23話 ユウのゲーム脳が描き出すもの
街中で偉そうな貴族に絡まれている女の子を助けて、成り行きで彼女、フィアナの住む孤児院へエリシアたちと訪れたオレたち。
その孤児院、希望の星には一人の魔族の子供がいた。
人間に忌み嫌われ、疎まれる存在の彼は、そこでは幸せそうに暮らしていた。
彼と同じ年で、日々競い合ってる孤児院唯一の聖法気使いのロイ。
孤児院の創設者でフィアナの姉、先生のフィリアさん。
彼女と年長組のロイ、フィアナ、魔族のリューズを中心に貧しいながらも日々楽しく過ごしていたのだが、国からの謎の手紙によってそれは唐突に起こった。
フィアナから聞いた内容によると、先生が経営している学校の経営権を国に渡せというものだ。
そして、話し合いには先生一人で来るようにとあったらしい。
この国令に従わなければ、相応の処置、まぁ、武力を持って対応するという。
そこで、フィリアさんは、ちょうどたまたまその場にいた聖十字騎士団のエリシアが、前もって派遣された使者ではないのかと疑った。
希望の星に魔族がいるので、油断させるために魔族を引き連れて来たのではないかと。
焦ったフィリアさんは、今朝、というかさっき、オレたちに薬を盛ってオレたちを嵌めた、と思っている。
オレたちを戦闘不能にしたフィリアさんが次にどういう行動を起こすのか。
考えられるのは2つ。
1つは、このままオレたちを放置してみんなでどこかへ逃げる。
これは、今の被害を最小にできる代わりに、この先ずっと逃亡生活を余儀なくされる。
この世界のことはよくわからないが、指名手配等されでもしたら、この大人数だ、さぞ暮らしにくいだろう。
一見現実味がありそうだが、この可能性はフィアナがまだここにいる時点で消滅する。
そして、2つ目、恐らくこちらがフィリアさんの考えていることだろう。
他の学校と協力して、国に対しての反逆。
だが、国との話し合いに指定された時間は今日の昼。
あまりにも時間がなさすぎる。
それに、この国にどれだけの学校があるか知らないが、フィリアさんの考えに賛同してくれる学校があるのかどうかもわからない。
相手が国家お抱えの聖十字騎士団と聞けば、誰もが一歩踏みとどまるだろうが、おそらくオレたちをしびれ薬と眠り薬で戦闘不能に追いやったのは、希望の星の力を示すため。
聖十字騎士団のそれも聖剣姫を捕まえたとあっては、反逆に賛同するかなりの後押しになるだろう。
時間的にみて、訪れることのできる学校は1校のみ。
それも、最も力のある学校。
交渉にはおそらくフィリアさん一人で向かうだろう。
聖法気を使えるロイに行かせても、子供では説得力に欠ける。
ここは早さよりも確実性。
それに、フィリアさんが孤児院を離れている間に刺客が来るかもしれないということを考えると、希望の星で唯一の聖法気使いを手放すのは下策。
だが、この程度のことを考え付くのが、フィリアさん一人とは考えづらい。
頭の良い先生なら、すぐさま考え付くことだ。
例え、有力な情報がなくても、ただ抵抗もせずに国に奪われるようなことはしまい。
なら、一番力のある学校に向かう途中に、必ず他の学校の先生と出くわすはずだ。
それも、聖法気使いを率いた先生と。
「そして、この行動は、当然国側も予測している、と」
「ユ、ユウお兄ちゃん......?」
「あっ、悪い悪い。大丈夫だから、そんな引かないで」
頭で考えていたことが、口から漏れてしまったみたいだ。
フィアナの顔がすごいことになってる。
若干オレから距離を取ろうとしているフィアナに乾いた笑みを向けていると、ふと思い出した。
「フィアナって、たしか先生を目指してるんだよな?」
「うん。でもまだまだ全然お姉ちゃんみたいにできなくて」
「今はまだそうかもしれないけど、フィアナはまだ12歳だろ? まだまだこれからさ。っでさ、そんなフィアナに頼み事というかお願いがあるんだけど」
「そんな顔してもロープは解かないよ。まだ完全に信用したわけじゃないんだからね」
「いや、それはいいんだよ。ただ、フィアナも考えてみてほしいんだ。もし、オレの言うことが本当だったとして、フィリアさんの勘違いだった場合のことを」
先生という職業がどんなのかよくわからないが、きっとめちゃくちゃ頭が良くないといけないのだろう。
なら、視点は広く持つべきだ。
オレ自身頭のいい方ではないが、それでもヒキコモリ生活で鍛えられたゲーム脳がある。
オレが主にやっていたのは、オンラインアクションゲームとオンラインロールプレイングゲーム。
