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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
2章 次代の希望のために
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19話 不穏な影




「今日はうちに泊まっていってはどうでしょう?」


 ちゃっかりと夕食までご馳走になるオレたちに、フィリアさんは、手をパンと叩いて提案する。

 食堂に座っている子供たちもうんうんと頷きながら、キラキラした目でオレたちを見ている。


 あんな目をされては断るに断れないが、オレ一人で決めるのも躊躇(ためら)われたので、エリシアの方へと視線を移す。

 何せ、オレはこの先どこに向かえばいいのか、何をすればいいのかが全くわかっていないのだ。

 ただ、エリシアに付いて来ただけだから。


 レナとルミナは顔を見合わせて、次にエリシアを見る。

 おそらく彼女たちもエリシアの判断に任せるのだろう。

 それから、子供たちも含めて、みんなの視線がエリシアに向けられた。


「えっと、みんなが迷惑でないなら」


 エリシアは、戸惑いつつも「お世話になります」とお辞儀をする。

 その反応に、食堂にいる子供たちはいっせいに「わあああー」と喜びだした。


 食卓に並ぶのは、ジャガイモとタマネギを塩コショウで炒めたジャーマンポテト。

 ほうれん草のソテーにキャベツときゅうりのサラダ。

 どれも孤児院(希望の星)で作った野菜をフィリアさんが絶品料理へと昇華したものだ。

 切り詰めて生活しているはずなのに、この料理を見る限りとてもそんな風には見えないほど豪華な出来栄えだった。

 もしかしたら、オレたちのために奮発してくれたのかもしれない。


「ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらずに」


 オレは、フィリアさんに向かっていろんな意味でお礼を言うが、フィリアさんは笑顔で首を横に振る。

 (いわ)く、子供たちが笑顔でいてくれるのが一番なのだとか。


「ユウお兄ちゃん、遊ぼう」


「ああっ、ユギト()ぃずるいー。ミアも遊びたい」


 食事を済ませた白青(スカイブルー)の短髪に深海色(アクアマリン)の瞳をした少年、ユギトがオレの裾を引っ張る。

 それを見たユギトと同じ瞳と髪色の少女、ミアは、ウサギの耳のように長いツインテールをぴょんぴょんさせながら、兄が握る裾とは逆の裾を引っ張っていた。


「ユギト、ミア、まだユウお兄ちゃんは食事中でしょ? もう少し我慢しなさい。ユウさん、すみません」


「いえ、大丈夫ですよ」


 兄妹を(いさ)めるフィリアさんに頬を膨らますユギトとミア。

 それを脇目にするオレは苦笑する。


 辺りを見れば、ロイは熱心にエリシアに聖法気の扱い方を聞いていて、レナとルミナは、フィリアや他の女の子たちと女子トークに花を咲かせている。

 この施設唯一の魔族であるリューズは、小さな子たちの面倒を見ている。

 先ほど見せたすさまじい戦闘でのリューズとは、別人のように優しい笑みを浮かべていて、優しいお兄ちゃんといった感じだ。

 まだちゃんと話したことはないが、なんとなく気が合いそうな気がする。


 わいのわいのと騒ぐ子供たちとの楽しい夕食は、あっという間に過ぎて、今は2階の大広間に布団を敷いてみんなで寝る準備を行っている。

 

「ねぇ、ユウお兄ちゃん。ロイ知らない?」


「うえっ!?」


 突然リューズに声をかけられたオレは、少し驚くが、すぐにロイがいないか辺りに目をやる。

 そう言えば、ぱったりと声を聞かなくなった。

 今は孤児院の子供たち(男)みんなで布団を敷く時間らしいけど。


「まさか、アイツ」


 リューズがどこか焦ったような表情(かお)になる。

 オレが首をかしげていると、リューズは鬼気迫る勢いで詰め寄ってきた。

 

「ユウお兄ちゃんッ! アイツを止めないと」




「へへへっ、リューズの奴油断したな。今日こそは」


 ロイは今から起こる展開を想像して、だらしない顔を引っ()げて廊下を走る。

 目指すは大浴場という名の桃源郷。

 いつもはリューズに止められて、(のぞ)くことができなかったが、今日は初めて来たお客さん(ユウたち一行)でリューズも浮かれていたのかもしれない。

 以前は、あと一歩のところでリューズに邪魔されて、悔しい思いをした。

 今回は、必ず成し遂げてやると意気込むロイ改めエロイ。

 長い廊下を音を立てずに素早く走る様は、まるで忍びのようである。

 

 たどり着いた場所は、大浴場の隣にある空き部屋。

 あらかじめ外れやすくしていた天井へと飛び移る。

 本来ならどんなにジャンプしても届かない場所だが、聖法気を(まと)わせた足なら難なく登れる。

 実に、無駄なこと極まりない聖法気の使い方である。


「今日は、先生だけじゃなくて聖剣姫様と魔族のお姉ちゃんのおまけつきとは。へへへっ」


 修道服姿のフィリアと騎士団の服に身を包むエリシア、ロングコート風のローブを着るルミナの姿を思い浮かべるロイ。

 ちなみにレナは、眼中になかった。

 彼の頭の中に、怒り心頭のレナが何かを言っているが、無視である。

 ロイは、蜘蛛の巣や埃が敷き詰められた天井裏をずりずりと匍匐(ほふく)前進し、桃源郷へと近づきつつあった。




「何だと!?」


 オレはリューズの後を追いかけながら、ロイの企みを聞かされる。

 やんちゃぼうずだとは思っていたが、まさかエロガキ属性も持っていたとは。

 

