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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
2章 次代の希望のために
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16話 それぞれの想い




「またこんな無茶してぇ」


「あははっ」


「笑い事じゃないよ。もぉ」


 教会のとある一室で、一組の男女が向かい合っていた。


 魔族の象徴である黄金に輝く瞳を翡翠(ひすい)色の髪が隠し、口元に笑みを浮かばせて苦笑するリューズは、今は、およそ戦闘とは無縁の生活を送って来たかのように、優しい雰囲気を(まと)っている。

 そんな彼に、まだまだ文句を言い足りないと言わんばかりの表情(かお)で、自身の特製キズ薬を傷ついたリューズの頬に塗る栗色のボブカットに、同色の大きな瞳をしたお姉さん譲りの美少女、フィアナは頬を膨らませていた。

 

 ベッドに座らされるリューズは、まだまだ続くであろうフィアナの小言を苦笑しながらも最後まで聞く姿勢をとる。

 それは彼の優しさで、また、自分のことを真剣に心配してくれていると分かっているからで、フィアナも長年の付き合いで彼の性格はわかっているつもりだ。

 だが、どうしても口を出さずにはいられない。

 リューズは、普段は大人しいのに、スイッチが入ると、ロイと同等かそれ以上に無茶をしてしまう。


「ねぇ、リューズ。聞いてるの?」


「うん、聞いてるよ」


「まったく、次はこんな無茶しないでよね」


「あははっ、努力するよ」


 リューズの笑顔に、これはまたケガの手当てをすることになりそうだと、ため息をつくフィアナだった。

 

 フィアナは、ロイとの戦いでリューズが手加減をしていることを知っていた。

 出会った当初のリューズの力は、圧倒的だった。

 聖法気を使えないとはいえ、訓練された屈強な兵士たちを、わずか5歳の少年が、ものの数分で倒したのだ。

 同じ5歳だったフィアナは、今でもあのすさまじい強さを誇るリューズの姿が脳裏に焼き付いている。

 しかし、姉のフィリアに仲間を傷つけないためにも力を抑えるように言われてからというもの、たとえ自分が傷つこうとも、リューズはフィリアの言いつけを守り続けている。

 この5年間のロイとの戦いの中で、リューズが殺傷能力の高い雷属性の魔法を使ったことがないのがいい証拠だ。

 

「最近ロイも気づき始めてるわよ? リューズが手加減してるの」


「そうだね。ロイってば、とんでもないスピードで強くなってるから。うまくやるのが難しくって。ロイには悪いとは思ってるんだけどね」


 真剣勝負なのに、手を抜くなんて相手にとって失礼、いや、侮辱にすら思われても仕方ない事だろう。

 しかし、感電や高圧電流による火傷は、どうしても命の危険を伴う。

 だからと言って、胴体を真っ二つに斬り裂くような風魔法がいいのか?

 ということになるのだが、それでも切り傷の方がまだ治りが早く、電流によるショック死などは避けられる。

 

 リューズにとって、いや、ここで暮らす子供たちにとっては、みんながみんな、血の繋がりはないが、大切な絆で繋がった家族だ。

 その家族を傷つけてしまうのは、リューズにとってもいい気分ではない。

 だが、ロイの気持ちを知ってしまったからこそ、この5年間、リューズは欠かさずロイとの戦いに応じている。


「じゃあ、ロイは今、すっごい悔しがってるでしょうね」


「たぶんね」


 ニシシと笑みを浮かべるフィアナに、リューズは苦笑で返す。

 少しあきれた様子のフィアナは、確かめるように尋ねた。

 

