ミッション スケルトン
階層のボス部屋に入ると中央にゴブリンジャイアントが1匹俺たちを待っていたかの様に立っている。体長は2メートル程で通常のゴブリンよりも胸板も厚く、大きい。胴にはシルバーのプレートメイル、頭部と顔の側面を保護する同色の兜を被っている。ボスは俺達の姿を見つけると手にした両手剣を振り上げ、雄叫びを上げたのだった。
「グァオオオーー!」
「煩い、ファイア。ファイア。ファイア。」
ゴブリンジャイアントは雄叫びと共に、3本の火柱に包まれて消滅したのだった。ゴブリンジャイアントが不憫に感じる、何も無い部屋にいて漸く敵が来たから雄叫び上げて頑張るぞってタイミングで瞬殺だからな。
「さあ、コイン回収して6階層に行くわよ。どんどん行きましょ。」
「次もゴブリンだったよな。確かゴブリンスケルトン。」
「そうよ。ゴブリンスケルトン。でボスがゴブリンスケルトンジャイアント。」
「1つ聞いていいか?スケルトンって骨なの?身体が透明で透けているの?どっちだ?」
「そんなの常識じゃない。どっちもよ。骨だから、隙間から向こう側が透けて見えるわ、だから両方よ。」
透明ってのは伝わらなかったが、骨なのは確認できたから良しとしよう。
「俺、こっちに来て会いたかったモンスターの1つに会えるよ。出来ればゴブリンじゃなく、普通のスケルトンが良かったんだけどな。」
「会いたかったってアンタ。スケルトンよ。」
「カケルさんは、スケルトンを見た事が無いのですか、それは珍しいですわね。」
ゲームや小説の中なんて言えないな。
「ああ、実際には見た事無くてさ、スケルトンって
骨だけだろ?筋肉も無くてどうやって動いているのかなってずっと不思議だったから。」
「スケルトンは普通に動いていますわね。私達と同じと思われますわね。」
あれ?同じ?身体の表面が透明なパターンの可能性が出て来た。観賞魚でグラスキャットと言うナマズの透明な魚がいたのを思い出す。そのナマズは確かに骨が透けて見えていた。ゴブリンでそれを再現されるのは好ましく無い、それは生きるグロ画像だ。感動の対面では無いな。是非遠慮させていただきたい。そう思っているとコインの回収が終わってしまった。
「終わったみたいね。行くわよ。」
「あー、まだだ。心の準備がまだだ。」
「何言ってるのよ。高々ゴブリンスケルトンよ。早く行くわよ。」
「引っ張るな、わかったから引っ張るな。」
「ミカンも引っ張る。カケル引っ張る。」
「あー、ミカンちゃんありがとう。一緒に行こうか。」
「あらあら、仲がよろしい様で。ふふふ。」
「痛っ。だから蹴るな。行くから。」
そうして俺たちは6階層に到達したと思う。思うと言うのは部屋の全貌が見えないからだ。6階層始まりの部屋は今までとは雰囲気が違っていた。壁が全く発光していないのだ、階段まではいつもの明るさだったが階段を降りきると完全な暗闇だった。スケルトンだけにホラー路線に寄せて来たのか。
「視界が無いから、特に不意打ちには気をつけてね。アイツら動かなかったら全く音がしないからね。」
カレンの話だけなら骨だけスケルトンだな。だか、透明なスケルトンがランタンで照らされ、暗闇に内臓が浮かび上がるのは最凶に最恐だ。心臓が死ぬ危険性がある。ヤバイきっと変な声が出る。
「ランタンだけじゃ不安だ。光の精霊さん周囲を明るく照らせない?」
「明るくー?ここは力が出ないよー。お休みー。」
「カレン隊長。光の精霊さんが寝てしまいました。」
「精霊が寝るのは初めて聞いたわ。だけどこんな暗闇の中で光の精霊さんが力を出せる訳はないわよ。仕方ないわ。」
「そう仕方ない、だからおれはひ弱なポーターだ。絶対にスケルトンを近づけないでくれよ。」
「え?アンタ、スケルトン見たかったんでしょ?」
「それはスケルトンの種類による。」
「ゴブリンよ?普通のゴブリン。」
「俺はスケルトンじゃないスケルトンが見たいんだ。」
カレンは俺の顔を見て、首を傾げている。
「いるわよ。」
「いるぞ。」
カレンとタリリがゴブリンスケルトンを発見した。
どっちだランタンの灯りで照らし出されるその姿をタリリの横から覗き見ようとした時
「ファイア。」
