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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
2章 次代の希望のために
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21話 フィリアの策略




 トントントンという軽快な音でオレは目を覚ました。

 外を見るとまだ薄暗い明け方。

 隣には、子供たちがすやすやと気持ちのよさそうな寝息を立てている。

 場所は、子供たちを寝かしつけた2階の大部屋。

 ロイとリューズを除く、孤児院のすべての子供たちがそこにはいた。

 子供たちに囲まれるように、エリシアやレナ、ルミナも目を閉じている。

 

「ふああぁぁっ」


 伸びをしたオレは、部屋の外から聞こえる音に釣られてその場を後にした。

 

 何の音だろうと思いながら、長い廊下を歩く。

 音のする方は、ロイとリューズが見知らぬ人に見つからないようにと身を隠している地下室ではなく、反対側にある食堂からだった。

 扉のすき間から、カボチャのいい匂いが漂ってくる。

 中を(のぞ)くと、フィリアさんが慌ただしく朝食の準備をしていた。

 

 修道服の上から、前掛け(エプロン)と三角巾をしている。

 三角巾からのぞくゆるくふわっと結ばれた栗色の三つ編みが、彼女の動きに合わせて、ゆらゆらと揺れる。

 その後ろ姿は、子供たちのお母さんではなく、新妻を連想させる。

 もしオレが、彼女と結婚していたら、思わず後ろから抱きしめていただろう。

 そして、突然抱きしめられた彼女は、驚きつつも優しい声で、「おはよう。あなた」とオレのことを見上げる。

 見上げられた彼女の瞳は少し潤んでいて、頬は赤らんでいる。

 吸い寄せられるように、プルンとした桜色の唇へと近づき......。

 

 と、そこまで(よこしま)な考えがオレの頭に(よぎ)ったとき、ふと我に返る。

 今の状況は、非常にキモい。

 扉のすき間から年上のお姉さんを(のぞ)き込んで、いかがわしい妄想にふけるなんて。

 オレは首を振り、大きな深呼吸をしてフィリアさんに声をかけようと扉に手を伸ばした。

 

 しかし、ふいに目に飛び込んできたフィリアさんの表情(かお)が、ドアノブをつかんだままのオレの手を留まらせた。

 それは、真剣に朝食を作っているというものではなく、どこか鬼気迫る様子であったからだ。

 

「誰ッ!」


 オレがフィリアさんの様子を(うかが)っていると、視線を感じたのか、フィリアさんがものすごい勢いで振り向いた。


「あっ!」


 瞬時に隠れる事など出来ず、フィリアさんとばっちり目が合う。


「えっと、お、おはようございます」


 フィリアさんでよからぬ妄想をしていた後ろめたさと、見たこともない表情を見てしまったのとで、頬を()きながらぎこちなく挨拶をする。


「おはようございます。ユウさん、いつからそこに?」


 ニコニコと挨拶を返してくれるが、彼女の言葉には何やら迫力めいたものがあった。

 オレが彼女でよからぬ妄想をしていたなんて、わかるはずがないのに、今はフィリアさんの笑顔が怖い。


「今ですよ。食堂からいい匂いが漂ってきたので、釣られて来ちゃいました。あはは。いやー、フィリアさんの料理は、最高においしいですからね。もう待ちきれなくて」


「そう、ですか。でも、お世辞を言っても何もでませんよ」


「いや、お世辞なんかじゃないですよ。本当においしかったですよ」


「ありがとうございます。そう言っていただけると、作り甲斐があります」


 先ほど見せた鬼気とした雰囲気が嘘のように、フィリアさんは出会った当初の優しい笑顔をオレに向ける。

 オレは、少し困惑しつつも、何かの間違いだろうと思い、それ以上考えなかった。

 それからオレは、フィリアさんの手伝いを申し出たが、「お客様なんですから、ゆっくりしていて下さい」と断られてしまった。

 仕方がないので、オレはその場を後にした。




 ユウが食堂から出て行ったのを見届けたフィリアは、大きなため息をつき、その場にしゃがみこんだ。

 後ろ手に握りしめていた小瓶を額に当てて、深呼吸をする。


「大丈夫、気づかれていないはず」


 フィリアは小瓶を修道服の中に隠し、朝食の準備の続きを始める。

 フィリアの小さなつぶやきは、ぐつぐつと煮立っているスープの音にかき消された。




 ちゅんちゅんとスズメの鳴く声が聞こえる早朝。

 ()の光がドルベルの街を照らしていく。

 街外れにある親を失った子供たちが暮らす孤児院、希望の星。

 広大な太陽は、彼らの場所にも暖かな日差しを届ける。

 フィリアさんの手伝いをできずに、当てもなく孤児院をふらついていたオレに声がかかる。

 

