8話 ガラの悪い連中
リンと別れて、オレは今、背中に大量の爆弾を抱えて、フィアナと共に孤児院を目指していた。
通りの喧騒は、先ほどよりも大きく、明らかにお金を持っていないと分かる格好をしたオレたちにも売り込みをしてくる商売根性は、感嘆に値する。
慣れた感じで、売り子を躱すフィアナは、本当に11歳の少女なのかと疑うほどしっかりしていた。
オレはというと、ずいぃと押し寄られる店主の距離感に戸惑いつつ、逃げるようにその場を離れるのが精いっぱいだ。
しばらく歩いていると、軒先でキレイな女の人が、声を上げていた。
「お姉ちゃん?」
その光景をフィアナと共に見ていたオレの耳に、フィアナの驚きの声が届く。
よく見ると、フィアナと同じ栗色の髪と瞳をした20代前半と見られる彼女は、どこかフィアナと顔立ちが似ていた。
「困りますお客様、私は仕事で来ているだけなので」
「いいじゃないですか。仕事だろうと何だろうと、私はこの出会いに運命を感じた......」
どこの世界でもあるんだな、ナンパって。
まぁ、確かにあれだけ美人だったら仕方ないことかもしれないけど。
栗色の髪は長く、ゆるい三つ編みにして腰まで伸ばしている。
フィアナと同じく、ぱっちりとした髪の色と同じ目は、美人の中にもかわいらしさを持たせている。
女の子らしい色白の肌を包むのは、元の世界のRPGでよく見る黒と白のシスター服。
だが、よく見ると袖口などは土をかぶっており、手に持っているかごに入ったたくさんの野菜は、孤児院のみんなで作っただろうことは予想できる。
彼女がいる店をよく見ると、入口だけでは判別しがたいが、飲食店だろうか。
店の外にもテーブルやイスが並べられており、元の世界で言うテラス付きのレストランのようだ。
ちょうど店から出てきた客の1人に声をかけられたみたいだ。
ナンパ男は、後ろに男3人を連れており、服装もこの辺りで見かけるものではなく、身綺麗だった。
だが、先ほど見た小太りの男ほど豪奢なものではなく、無理に金持ちを装っているかのような雰囲気が漂っていた。
苔色のおかっぱ頭とヒキガエルを連想させる顔立ち。
禍々しく光る赤い眼と相まって、お世辞にも普通とは言えない顔をしていた。
あれに引っかかる女の人などいるのだろうかと、疑問に思うほどだ。
また、後ろにいる3人の男もさわやか系とはかけ離れた風体をしている。
真ん中にいる男は一番ガタイがよく、頬には無数の傷を持っている。
ちなみに、頭は太陽のように輝くスキンヘッド。
その褐色肌によく似合っていた。
そして、その両隣にいる男たちは、双子だろうか?
切れ長の目に、どこか子ズルい感じのする顔立ち。
ねずみ男を連想させるひょろ長く曲がった背格好で、ヒキガエル顔の男の後ろでニヤニヤと笑っている。
「そう難しく考える事じゃないでしょう? 私はそれなりに稼ぎがあります。貴女に不自由はさせませんよ」
「私は今のままで十分です。ですので、申し訳ありませんが、お引き取りください」
「私が誘っているのですよ?」
ヒキガエル顔の男が笑顔から一転、真顔でそう訊ねると、後ろにいた双子の内の一人が声を上げる。
「そうですぜ、ミックの兄貴の言うことは聞いておいた方が身のためですぜ。なぁ、兄者よ」
「ああ、ミックの兄貴の言うことは間違いねぇ」
兄者と呼ばれた双子のもう片方が答え、ガタイのいいスキンヘッドの男が少女に歩み寄り、耳打ちをする。
「悪いことは言わねぇ、兄貴の言うことには逆らわない方がいい」
瞬間、少女はビクッと肩を震わせる。
恐る恐るといった感じで、ミックの兄貴と呼ばれたヒキガエル顔の男を見る。
そこには、取って付けたような、うすら寒い笑顔があった。
間近にいたわけではないので、スキンヘッドから何を言われたのかわからないが、女の子が怯えているのはすぐにわかった。
オレの服を強く握りしめてくるフィアナの様子と、先ほど耳にした『お姉ちゃん』という言葉で、彼女がフィアナの姉であることは間違いないだろう。
たしか、フィリアお姉ちゃんだったか。
(また、仲裁に入るのか。今日は、こんなことばっかりだな)
そうは言っても、せっかく仲良くなったフィアナを悲しませるわけにもいかない。
それに、女の人を怖がらせるようなヤツは、見ていて気持ちのいいものでもないしな。
「フィアナ、大丈夫。ちょっとお兄ちゃんが助けてくるから」
こくりと頷くフィアナの手を優しく自分の服から離し、ナンパ男たちの元へと歩みを早める。
「あれ? フィリアさん、こんなところで何やってるんですか?」
突然のオレの乱入に怪訝な顔をする男たちと、自分の名前を見ず知らずの男に呼ばれて驚きを隠せないでいるフィリアさん。
だが、そんなことは無視して、オレはフィリアさんの肩をポンポンと叩いて、妹のフィアナの方へ顔を向けてウインクをする。
もちろん、右眼は頬が腫れて開かないため、両眼を閉じての変則ウインクになったが。
それでも、オレの真意に気付いてくれたフィリアさんは、小さな深呼吸をして落ち着きを取り戻していった。
「ちょっと、この人たちに言い寄られてまして」
「ははっ、美人さんは大変ですね。ということで、すみませんが、オレの連れなので、ここはお引き取り願いませんか?」
ナンパとは、声をかけた女の人に男がいると分かれば、それで終わりだ。
よほどのことがない限り、そのナンパは成功しないからだ。
ナンパなどしたことのないオレでも、それくらいはわかる。
だから、オレが中に割って入っていったわけなのだが。
「おいおい、何だね君は?」
どうやらこのヒキガエルは引きそうにないみたいだ。
「オレの連れですよ。彼女が困ってますのですみませんが......」
「連れだからなんです? 私は君じゃなくて、彼女に用があるのですよ」
(おいおい、どんだけ自己中なんだよ!?)
