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ミッション ハーちゃん

今日の俺はカレンとミカンちゃんと3人でアザレア

の街へ買い物に出掛けている。それもミカンちゃんの新しい寝袋 「NEW ハーちゃん」の購入に来たのだ。ハーちゃんとはミカンちゃんのお気に入りのウインクをした猫の事だ。カレンがミカンちゃんの寝袋の端にハーちゃんの刺繍をしてから、ミカンちゃんは寝袋を普段寝る時にも使うぐらい大事な寝袋だった。だか、俺はアザレアダンジョンの8階層のボスを倒す為にミカンちゃんの寝袋を間違えて使ってしまい、大切な寝袋を汚してしまった。だからこうして3人で新しい寝袋を買いに来たのだ。


最初に入ったのは、いつもの雑貨屋だ。ダンジョン関係は大体ここにくれば揃うと思っている。無いのは薬と守りの護符ぐらいだろう。俺は雑貨屋と言うよりはアウトドアショップと名付けたい。だが無情にも店主エドモンは「エドモン雑貨店」と名付けている。


「確かこれだったよな?カレン。」


売り場の隅にある小さめなテントやシートと並んで綺麗に畳まれた茶色の毛布を指差した。


「ええ、これよ。」


カレンの回答を得たので、俺は棚に重なっている中から1番上の毛布に手を伸ばした。


「待ちなさいよ、せっかく来たんだから他のも見るわよ。ねぇミカンちゃん?」


ミカンちゃんはカレンの言葉に頷いている。だか、この店の毛布は手に取りかけたのを除けば、安価なペラッペラの毛布か、またこちらも薄いが手触りが良く、触っただけでも高級感溢れる毛布の2種類しか無いはずだ。なおこの毛布は基本的に屋外で使用する事を想定している為に毛足は短くなっているので刺繍には適した方だと思われる。俺は高級な毛布の柔らかな感触を楽しみながら2人に話かけた。


「これすげー手触りいいな。銀貨4枚もする訳だ。」

「確かに気持ちいいわね。だけど高すぎるわ。」

「ふんわり、すべすべ!」

「ミカンちゃん、気に入ったならこれでいいから。お金はアイツが出すから。」

「カケルお金無いです。ミカンのが持ってるです。」


確かに今はカレンからポーター代を貰っているだけなので、採掘者としてコインをパーティ内で等分配しているミカンちゃんのが金持ちなのは確かだ。まぁカレンやパーティのみんなからの好意で普通のポーターよりは貰ってるらしいが。なお、円はもう持っていない。司祭の時にみんなに依頼料として渡してある。実際渡す時には皆、受け取らないと言ってくれたが、一応ケジメだし、今後またパーティで金欠になった時に換金するようにカレンにまとめて渡してある。ちなみに銀貨4枚は、ほぼ俺の全兵だ。出来ればやめてほしい。


「ミカンはピンクがいいです。」

「そっか、じゃあ次行こうか。」


結局エドモン雑貨店では買い物せずに店を出た。ピンクの毛布はどこにあるんだろうと考えているが、俺が普段行く中では該当する店がない。そんな俺を無視するかの様に、2人は手を繋いでどんどんと先を歩いていく。


「ミカンちゃん、ピンクの毛布だったらハーちゃんは何色がいいの?」


カレンの問いにミカンちゃんは首を傾げ


「ハーちゃんは黒です。まっくろです。」

「そっかそうだよね。黒猫だよね。」


2人の言葉に前の刺繍が黒だった事を思い出した。カレンも自分の縫ったハーちゃんの糸の色を思い出したようだった。


「カレン?ハーちゃんは昔飼っていた猫なのか?それともお伽話とかに出て来るのか?」

「えーっと、それはね。」


「ぴろりろーん!」


(ミッション 猫さんを助け出せ! 制限時間 15日)


「このタイミングで?」

「残り15です?」

「指示は何よ。」


2人は立ち止まり振り向いて、それぞれの疑問を聞いてくる。


「制限時間は15日みたいだ。かなり長いな。」

「指示は猫さんを救い出せと書いてあるな。」

「猫さん?」

「猫さんです?」

「ああ、猫じゃなくて猫さんって書いてある。」

「なんか、ミッションがミカンちゃんみたいだな。だけど制限時間が長いから、猫がこれから酷い目にあうのか、遭っているのか分からないな。」


カレンは俺の話を聞きながらも、周囲を見回している。ミカンちゃんは足元をジッと見ている。カレンは耳を澄ましたり、屋根の上を眺めたりした後に口を開いた。


「この辺りには猫はいないみたいね。」

「これはキツイな、どこのどんな猫なのか検討がつかない。」

「そうよね、雲をつかむような話ね。」

「どうする?時間は15日もあるけど、このまま探すか?」

「マリリさん達も不安がってるわね。ミカンちゃん、マリリさん達の所に寄った後に、また毛布は必ず見に行くからね。それでいい?」

「ミカンは後でいい。」


カレンとミカンちゃんは手をつなぎ、来た道を戻っていく。


「猫ちゃーん。猫ちゃーん。」


カレンは猫ちゃんと何度も口にしながら、一応周囲を気にしながら歩いている。お前も猫じゃないかとツッコミたくなる。まさか、お前が拐われたりするんじゃないだろうな?