前者は、キャラの特徴や操作時にできる隙を突けば攻略が容易な、主に観察を主体とするゲーム。
後者は、広大なマップや敵味方入り混じっての戦闘など、主に戦略を主体とするゲーム。
今回必要なのは後者。
物事を全体で観る力だ。
自分の思いが絶対だという小さな視点ではなく、こうかもしれない、こうなるかもしれないという大きな視点で物事を見ることができて、初めて戦略を立てられる。
そして、それは今のフィアナに必要な力だろう。
しかし、すぐに身に付くというものでもない。
だから、オレが今思い描いていたことをフィアナに話そうとしたその時。
「お姉ちゃんが危ないッ!」
もともと色白でキレイな顔が青白く変化させてフィアナが叫ぶ。
その顔は、一切の余裕がない。
「ユウお兄ちゃん、どうしよう、どうしよう。お姉ちゃんが、お姉ちゃんが襲われちゃう」
「大丈夫、大丈夫だから少し落ち着いて」
突然騒ぎ出したフィアナを落ち着かせようとするが、フィアナはオレの話なんか聞いちゃいない。
身内に危機が迫るという冷静ではいられない考えを抱いてしまったフィアナに、オレは一息いれて叫ぶ。
「落ちつけッ!」
「――ッ!」
オレの大声にビクッとなったフィアナは、同時に落ち着きを取り戻した。
それからフィアナは、自分の考えをオレに伝えてくれた。
それは、オレが考えていた構想と全く同じものだった。
国は、最初から先生であるフィリアさんを1人にして、力のある学校に集まる前に彼女を押さえる。
フィアナの話では、国は希望の星の人員――特に聖法気使い――を把握はしていないので、フィリアさんを捕まえるために少なくとも、権力者の私兵はいるだろうとのこと。
聖法気使いでもないフィリアさんに抵抗する術はなく、最悪の場合、反逆の罪で処刑されるかもしれないと。
運よく他の学校の聖法気使いと出会えたとしても、訓練された権力者の私兵には分が悪い。
「でも、お姉ちゃんもこのくらいのことは考えてるはず。何か対策はしていると思うわ」
「......このくらいって、この世界の子供ってすごいな」
「え? 何?」
「ああ、いや、何でもないよ。フィアナは賢いなって思ってさ」
顔を赤らめるフィアナを横目にロイやリューズのことを思う。
彼らだってまだ子供。
元の世界で言えば小学生なのに、自分のやるべきことをしっかりと分かっていて、そのための努力を日々行っている。
フィアナも、他の子供たちもそう、ここの孤児院のみんなは自分たちの家族を守るために懸命に生きている。
こんな姿を見せられたら、オレだって何かしてやりたいと思う。
「なぁ、フィアナ」
「ダメよ。まだユウお兄ちゃんの言っていることが正しいと分かったわけじゃない」
フィアナは想像以上に賢かった。
確かにまだもう一つの可能性が残っている。
オレがフィアナの思考を誘導して、敵は国が派遣した権力者の私兵で、フィアナの身内であるフィリアさんに危険が及ぶ可能性を示唆して、冷静な判断を失わせ油断させる。
そこで、オレが解放されて、フィアナを捕らえるという可能性。
その可能性を排除するにはどうすればいいか。
「じゃあさ、ロイかリューズを連れてきてよ。オレなんかより断然強いアイツらなら、オレが何かしようとしたってすぐに取り押さえられるだろ?」
「確かに......わかった。じゃあちょっと待ってて」
フィアナはオレたちを残して、部屋を後にした。
「さて、これからどうなることやら」
オレは隣で気持ちよさそうに寝息を立てるエリシアたちを見て、ごろんとあお向けに寝転がり、ため息交じりに、これから起こるだろう出来事に考えを巡らせた。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
この度は更新が遅くなりまして申し訳ありませんでした。
ちょっとプライベートで、不倫疑惑やらシングルファーザーの道を真剣に考えるやらがありまして(汗)
いつもの妄想が、今度は、僕が2人の子供と貧しくも幸せな生活をしているという妙に現実味のあるものを描いていました。
仕事から帰ってきて、下の子の保育園のお迎えに行って、夕飯作って、上の子の宿題を見て、お風呂に入れて、寝かしつけて......あれ?予行演習ばっちりじゃね?
これからの更新頻度も少し落ちると思いますが、お付き合いくだされば幸いです。
次話、年長組が下した決断とは!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




