ミッション モンスターハウス
誤字修正と文書間に空白の追加をしました。
内容に変更はありません。
騎士が他の2パーティにも金貨の入った袋を渡し終わると、テオドルスはテントもそのままに先頭で歩きだした。
「カレン、今回のモンスターハウスはどんだけヤバイんだ?実質3パーティもいれば余裕だろ?」
「だから、知らないわよ。」
すると先程、イヴァンと話していた女性がカレンに話しかけてきた。
「私はフランシスカと申します。イヴァン様にダンジョンのイロハを教えて頂いておりました。イヴァン様にお話を伺ったところ、今回のモンスターハウスは大変異常との事でした。」
フランシスカはカレンを正面に見据え、真剣な表情で話しを続ける。
「皆様もご存知かと思われますが、通常のモンスターハウスは多くても20匹前後との事でした。ですが今回は見渡す限りのモンスターで溢れていました。数はただただ多いとしか。」
「だけど、ゴブリン程度なら騎士なら余裕では?それとイヴァンさんがいれば」
「この7階層以下のヒーターワームやコボルトにビートルといった虫もいました。イヴァン様の事ですから、1人なら大丈夫と思われますがテオドルス伯爵様やお仕えの騎士様や採掘者の皆様を守ろうとなさりますわ。」
「そうなればイヴァン様も危ぶまれます。」
フランシスカは俯き、声を絞りだす。
「私がイヴァン様にご無理を言って、ダンジョンに連れて来て貰いました。私は見ての通り力はありません。ダンジョンにもコインにも興味はありませんでした。」
フランシスカは涙を我慢しながら続ける。
「お父様の所へダンジョンの報告にいらした、イヴァン様の冒険のお話を毎回楽しみにしていました。
いつかはそのダンジョンでの御姿を、一目だけでもこの目でと思っていました。」
「そのおりに、ここにいるエドワードがイヴァン様にダンジョンの手解きを受けたがっているとの話を耳にしまして、私が父上にお願いをしまして、今回のダンジョン探索となりました。」
フランシスカは涙も気にせずに、カレンを見据え言葉を紡いでいった。
「イヴァン様はお優しい方です。私のワガママに付き合って下さり、今回は私のワガママの後始末をなさるおつもりです。」
「だけれども、私は追いかける事も出来ませんでした。それが悔しいです。」
カレンは正面からフランシスカさんを見据え諭す様に伝えていく。
「フランシスカさんは、ダンジョンがモンスターハウスがどんな物か分かっているから、怖いんだよね。」
カレンはフランシスカに問いかけ、フランシスカは質問の意図は掴めないまま、頷き答える。
「ええ、怖いです。自分が死ぬのも、イヴァン様がいなくなってしまうかもしれない事も怖いです。」
「じゃあ、イヴァンさんの教えは伝わっているわね。いい教え子みたいね。」
「え?」
カレンはフランシスカに笑顔で伝えていく。
「ダンジョンって怖いところなの。英雄のお話はカッコいいけど、本当のダンジョンってそんな事ないの。どんなに気を付けていたって、どんなに頑張ったって、どんなに強くたって運が悪かったら死ぬのよ。」
「だから、私達は恐怖しながら、迷いながら、助け合いながら、慰め合いながら進むしかないの。採掘者だから。」
「イヴァンさんは貴女たちに、きっとそれを伝えたかったと思うの。だから、貴女はきっと合格よ。」
フランシスカはカレンの言葉を聞くと、カレンへ抱きつき嗚咽を漏らした。
しばらくして、フランシスカが落ち着いて来た時カレンは俺たち8名に向かい告げた。
「イヴァンさんの依頼通り地上に帰還するわよ。」
フランシスカさんは仕方がないと落胆しているのが目に見えていた。俺たちも10階層はお預けになっている。イヴァンさんの依頼だ少し名残惜しいが帰還する事にした。ただ帰りも安全ではなくダンジョンからの帰還だ。行きと同様の危険は伴う。
「じゃあ、戦力の把握といきましょうか。フランシスカさん達はメイジ?剣士?」
