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ミッション 騎士団

「だまれ、早く跪け!」


兵士から問答無用の命令が飛ぶ。


「カレン、騎士団の直前にファイアを1つ頼む。」

「大丈夫なの、それ?」

「このまま盗賊扱いされるより、力を示して話し合いの場を作るチャンスが欲しい。」

「それでファイア?」

「ああ、多分俺たちの格好を見て本気でやり合う実力はないと判断してるんだと思う。」


カレンはパーティの装備を改めて見ると、マリリさんは教会支給品の制服だからいいとして、カレンは安物の杖に裾と袖口に花柄をあしらえたごく普通のローブ。タリリのショートソードは店売りの量産品だ。また鎧はチェィンメイルに胸部のみブレストプレートと言う組合せで使用している。ミカンちゃんの鎧は鉄製の筒を革ひもで肩から吊るしてあるだけだ。頭にはマッシュルーム形状の金属性のヘルメットを被っている。ちなみに胸部とヘルメット前面にはカレン製のハーちゃんマークが書かれている。


「それイヴァンさんにも言われたわね、確か。」


カレンは半ばヤケで魔法を唱えた。


「もう、知らないわよ。ファイア!」


騎士団の1メートル程前方に高さ5メートルの炎の柱がそびえ立つ。その熱気は訓練された騎士団の騎馬すらも驚かせ何人かは落馬している。したがって騎士や従者は馬を落ち着かせ、また落馬した騎士の手当てで一気に慌ただしくなった。


「カレンさん、ちょっとやり過ぎです…。」

「少し近すぎたみたいね…。」


坂を登っていた兵士達は、背後の様子を愕然と見て殲滅と言うのが完全なハッタリでは無いと認識し、このまま進むべきか指示もない為に決めかねていた。


「ほら、みんな跪きましょ。」

「許してくれるかな?」

「ふふふ、かなりお怒りの様子ですわね。」


依然兵士達はその場で留まっている。騎士の中で落馬しなかった3人が従者と共に10人程坂道を登って来る。


「貴様らは馬車で何をしていた?」


中央のオールバックの騎士が馬上から問いかける。


「負傷者がいないか、確認していました。」


「先程の炎がいくつも上がっていたが、何故だ?」


ああ、一部始終見られていたのか、ならさっきのは余計だったか。


「不審な馬車でしたので、盗賊の罠の可能性から盗賊への牽制として使用致しました。」


カレンと騎士の問答が続く、騎士は兵士達より僅か先に進んだぐらいで馬の歩みを止めているし、兵士が俺たちを捕らえようとする動きも無い。今のところはこちらの要望をのんでいるようだ。


騎士は刺すような視線を辞めない、警戒は解かないようだ。3人の騎士は少し何かを話し合ったようだが内容までは分からなかった。


「昨日からお前達の様な採掘者しか罠に掛かっておらぬ。ただ、我々を盗賊として殲滅などと言うのは貴様らしかおらぬがな。」


「はい、申し訳ありません。」


カレンは言葉では謝っているが、視線は騎士から外さない。俺は釣られて頭を下げそうになったがカレンを見て何とか頭を下げるのを留める事ができた。


「騎士様、一言宜しいでしょうか。」


カレンが心配そうに俺をみる。マリリさんも不安そうな顔をしている。


「なんだ、申してみよ。」

「はい、坂の上に放置された襲撃された跡も無い綺麗な馬車、しかも周りに人気も無いとなれば罠としか考えられません。」

「ふむ、それで」


騎士様は聞いてくれる様だ。


「盗賊としては、自らが襲ってない馬車が放置されている事自体が不自然です。よって罠と考えます。一方で我々採掘者は馬車の不自然さからワナだと考えますが、馬車が盗賊に襲われた可能性を捨てられません。よって盗賊以外が罠にかかると思われます。」

「ではどうすれば良い、考えがあるのだろう?」

「はい、先ず馬車を商人が使用する荷馬車に変更します。通常は幌馬車と思われますが、御者台や幌があっても見やすい場所へ荷物や女子供を載せ、街道を行けば、盗賊は必ずエサに食いつくと思われます。」

