14話 ロイとリューズの日課
慌てて食堂を飛び出していったエリシアを追いかけ、オレ、レナ、ルミナの後を「皆さ~ん、大丈夫ですから~」と声を上げるフィリアさんが続く。
フィリアさんの言葉も気になったが、エリシアの慌てぶりの方が気がかりだった。
それに、あの爆発音。
(なんだ!? 何が起こってるんだ?)
初めて訪れる建物なのに迷いなく進んでいくエリシアを見て、おそらく魔力でも感知しているのだろうと当たりをつける。
ここで魔力があるとすれば。
「リューズ......?」
確か上の部屋でお昼寝をしていたはずだが。
そして、裏手の庭――先ほど遊んでいた広場と同じくらいの大きさだが――に辿りついたオレの目は、目の前の光景に釘付けになった。
もくもくと上がる土煙から姿を現したのは、灰色の短髪に紅榴石の瞳をした少年、ロイ。
肩で息をする彼に相対するのは、翡翠の髪を肩辺りまで伸ばし、鋭く光る金色の眼が隠れる程の前髪を垂らした魔族の少年、リューズ。
リューズもまた、頬から流す一滴の汗を片手で拭いロイを見据えていた。
(ケンカ......?)
エリシアが止めに入ろうと一歩踏み出そうとしたその時。
「待ってくださ~い」
後ろから走ってきたフィリアさんから声がかかる。
「大丈夫ですから」
「どういうことなの?」
エリシアがフィリアさんに詰め寄る。
息を整えたフィリアさんが、2人のケンカの説明を始めた。
「あれは、訓練と言いますか、特訓と言いますか......」
「特訓?」
「ええ、あの2人は出会ってから今日まで1日1回、欠かさず戦ってます。何でも強くなるためだとか言ってました。だから邪魔するなとも」
「そう、ですか」
フィリアさんの言葉を聞いたエリシアは、納得したのか2人の対決を見守る姿勢を見せた。
オレもレナやルミナと共にエリシアに倣う。
オレ達が見守る中、ロイとリューズは戦闘を再開させた。
先に動いたのは、ロイだ。
ロイの右手が白く光る。
そして、その光がロイの手の中で棒状に形を変えた。
それはまるで、かの有名な宇宙戦争の映画を思い出させる、工事現場などで警備員が持っている白く光る棒だった。
「へぇ......あの歳で」
ロイの剣(?)を見たエリシアは、感心したように小さく声を上げる。
疑問を浮かべるオレをよそに、エリシアの深紅の瞳は、同じ瞳の色を持つロイへと向けられる。
「熱線刃」
「熱線刃?」
ロイの発した言葉にオレは疑問を口にする。
オレの疑問に答えてくれたのは、隣でその戦いを見つめるエリシア。
【熱線刃】
自身の聖法気を実体化させ、刃先を高速振動させることで熱が発生する。
刃先に触れたものは、その振動熱で焼き切られてしまうという、まさに言葉通りの剣だ。
「触れたものすべて焼き切るなんて、それってもう訓練とかの域を超えてねぇか?」
「普通なら、そうね。でも、相手は......」
「......魔族」
エリシアの言葉を引き継いだオレがつぶやいた矢先、リューズにも動きがあった。
彼は、自身の腕と脚に緑色の風を纏わせる。
あの技は、確かレナもやっていたやつだ。
「いくよ」
「ああ」
リューズによる戦闘再開の言葉と共にロイも答えて、それぞれがその場から姿を消した。
エリシアは2人の戦いを真剣に分析する。
それは、レナとルミナも同じで、彼女たちは目の前で繰り広げられている戦闘に釘付けになった。
ユウはというと、何が起こっているのかわからず、口を開けたまま固まっていた。
「はあぁっ!」
ロイが放つ上段からの振り下ろしに、リューズは半歩身体をずらし、紙一重で回避。
振り抜いた隙にできるロイの脇腹めがけて、風を纏わせた渾身の右ストレートを撃つ――。
のを止め、大きくバックステップを踏む。
直後、リューズのいた場所に白い光が走る。
ロイは振り下ろした【熱線刃】を強引な力技で、振り下ろしきるのを停止。
そこから左に躱したリューズめがけて薙ぎ払いをお見舞いしていた。
リューズが一歩引いたことで出来る2人の距離。
無手のリューズには、できる事なら避けたい剣を振るうロイの間合いだった。
しかし、リューズはあの大人しそうな子供だったとは思えないほど、いやらしい笑みを浮かべる。
「竜巻旋風剣」
リューズが手をかざすと、ロイの足元に魔法陣が現れる。
