15話 強くなりたいです
リューズとの激闘を終えたロイは、よろよろと立ち上がり、ふらつく足でこちらへ歩いてくる。
エリシアの前まで来たロイは、勢いよく頭を下げた。
「俺に、戦い方を教えてください」
ロイの突然の申し出に、エリシアはもちろん、その場にいた全員が驚く。
「お願いします。強く......なりたい、です」
ロイの必至な姿勢に圧倒されつつあったエリシアだが、一息ついてエリシアは疑問を口にした。
「どうして、強くなりたいの?」
「それは......」
ロイはそれ以降、口を閉ざし、下を向いてしまう。
困ったエリシアは、ロイの言わんとしているいことを代弁する。
「リューズ君に勝つため?」
エリシアの勝つという言葉に違和感を感じたユウは、首をかしげる。
さっきの勝負で勝ったのは、ロイだ。
それなのに、リューズに勝つためとはいったい......。
ユウは、エリシアの言っていることがよくわからない。
「答えてくれないってことは、そうなのかしら?」
ロイの無言を肯定と捉えたエリシアは、表情を険しくする。
そして――。
「そんな理由じゃ、教えられないわ。ごめんね」
きっぱりと突き放した。
それを聞いたロイは、俯きながらその場から走り去っていった。
「すみません。ロイが失礼なことを」
「いえ、私こそキツイことを言ってしまって」
フィリアが頭を下げて、ロイのぶしつけなお願いを謝罪する。
それに対して、エリシアは首を横に振った。
ロイの目から光るものを見たユウは、エリシアを一瞥するが、そのままロイを追いかけて教会の中へと姿を消していく。
レナは、エリシアとユウに視線を交差させ、最後にルミナの方を見ると、アイコンタクトを交わしてユウの後を追った。
「あれだけの戦闘劇を見せられたんですもの、無理もないですわ」
フィリアとエリシアの間に、ルミナがつかつかと歩いて来た。
でも、と続けるルミナは苦笑する。
「エリシアさんが本当に伝えたいことは、伝わってないと思いますわ」
「えっ!?」
「まだ10歳そこそこの子供ですわ。きちんと話してあげないと分からないと思いますわよ?」
それを聞いていたフィリアは、何のことを言っているのか全く分からなかったが、エリシアは「そうね」と頷く。
そこへ、先ほどまで激闘を行っていたリューズがやってきて、ケガの手当てをするために部屋に戻るとフィリアに断りを入れて、教会へと歩いて行った。
「お姉ちゃん、私も2人の手当てしてくるね」
そう言って、リューズの後を追ってフィアナが走っていく。
そんな彼らを見送ったルミナは、フィリアに向き直り、ロイのことを詳しく聞いた。
「ロイ君は、どうしてそこまで強さを求めるんですの? フィリアさんは何か知ってますかしら?」
「私も本当のところはわからないんですけど、恐らくみんなを守るため、じゃないでしょうか。」
「守るため?」
エリシアの疑問に、フィリアはどこか悲しそうに続けた。
「彼は、とても仲間想いで責任感の強い子です。それに......彼は、目の前で両親を殺されています」
「――っ!」
「もう目の前で誰かが死んでしまうのを見たくない。自分が強くなればみんなを守れる。もう、自分の近しい人が死ぬのを見なくて済む。だから、ではないでしょうか。彼が強さにこだわるのは......」
「そうかぁ、ただ強くなりたいだけ、じゃなかったのね」
エリシアは何か納得したような笑みを浮かべて、フィリアにお礼を言い、教会の中へと歩いて行く。
そんなエリシアの様子をフィリアとルミナは微笑ましく見つめ、彼女の後に続くのであった。
「おーい、待てよ。ったく、ロイィ、待てったら」
「うるせー、あっち行けよ」
何を怒ってるんだか、それにあの涙はいったい。
考えてもわからないし、本人に直接聞くしかないか。
ロイを追いかけて、オレたちはある空き部屋に入り込んだ。
顔の傷は増えて、服もボロボロになっているロイが、むすっとした表情で置いてあった長机の上にどかっと座る。
オレもロイに倣って、彼の隣に座った。
「何なんだよ、放っといてくれよ」
「そう言われても、ロイ泣いてたし」
「は、はぁっ!? べ、別に泣いてなんかねぇし。な、何言ってんの。意味わかんねぇし」
ニカッといたずら小僧のように笑うオレの言葉に、ロイは必死に反論して、ついにはそっぽを向いてしまった。
その頬は少し赤くなっていたが、これ以上突っつくのもかわいそうだと思い、見なかったことにする。