の声と共に火柱が上がり、詳細な姿も確認出来ないままにゴブリンスケルトンは消滅した。やっぱりこの魔法はオカシイ、カレンもオカシイ、一瞬で骨も残らないなんてどうなってる。確かに塵も残さずとか、火の精霊に頼んでるらしいけれども。
「どうだった?感動の御対面は。」
「一瞬すぎてよく見えなかったな。ボススケルトンまで楽しみにとって置くよ。」
歩いてくるゴブリンスケルトンと何回か遭遇し、その都度ファイアの魔法で消滅させて行った。すると通路の先にランタンの灯りにボンヤリと部屋が有るのがわかった。
「ゴブリンスケルトンの足音は聞こえないわ。タリリはどう?」
「異常は感じられ無いな。」
「マリリさんは、シスター特有のスケルトンセンサーとかアンデットセンサーとかは無いんですか?」
「いえ、私にはその様な特技は有りませんわ。ただ、教会の位の高い司祭様や司教様は主柱や霊魂を感じられるとの話を耳にした事は有りますわ。」
タリリを先頭にミカンちゃん、カレンと続いた時、タリリとカレンは背後の壁際に並ぶ、ゴブリンスケルトンの足音に気づき、カレンは右横を、タリリは左後方を振り返った。ミカンちゃんは前のタリリが左を向いた為に左を振り返った。4匹のゴブリンスケルトンは既にショートソードを振りかぶっている。これがカレンが注意をしていた不意打ちだ。呼吸もせずにただその場に立ち尽くして、何時間でも獲物を待ち伏せるスケルトンならではの狩りの方法だ。既に距離は無くウォール系の魔法による防御はもう間に合わない。4匹はカレンとミカンちゃんへと襲い掛かっている。
「ミカンちゃんは左!」
タリリのラウンドシールドは届かない。ミカンちゃんは左後方から自分へ向かうショートソードは右手のメイスで受け止めた。残りのカレンへ向かうショートソードはどうにか左手のメイスを当てる事ができ、カレンから逸らす事が出来た。一方でカレンは杖を両手で持ちミカンちゃんの背中とショートソードの間へと自らの身体を滑り込ませ、次の瞬間に来る衝撃へ、口を結んで備えた。
(ミカンちゃんは私がまもる。杖がダメなら身体で止める。)
「ぐっ!」
ショートソードが上手く杖に当たり、カレンはその衝撃で後ろへ突き飛ばされミカンちゃん共々倒れそうになる。もう1本のショートソードは身体が飛ばされた事で位置がズレ、右腕の肘当たりに叩きつけられた。
ここで異変に気付いたマリリさんが俺の横を擦り抜け、カレンの側へ駆け寄る。
「ストーン!ストーン!」
通常の10センチぐらいの岩を飛ばす魔法だ。ゴブリンスケルトンの頭蓋骨に当たり、2匹をよろめかせた。マリリさんはカレンの負傷の度合を確認しつつ、再び魔法を唱える。
「ストーン。ストーン。」
今回は上空からの巨岩の落石のパターンだ。質量でゴブリンスケルトンを潰す。同じ頃ミカンちゃんは体勢を崩している為に反撃は出来ないでいたが、そこにゴブリンスケルトンの追撃のショートソードが振るわれる。
「フッ!」
まるでバットのフルスイングの様に振られたタリリのショートソードは追撃途中のゴブリンスケルトンともう1匹をも巻き込んで壁まで吹き飛ばした。
俺はと言うと何も出来ないでいた。入口入ってすぐの場所に4人が固まっている事もあり大きな背負い袋を背負ったまま入るスペースを探せないでいた。
「フッ。」
「えい。えい。」
壁際で立ち上がりかけていた2匹のゴブリンスケルトンにタリリとミカンちゃんの攻撃が決まり、頭蓋骨を破壊した。
一方でマリリさんのストーン2発は1匹は頭部に当たりそのまま押し潰していたが、残りのゴブリンスケルトン1匹はショートソードを振りかぶっていたために、その腕に当たり頭部への狙いは逸れてしまっていた。
「ファイアボール。」
カレンの杖先から放たれた火の玉は青白く、他の火の玉と比べると揺らめく炎など無く、まるで流れ星の火球の様にゴブリンスケルトンの頭蓋骨へ飛んで行き、顔面で火球は炸裂した。火球にはある程度の質量もあるようでゴブリンスケルトンは仰向けに倒れている。カレンとマリリさんは追撃の精霊への合図を口に出しかけて中断した。倒れたゴブリンスケルトンの顔面は陥没しており、動いていなかったのが理由だった。
「念のため。ミカンちゃんお願い。」