それを視認したロイは、遮二無二横っ飛びをした。
しかし、魔法陣から現れた巨大な竜巻がロイを逃しはしない。
「くっ、わあっ」
ロイは、回転しながら上空へと吹き上げられる。
その最中、ロイの肌に触れる風が刃となって襲い掛かる。
【熱線刃】で果敢に対抗するが、周囲を覆い尽くす風の刃の数に対処しきれない。
たちまち、ロイの身体から血しぶきが舞う。
およそ5階建てビルの屋上ほどの所で止まり、そこから重力に従い自由落下するロイ。
通常、そんなところから落ちれば大ケガを負う。
打ち所が悪ければ、命の危険だってある高さだ。
さらにロイは、風の刃で体のいたるところを切り刻まれている。
無事では済まされない。
だが、それでは足りないのか、力なく降下するロイを見たリューズは、ダメ押しの魔法を重ねる。
「真空の斬撃波」
真空の刃が空間を揺らがせ、ロイを切断せんと突き進む。
着漸すれば、その体は真っ二つに斬り裂かれるだろう一撃。
竜巻の中で無数の刃に傷つけられ、尚且つ、空中という逃げ場のないロイにとっては、逃れようのない決定打だ。
【真空の衝撃波】がロイへと届こうかという時。
ロイは、瞑っていた眼を開き、獰猛な笑みを見せた――。
瞬間、もう片方の手に【熱線刃】を顕現させ、十字に構える。
「はああああああああああああっ!」
ロイの【熱線刃】がリューズの魔法をぶった斬る。
そして、ロイは、落下する速度を上げる。
極限まで脚に集約させた聖法気は、物理法則を超える。
すなわち、ロイは空中を走っていた。
だが、リューズは慌てていない。
まるでこうなることがわかっていたかのように、特攻するロイを見据えて構える。
「はああっ!」
風を纏わせたロイの右腕から、ドリル状になった衝撃波が放たれる。
【風穴】
高速回転する風の刃であらゆるものを貫き通す、強靭な風。
その風が、突進してくるロイへと襲い掛かる。
ロイもまた薄い笑みを浮かべて、大上段に構え、左右同時に【熱線刃】を振り下ろす。
「うおおりゃああっ!」
直後、耳をつんざく轟音が鳴り響き、爆発で生じた煙がモクモクと立ち上がる。
先ほど、ユウたちが食堂で聞いた爆音と全く同じ音だった。
「わあああっ」
「ぐっあああっ」
ロイとリューズは互いに庭の端まで吹っ飛ばされる。
すぐさま立ち上がったのは、リューズだ。
ロイは、爆発のすぐそばにいたため、ダメージが大きい。
うつ伏せのまま、何とか起き上がろうとするそぶりを見せている。
しかし、勝敗は明白。
リューズが一歩踏み込めば、ロイの敗北がが確定する。
「僕の、勝ちだ」
再び腕に風を纏わせて、ロイに狙いを定める。
立ち上がれないロイは、苦悶の表情でリューズを見上げる。
自分に止めを刺そうとしている風を感じながら、ロイは最後の足掻きとばかりに薄く笑い、もう上げることもできない腕をもぞもぞさせた。
その指に注目すると、人差し指をくいっと上から下へと曲げていた。
「食らいやがれ」
ロイがつぶやいた瞬間、リューズの頬を一筋の光が走る。
じゅうぅっと音を立てて地面に突き刺さる【熱線刃】。
頭上という死角からの一撃。
爆発で消し飛んだと思っていた【熱線刃】は、その実、もう一本は無事に残っており、空中に待機させていたのだ。
ロイの合図でリューズを襲うが、その狙いが寸分ずれた。
しかし、リューズは目を閉じて笑みを浮かべる。
「僕の、負けだね」
ロイの狙いが正確だったら、リューズは致命傷を負っていただろう。
最後まで立っていたのはリューズだが、リューズの言う通り、この勝負はロイの勝ちだろう。
だが、それに納得していないのか、ロイは顔をしかめる。
「ちっ、またかよ......」
そのつぶやきは、誰の耳にも入ることはなかった。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
久しぶりの戦闘回でしたが、いかがだったでしょうか?
今回は、軽めな戦いでしたが、楽しんでいただければ幸いです。
やっぱり、ファンタジーものは戦いがないと始まりませんよね?
あれ? 僕だけ? あれ......?
次話、エリシアがロイを冷たくあしらう!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