暫しの静寂を挟み、オレが口を開く。
「ロイはさ、どうしてそんなに強くなりたいんだ?」
「......」
ロイはだんまりを決め込んでいるが、オレもここで引くわけにはいかなかった。
魔族の眼のせいで、元の世界ではひどい目に遭ってきた。
それで、人間不信に陥り、部屋に閉じこもって仮想世界に逃げ込んでいた。
突如、この世界に来てしまった右も左もわからないオレに、親切にしてくれるちょっと素直じゃない女剣士。
自らを危険にさらしてまで友だちを助けようとする、優しい魔法少女。
自分を助けてくれたからと、見ず知らずのオレを一晩中看病してくれる律儀でちょっとおませな魔族の少女。
片方だけ目の色が違うという、この世界でも異質なオレを受け入れてくれた彼女たちのおかげで、オレはまたこうして人と話すことができるようになった。
そして、またそんなオレのことを『ユウお兄ちゃん』と言って慕ってくれる子供たちに出会った。
まだ出会って、数時間しか経っていないが、オレにとってはもう大切な存在になっている。
その大切な存在の1人が涙を流していた。
お節介かもしれないし、余計なお世話かもしれない。
でも、オレはそんな優しさに救われた。
だから今度はオレも。
でも、きっと何の役にも立たないだろう。
ルミナの時がいい例だ。
それでも、話くらいは聞ける。
「まだ出会って間もないけどさ、オレはロイたちの事、すげぇって思ってるんだぞ」
「はぁ?」
「ははっ、わからねぇって顔だな。オレはさ、この眼のせいで色々あったんだよ。一人ですべて抱え込んで、すべてを拒絶して......結局、潰れたんだ。ははっ、バカだろ?」
自嘲するように話すオレに、ロイは真っすぐこちらを向いて話を聞いてくれている。
「でもさ、エリシアたちに出会って変わったんだ。こんな気持ち悪い眼を持っているオレのことを、1人の人間として受け入れてくれた。オレを孤独の底から救い上げてくれたんだ。ホントに救われた。だから、あいつらには一生かかってでもこの恩を返さないとって思ってる」
オレは、にかっと笑って続ける。
「ロイたちもオレのことを受け入れてくれただろ? 人か魔族かわからないような気味悪い奴をさ」
「それは......俺はそんな小せぇことなんて気にしねぇし」
言外にロイたちもオレを救ってくれたと言っていることを察したのだろう。
ロイは、プイっとそっぽを向いてしまう。
向こうを向くロイの頬が赤くなっているのが、何とも嬉しくてロイの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「みんなが気味悪がって、恐れるオレのことを、何てこと無いように受け入れてくれるロイたちは、本当にすげぇんだぜ?」
ロイの頭をわしゃわしゃしながら、オレは少し頬を赤くしてお礼を言う。
「オレのことを受け入れてくれて、ありがとな」
「い、いつまで撫でてんだよッ」
撫でられるままのロイがオレの手を振り払う。
破顔するオレは、悪い悪いと言って撫でるのをやめた。
弟がいたらこんな感じなのだろう。
出会った頃よりは打ち解けられたのだろうかわからないが、今なら話してくれると思った。
だからもう一度、ロイに訊ねてみる。
「ロイは、あんなに強いのに、どうして強くなりたいんだ?」
「...くねぇよ」
「えっ!?」
「オレは、全然強くねぇよ」
オレにはロイの言っていることがよくわからなかった。
すさまじい魔法を操るリューズに一歩も引くことなく、果敢に挑み、そして、勝利したのだ。
「いや、強いだろ。でたらめな魔法を使うリューズに勝ったじゃないか。それに、ロイは聖法気使えたんだな。全然わからなかったよ」
「あんなの、全然ダメだ」
「ダメ?」
「リューズは、アイツは、全然本気を出してないッ!」
「は?」
ロイはどこか悔しそうに顔を歪ませて、ぽつぽつと話し始める。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
更新が遅れて申し訳ないです。
リアルでちょっとゴタゴタとありまして、しょせんは他人なのだなぁと言いますか、ある決意をしたと言いますか。
まぁ、読んでいただいてくれている方々には、本当にお待たせしました(土下座
これからもお付き合いいただければ幸いです。
次話、あの2人が密室で......!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