 オレは、以前にエリシアの裸を(不可抗力で)覗いてしまった。

 その後のエリシアは、それはもう恐ろしかった。

 タコ殴りにされた頬を擦り、身震いする。


「フィアナ......」


 リューズが何か言ったような気がしたが、今はそれどころではない。

 一刻も早くロイに追いつかないと、ロイが大変なことになる。

 もしかしたら、ロイをちゃんと見ていなかったという理由で、オレにまでとばっちりが来るかもしれない。

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)


 ようやく目的の場所が見えてきた。

 まだ、悲鳴などの喧騒(けんそう)は聞こえてこない。


「間に合った」


 蒼白になりつつあった顔に安堵の色が灯り始める。

 後は、ロイを見つけるだけだ。

 廊下にはいない、ならば......。

 

「ユウお兄ちゃん、そこはッ!」

 

 ガラガラガラガラ――。

 

 リューズが何か言ってるが、例によって今はそれどこではない。

 オレは、勢いよく扉を開いた。

 

「ロイッ! こんなことは止めるん......だ...?」


 目の前の光景に思考が飛んだ。

 オレは呆然と立ち尽くしている。


「え、えぇぇぇぇっ......!?」


「な、なななななっ......!?」


 視界正面、真っ赤になりながら立ち尽くすフィリアさんと、手にしていたバスタオルで勢いよく体を隠すレナ。


「あらあら、大胆ですわね」


 視界左、ルミナがタオルで髪の毛を拭きながら微笑みかけてくる。


「ユウ、あんた、いったい......」


 視界奥、光景の中心。

 キャッキャと走り回る子供たちを背にして、体を抱くようにして胸を隠すエリシアが、頬を朱色に染めて(うつむ)く。

 バスタオル一枚に身を包む肢体も朱色に染まっており、小刻みに震えだした。


「ぁ、っ.........」


 オレが上ずった声で何か言おうと、一歩後ろに下がると。


「いったい、何回私の裸を見れば気が済むのよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」




 パンパンに腫れ上がった両頬をさすりながら、しぶしぶ布団の中に入る。

 今日はオレたちお泊り組が、年少組を寝かしつけることになっている。

 ちなみに、風船のように膨らんだオレの顔は、子供たちに大うけだった。


「ユウお兄ちゃん、早くこっち来てよ~」


「ええ、僕のとこが先だよ」


「はいはい、順番だからちょっと待っててな」


 そう言えば、結局ロイは、どこに行ったんだろう?

 すやすやと気持ちのよさそうな寝息が、オレの胸の中から聞こえてくる。

 一通り寝かせつけると、オレたちは食堂へと向かった。

 途中、エリシアは、寄るところがあるとお風呂場横の部屋へと足を踏み入れた。

 そこには。


「おい、これって......」


 天井から簀巻(すま)き状態のロイが、ぶら下げられていた。


「ロイ君は、不敬にも女の子の裸を見ようとしました。これは罰なのです」


 エリシアは蔑んだ目をロイへと向けて、淡々と話し始めた。

 そのロイはというと、怯え切った目をしている。

 ミノムシのような格好でブルブルと小刻みに震えていた。

 

 いったい何をされたのか。

 オレのように目立った外傷がないのが非常に気がかりだ。


「もうしない、もうしませんから、どうか、どうかご慈悲を」


「エ、エリシア、もう許してやれよ」


「そ、そうっすね。ちょっとかわいそうっす」


「ふふっ、エリシアさん? 彼も未遂に終わったわけですし、許してあげてはどうですの?」


 見ているこっちが悪いことをしているみたいだ。

 レナは頬を掻きながら、ルミナは苦笑しながらエリシアをなだめる。

 当のエリシアは、「ふふふふふっ」と暗い笑顔で腕を組んでいる。

 怖い、怖すぎるぞエリシア。


「皆に免じて今日のところは許してあげます。ですが、次はないですよ?」


 ロイは、ふんふんと縦に首を必死に縦に振る。

 それからロイは、リューズが隠れて寝る地下の部屋へと姿を消した。

 

 何でも、屋根裏に潜んでいたところ、エリシアの魔力探知に引っかかったそうだ。

 まぁ、今回は、聖法気を探知したようだが。

 エリシアの口調がおかしかったことから、かなり怒っていたんだろう。

 改めて、彼女を怒らせると、ろくなことがないということが分かった。




 子供たちが寝静まり、夜の帳が下りる。

 幻想的な月あかりが、孤児院を包み込む中、廃屋から孤児院を見つめる影があった。

 影は、のそのそと孤児院へ向かって歩いていく。


「へへへっ、旦那も面倒くさい仕事を押し付けてくれますね」






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


久しぶりに熱が出て、1週間床に臥せておりました。

今はもうすっかりと元気なので、またこれからも頑張って更新していきます。


次話、ようやく物語が動き出す!?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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