「なるほどな、食い付きたくなる良いエサを用意する必要があるか。」

「はい、そう存じ上げます。」


ん?カレンが口をパクパクさせている。マリリさんは呆れている。どうしたんだ。


「それで貴様らが自らエサになると言うのか?」

「え?え?!」

「あの、騎士の中には女性の方は?」

「女は騎士にはなれぬ、よって騎士見習いの従者も男だ。知らぬ訳ではあるまい。」

「あー、では兵士やお供の中には…。いないですね。」


兵士や騎士団後方を見るが女性はいない。不味い流れだ、どうしよう。考えるんだ俺。


「貴様の申し出により、協力致すなら先の魔法の件を水に流してやらんでも無いぞ。」


カレンすまん、みんな申し訳ありません。そんな気持ちで皆を見る。


「騎士様、この者の申し出の通りの役目、パーティ一が一同、微力ながらご尽力させて頂きます。」


ここで初めてカレンは騎士に頭を下げた。俺も合わせて下げておいた。この騎士が実は盗賊の親玉だったなら、今燃やしてしまえば楽なのにと妄想している間に一頭引きの幌の無い荷馬車が用意されてしまった。幌なしとか防御力ゼロじゃん。


荷台の中程には袋が重なる様に積まれている。御者台には御者のタリリとカレンと間にミカンちゃんが座る。荷台の最後尾には俺とマリリさんが座っている。


「さあ、行くわよ。誰かさんのお陰で楽しい行商の始まりよ。カレン商店出発!」


俺たちはこうして馬車を手に入れて、サイリサスへと進んでいった。


「悪いがそろそろ、日が傾いてきたぞ。野営の準備しないか?」

「そうね、あそこの少し開けた所で休みましょうか。タリリお願い。」

「ああ、了解した。」


タリリが馬に餌と水を与えている間に、焚き火を起こして食事の準備をする。今日は何かの挽肉を丸めて焼き、パンに挟んだハンバーガーだ。ハンバーグも焼き立てで、パンも軽く直火で炙った。尚ハンバーグは出かける前に一度火を通してある。ただ野菜はレタスぽい何かだ、味は変わらないが。トマトは残念ながら潰れやすいので持ってきてはいない。


「頂くわ。」

「おいしい。ハンバーガーおいしい。」

「うん、ハンバーガーだな。次はテリヤキバーガーが食べたいな。」

「何よ。テリヤキって?」

「醤油って言う、黒い液体の調味料から作る料理だ。」

「醤油ってのは分からないけど、大森林には豆から作る辛い調味料があるらしわ。」

「帝国の海側にも黒い液体の調味料があると聞いた事があるな。」

「カケルさんの料理は美味しいですから、楽しみですわ。」


大森林と帝国かマヨネーズはこの国にあったからテリヤキバーガーの実現は近いと思う。もしかしたら、大森林に近いサイリサスの街には流通しているのかもしれない。楽しみだ。


今日の夜は交代で見張りに立つ予定だ。寝るのは馬車の荷台で寝る事にした。先ずは俺とカレンが焚き火の番と見張りをする。パチパチと木が爆ぜ、火が揺らめいている。


「ごめんな。またこんな事になってしまった。」

「ええ、そうね。今までのポーターは騎士に話しかける奴なんていなかったわ。」

「そうなのか。」

「そうよ、みんな下品なポーターばかりだったけど、プロだったわ。良い意味でも悪い意味でも。私達のパーティに意見することも無いけど、こっちの意見も聞かないわね。ただ、決められた事だけはきちんとこなしていたわ。そして利益に合わなければ辞めて行ったわ。」

「プロと言うか、ドライだな。」

「そんなポーターしか知らなかったから、こんな無茶苦茶なポーターもいるってビックリしてるわ。」

「俺も今、びっくりしてる。」

「遅いわよ、ふふふ」


俺は今後悔している、スマホで交代時間のアラームをセットしておけば良かった。今凄く眠い。瞼が重い。しかもカレンの口数も減って来た。コイツも眠いんだろう。しかし交代のタイミングがわからない。俺の知らない取り決めがあるのだろうか?あー眠い。


「カレン、交代はいつなんだ?」

「え?見張りは半分づつよ。」

「半分っていつまで、なんだ?」

「だからは・ん・ぶ・んよ。」

「そうか、半分か…。」


それからしばらく睡魔と戦っているとタリリが起きるのと合わせてマリリさんも目を覚ました様で荷台から静かに下りてくる。


「見張りお疲れ様でした。そろそろ代わりますわ。」

「ありがとう、マリリさん。では失礼するわね。」

「お願いします。」


俺は荷台に上がり毛布に包まる。熟睡しているミカンちゃんを挟んで、両脇に俺とカレンは横になった。満天の星空を少し眺めた後、ミカンちゃんへ背を向け荷台の側板を前にして目を瞑った。