「今でも『俺は剣聖になる』とかバカなこと言ってるんでしょ?」


「そうだね。でも、ロイは本気だよ?」


「リューズにも勝てないのに、なれるわけないじゃない」


「フィアナっ!」


「ごめん、言いすぎた」


「いや、僕の方こそ大きな声出して、ごめん」


 フィアナも本気でロイの事を(ののし)ったわけではない。

 ただ、フィアナは誰にも傷ついて欲しくないと思うあまり、行き過ぎた言動を取ってしまったのだ。

 リューズは、そのことを長年の付き合いでわかっていたにもかかわらず、フィアナに大きな声を上げてしまったと、申し訳なさそうに肩をすくめた。


「そ、そのぉ、さ。そこ、まだ痛む?」


 気まずい空気を吹き飛ばすようにフィアナは、リューズの傷ついた頬を指さして上目遣いで訊ねる。


「へっあっ!? い、いや、もう大丈夫だよ。フィアナの薬はよく効くからね」


 赤らめた頬を()きながら答えるリューズは、どこか落ち着きがない。

 そんなリューズの誉め言葉を受けたフィアナは、トマトのように顔が真っ赤になり、ブンブンと手と首を横に振る。

 

「ぜ、全然そんなことないよ。わ、私なんてまだまだだお姉ちゃんにも教えてもらってばかりだし」


「そ、そんなことない、と、思う......けど、なぁ......」


 最後の方は、ごにょごにょとあさっての方向を向くリューズも、フィアナに負けず劣らずのゆでだこのように真っ赤になっていた。

 またしても気まずい空気が流れるが、今度は先ほどとは違い、何というか、気恥ずかしさを伴うものだった。


「ああっ、そうだ。ロ、ロイのことも診なくちゃ。じゃ、じゃあ行ってくるね」


 突然思い出したかのように大きな声を上げて、フィアナは慌てて部屋から飛び出していった。

 返事をする間もなくフィアナが駆けて行った一人っきりの部屋で、リューズは、ぼそりとこぼす。


「もうちょっと一緒にいたかったなぁ」




 フィアナは全力で廊下を走っていた。

 途中でフィリアとルミナの2人とすれ違い、「そんなに走ったら危ないわよ」という声がした気がしたが、そんなことに構ってる余裕などなかった。

 全身が熱い、このまま燃えてしまうんじゃないかと思うほどに火照っていた。


「また逃げちゃったよぉ」


 うぅぅと可愛く(うめ)きながら、先ほどの出来事思い出す。

 具体的には、リューズに自身が作った薬の効能を褒められたことを。


「あっ! そういえば......」


 リューズに褒められて舞い上がっていたので忘れていたが、ロイが今どこにいるのかわからないことを思い出した。


「ったく、あのバカはどこに行ったのよ」


 10以上ある部屋を一つ一つ部屋を探していくのも手間だし、このまま放っておこうかと思っていると、とある部屋の前でドアにもたれかかっているレナとエリシアを見つけた。

 2人はどこか思いつめたような表情(かお)をしていた。

 何かあったのかと近づいていくと、向こうがこちらに気付き、レナが人差し指を口に当てて「しー、しー」と知らせてくる。

 とりあえず言う通りにしようと、フィアナは、音を立てないように近づき、小声で訊ねる。


「どうしたの?」


「いや、レナたちも盗み聞きするつもりはなかったんっすけどね......」


「そ、そうよ。ただ、入っていくタイミングが、ね?」


「そうっす」


 レナは頬を()きながら、エリシアは腕を組みあさっての方向を向きながら、それぞれ答える。

 首をかしげながらも、部屋の中の様子をうかがう。

 すると、ロイの声がしてきた。

 そして、この声は。


「ユウお兄ちゃん?」




「じゃ、じゃあ、兄ちゃんは先生のことは何とも思ってないんだな?」


「さっきからそう言ってるだろ?」


「だって、先生に鼻の下伸ばしてたし」


「そ、そりゃ、あんなキレイな人に笑いかけられたら、誰だってドキドキするだろ」


 何度も確認するように同じ質問をするロイに、オレは本音をぶつける。

 しかし、ロイは、「わからない」といった顔で納得していないようだ。