「ユウお兄ちゃん、おはよう」


「お、おはよう。早いなミア」


 ミアは、眠たそうに目をこすりながら廊下を歩いて来た。

 彼女の寝癖は、すごいことになっていて、白青色(スカイブルー)の長髪が電気ショックを受けたように飛び散らかっていた。

 所々ほつれたパジャマがミアの肩からずり落ちている。


「ミアは女の子なんだから、ちゃんとしないと」


 オレはそう言って、ミアの(はだ)けた肩口を直し、髪の毛を()いてやった。


「うん」


 ミアは、恥ずかしかったのだろう、顔を赤くして(うつむ)いて走り去ってしまった。

 女の子を困らせてしまったと、頭を()いてその場に(たたず)んでいると、青と白を基調とした聖十字騎士団の服装に身を包んだエリシアが奥から歩いてきた。


「おはよう。早いわね」


「ああ、おはよう。何だか目が覚めちまって」


 窓から差し込む()の光が、エリシアの金髪をより輝かせて、幻想的な雰囲気を(まと)っていた。


「どうしたの?」


「えっ、あっ、い、いやいや、何でもない」


 エリシアに見とれていたオレは、慌てて首を横に振り取り(つくろ)う。


「こんな所で何やってるっすか?」


「うおっ!」


 オレの後ろからひょこっと現れたレナに驚き、背中から変な汗が出る。

 そこへ子供たちから、朝食の準備ができたので一緒に食べようと声がかかった。

 意味もなく追い詰められていたオレには、正直ナイスタイミングだ。




「うおおっ!」


 朝食に呼ばれたオレたちが食堂に入った第一声は、感動だった。

 食卓に並ぶのは、カボチャの香りが漂うスープに、大きな器に所狭しと盛られた新鮮な野菜の数々。

 こんがりと香ばしい匂いを放つコッペパン。

 孤児院で作ったであろうオレンジを(しぼ)った果汁100%のオレンジジュース。

 

 本当に貧しい暮らしをしているのかと疑うほど、豪華な朝食だった。

 日本に住んでいた時でも、これほど食欲をそそる食事はなかった。

 フィリアさんは、本当に料理の天才かもしれない。

 それに、オレたちに気を使って無理しているのかもしれないと、少し申し訳ない気持ちになる。

 しかし、そんなことを微塵も感じさせないフィリアさんの笑顔が、何だかとても暖かかった。

 

「「「いただきまーすっ!」」」


 子供たちは、我先にとむしゃむしゃと新鮮な野菜にかぶりつく。

 レナは、パンをちぎって口に運び、ルミナは綺麗な作法で、サラダを食べている。

 エリシアは、ロイから聖法気の使い方を聞かれながら、かぼちゃのスープをすすっていた。

 年長組のフィアナとリューズは、小さな子供たちの面倒を見ながらも朝食を楽しんでいる。


「スープとサラダは、おかわりがありますから。たくさん食べて下さいね」


「ありがとうございます」


 フィリアさんが、笑顔でスープのおかわりを差し出してくれる。

 だが、その笑顔にオレは違和感を感じた。


(この笑顔は、どこかで見たような......?)


 バタンッ、カランカラン。

 

 突如、向かいで食事をしていたレナがうつ伏せになり、スープの入った器が床に転がる。

 次いで、その隣では、ルミナが同じように倒れた。


「何!? いったい、どうしたの?」


 エリシアが立ち上がり、声を荒げる。

 子供たちも何が起きたのかわからず、右往左往している。


「ルミナお姉ちゃん!?」


 リューズが近づき、その体をゆするが、ルミナはピクリとも反応しない。

 突然の異変に、オレもどうしていいかわからずにうろたえてしまう。

 そこで、ふいにフィリアさんに目が行った。

 すると、彼女は少しも動揺することなく、(たたず)んでいた。

 

「ふふっ」


「フィリア、さん!?」


 薄く笑ったフィリアさんの表情(かお)は、早朝に見せた狂気じみたあの表情(かお)と被る。

 そして、オレは、レナに初めて会った時のことを思い出した。


(たしか、あの時はしびれ薬を盛られたんだっけ)


 そこまでオレの考えが行きつくと、急激な眠気に襲われた。

 向かいでは、エリシアがふらついているのが見えた。


「フィリアさん、あなた、まさか......」


「ごめんなさいね。でも、今の私には、こうするほか無いのよ」


 オレは眠気を必死に堪えて、その場に踏みとどまろうとする。

 エリシアもそれは同じだったようで、だがしかし、彼女は驚きの行動に出る。

 

 グシャッ!!

 

 エリシアは、サラダを食べるためのフォークを自分の左手に突き刺した。

 痛みで眠気を飛ばそうとしたのだろう。

 白いテーブルクロスに、鮮血が飛び散った。


「リューズ君、ロイ君、エリシアさんを捕らえてッ!」


「えっ!? で、でも」


理由(わけ)は後で話すから、早くッ!」


「わ、わかったよ。ごめんね」


 有無を言わせないフィリアさんの言葉にロイは、悲しそうな顔でエリシアを取り押さえる。

 昨日の様子では、ロイは、逆立ちしてもエリシアに(かな)わなかったはずだが、食事に混ぜられた薬のせいで簡単に捕らえられた。

 オレの眠気も限界を迎えそうなときに、体が思うように動かないことに気付いた。


(この感じ、しびれ薬も混ぜられているのか)


 以前レナにしてやられたことを思い出す。

 エリシアが縄で縛られるところを最後に、オレは意識を暗闇に落とした。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


明けましておめでとうございます。

ついに年が明けちゃいましたね。

そして、お正月も終わっちゃいましたね(グスン

あなたは、有意義な正月休みを過ごせたでしょうか?

僕は、僕は......執筆もせずにただひたすら本を読んでました。

すみませんでしたああああーーーッ!

せっかくの休みだというのに、すき間時間にできる読書なんてものに没頭するなんて......ああ、やってしまった(悔


さて、2章も少しずつ動きを見せ出した今日この頃。

今年も「1つ言っておくが、オレは魔族じゃねぇ!」をよろしくお願いいたします。


次話、フィリアが単身動きだす中、ヤツが目覚める?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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