13話 孤児院設立
「お前魔族だろ! 何でここにいるんだ」
灰色に染まる短髪、勝気な紅榴石の瞳、頬には無数の浅い切り傷があり、やんちゃな男の子といった感じだ。
歳もフィアナやリューズと大して変わらないだろう。
そんな彼がリューズを指さしてさらに続ける。
「ここは俺たちの森だ。魔族はどっか行けよ」
「違うのよ。私たちは王都に行くためにここを通ってるだけだから。あなたたちに何かするつもりはないわ」
「お前、人間なのに魔族の仲間なのかッ!? そんなやつの言うことなんて信じられるか」
「リューズは怖い魔族じゃないもん。お姉ちゃんやリューズのことを悪く言うな」
フィリアの言い分をまったく信じない紅眼の少年に、フィアナが声を荒げる。
灰色短髪の少年は、それに気を悪くしたのか、紅榴石の瞳を怪しく光らせ、目つきを鋭くする。
そして、その表情はどこか焦っているようにも見えた。
「それならお前らも俺らの敵だ」
言うや、タンッと木を蹴りフィリアたちへと駆ける少年。
フィリアたちは、少年の姿を見失った。
少年の白く光った拳がフィリアたちへ届こうとした刹那。
――風が吹いた。
「うわっ」
「きゃっ」
「ッ!」
その風は少年を真横に吹っ飛ばし、飛んだ先の大木へと叩きつける。
フィアナとフィリアは突然吹いた強風に、髪やスカートを抑える。
そして、その風の発生源を辿っていくと、片腕を伸ばしたリューズがいた。
「いきなり乱暴するなんて良くないよ?」
少年は悪態を尽きながらも再び立ち上がる。
リューズの方も今度は戦闘態勢に入った。
互いが互いに見合って、今にもどちらかが動き出さんとしていた。
「ストーーーーップ!」
フィリアが2人の間に入って声を上げる。
突然の横やりに、少年とリューズは目を丸くした。
フィリアは表情を険しくして、2人に言い寄る。
「2人とも落ち着いてッ。私たちは君に悪いことをしようとは思ってないって言ってるでしょ」
「うっ」
「それに、リューズ君もやり過ぎよ。相手はまだ小さい子供なんだから、って君と変わらないか。それでも、君は強い力を持ってるんだから、相手のことをちゃんと考えないとダメでしょ?」
「でも......」
「でもじゃありません。庇ってくれたことは嬉しいけど、力の使い方を覚えなきゃ、君は優しいのに、そんなんじゃみんな誤解しちゃうよ?」
「......うん。わかった」
2人は、それはもうこってりとフィリアに説教された。
何の力もないただの人間であるフィリアに、リューズと少年は頭が上がらなかった。
それから少しして、少年がやって来た方向から血相欠いた少年がやってくる。
「ロイ兄ぃ。大変だよ、ミアが、ミアがまた苦しみだした」
「何だとッ!?」
ロイと呼ばれた少年に付いて行き辿りついた場所は。
「秘密基地みたい」
フィアナが興奮しながらはしゃぐ。
森の開けた場所に、葉っぱや木の枝を集めて作られた簡易的な基地。
その一角の葉っぱを敷き詰めたところに、ロイと呼ばれた少年よりも少し幼い少女が横たわっていた。
呼吸は荒く、湯気が出そうなほど全身が赤く染まり、苦しそうに唸っている。
「ミア、しっかりしろ。ミア、ミア」
ロイが頻りに呼びかけるが、ミアは激しく呼吸するだけで返事をすることはなかった。
そこで、フィリアが身を乗り出す。
ロイに煙たがられるが、事態は一刻を争うので「今は黙ってなさい」の一声で大人しくさせる。
「これは......風邪かしら。フィアナ、解熱草わかるわよね?」
「うん」
「急いで探してきて」
「わかった」
フィアナが薬になる材料を探しに行ことすると、リューズが「僕も行く」とフィアナの後を追いかける。
それを見たフィリアは、ロイにも後を追うように指示をする。
「この辺りは君の方が詳しいでしょ? あの子たちが迷わないように道案内頼めるかしら?」
「お、おう。でも、ミアは......」
「大丈夫、私が何とかするから。早く薬草を持ってきてあげて」
「わかったよ」
ロイはフィアナたちの元へと走っていった。
「ふぅ、何とかなったわね」
額に汗をためたフィリアが、その汗を拭いながら一息つく。
側には顔に生気が戻ったミアが、すやすやと規則正しい呼吸をして目を瞑っている。
彼女の手をギュッと握っている男の子――ユギト――も一安心したようで、優しい目をミアに向けていた。