「カレン、面倒だからお前拐われたりしないでくれよ。」

「はぁ?!だから私は猫じゃないって言ってるでしょ!」

「あ!しまった。だった、すまん。」


前もそんな会話をした気がするから、すぐに謝っておく。


「猫さん」


ミカンちゃんがポツリと呟いた。俺はミカンちゃんのくりくりの頭に手を乗せ


「大丈夫、猫ちゃんは必ず俺が見つけ出す!」


ミカンちゃんを勇気づけようとしたが、頭に手を乗せたのがイヤだった様でミカンちゃんにサッと手を払われた。


「嫌ねー。これだからコイツは。」


カレンは俺が手を払われたのを目撃して、口元に笑いを浮かべている。この空気をどうしようかと思ったらマリリさんとタリリが教会付属の宿舎へ戻ろうとしているのが見えた。


「マリリさーん。ターリーリー!」

「マッ?」


俺は声を掛けようとしたところで、カレンが先に叫んでたので俺はバツが悪いので何事もなかったかの様に口を噤んでおいた。当のマリリさんはこちらに気づき、手を振りながら笑顔でその場所で待っている。カレンもミカンちゃんも満面の笑みで手を振り返しているが俺とタリリは軽く手を挙げた程度だ。声掛けを失敗した所為か何故か手を振るのが恥ずかしかった。


俺達5人は宿舎の食堂に場所を移して、テーブルを囲んでいる。カレンがミッションの内容を伝えているところだ。


「猫ちゃんを助けろって内容の指示よ。で期限は残り15日らしいわ。期限も長いし、猫ってだけでどんな猫とか名前や種類もわからないのよ。せめて色やオスかメスかとかだけでも分からないかしらね。」


カレンは早口でミッションの不満をもらす。


「アザレアの街かどうかも分からないと言う事ですわね。困りましたわ。」

「15日あれば隣町のサイリサスはもちろん、王都も範囲内だな。あの伯爵のセラチュラの街も1週間もあれば着くぞ。」


カレンの説明にマリリさんとタリリは15日と言う事から、猫がいるのがこの街ではない可能性も考えているようだ。


「マリリさん、ここ何日かで盗賊や人攫いが有りませんでしたか?」

「昨日確か、王都からの商人が盗賊の襲撃に遭い、積荷の被害を受けたと聞いています。幸いにしてその商人には怪我は無いとの事でした。」

「マリリさん、積荷は動物だったりはしませんよね。」

「そこまでは確認はしていませんが、積荷の中には王都で仕入れた帝国の良質なコーヒー豆が有ったそうです。それをアザレアの領主様が大層楽しみにしていたそうで、明日には騎士団が討伐へ出発すると聞いています。」

「対応が急ね。」


確かに対応が早すぎる、商人が殺された場合でもここまでは早く無いし、積荷を取られただけなら盗賊出没情報として門や教会などに注意勧告を掲示するだけの対応が普通の筈だ。


「領主がコーヒー豆でキレたか、その商人を贔屓にしていたのか、他の特別な理由があるのかは分からないけど明日出立は異例の速さだな。」

「まあ、どちらにしてもその盗賊は運が無かったわね。領主様を怒らせるなんてね。」


言い終わるとカレンは酸っぱいジュースを美味そうに飲みだした。飲みっぷりを見ていると、酸っぱさを思い出し、唾液が溢れてきた。


「それでカケルは盗賊や人攫いが、その猫を攫うと言うのか?」


話題が変わりすっかり忘れてしまっていたが、タリリが話を戻してくれた。


「あ、ああ。2パターンあるんじゃないかと思っている。まずは飼い猫か売り物かは分からないが猫そのものがいる場合、2つ目は名前や身体の一部分が猫に関係ある場合だ。」


タリリは腕を組みながら俺の話を聞いている。マリリさんに似て綺麗な顔が、顔面に力が入り過ぎ台無しになっている。マリリさんの様に艶めかしく悩めば良いのにと思う。


「全てが、「かも知れない」ばかりだな。頭がどうにかなりそうだ。」

「タリリは悩むのは昔から苦手ですから。フフ」

「あー!イライラする!」


カレンはマリリさんとタリリのやりとりに頬が緩んでいる。


「じゃあ、マリリさんとタリリは教会で情報収集をお願いしてもいいかしら。」

「ええ、やってみますわ。」


カレンは俺とミカンちゃんに顔を向けて告げた。


「私達は例の商人の所にいってみましょう。何か分かるかも知れないわ。」

「そうだな、悩んでいても仕方ないしな。」


ミカンちゃんは俺達の会話を聞きながら、隣の席のカレンを見上げている。


「カレン?毛布どうする。」

「あら?ミカンちゃんまだカケルさんに買って頂いて無いんですね。これから遠出の可能性も有りえますから先に購入した方がよろしいかと思いますわ。」

「マリリさん、ミカンちゃんの件、先に済ましてくるわね。」

「それがよろしいですわ。」


マリリさんはミカンちゃんを見て、何度も頷いている。


「マリリさん、ピンクの毛布なんだけどやっぱりアリサさんの所よね?」

「そうですね、アリサさんの店に無ければどこにも無いと思われますわ。」


と言う事で今俺達はアリサさんの店に来ている。大通りから少し離れた場所あるこの店はあまり客の入りは良くは無い。しかしある一部の人に大変人気の店だ。店主のアリサさんは10代後半の若い女性で2年程前に武器屋を営んでいた両親が揃って亡くなり、思い出の残る両親の店を健気にも守ろうとしていたのが1年程前までの彼女だった。