どのぐらい経ったのか、タリリの声で目が覚めた。


「カレン、カケル、ミカン敵の襲撃だ。囲まれているぞ。」

「ストーンウォール」

「ストーン!」


襲撃と言う単語で脳が急速に覚醒し、カレンとミカンちゃんを見る。カレンは既に起きており、森へ向かってファイアボールを適当に撃ち込んでいる。


「ファイアボール。ファイアボール。ファイアボール。」

「カレンちゃん、朝?」


ミカンちゃんは寝ぼけているみたいだ。俺は頑張ろう。


「敵だーー!敵襲だー!」


俺は空に向かって叫ぶ。馬車の全員起きているけど叫ぶ。カレンのファイアボールも夜空を赤く染める。マリリさんのストーンウォールで敵の遠距離攻撃は防いではいるが、敵は徐々に包囲の輪を縮めて来ている。馬車の進行方向の街道上にも薄っすらと人影が見えてきた。


「お頭!やっぱり女子供だけだぜ。ちょっとは使えるみたいにだか、たった5人だぜ。」

「バカな騎士の所為で、獲物が逃げちまったからな。」

「お前ら、殺すなよ!大事な商品だ。」

「お頭!殺さなければいいっすよね!ゲヘヘー」


コイツら下衆だ、最低だ。明るければ全員に風穴を開けてたぜ、残念だ。


「うわ、キモい!下品よ。死ね!」

「お、おい、殺すなよ。半殺しで我慢しろって。」

「では、私が残り半分を頂きます。」

「マリリさん、それじゃ死んじゃいます。」


後方から馬車上空に向けて、ファイアボールが無数飛んでくる。それは破裂せずに照明弾の如く、辺りを照らしだす。想像以上に近い盗賊たちを浮かび上がらせた。


マリリさんたちと反対側の盗賊にレーザーを叩き込む、ダメージは無いが怯ませる事には成功した。ただ、使えるのは照明弾がある間だけだが。前方はカレンがファイアウォールで道幅いっぱいの炎の壁を作り時間を稼いでいる。


「突撃ーー!」


突撃を命令する騎士の号令が響き渡る。照明弾の時点で突撃してたんじゃないのか。ステルス突撃か?

まあ、後は騎士様に任せよう。手柄を立てて貰おう。


「タリリ、そろそろ引きますよ。」

「だか、突撃命令が!」

「タリリ。」

「ああ、退却だ。」


俺たちは馬車を捨て騎士が来た方向へ走る。もちろんミカンちゃんも自分の足で走っている。兵士や従者たちとすれ違う。照明弾の灯りがあるために盗賊に間違われる事無く移動できる。しばらく走ると照明弾を上げ続けている部隊に合流できた。ここは補給部隊や騎士に仕える非戦闘員達が僅かな兵士と共に待機している場所だ。俺たちは盗賊がエサに食いついた後はこの後方部隊と合流する様にとの指示があり、ここまで移動して来た。流石に民間人に人殺しを意図的にはさせないようだった。偶に盗賊がこちらに来たがカレンのファイアに驚いている間に兵士達に捕らえられていた。


「終わったわね。」

「ああ、終わったな。」


朝焼けの中、騎士や兵士達が続々と帰って来ている。縄に繋がれた盗賊も見かける。盗賊のボスはどこだ?逃げたのか?死んだのか?


最後の最後で俺たちが乗っていた馬車が騎士に囲まれて帰って来た。その荷台には身体の大きな男が革の鎧や手脚に多数の切り傷を付けて横たわっている。ただ目を開けており意識はあるようだ。


俺は騎士に近寄り話しかける。


「コイツが盗賊のボスですか?」

「ああ、お頭と呼ばれていたから。そうなるな。」

「コイツに1つだけ質問していいですか?」

「なんだ?」

「盗んだ物や人の中に、猫はいなかったかと言う事です。」

「猫?」

「はい、ペットの猫、獣人の猫、普通の人で名前が猫とか、兎に角、猫に関係する物です。」

「まあ、よく分からんが、まあいい。」


騎士がお頭へ話しかける。


「おい、今の聞こえていただろ。何か知っているか?」


盗賊は口枷を嵌められている為に喋る事は出来ないが、その首を左右に振る事で俺の質問への回答は用をなした。


「ありがとうございます。」


俺は騎士に御礼を告げその場を後にした。この事をみんなに伝えたところ、みんな過度な期待はしていなかったが、それでも落胆していた。


(ミッション 制限時間 9日)


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