フィアナとリューズ、ロイはよほど急いで薬草探しをしていたのだろう、今もまだ息を切らしている。
「あ、あの、助けてくれて...その、ありがとう」
ロイがフィリアたちに頭を下げる。
すぐにプイっとそっぽを向いてしまったが、その頬は少し赤らんでいた。
「ええ、どういたしまして。連日の雨で風邪をこじらしたのね、でも、もう大丈夫よ」
子供たちだけでこんな森の中にいるのを不思議に思ったフィリアは、ロイたちの現状を聞いてみた。
ロイは顔を暗くさせたが、それでも仲間を助けてくれたフィリアたちに気を許したのか、重たい口を開く。
「この前の戦争で父ちゃんも母ちゃんも死んじゃったんだ」
ロイはフィリアたちと同じ戦争孤児だった。
この時代、ロイのような子供は少なくない。
そして、一人では生きて行けず、そのまま死んでしまう子供たちも多々いる。
そんな中、ロイは両親がいなくなって1か月、何とか生きてきた。
しかし、此度の戦争で住んでいた村が戦争の影響で壊滅したらしい。
炎を纏った魔法が降り注ぐ中、ロイはミアとユギトに出会った。
動かなくなった母親の前で泣き崩れていた彼女たちをロイは、無理やり引っ張って戦火から逃れてきたのだとか。
頼る人などおらず、木の実なのどの食料を求めて、3人はこの森へたどり着いたそうだ。
わずか6歳の子供が建築など出来るはずもなく、屋根付きの基地とはいかなかった。
最初こそ、親がいなくなった悲しみくれていた2人も、ロイの明るく振舞う姿を目にして、次第に元気になっていったミアとユギト。
木の枝を集め火をおこし、木の実を食べ食いつないできたのだが、連日降り続いた雨で暖がなくなり、貯めていた木の実やキノコなどが底を尽き始めた時。
ミアの体調が崩れた。
親を亡くしたストレスと、ろくなものを食べていなかったことによる免疫力低下が原因だろう。
「じゃあユギト君たちは......」
「ああ、兄妹だ」
「うん、そうだよ。ミアを治してくれてありがとう」
そこで、フィリアは彼らに一緒に王都へ行かないかと提案する。
フィリアは、そこで学校を開こうと考えていた。
先生の資格を取ったフィリアは、一般的な勉強や生きていくために必要な知識を子供たちに教えることができる。
それに、国は人材育成のためにも先生から申請があった場合、学校を提供するようになっている。
場所や建物などは自分たちで調達しなければならないが、生徒の受け入れは先生に一任されている。
フィリアはそこで身寄りのない子供たちを引き受けて、住み込み型の学校を作ろうと考えていた。
その考えを聞いたロイは、2つ返事で了承する。
ロイたちの喜ぶ顔を見たフィリアは破顔した。
そして、王都に向かう人数が多くなったことで、唯一の懸念材料だった魔族の王都侵入対策も何とかなりそうだ。
翌日、ミアが元気を取り戻し、フィリアたちは王都へと向かい森を後にした。
■■■
「じゃあ、それからずっとここで孤児院を?」
「ええ、そうですね。今ではずいぶんと大所帯になりましたが」
フィリアさんは、オレの質問にどこか遠くを見て微笑んだ。
オレは、その笑みを浮かべる本当の意味に気付いてしまった。
(そうか、それだけ戦争で親を失った子供たちが増えたってことなのか......)
オレの表情を察してか、フィリアさんは、「これでも、最初はみんな魔族であるリューズのことを怖がっていたんですよ」と冗談じみた笑みを浮かべる。
オレは、フィリアさんの笑みにつられて頬を綻ばせた。
それでも、オレの気持ちが晴れることはなく、なんだかやるせない気持ちになっていると、エリシアが血相欠いて立ち上がる。
「これは!?」
「ん? どうしたんだ?」
ズドオオオオオオオオオオォォォォン!
直後、孤児院の裏手の方からすさまじい音が鳴り響いた。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
あなたの子供の頃はどんな子供でしたか?
僕は、棒を振り回し、田んぼを駆けまわる活発な少年でした。
それが、いつしか、人を拒絶し、家にこもり、ネットをむさぼる難民になってしまいました(笑)
どこでこうなったのか......謎ですね。
次話、あの二人の対決が!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




