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ミッション 謎の人影を退けろ。

俺は階段を登りつつ、もう一本のポーションを飲み干していく。ポーションは残りが2本、武器は持ち手だけの刃の無いショートソードのみ、護身用のナイフは投げてしまった。残りの攻撃手段はラウンドシールドで殴りつけるぐらいだ。夜の帳も降りてしまっている為に光の精霊の助けも見込めない結構ピンチな状態だ。


「ストーン。」


対して遠くない位置からマリリさんの声が聞こえる。俺は階段を登るスピードを早めその姿をいち早く確認しようと急いだ。


床に突き刺さる岩石をすり抜けて、人影はマリリさんに迫っていく想像よりずっと、マリリさんと人影の距離は近い。


「こっちだ!」


俺が声を張ると直ぐさま人影は反応し、振り向いた。その光景に肝を冷やすが恐怖に飲み込まれ無いようにグッと全身に力を入れる。


ジッと影を見据えながら、現状の戦力を考える。ここにいるのは俺、マリリさん、タリリ、エイミーさん、ジェシカさんだ。マリリさんのストーンではダメージは与えられなかった。恐らくエイミーさんの投石も同じだろう。


希望が有るとすればタリリのエアリアルスマッシュだが接近戦は奴隷たちの怯え方から考えると、非常に危険な香りがプンプンとする。とても試せるレベルじゃない。


「カケル、代わるぞ!」


(外まで頼む。)


(タリリ最短距離で来ます、注意を。)


「任せろ、マリリ!」


影を引きつける為なのか、必要以上に大声で叫んでいる。その声に導かれる様に人影は俺から離れて行った。


(カケルさん、あの影何に見えます?)


マリリさんからそんなメッセージが届く、今見えているのはうしろ姿だがゴブリンやドワーフは背の高さから除外する。


(耳の形も特徴的では有りませんから、エルフでは無さそうですね。)


(そのようです、領主が望んでいた場所がエルフの聖地だったのでエルフの可能性を考えていましたが違うように見えましたので。)


どうやらエルフでは無い事も一致した、ではあれはなんなのか、物知りな学者や説明役はどこへ行った。


(カケル返すぞ。)


(了解。)


そんなおり、タリリからもう人影の返却希望がだされた。考え事をしている内にかなりの時間が経ったようで危なかった。


「おい影!!お前は何者だ。何しに来た。」


俺の叫ぶ様な問いかけで、自己紹介を貰えるかと思ったが、残念ながらその意思は無いようだ。黙々と坂を上って近づいてくる人影を俺はロータリーで待っている。


(先に奴隷さん達を助けませんかー。)


(こっちにタリリが居れば、それも出来たんだが。この坂じゃすれ違うのは危険だな。)


(うーん、そうですね。)


そうなのだ、俺とジェシカさんが牢獄に行ってしまうとこっち側で受ける役が不在になってしまう。なんて面倒くさい敵だ。


そしてマリリさんが俺から奴を奪い、人影はまた坂をゆっくりと降りていく。マリリさんは坂の中程にいてタリリは更にその奥、坂の登り口辺りに待機をしている。


「アースステップ」


マリリさんは緑の壁に足場を作ると、トントンと壁の上に登っていく。


「アースステップ」


今度は緑の壁の上に10メートル程の平らな道を作り

坂道から遠ざかっていく。そしてマリリさんを追って人影が壁の中に入ってしまう前にタリリか叫んだ。


「こっちだぞ!相手になってやる!!」


本気かどうか分かりにくい、その叫びに人影は方向転換していく。時間はかかったが、これでようやく坂道の上と下で長距離のキャッチボールが可能になった。声が届かないからマリリさんの中継が必要では有るけれども。


人影がマリリさんを過ぎてから、そろそろタリリの方が近くなって来ている。さすがに山から降ろす訳には行かないので早めに呼び込まなくてはいけない、街の雑踏に誘われて街の中に出てしまったら大変だ。


(マリリさん、そろそろお願いします。)


(はい、では。)


マリリさんが両手のひらを口の脇に立て、メガホンの様に人影を呼びつける。


「こちら…。」


しかし、人影はマリリさんの言葉に振り向きもしないで1歩2歩と進んだかと思うとその姿は次第に薄れていき、3歩目で完全に消えてしまった。


「あら。」


「消えたぞ。」


(タリリ少し退がれ、地面の下とか壁の中の可能性がある。急いで距離を開けろ。)


油断は禁物だ。そこに存在しているが、ただ俺たちには見えないだけの可能性もある。


(何?!そうか。)


(マリリさんは念のため、呼びかけをお願いします。)


「貴方の相手はこちらです!」


何度もマリリさんは同じ言葉を繰り返しているが、奴は現れる様子は無い。


(どうやら、助かったみたいだな。)


(ええ、その様ですわね。何だったんでしょうか?)


未知なる敵から解放されて一気に疲れが出た。おれはロータリーの端の花壇の淵の岩に溜息を吐きつつ腰を下ろした。


(アンタ、もう大丈夫なの?ジェシカさんの声が聞こえないけど、そこにいるのよね?)


ジェシカさん?俺は咄嗟に振り返るが姿は見えない。嫌な予感がして奴隷の牢獄へと走り出す。


(ジェシカさん!)


領主の屋敷の中を走りながらも呼びかける。


(ジェシカさん、返事を!)