「それは私から説明いたします。私フランシスカともう1人の女性ユリンはメイジです。風の精霊を有しています。男性2人のエドワードとアレックスは剣術の訓練を受けています。それぞれ火の精霊と地の精霊を有しており、簡単な魔法なら4人とも使用出来ます。」
それから、4人に魔法の腕を見せて貰ったが初期のカレンを見ている様だった。俺たちは4人を列の中央に入れ保護しながら進んで行く事にして、6階層への階段へ足を踏み出した。
「ぴろりろーん!」
(ミッション モンスターハウスへ突入せよ 制限時間 1800)
「ミッション モンスターハウスへ突入せよ。 だってよ。どうする?」
「なによ!結局なの?!」
「仕方ないですわね。」
「こんなにミッションを嬉しく思った事はない。騎士として最高のミッションだ。」
「カレンちゃんも本当は行きたいです。」
俺たちは今来た階段を振り返り、まだ見ぬモンスターハウスを見据えた。
モンスターハウスへ突入という単語を聞き、それまでジッと黙っていたフランシスカは頭を可能な限り下げて言う。
「私はイヴァン様を助けたいです。だけどその力が有りません。どうかご助力を頂けませんか。お願いします。」
「俺もフランシスカと同じだ。イヴァン様を助けたい。」
カレンは2人の言葉で4人が頭を下げ続けるのをジッと見つめた後で声を掛けて来た。
「アンタ、話は聞いていたでしょ。そろそろ出番よ。ヘンタイポーター」
「痛っ。だから蹴るなよ。大丈夫だから、聞いていたから。」
「どちら様ですの?」
フランシスカさんからの尤もな質問だった。それからカレンは俺たちの事を紹介していった。
「カレン、彼女達に口止めは可能か?」
「アンタ何か、思いついたの?何をするつもりよ。」
「スマホ。」
「え?分かったわ。聞いてみるわね。」
その場にみんないる前での口止めの相談だったので、フランシスカさんらは多少引いてはいるが、イヴァン達を助けられるかもしれないと言う僅かな期待のが大きくフランシスカの心を占めていた。
「えーと。今聞いた通りですが、うちのヘンタイポーターがある秘密を使って何かするらしいわ。それでその秘密を口外しない事を約束頂けますか?」
「そちらの方が今からする事を、口外しなければ宜しいんですね。分かりました。」
フランシスカさんは即決だった。他の3人も不安に感じながらもイヴァン様の為にと口外しない事を約束してくれた。
カレンは俺に頷き、俺はポケットからスマホを取り出し電源を入れた。
「カレン、部屋の端にファイアを頼む。」
「分かったわ。ファイア。」
ゴウと言う音と共に、熱風が押し寄せる。その発生源である火柱は床から天井を貫くかの様にそびえ立っていた。
「これがウチのパーティのファイアの魔法だ。凄いけど、実はカレンの魔法は最近まではフランシスカさんと変わらない威力だった。」
ここでカレンを見る。
「ええ、そうよ。ソイツの言う通りよ。」
「その為にカレンがした事は1つだけ。精霊に魔法の正確なイメージや現象を伝えた事だけだ。」
「だけど、アンタ私以外には伝えられなかったじゃない。どうするのよ?」
カレンは俺の説明にツッコミをいれる。視界の端ではミカンちゃんが頷いているのが見えた。
「それでこのスマホの出番です。俺の出来なかった事を丸投げします。」
準備していたスマホを取り出して見せる
そこに映し出される映像や音楽にフランシスカさん達は釘付けになった。
それから俺はミッションの時間の許す限りにスマホにダウンロード済みだったアニメや映画やゲーム動画の魔法ぽい所をかいつまんで流して行った。
カレンは炎のエフェクト中心に、フランシスカさんは巨大な竜巻が主題のパニック映画を繰り返し見ていた。
また動画再生を繰り返す都度、何回も同じ説明を求められた。美少女2人に積極的に話かけられるのは嬉しいが、なんだかカレンが2人に増えた気がして非常に疲れた。またカレンは動画を指差し目を見開いて早口に
「炎の龍とか虎とかヤバイわね。火の鳥もカッコいいわね。」
といいながら、ドラゴンやタイガーやフェニックスの形の炎を作っていた。まあ、ファイアボールの形が変わっただけだと思えばそれ程驚く事ではないが、新入りの4人はしっかり驚いていた。
