイリサスの街も行きたいけど、今回は我慢しましょ。いい?」
「ああ、私はダンジョンに入れれば文句はない。」
「少しだけでも、教会にコインを納める事ができたなら助かります。」
シスターさん達のノルマは未処理コインのを安定化させる為の手数料で記録されている。だから、報酬などで安定化されたコインを手に入れてもそれはノルマには影響が無い。だから少しだけでもダンジョン探索しモンスターからコインを得る必要がある。俺たちは道を右に折れ、ダンジョンを目指す。
サイリサスダンジョンの入り口にようやくたどり着いた。そこは草原に巨大な岩が1つポツンと置かれている場所で大岩の前には騎士の詰所が2棟たっている。またアザリアダンジョンと違いダンジョンの周りには馬車を改造した屋台が並んでいる。屋台には飲み物や軽食から武器、鎧と言ったダンジョン探索に必要な物が揃っている感じだ。
「いい匂いです。肉です。」
「確かに小腹が空いたわね。アンタ1本づつお願い。」
「了解だ。」
俺はいい匂いをさせている屋台に向かった。屋台ではタンクトップ1枚のガタイの良いおっさんが串に刺した肉を焼いている。見た目は豚バラ串の様だ。脂と炭の匂いで食欲が刺激される。
「5本下さい。」
「はいよ。すぐ焼けるからな。」
おれは銅貨を1枚だし串を受け取る、今すぐにでも齧り付きたい衝動に駆られるが、ミカンちゃんの待つ場所まで早足で歩いていく。
「はい、ミカンちゃん。お待たせ。」
「カレンちゃん、ありがとうです。カケルもです。」
みんなその場で串に齧り付きながら、カレンを中心にダンジョンについて話し合う。
「1階層はミニマムラットよ。これぐらいのネズミらしいわ。」
カレンは親指と人差し指を2センチ程あけて、みんなに見せている。
「ボス部屋はミニマムラットを100匹倒す必要があるらしいわ。」
「サイリサス帰りの採掘者に以前聞いた話では、とにかく、すばしっこく倒すのが大変とのお話でした。だから皆さんボス部屋に直行するそうです。」
「数が数だから、危険と言うより体力の消耗が激しいらしいわ。」
いま俺たちはタリリを先頭にサイリサスダンジョンの1階層を進んでいる。ミニマムラットはタリリを見かけると逃げ出してしまう。ショートソードを振りかぶったら、もうそこにはいない、ミニマムラットは遥か彼方に走り去ってしまっている。
「あーなんだ、ここは!モンスターなら襲い掛かってこないかー!」
若干1名切れているが、俺たちはボス部屋に急ぐことにした。
「なんだー!これは!なんの列だ!」
シスコンがまた叫んでいる。ボス部屋から男達がパーティ毎に床に座り込んでいる。その列がタリリの目前まで繋がっている。
「ボス部屋への順番待ちのようね。」
「タリリ、皆さんにご迷惑を掛けないで下さいね。」
「…。」
「お嬢ちゃんたち、初めてかい?まだ半日はかかるぜ。」
「鈍臭いパーティがいると、遅くなるから迷惑なんだ。アンタらは迷惑掛けないでくれよ。」
最後尾に並ぶパーティが口々に話し掛けてくる。普段見かけない女性ばかりのパーティもあり、興味深い視線がむけらている。ただ紳士的なパーティだけでは無いようだった。
「なー、ねえちゃん達!こっちに来て俺たちの相手してくれよ。ラットハンターのダガン様が色々と教えてやるからよ。ひひ。」
待ち時間で酒を飲んでいるらしいが、酔っ払いのちょっかいでカレンのこめかみが、ピクピクと痙攣している。
「おいおい、ねぇちゃんたち無視するなよ。ちょっとぐらい、いーじゃねーかよ。」
ダガンと名乗る酔っ払いはフラフラと立ち上がって、カレンの肩に手を伸ばしてきた。
「バン」
「痛っ、テメエ何しやがった!」
ダガンはレーザーの魔法を手の甲に受け悲鳴をあげたが、自分を指差している俺を見つけると早足に近づいてきた。もちろん手の甲は少し赤くなった程度だ。
「ファイア!」
「「熱っ?!」」
カレンは俺に掴み掛かろうとしたダガンの目の前に炎の柱を出現させた。当然俺も熱い。見ず知らずの男と叫び声が重なった。
「汚い手で触らないで。次は燃やすわ。」
「なんだとぉ!この餓鬼どもが!」
ダガンは腰の剣を抜く。ダガンのパーティはやれやれと揃って立ち上がる。他のパーティは余興のつもりか、野次を飛ばし囃し立てている。
「ストーン。ストーン。」
「ぐぁ。」