カレンは顔面の陥没したゴブリンスケルトンへ、メイスの追加を依頼し、ミカンちゃんはゴブリンスケルトンの頭蓋骨を粉砕した。
「すまん、大丈夫か?」
背負い袋からポーションを出しながら、カレンに聞く。
「大丈夫よ。護符の効果も残ってるしケガは無いわ。」
カレンは手を軽く振り、ポーションは不要と身振りで伝えてくる。守り護符の効果で負傷者は出なかったが、今回はかなり危なかった。それはパーティのみんなも痛感している様だった。
結局はその部屋のゴブリンスケルトンは入口の4匹のみだった。いまは部屋の中の確認を終えて中央に集まっている。
「今回は私のミスよ。スケルトンの不意打ちの危険性は知ってたのに、それまでのゴブリンスケルトンが全て音を立てて歩いていたから、注意が甘くなったわ。ごめんなさい。」
「私も部屋に入って直ぐに、左右の確認していれば良かったがランタンの灯りが届いていなかったので、それ以上の確認を怠ってしまった。すまない。」
「俺なんか、何もしてないし。」
「カレンちゃん、ありがとう。ミカン庇ってくれた。」
「ミカンちゃんもありがとう、守ってくれるって信じてたわ。」
会話もスルーされ、再度会話に入るタイミングを掴めないままでいた。
「良し!誰もケガしなかったから、ラッキーって事で先に進みましょう。急がなくていいから慎重に行くわよ。」
「あー、他のパーティがいなければ、ファイア撃ちながら行くんだけどね。」
「いい案だか駄目だな、あの貴族ぐらいのファイアボールならケガで済むがカレンのファイアでは消滅してしまうぞ。」
カレンのトンデモ案に律儀にも回答をタリリは返している。その後通路奥から1匹のゴブリンスケルトンが現れたが、カレンのファイアで消滅させられていた。
しばらく歩くと扉がある、ただボス部屋を表す豪華な装飾は無い。
「また部屋ね。灯りの代わりに私がファイアボールを投げ込むわ。その灯りで確認しましょう。」
「威力は弱めで、天井に頼むな。」
「どうしてよ?」
「万が一意識の無い、採掘者が倒れている可能性もあるなって。」
「分かったわ。」
タリリと俺は両開き扉に手を掛けて、カレンを見る。
「準備はいいわよ。お願い。」
その声に合わせて、一気に扉を開けた。
「きゃああ!」
カレンの悲鳴が上がる。扉の前にはゴブリンスケルトンが短剣を突き出そうと短剣を引いていた。 この距離ではファイアボールは使えない、近過ぎるからだ。目の前のゴブリンスケルトンでファイアボールが炸裂したら、味方にも被害が出てしまう。
「カレン、来い!」
「え!」
俺はカレンが杖を握り、前に出していたカレンの手首を右手で掴んで引き寄せた。当然カレンは俺の胸に飛び込んで来る型になるので体を使って受け止めた。
ゴブリンスケルトンは短剣を突き出したが、誰も傷つける事なく空を切った。ただ次の瞬間にはミカンちゃんが前に出て、ゴブリンスケルトンの腕を短剣諸共叩き折り、衝撃で退けぞるゴブリンスケルトンの前にストーンの岩石を出現させ、それを左のメイスで叩く事でスケルトンのあばら骨を粉砕するという一連の流れをミカンちゃんは瞬時にやってのけた。
「ミカンちゃん、ナイス!」
「カケルもナイスです。カレンちゃんドキドキです。」
「「え?!」」
ミカンちゃんの言葉で、俺とカレンは我に返って自分達の状況を見る。俺はカレンを背中から抱きしめていた。俺は慌てて手を離す。
「ア、ア、アンタは!」
「す、すまん!」
カレンはサッとミカンちゃんの後ろへ回り、独り言の様な声で
「ミ、ミカンちゃん、ドキドキなんてしてないから。」
「あれ?ミカンは急にゴブリン出てきて、ドキドキです。」
「え?そっち!そうよ、そうね。ゴブリンにはドキドキしたわ。」
「カレン、ファイアボールを頼む。」
カレンはタリリの声で冷静さを取り戻し、部屋の中へ3発のファイアボールを打ち込んだ。その天井からの灯りで部屋には4面の壁それぞれに扉があり、その扉にはゴブリンスケルトンが1匹づつ待機していたのが見えた。短剣を引いた体勢のままで。
「ファイア!ファイア!ファイア!」
カレンは少し八つ当たり気味に、魔法をゴブリンスケルトンへぶつけていた。