なお使用方法はファイアボールと同じで、手元で炎のトラ作成して目標まで走らせて炸裂させている、ただの見掛け倒しと言えばそれで終わってしまうが威力はそれなりにあるのだろう。カレン本人が良いならいいかと言う程度の事だ。
それはさておき、今回は実に喜ばしい事が有った、それはミカンちゃんがパワーアップしたのだ。カレンのタイガーやフェニックスを見てミカンちゃんはすぐに真似をした。いろいろと試行錯誤を繰り返してミカンちゃんは巨大な2足歩行の猫人形を土で作り上げていた。
その猫人形はデフォルメされた猫の顔に3頭身の直立した身体と尻尾があり、ミカンちゃんはその猫人形を「ハーちゃん」と読んでいた。そしてその猫人形はミカンちゃんの命令通りに動いていた。ミカンちゃん、それは多分猫ゴーレムなんだと思う。
一方でフランシスカさん達もカレンの炎のトラやミカンちゃんの猫ゴーレムに驚きつつも、風の魔法で巨大な竜巻を作り出したり、カマイタチの様な見えない刃を作り出していた。さらにフランシスカさんで特筆すべきは気圧を理解した事だと思う。
「こうしてですね。ある範囲の気圧を急激に高めてやればグチャってですね。」
うわ!ウチのカレンより怖いわ、この子。
俺はフランシスカさん達の魔法の強化は実のところは期待してはいなかった。こちらのパーティの魔法の威力の底上げをスマホの動画で何とか出来きたらと考えていた。
だからフランシスカさん達の成長は嬉しい誤算だった。戦力は少しでも多い方が良いに決まってる。
俺は目の前に映し出されている、ミッションの残り時間を確認すると、もう300を切っていた。
「カレン、そろそろ時間だ。イヴァンさん達も心配だ。移動するぞ。」
「ええ、分かったわ。フランシスカさんもいいわね。」
「はい、カレンさん、ヘンタイポーターさん、準備はできましたわ。」
何かがおかしかったが、時間がないので割愛する。
俺たち臨時パーティは部屋を出て、モンスターハウスに向け通路を無言で走って行った。少しだけ息が上がるくらいの距離でモンスターハウスの扉の前に到着した。その扉は閉じられており、中の様子をうかがい知る事は出来ない。
打合せ済みの作戦は単純だ。俺とタリリがドアを開け、イヴァンさんらの場所を確認して、その場所以外を魔法で殲滅する、あとは個別に各個撃破と言う作戦になった。
この作戦の要はイヴァンさんが伯爵を含めて、全員を纏められているかにかかっている。各パーティ単位もしくは各個人で散り散りになっていては、このモンスターハウス攻略前に多勢に無勢で各個撃破の対象となり最悪の運命しか残らないと思うし、きっとイヴァンさんもそう考えたから合同パーティーを提案したと思う。
「カレン、開けるぞ!」
「いいわよ。やって。」
タリリと俺は扉を開けはなつ。部屋の中はまだモンスターで一杯だ。イヴァンさん達はどこだ。左手前の角でバカ伯爵を中心に全員が固まっているのが見えた。よし、チャンスだ。
フランシスカがイヴァンさんに向き叫ぶ。
「イヴァン様、皆さまは全員そちらにいらっしゃいますか!」
「フランシスカ!何故ここに?!」
「イヴァン様、時間がありません。皆さまはそちらに?」
「ああ、何人かケガはしているが、皆ここにいる。」
「イヴァン様、分かりました。ありがとうございます。カレンさんでは。」
フランシスカの声を合図に9人は魔法を発動させた。カレンの炎のトラがモンスターを焼きながら走り、ミカンちゃんのゴーレムが腕を振るうたびにモンスターが飛ぶ。
フランシスカの気圧の魔法は部屋の右奥のモンスターを全て圧殺した。マリリさんの地魔法は単純だった。右手前の空間全てが石で満たされた。その中にいたモンスターがどうなったかは想像に易い。
タリリはイヴァンさんらに襲いかかるモンスターを風を纏ったショートソードで次々と吹き飛ばしていた。ユリンの竜巻やアレックスの火柱が上がっているのも見えた。
みんなが活躍する中、俺は片方だけ扉を開け続けている。扉に近づくモンスターにはレーザーの連射で時間を稼げは、カレンかミカンちゃんが始末してくれた。
