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ミッション テオドルス

6階層ではまるで、おばけ屋敷の様にゴブリンスケルトンに待ち伏せされ、手痛い洗礼を受けた為に、その後の俺達パーティはビクビクしながら進まなければならなかった。


「カレン、ビビってるだろ?」

「何よ。ヘンタイのクセに。」

「カレン、ただ私も時間がかかり過ぎてると思う。」

「そうですわね、暗闇続きで皆さんずいぶんとお疲れになってますわ。」

「そうね、早く7階層へいきましょ。みんな、もうちょっとだけ頑張って!」


それから30分程歩くと、通路の先に灯りが見えた。その灯りはボス部屋の扉に埋め込まれた石が発光しており、ボス部屋の装飾を浮かび上がらせている。


「着いたー。」

「長かったわね。」

「カレンさん、お願いしてもよろしいでしょうか。」

「ええ、早く終わらせましょ。」


タリリと俺はボス部屋の扉に手を掛けた。扉から5メートル離れてカレンが立った。カレンの横にはミカンちゃんが控えている。マリリさんはミカンちゃんの反対側に位置している。


「準備はいい?」


皆口々に準備完了の合図を返す。


「開けて!」


俺とタリリは渾身の力で扉を全開にする。それを見たカレンは杖を持った右手を前に伸ばす。


「ファイア!ファイア!ファイア!」


やはり室内は暗闇で魔法陣の灯りも無い、その為にボスの位置が分からなかった。よってカレンは適当に予想を付けた場所を中心に奥と手前の3カ所にファイアを着弾させてボスのゴブリンスケルトンジャイアントの場所を確認するつもりだった。


「流石はカレンさんですわね。」

「初弾命中か!」

「ホネホネ終わりです。疲れたです。」

「ビビり娘、ビンゴだ!ナイス!」


カレンの適当に出現させた1発目のファイアの火柱が見事にゴブリンスケルトンジャイアントに直撃し、塵も残さずの言葉通りに跡形も無く燃やし尽くした。


「あー疲れたわ。7階層の最初の部屋で早く休みましょ。」

「賛成だ。」

「疲れましたわ。」


コインを回収した後、俺達は足取り重く階段を降りて行った。すすむに従い徐々に明るくなって行き、1階層と同じ明るさになった。


7階層の最初の部屋はかなりの広さがあったが、既に4つのパーティが陣取っている為に部屋が狭く感じられた。それぞれの角には3パーティが焚き火を囲んでいる。また部屋の中央には部屋を狭くしている原因の大きなテントが張られている。


「アンタあのテントには近づかないでね。例の奴だから多分。」

「それが賢明な判断ですわ。あのテントは魔物よけ付きの超高級品です、一般の方では無い事だけは確かですわ。」

「カレンリーダー、了解であります。」


俺も疲れたから早く休みたい、わざわざちょっかいをかけに行く程、子供では無い筈だ。


「私たちは階段横のここにしましょう。アンタも疲れてるだろうけど、準備をお願い。」

「ああ、それが仕事だからな、構わない。」


俺は皆の分の寝袋を先に渡して行く。寝袋とは言っても日本のマミー型や封筒型と言った軽量なシュラフでは無い。カレンがみんなの為に毛布に紐をつけて筒状にして使える様にした寝袋だ。ミカンちゃんの寝袋にはカレン手製のデフォルメされたウインクしている猫の刺繍が特別にされている。ミカンちゃんのお気に入りだ。宿屋でもこれで寝たりするらしい。本当に仲の良い姉妹の様だ。それから貴族と違い俺たちはテントは無く寝袋だけだか、アザレアダンジョン内では雨の心配はないので、これで十分だ。テントなんて嵩張るから大変だ。

みんなは寝袋を座布団がわりに敷き、俺の用意した薪の回りに輪になっている。


「火をつけるわよ。」


平たく積んだ薪に火を着けてもらい、俺は鍋の蓋を取り、あらかじめ具材だけを入れて置いた鍋に水を入れ蓋を戻して薪の上に乗せた。干し肉と野菜のスープだ。後はパンを手渡していく。今日のパンは宿屋でも出る普通のパンだ、その代わりに日持ちはしない。みんな腹が減っていたのかパンだけを先に食べている。ようやくして鍋がぐつぐつと煮立ってきたので、コップに取り分けみんなに配っていく。