「ぎゃあ」
「カレンさん、カケルさん、周りにご迷惑をお掛けしないようにお願いしますね。」
「「はい。」」
「採掘者の皆様もご静かにおねがいします。」
マリリさんのストーンは剣を抜いた男とその仲間の頭上へ平坦な石板を落下させた。命に別条は無いが、2枚の石で6人のパーティ全員が行動不能になっていた。目撃した他のパーティはシスターが石板の厚さを手加減の為にわざと薄くしているのは一目瞭然で理解でき、殺そうと思えば一瞬で6人も殺す事が出来た事実がありありと感じられたのだった。
また、赤髪の少女の魔法も脅威であった。瞬間的な熱量もそうだが、未だに赤熱する床に気づいた者は言葉を失っていた。
俺とカレンは悪くない筈だ、たが並んで正座させられている。ただ石板に下敷きの奴らはマリリさんは酔いが覚めるまで、そのまま反省させると言っていた。
「カレンさんや、聞いとくれ。儂の足はもうダメじゃ。」
「ふふ、何よそれ。私もさっきから感覚が無いわ。」
「もしもし、カレンさんや列がさっきから全く進んで無いが、儂の気のせいかの?」
「気のせいじゃないわ、進んでないもの。」
「なあ、カレンばーさんやボス部屋には人数制限があるのかい?」
「誰がばーさんよ。人数制限なんてないわよ。」
「じゃあ、どうして待っておるのじゃ?わざわざ苦労したいのかの。」
「どう言うことよ。お爺さん。」
「ここにいる全員で入れば、いいんじゃぞ。さすれば1人頭2〜3匹で済むし、ストーンウォールの使い手が増えれば増えるほど追い込み易くなるからの。」
「ストーンウォールで追い込み?」
「ミニマムラットのいない所を壁で、入れない様にしていけば徐々に、範囲を狭められるから捕まえ易くなるな。ストーンウォールの代わりに木の板で壁を作ってもいいな。」
「俺なら中央の魔法陣を枠で、あらかじめ囲っておくぞ。後から仕切って追い込むより楽だと思うしな。」
「爺さんや、言葉がなおっとるぞ。」
「婆さんや、ただ今の方法が使えるかは分からんぞ。儂ミニマムラット見たこと無いからの。」
俺たちがふざけ合っていると、周りから野次が飛ぶ。
「黙って聞いてりゃ、見たこと無いのかよ!」
「次のパーティの奴らは魔法陣を囲むの忘れんな。」
「外の屋台で板見てくる、お前らまってろ!」
「とりあえず、全員で入るか?」
「魔法陣囲む物は燃えにくい物がいいですか。」
「どういう事だ?おい、もう走り回らなくて済むのか?」
「カレンさんとカケルさんは、また周りの皆様にご迷惑を…。仕方ない方たちですね。ハァ」
マリリさんが呆れ顔で笑っている。俺たちは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。
「嬢ちゃん、さっきは済まなかったな。お詫びにラットハンターダガンの技を見せてやるよ。最後の見納めだからよ。」
「はい、ありがとうございます。私もすみませんでした。」
「ホラ、握手だ。お前ら。」
何故かこの場を仕切り始めた、おっさんにカレンは嫌々ながら握手をさせられている。
さて、俺たちのパーティを始め合計で8パーティがボス部屋の前に集まっている。木の板を持つパーティや魔法陣を囲む為の金属製の四角い枠を持つパーティもいる。俺とカレンの会話から1時間後にサイリサス1階層ボス部屋攻略の合同パーティが誕生していた。
「クソネズミ供に、散々にしてやられてきたがそれも今日までだ。野郎供いくぞー!」
「「「おー!!」」」
「もう、野郎じゃないわよ。ほらみんな行くわよ。」
20メートル四方の部屋の中央に魔法陣があり、部屋のいたるところに走り回るミニマムラットの姿がみえる。
「タリリソード!」
「フッ」
「えい?えい?」
タリリもミカンちゃんも地面を走り回るミニマムラットに武器を振り下ろすが地面を殴っている。肝心のミニマムラットには当たらない。俺もとりあえずタリリの予備のショートソードで狙ってみる。
「そこ!」
気合いも虚しくショートソードは床を打ち、甲高い音を響き渡らせた。剣を握る手がビリビリと痺れている。
「カレン、これに剣を当てるの無理だ。」
「アンタ、一回で諦めないでもっと頑張りなさいよ。」
「ああ、バンバンバンバンバン。」