俺たちが突入してわずか10分位だと思う。最後の方はモンスターがまばらだった為に時間がかかっていたが。
「良し、モンスターハウスの大掃除完了ね。」
「ハイ、カレンさん。ありがとうございます。」
カレンがパンパンと手を払いながら言うと、フランシスカさんはカレンにありがとうと伝え、お互いに笑い合っていた。この2人は元気だな。
あちらさんはイヴァンさんを除き皆、床に座り込んでいる。お疲れの様だ。イヴァンさんはモンスターがいなくなった事を確認するとこちらへ1人歩きだした。
「申し訳ありませんでした。今回ご依頼は遂行出来ませんでした。」
「イヴァン様、カレンさんは悪く有りません、私がお願い致しました。」
カレンとフランシスカさんは共にイヴァンさんに頭を下げ謝罪する。
「お嬢さん、契約違反は了承した。実際俺たちは伯爵が負傷してからは防戦一方だった。助かったよ。お嬢さん達がまさかこんな強いとはな、アザレアだから初心者パーティと判断した。すまなかった。」
そう言いながら、イヴァンさんは俺達パーティの装備品を再度見回していた。たしかに俺達は装備も経験的にも初心者だ。イヴァンさんの見立ては全く間違っていない。
すると、イヴァンさんはカレンとフランシスカの肩に両手を掛け話し始めた。
「ウチのフランシスカ達がおかしな魔法を使ってた気がするんだが、お嬢さん何か知らないかな。」
カレンとフランシスカはイヴァンさんを挟んで顔を見合わせる。コイツら派手に使ってたからな、誤魔化す事忘れてたんだな。
「私は普通の火の魔法でしたわ。ハハハ。」
「イヴァン様、私も普通の風魔法でした。ホホホ」
「そうか?俺には炎のトラが走ったり、フランシスカが指差した辺りのモンスターが纏めて潰れた様に見えたが。」
バッチリ見られていますな。リーダーどうする?
「「う!」」
2人して策なしかよ。仕方ないな。モンスターを全滅させた為、開けて置く必要が無くなった扉から手を離し3人に近づく。
「初めまして、ポーターのカケルです。その件ですがウチのパーティの極秘事項でして、教える代わりに口外しない約束をして頂きました。ですから、お伝えすることは出来ないんです。」
「ポーター?ああ、階段横で寝たフリをしていた君か。では1つだけ聞くが、フランシスカ達に薬や魔石などは使用してないか、その副作用はないか?」
「はい、そのどちらも使用していない事はお伝えしておきます。」
「それなのに、この短時間であれだけの魔法をか。にわかには信じられないな。」
「イヴァン様、私からもその事は確かと明言いたします。私フランシスカをご信用下さいませ。」
「それに私はイヴァン様の助力無しでは、ここより帰る事は叶いません。この後も引き続きよろしくお願いします。」
そう言ってフランシスカはイヴァンに頭を下げた。
イヴァンは一度困った素ぶりで頭をかいたが、その手でフランシスカの頭を優しく2度ポンポンと叩いた。フランシスカは顔を上げイヴァンの顔が優しく微笑んでいるのを見て、釣られて微笑んだ。
「イヴァンさん、すみませんが俺たちはバカ伯爵が元気になる前に10階層を目指します。絡まれると不味いんで。」
イヴァンさんはこっちを見てはまだ消化不十分な顔をしているが、渋々と言った感じで
「ポーターさん、お嬢さん、ではこちらはこれから地上を目指します。それでフランシスカはいいですか。」
「はい、イヴァン様宜しくお願いします。カレンさん王都にいらした時は声を掛けて下さいね。門兵には伝えておきますから。是非御礼をさせて下さいませ。」
フランシスカの鈴の音の様に弾んだ声が、部屋に響いた。
「え?門兵?王都?」
「カレン、行くぞ。」
「分かったわ。待ちなさいよ。」
俺たちは実に慌ただしく8階層へ降りて行った。
「あー、アンタ。コイン収集したの?」
「げ!ヤバイ、すっかり忘れてた。すまん。」
コイン採掘者なのにコイン収集を忘れた事実にショックを受けながらも8階層を俺たちは目指した。