「いい匂いね。ありがとう。」

「熱々でふ。おいひいでふ。」


ミカンちゃん、熱いならゆっくり食べてと思いながら、俺もスープを口にする。ああほっとするな。


みんなの表情には疲れは見えるが、目には力が残っている。初めて単独パーティで7階層まで来たのだ。充実しているし、10階層に向けてのヤル気もあるのだろう。


「今日はみんな寝ましょう。魔除けのテントもあるし大丈夫よ。基本的に7階層はトラップ系だから、モンスターの徘徊は少ないらしいから。」

「もし、入って来ても他のパーティがいるから、きっと大丈夫よ。ここは一番奥だから。」


カレンはそう宣言すると寝袋に入り横になった。その横にミカンちゃんは寝袋を並べた。それぞれが食べ終わると横になった。それの事件が起きたのは俺も少し眠ったかと言う時間だった。



若い貴族の怒鳴り声で、パーティメンバーは強制的に起こされた。


「何故、足留めをされなければならない!我慢ならん、今からモンスターハウスを抜けるぞ!」

「テオドルス様、我々の戦力ではあのモンスターハウスは突破出来ません。このテントの持ち込みを依頼した採掘者に、増援の伝言を頼んでおります故、今しばらくお待ちください。」


騎士が必死に引き留めを行なっている。声からするとあの嫌な貴族だ。テオドルスと言う名前らしい。奴が足留めをされているモンスターハウスとは、ある1室にモンスターが異常な程、大量発生しその全てを倒さないと出口のドアが開かないトラップの1種だ。今回は入口は出入り自由らしい。根拠はコイツらがモンスターハウスの現状を知ってる事だ。出入り自由じゃなければ現状を知っても、死んでしまって帰って来れないはずだからだ。ただ凶悪な物は入った時は空部屋だかパーティが入室後に出入口をロックしパーティの脱出を不可にした状態でモンスターを大量投入するモンスターハウスもあるらしい。もちろん致死性のトラップだ。


「うるさいわね。目が覚めたじゃない。」

「なあ?ここ初心者ダンジョンだろ?騎士が4人もいて突破できない事有るのか?」

「そこがおかしい点よね。今までの情報なら余剰戦力よ。だいたい10匹ぐらいって聞いてるわね。」

「なんだよ、また異常事態でダンジョン閉鎖にならないよな?」

「そんなの、知らないわよ。」

「私は誰かが奥から引っ張って来たのが溜まった可能性もあると思っている。残念な話だかな。」

「出口は奥からは開くのか?なら倒さなくてもタイミングさえ合えばクリアできるんだな。」

「ああ、タイミングが合えばな。」


流石は初心者ダンジョンだ、罠も脇が緩い。


「明日には増援は来るのか!」

「いえ、それは無理かと思われます。」

「ダメだ!ダメだ!それではカペル奴の鼻を明かす事ができないではないか。奴よりも先にダンジョンを攻略するのだ。」


木製の何かが音を立てる、思い通りに行かないのを騎士と物にぶつけているようだ。


「何か案は無いか!」

「騎士の到着をお待ち頂くのが、最善かと思われます。」

「駄目だ!最善では無い、最短だ!!」

「あーそうだ、良し!この際だ採掘者を使うぞ。アイツらなら、どうにでも出来る。フハハハ。」

「おい、金貨を準備しろ。」


おい、バカ貴族全部聞こえてるぞ。他のパーティも露骨に嫌な顔をしている。10万円や20万円貰って死ぬかもしれない所に行くかな?まあ、ウチのパーティなら入口が開閉自由ならカレンのファイア連発で楽勝な気もするが。


小声でカレンに聞く。


「入口の出入りが自由なら、1匹づつ倒せば楽勝じゃないか?何故やらないんだ?」

「それは誰かが、外から開けば自由よ。内側からは開かないわよ。」

「外からの遠距離攻撃は?やばくなったら閉めればいいし。」

「部屋中のモンスターが一気に流れ出る可能性もあるわよ。そうしたら扉を閉める余裕あるかしら。」


あれ?タリリの言ってた奥からのモンスタートレインの牽引パーティは中からは扉を開けられないなら、どうなったんだ。また、今8階層以下にいるパーティが戻って来てしまったら、大参事じゃないか?