俺の指先が示すミニマムラットをレーザーが捉えていく。ゴブリンすら倒せないレーザーだか、ミニマムラットには効果があるようで確実に仕留めていく。いかに素早いミニマムラットでも光速のレーザーは避けらない。最悪誤射しても採掘者にはほぼ無害の為に安心して乱射している。
マリリさんとミカンちゃんはストーンウォールでミニマムラットを追い込んでいる。カレンは追い込んだミニマムラットをまとめて燃やしている。タリリは誰に持たされたのか知らないが、木の板を持ってミニマムラットを追い込んでいる。
「アイツ以外とやるわね。ラットハンターだっけ?」
「ああ、確かにタリリよりは凄いな。」
ラットハンターのダガンはわざと俺たちの視界に入る位置にやって来ては、ミニマムラットを仕留めていく。ダガンはラットの進行方向に軽く剣を振り、ラットが危険を感じ、方向転換するその瞬間を仕留めている。その腕前に俺たちは驚き、感心した表情を見せてしまってからダガンは俺たちにドヤ顔を度々披露しに来ている。
「また、来たわ。」
「腕が良いから、余計に腹が立つ。」
1パーティだと長い所では1時間かかっても倒せない位の100匹のミニマムラットの群れが10分もしない内に討伐された。実際にこれまでの最短記録だった様で大歓声が上がった。100匹のミニマムラットを倒した俺たちは2階層へ行かずに、皆その場に留まっている。
「ミニマムラットがリポップした時にあの金属の枠の中に全部いたら成功よね?」
「ああ、100匹の群れがどんなの動きをするのか次第だな?」
「どういう事?」
「ミニマムラットが折り重なって枠の高さを超えた場合には高くする必要があるし、枠が動いてしまうなら重くする必要があるな。」
「じゃあ、大丈夫じゃない。」
「そうか?」
「そうよ。」
魔法陣が光り出すと、騒ついていた雰囲気も事の成り行きを見守る為に徐々に静かになっていく。魔法陣の輝きが最高潮に達したその時、魔法陣の中から大量のミニマムラットが出現した。それらはまるで弾ける花火の様に部屋の隅に向かって走り出した。
しかしその大半は枠にぶつかり行く手を阻まれ、また別のラットたちは壁の隙間を探すかの様に四角い枠に沿って走っている。魔法陣の光が落ち着き100匹のミニマムラットの出現が完了した今、全てのミニマムラットがこの枠の中で走り回っているのを8パーティの全員が感慨深く眺めている。
「ガハハハ!これは愉快だ。クソネズミ供が哀れにみえるわ!」
「成功か!」
「これからは走り回らなくても、いいのか?」
「よーし。」
「これは枠を高くする必要があるか?いや大丈夫か?」
「いや、重くした方がいいかもな。」
カレンとダガンを無理矢理に握手させたおっさんが笑いだすと、それまでジッと静観していた周りも興奮し騒ぎだした。ボス部屋に入るまでに半日、そこから1時間近く走り回って倒す必要があったミニマムラットが短時間で倒せる様になったから、俺たちよりもサイリサスをホームとして繰り返し苦労をさせられてきた採掘者にはより一層、来るものがあるのだろう。中には涙ぐんでいるガタイのいいおっさんもいる。あの筋肉では走るのが辛かったんだろう。
「良し、念のため2階層に降りてから帰りましょ。」
「ああ、それがいいな。」
「おい、嬢ちゃんたち、待ちな。」
「え?何よ?」
「そんなに警戒するな、嬢ちゃんたちは俺たちのいや、サイリサスの恩人なんだぞ。」
「そんな事ないわよ。コイツは自分が待つのが嫌だっただけだから、気にしないでいいわよ。」
「だか、実際に助かった。感謝する。」
「ほら、さっきと今回のコインだ、鉄貨だか200枚ある。受け取れ。少ないが俺たちの気持ちだ。」
「ありがとう。助かるわ。」
そう言って別れた俺たちパーティが、2階層から直ぐに1階層へ戻って来た時は何故か大笑いされ、笑いの中、地上への道を戻って来た。
「疲れたわね。」
「ああ、疲れた。」
俺はカレンを見る。
「何よ?」
「ダガンだっけ?ラットハンターの。」
「確かそうだったわ。ウザい奴よね。」
「本当に良く絡まれるよな。おまえは」
「知らないわよ。」
カレンを再び見る。
「おっさんハンターカレン。ププ」
「はあ?殺す!アンタ殺す!」
サイリサスの恩人、赤髪の炎使いのカレンは俺の友人で世話をしてやったと酒場でダガン本人が言いふらしており、知らないところで親友にされている事をカレンは知らない。