さすがに、ここまで強引なヤツとは予想していなかった。
オレを押しのけてフィリアさんの元へ行こうとするミックの肩をつかみ、盛大な嘘を叫ぶ。
「オレの女に手を出さないでくれませんかねッ!」
彼女を助けるためとは言え、とんでもないことを口走ってしまった。
ミックとその取り巻きたちは、疑念を抱く表情を見せる。
フィリアさんも眼を見開いて、ついにはうつむいてしまう始末。
「くくくくくっ、君が彼女の男なわけないでしょう?」
こんな不細工な男が、と続けるミックは、ケラケラと笑いながら取り巻きの男どもに同意を求めている。
「はい、全くですぜ。なぁ、兄者?」
「ああ、ミックの兄貴の言うことは間違いねぇ」
すべて本当のことだが、少なくともオレよりもヒドイ顔をしたヤツに不細工と言われると、頭にくるものがある。
オレが、反論しようと声を上げる直前、スキンヘッドの男がぬぅっと目の前に現れて、耳打ちをする。
「悪いことは言わねぇ、兄貴の言うことには逆らわない方がいい」
オレよりもはるかに高く、がっしりとしたスキンヘッドの男が耳元で、底冷えするほど低い声を上げれば、震えあがるのは必須だ。
怖い、めちゃめちゃ怖い。
先ほど、フィリアさんも同じような状況になっていたが、自分も全く同じ状況になってしまったようだ。
身体が震えそうになるのを必死に抑え、気丈に振舞おうと努力する。
ここで、オレが怖気づいたら、ミックの言ったことが真実になってしまう。
いや、真実なのだが、この場だけは、オレの嘘を突き通さなければいけない。
フィアナに大丈夫といった手前、何としても彼女の姉を助けなければ。
それに、こいつらのやり方は何だか気に食わない。
大勢で寄って集って、1人の女の子を半ば強引に引っかけようとか。
「な、何と言われても、オレは引かないからな」
震えそうになる足を、激しく鼓動する胸を、ありったけの勇気で抑えつける。
若干声が上ずっていたが、それでもオレは、引かないという意思を込めた目を向ける。
すると、ミックの頬が僅かに痙攣する。
「ふむ。私の言うことが聞けないと。いやはや、まったく、ははっ......」
瞬間、ミックの纏う雰囲気が豹変する。
視認できるほどのどす黒いオーラを漂わせ、ヒキガエルの顔には何本もの筋が入り、一目で機嫌を損ねていることがわかった。
「私はッ、私の言うことを聞けない奴が大っ嫌いなのだよッ!」
ミックの赤い瞳に睨まれたオレは、全身を硬直させた。
恐怖、いや、それ以上の絶望をその身に感じたのだ。
オレはコイツに殺される。
そう、明確に認識させられた。
額からの汗が止まらない。
必死で抑え込んでいた震えが、抑えきれなくなる。
「うっ......」
オレがあまりにもすさまじい恐怖で声を上げようとした時。
――透き通ったキレイな声が、オレたちの間に入ってきた。
「こんな街中で何をやってるのかしら?」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ナンパってしたことありますか?
僕は、仕事上やらないといけなかったので、よくやってましたね。
え? お前のナンパなんて成功するわけがない?
はははっ、そう思うでしょ? そう思うよね?
そんな世界から足を洗って8年、今では女の子はもとより、人に声をかけることもなくなりましたww
次話、ユウとミック一味の間に入ってきた人物の正体が明らかに!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