「彼女のモットーが戦いも女性らしくらしいんだけど、ちょっと女性らしくの方向性が違うのよね。」

「ミカンは大好きです!かわいいです。」


カレンは先端がハート型のピンク色のメイスを手に取り感想を漏らすと、瞳を輝かせたミカンちゃんはハート型メイスを褒めちぎっている。


「このローブなんてフリルとリボンが凄いわ、かわいいけどダンジョンでは邪魔になるわね。」

「多少の苦労や手間を惜しんでは、ステキなレディーになれないんですよ!」


カレンの商品へのダメ出しに、声高に訂正を入れて来たのが店主アリサさんであった。今の彼女はヘッドドレスから靴まで全身を白いリボンやレースを多用したロリータ系の衣装で纏っている。およそ1年前から両親の思い出の店は彼女の趣味全開の武器屋へと変貌を遂げていた。


「ミカンちゃん、いらっしゃい!待ってたわ!今日も試着だけでもいいから是非着てみせてね!」

「カレンもかわいいんだから、これなんかどう?」


アリサさんはミカンちゃんを見かけるなり、カウンターでの作業を放り出して駆け寄って来た。カレンとミカンちゃんはこの店の顔馴染みだ。実はカレンのローブもここの店の商品だ。アリサさんは腕は良くローブなどは彼女のお手製だ、値段も手頃で質も高いが普通のデザインの商品が非常に少ない。よってカレンは彼女からの前からの要望だった、自分とミカンちゃんが着せ替え人形になる条件を了承して、なるべく無難なデザインのローブをオーダーメイドして貰った過去がある。ただ、袖口と裾はカレンの要望と異なる花の模様が一列追加されていた。それほど派手では無い為に、まあ遠目では普通のローブに見える。


「アリサ、今日はミカンちゃんの毛布を買いに来たの。ピンク色の手触りの良いのが欲しいんだけど。それと、刺繍用の黒い糸もお願い。」


ミカンちゃんの手を取り、試着室へ連れて行こうとするアリサさんをカレンは呼び止める。


「それならそこの棚よ。無地なら右、模様入りなら左側よ。」


カレンは棚の右手の無地のコーナーを物色して行く。どぎついピンクから淡くほぼ白色の様なピンクまで7種類ほどピンクの毛布だけでも揃えられている。アリサを連れたミカンちゃんは1枚づつ手に取り目をキラキラさせながらジックリと選んでいる。


「カレンちゃん、この色とこっちの色どっちがいいです?」


1番淡く、白っぽいピンクとその隣ぐらいの薄いピンクを並べてカレンの意見を聞いている。


「私ならこっちの薄いピンクね。ミカンちゃんに合ってると思うわよ。」

「アンタはどう思う?」


カレンは俺を巻き込んで来た。コイツめ。少し考えた結果カレンの意見に乗る事にした。


「俺もこっちの薄いピンクかな。白っぽい奴より汚れも目立たないしな。」

「アンタね。」


カレンは呆れている、ミカンちゃんは目を合わせてくれない。


「ありゃ?ミカンちゃんどうしたの?カレンの男が何か言ったの?」

「はあ?こんな奴が彼氏の訳ないじゃない!こんな気の利かない奴。」

「ふふふ、カレンは彼の事は彼氏だと思ってるんだ。私はただ男って言ったのに。へー」

「なによ!男も彼氏も同じよ、同じ!今日はアイツがミカンちゃんの毛布を汚したから、新しい毛布を買いに来たのに、また汚れを思い出させる事言ったのよ。男って本当にデリカシーが無いんだから。」

「そうなの?多分彼氏さんはそんなつもりで言った訳じゃなさそうですよ。男性の方は機能を重視される方が多いですから。」


お!アリサさんナイスフォロー!ありがとうございます。


「ごめん、ミカンちゃんそんなつもりじゃなかったよ。」

「ミカンちゃん、コイツも謝ってるから許してやってね。」


ミカンちゃんはカレンとアリサさんの言葉に頷いてくれた。


「はい、毎度!ミカンちゃんにハートのワッペンをプレゼント!今度は時間のある時に来てね。待っているから!」


アリサさんの騒がしい声に送られて店を出る。ミカンちゃんの手には薄いピンク色の毛布が大事そうに抱えられている。笑顔になりそうなのを我慢しようとするミカンちゃんを目撃した俺は、微笑ましく2人を眺めた。






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