030 閑話休題
今回はモブ視点です。
カッツネラ教国の中央から少し離れた宿にその集団はいた。
2階は宿屋で下が食堂になっている。もちろん酒も提供しているので宿泊客以外も利用する客もいる。この集団もそんな客だ。この場所は個室のようになっていて他の客からは見えない。が、喧騒は薄い壁では遮ることはできない。
とはいえ現在カッツネラ教国は旅人の数が少なく食堂の客もまばらである。喧騒らしい喧騒は無い。
先日の大地震の影響で観光客の数が激減しているのである。また、まだ復興したというには程遠く、未だに潰れた家屋が目立つ。
「女将!コッチにワイン1本とグラス3つだ!」
「あと、牛肉の煮込みも貰おう」
「…」
食事と酒が来て、女将が離れると、
「しっかし、被害甚大だな」
「やはり天魔は人類の敵だな」
「だがあまりにも強すぎる」
この食堂に限らずカッツネラ教国中でこの被害は全て天魔の魔女の攻撃だという噂が広まっている。まぁ大体合っているのだが…。
「早く勇者が現れて倒してくれないのか?」
「今、勇者は見つかってないらしい」
「ついこの間バーン帝国の4軍が天魔の魔女とやりあったらしいぞ!」
「なんだと!倒したのか?」
「いいや!天魔は指1本を動かすだけでヌール山脈を吹き飛ばしたらしいぞ」
「なっ、マジか?」
「奴は本当に破壊神、なのか?」
「よせっ、その名を呼ぶと死よりも恐ろしい目に合うぞっ!かつての聖女の二の舞になりたいかっ」
「しかし…、人間離れしているのは確かだ…」
「秘密結社バルザックの壊滅にも手を下したとも言われていたな」
「それは俺も聞いたことがある!確か結社の人間を死ぬことのできない肉塊にして無限の苦痛を与え続けているとか…」
「バーン帝国の地下牢の一室にはいつまでも続く怨嗟の声が響いているらしい」
「ヤツは災厄か…?およそ人間のやることじゃねぇ」
ヒドイ言われようである。
「ココだけの話だが、大震災の直前に教会が天魔の魔女を討伐しようとしていたらしい」
「まさか、今回の大震災は…?」
「さて、真相はわからないが、教皇と聖女があの日以来姿を表さないのは天魔に返り討ちにあったという噂だぞ」
「奴はなんで我が国を滅ぼそうとするんだ。主神は何をやっているんだ」
「やめろっ!教会の異端審問官に聞かれたら…!」
「うっ、すまん。少し酔ってしまったようだ」
「しっかりしろ。今日はもうお開きにしよう!」
男達はそそくさと会計を済まし家路に急ぐ。
カッツネラ教国での評判は最悪だった。