 確かに、恋愛感情を抱いてるわけでもないのにデレデレするのは、子供にはわからないかもしれないと思った。


「まぁ、もうちょっと大きくなればわかるさ」


 納得していないぞとジト目を向けるロイの頭をポンポンとしながら、無理やり納得してもらうことにした。


 ロイには、先ほどの食堂での一件をしつこく聞かれていた。

 ここまで(しき)りにフィリアさんのことを聞くなんて、ロイはフィリアさんに先生以上の感情を持っているのだろう。


「ロイは、フィリアさんのことが好きなんだな」


「なっ!?」


 ロイは突然のボディブローを食らったように目を見開き、みるみる顔を赤くしていく。

 ロイのわかりやすい反応に「気にすることないさ」と笑い飛ばす。


「オレだって、ロイくらいの頃は小学校の先生のこと好きだったしな」


「小学生?」


「あっ! いや、ほら、あれだよ。希望の星(この)孤児院みたいな所だよ」


 うっかり元の世界のことを話してしまうところだったと、背中から変な汗が流れる。

 しかし、ロイは未知の言葉よりも、オレの好きということの方に食いついてきた。


「今でも、その先生のことは好きなのか?」


「いや、今では違うかな。あの時の感情は、異性としてじゃなくて。んー、何だろう......大人の女の人への憧れ? みたいなものだったと思う」


「俺は違うぞ。いつか絶対に先生と結婚するんだ」


「ああ、そうなることを祈ってるよ」


 子供のことによくある大人への憧れ。

 ちょっとキレイな大人の女性やカッコいい大人の男性に惹かれるのは、仕方ないことかもしれない。

 しかし、いつしか憧れは薄れ消えていく。

 大抵の子供は、そうやって大人になっていく。

 オレもその内の一人だ。

 

 だが、稀にその思いを強く抱き続ける子供がいる。

 それが、ロイだ。

 オレもロイから強くなりたい理由(わけ)を聞くまでは、大多数の子供と同じと本気にしていなかっただろう。

 

 ここにいる子供たちも、いつかは徴兵される。

 そうならないように、自分が誰よりも強くなって、この戦争を終わらせる。

 人類最強の剣聖よりも、魔族最強の魔王よりも、誰よりも強くなって、ここにいる家族は、俺が守る。

 そのために、5年間毎日欠かさずリューズに挑み続けている。

 魔族の子供一人に勝てないようじゃ、手加減されてるようじゃ、全然ダメなのだ。

 

 オレは、ロイの言っていたことを思い出す。

 あのデタラメな戦闘劇だったにもかかわらず、リューズが手加減をしているとは到底信じられない内容だった。

 でも、確かに、フィリアさんにリューズと出会った頃の話を聞く限り、リューズは雷属性の魔法も使えるはずだ。

 それを使っていなかったのだから、手加減していたのだろうと思う。

 

 それに強くなることに焦っている印象を受けたのは、フィリアさんの徴兵令が原因だろう。

 先ほどフィリアさんから聞いたところ、来年には『権力者の私兵(ロイヤルソルジャー)』に徴兵されるらしいし。


「でも、今のままじゃ、先生を守れない」


「......」


 ロイは、焦りと悔しさともろもろの感情を隠さずに拳を握りしめる。

 そして、信じられないことを言い出した。


「これじゃ、軍に志願しても受け入れてもらえない」






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


あなたは小学校の頃、憧れていた先生はいますか?

僕は小3と小4のときに担任なった新任の先生に憧れ(?)エロい目(?)を向けていました(笑)

若い、綺麗、顔がタイプと三拍子そろった先生でした。

何故か、ドッジボールがめちゃめちゃ強かったんですよね~、僕とタメを張れるくらいに。

それ以降は、先生運に恵まれず、高校を卒業するまでおっさんやおば......いや、言うまい。


次話、あの人物は、あの後どうなったのか?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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