「カレン。10階層まで行ってボスを倒したら、専用の出口は有るか?地上直通の?」

「聞いた事は無いわね。」

「じゃあ、今8階層以降のパーティが地上に戻るにはそのモンスターハウスを通る必要があるんだな。」

「そうなるわね。」

「そのパーティが知らずに入ったら、こっちから開けてやらないとヤバくないか」

「最悪、全滅ね。」

「中からの合図は聞こえるのか?叫んだり、扉を叩いたりしたら。」

「多分、無理ね。」


テントの入口から騎士が出てくるのが、音から推測された。


「アンタは下を向いて寝たふりをしてなさいよ。」

「わかった、カレンすまん。」


騎士は入口の左角のパーティに声をかけた。


「ただ今より、当採掘者パーティをウルベース伯爵家の私兵団として徴兵する。」


「騎士さんよ、話聞こえていたぜ。俺らのパーティだけで死にに行くなんてゴメンだぜ。」

「俺たちも死にたい奴はいないな。だからここで待機しているんだ。へへへ。」


右角のパーティは聞かれる前に答えた。俺は寝たフリをづつける、カレンはわざわざ巻き込まれる真似はしないのか黙っている。2パーティが回答したところでテオドルスがテントから出てきた。


「貴様らには拒否権はない、現時点より戦時中として伯爵権限で徴兵を行うのだ。貴様らは傭兵では無いのだから金貨が貰えるだけでも、有り難いと思う事だ。逆らえば死罪だからな。ハハハ。」


テオドルスはどこかの貴族のボンボンかと思ったら、伯爵様ご本人かよ。若い事も驚いたが、伯爵にそんな権限がある事にも驚かされた。


「次は、そこの奥のパーティのお前らだ。」


奥って事で身構えたが、違うらしい。奥のパーティのリーダーは金髪を後ろで束ねた、無精ヒゲの40代後半の男だ。他のメンバーに比べて年齢的に浮いてる。他のメンバーの男女は10代後半から20代前半の4名だ。無精ヒゲの男は伯爵と告げられたにも関わらず、無愛想に話し始めた。


「2つ条件がある、先の2パーティとアンタの騎士様と合同ってのが1つ、ああそこのお嬢さん達は足手纏いだからいらねぇ。」


カレンが口を開きかけたが、その男にウインクで合図され口を閉じた。


「もう1つは、俺のパーティからは俺だけが参加する。他のメンバーはそのお嬢さんパーティに地上まで送ってもらう事が条件だ。」


男性のパーティの1人が叫ぶ


「イヴァンさん、そんな1人でなんて。」


釣られて女性も


「イヴァン様、私が父上に話をしますので」

「すまんな、途中で依頼を放棄する形になっちまって。」


イヴァンは頭を掻きながら、2人にそう言うとカレンに向かって話し掛けた。


「魔法使いのお嬢さん、アンタがリーダーだろ?すまんが頼まれてくれないか。コイツら4人死なせる訳にはいかないんだ。頼む。」


頭をカレンに向かって男は下げている。


「ええ、分かったわ。アザレアの街まででいいの。」

「ありがとう。それで十分だ。」

「イヴァン様、待ってくださいませ。」


イヴァンはテオドルスに向かい無精ヒゲを撫でながら話しかける。


「伯爵様どうする?条件を飲むか?俺はそこいらの騎士より強いぜ。」


騎士等は男より弱いと言われた事で、興奮しどよめいた。


「あーすまん、アンタらの事じゃない。昔、王国騎士団の団長してた時、下の奴らがヘナチョコばかりで苦労したってことだ。」


男は悪びれた様子も見せずに、騎士達へ簡単な謝罪の言葉を送っている。テオドルスはその話を聞き


「貴様以外の奴も、あの女子供だけの奴らも戦力にはならぬな。まぁいいだろう。そうか、王国騎士団か。」


テオドルスは呟きながら、2、3回頷くと


「よし、今から突入する。」


そう宣言した。


「交渉成立だな。金貨は貰うぞ。」


そう言うと、イヴァンは騎士から受け取った金貨の入った袋をそのままカレンに手渡した。


「依頼料だ、頼む」

「分かったわ、ただ依頼料が多過ぎるから、お釣りを必ず取りに来なさいよ。」

「ありがとな、お嬢さん。」


そう言うと、パーティに背を向けテントの方へ歩いて行った。それを俺たち9名の臨時パーティは言葉も無く見送った。


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