地下への階段を2段、3段飛ばしで降りていく。


(クッ?!)


そこには階段の一番下に上半身を寄りかかった姿勢で倒れているジェシカさんの姿があった。


「ジェシカさん!!」


俺は一番下まで飛び下りると、彼女の肩に手を乗せて彼女の名前を呼び掛ける。その瞬間、だれかに見られている様な視線を感じて顔を挙げた。

その先には、人影が老人の胸に苗木の様な物を差し込んだ態勢のまま顔だけをこちらに向けていた。


(影は地下牢に戻っているので注意を、俺はジェシカさんを連れて戻る。)


(ジェシカさんは大丈夫なの?)


(気を失っているだけだと思う。)


呼吸も有るし、触った感じ脈もありそうだった。しかし先ずはジェシカさんを安全な場所に移動させる必要がある。この場所は俺が階上に逃げると影に接触する可能性がある。


ジェシカさんの両脇に手を入れて、脚を引きずったままの仰向けの姿勢で階段とは反対側の通路の端まで引きずっていく。影がそこまで来ていない事を確認すると階段まで全力疾走だ。


人影はまだ老人の胸に3本目の苗木を差し込んでいる。老人は蹲った姿勢で、自らの口を未だに押さえたまま人影を見ている。その顔には痛みがある様には見えない。

また、掴まれている訳では無いから何故逃げようとしないのかも不思議だった。


「おい、逃げろ!」


「バケモノこっちだ!」


俺は鉄格子に手を掛けて、ガムシャラに叫び続けるが老人は動かないし、人影はどこからか取り出した4本目の苗木を老人に刺そうとしている。


助けたいが俺には鉄格子を開ける術がない。周りを見回しても鍵も見当たらない。


(マリリさん、牢屋のカギを探して貰えませんか。)


(はい探してみます。タリリ手伝って下さい。)


「精霊さん、起きてくれ!起きてこの邪魔な奴をどうにかしてくれ!」


願いも虚しく、状況は一切変わらない。俺の声にも人影は反応すらしない。ミッションは?あの老人を助ける為のミッションは出ないのか!


俺が鉄格子の前で喚いている間に、5本目の苗木が差し込まれた。すると1本目の周りから順に老人の身体が灰色になっていく。不味い時間が無い。人影はそれ以上の苗木を刺すことはしないで、その姿勢のまま老人を見下ろしている。


「ファイア。」


ゴウと目の前の牢屋に青白い炎が立ち昇り、人影の屈められた腰を掠め取っていく。上半身と下半身が腰で分断された人影はその分断されたままの姿勢で空中に留まりつつ、カレンを暫く眺めている。


全身をその炎で包むには老人が近すぎる為に、無理だろう。しかし、ここでもかなりの輻射熱で熱いのにも関わらずに老人の表情は一切変わらない。


その一方で人影はだんだんとカゲロウの様に揺らめき始めた。


「ッ?!」


一瞬、嫌悪感その物と言う感情の様な物が人影から発散され、俺たちの身体を撃ちドッと汗が噴き出て来た。呼吸も荒くなっているのが自覚できる。そして人影は腰の辺りが無いまま立ち上がりカレンへと走り出した。


「ファイア、ファイア、ファイア」


カレンの声にも焦りが混じっているのがハッキリと分かる。その額にも汗の玉が浮き出ているのが見て取れる。


青白い炎が3柱、人影を完全に捉える。人影はその炎の柱の中を走ってくるが、3本目を抜ける前にその体の大半が消滅している。漆黒な影で構成された頭部と右手と左太腿位が残っているだろうか?それだけでも炎を抜けて鉄格子を越えようとしてくる。


俺はカレンの前に周り込み、彼女の腰辺りに肩を付けてカレンを荷物の様に持ち上げ、ジェシカさんの方へと走り出した。


「カレン、撃て!」


「きゃあ?!」


カレンは揺れる視界の中、黄色い声を上げながらも人影のスピードに合わせてファイアを当てていく。1本目で右手が消滅し、3本目で頭部と太腿が消滅した。


俺たちはそのままの姿勢で周囲を警戒する。さっきのが2体目なのか?1体目がここまで戻って来たのかすら分かっていないのが現状だ。しかも壁や鉄格子をすり抜けて来る奴が炎だけをすり抜けられないと言うのも都合の良い話だ。


緊張しつつその場で、クルクルと周囲を警戒していたがもう1体が現れて来る様子はない。


「アンタ、そろそろ降ろしなさいよ。」


「ああ、すまん。」


普段なら重かったと俺が感想を述べて、失礼ねとカレンがツッコミを入れる所だが、そんな余裕は俺たちには存在しなかった。まだ警戒をしたまま、俺はジェシカさんにポーションを飲ませようとしゃがみ込む。


しかし、意識の無いジェシカさんは飲む事はしない。これはこのまま口に流し込んでも大丈夫なのかと思案していると、カレンのテレパシーがマリリさんを呼んだ。


(マリリさん下までお願いできる?影は今のところいないわ。)


(はい直ぐに。)


マリリさんは言葉通りにすぐタリリを伴って階段を降りて来た。鍵は見つからなかったと申し訳無さそうに謝って来たので、ジェシカさんに頼むので問題無いと伝え、俺も探してくれた事に対して何回も御礼を伝えた。


「ヒール」


牢獄にマリリさんの澄んだ声が響くと、ジェシカさんは暖かな光に包まれた。

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