6話 エリシアの決断
お嬢様育ちのため、自分のやりたいことは何が何でもやり通す所。
ちょっと強引で、それでも悪い気はしない昔と変わらないままのルミナに、レナは頬を緩めた。
ただ、心配なのは、せっかく自分たちについてくれるというエリシアが、敵に回るのではないかということだ。
不安そうな顔でエリシアの方を向くと、彼女はどこか落ち着いた様子でルミナを見ていた。
「私が騎士になったのは、魔族から人を守るためよ。でも、ルミナちゃんは、人間も魔族も助けたいって思ってるのね。ふふっ」
エリシアは、突然口に手を当てて肩を揺らし始めた。
「ははっ、あはははははははっ」
レナもルミナもエリシアの奇行に、時を止める。
「エ、エリシア?」
「......ふぅ、大丈夫よ、レナちゃん」
エリシアがおかしくなったわけではないと、レナはひとまず安心した。
「どうしたっすか?」
「ええ、自分の小ささに笑いが止まらなかったのよ」
「小ささ、っすか?」
「私は自分のこと、人間のことしか考えていなかったわ。『魔王を倒せば平和になる』なんて現実から目を背けて逃げてただけよね」
優しい笑みを浮かべて自嘲するエリシアは、目の前にいる少女に尊敬の念を抱く。
自分は目の前のことしか見えていなかった。
しかし、ルミナは物事を大局に見ている。
少し考えればわかることだが、魔王を倒せば平和になるわけがないのだ。
今までがそうであったように、魔王がいなくなれば新たな魔王が生まれるだけだ。
エリシアが生まれる少し前に、歴代最強と言われた魔王――クロス・サタン――が死亡した時でさえ、争いは終わらなかった。
新たな魔王――リベラル・アルシエル――が生まれ、前魔王の弔いを名目に、戦争は、むしろ激化の一途をたどっている。
どこかで折り合いをつけなければ、誰かが止めなければ、この戦争は永遠に続く。
全ての魔族か人間のどちらかが完全に滅ぶまで。
ルミナは、人間に襲われ、同族である魔族にひどい目に遭わされてなお、両種族を救おうとしている。
それは、魔王を倒すことよりも、8人の権力者を倒すことよりも遥かに困難な道程だろう。
それはいまだかつて、誰一人として成し遂げたことのない偉業。
いや、偉業と呼ぶには不足過ぎるか。
「エリシア......」
俯き押し黙るエリシアに、レナは心配そうに声をかけるが、自分の世界に入っているのかレナの声は聞こえていないようだった。
そして、そんなエリシアを心配するようにレナが側に行こうと一歩踏み出すと。
サッと、ルミナがレナの身体の前に手を持っていき、制止させる。
「なっ、何っすか?」
「......」
自分のことを邪魔してきたルミナに怪訝な目を向けると、ルミナの金眼は真っすぐに前を見つめていた。
レナもルミナの視線の先へと目をやると、自分の手を真剣に見つめるエリシアがいた。
レナはあの顔を知っている。
以前、自分もあの顔をしていたことがある。
ルミナが連れ去られた時だ。
領主様のお嬢様を人間に差し出したという謂れもない罪で、両親とともに投獄されたレナは、初めて出来たかけがえのない大切な友を助けるために、周りはすべて敵である人間領へと乗り込もうと躍起になった。
『レナ、あなたが行こうとしている場所は、周りが全てあなたの敵よ。一歩間違えれば、あなたは......死ぬわ。それでも行くの?』
今まで見たいこともないほど真剣な表情で、レナの母親は問いかけた。
その迫力と緊迫した雰囲気も相まって、レナは一度冷静なる。
そして、いざ一歩踏み出そうとすると、足がすくんだのだ。
親友を助けたい。
この気持ちに嘘はない。
しかし、『死』という言葉にレナの心は怖気づいてしまった。
それから、いったいどれほどの時間がっ経ったのか自分でもわからないが、レナは決意に満ちた表情で告げる。
『それでも、レナは親友を助けたい』
すると、両親は張り詰めた空気を緩め、励ましの言葉と共に、笑顔でレナを抱きしめた。
レナは決意したのだ。
この先どんな困難が待ち受けていようと、自分の身に何が起ころうと、どんなことをしてでもルミナを助けて見せると。
エリシアも今、あの時の自分と同じように覚悟を決めているのだろう。
ここでレナたちを切り捨てるか、それとも、仲間である聖十字騎士団、ひいてはすべての人間の憎悪を浴びるかを。
ルミナが言う通り、人間が魔族と一緒にいるというだけで忌み嫌われる。
下手をすれば、投獄だってありうる。
先ほど、エリシアも嫌われることは覚悟の上と言っていたが、今回のルミナの提案は、ただの同行者でない。
下手をすれば、魔族もそして、人間も敵に回すかもしれないのだ。
普通だったら、即断でレナたちを切り捨てる。
それが普通だし、当然のことだ。
しかし、エリシアは、たった数日しか付き合いのないレナたちのために、必至に思い悩んでくれている。
レナは、それだけでうれしかった。
たとえ、エリシアがどんな答えを出そうとも、レナはエリシアのことを恨みはしない。
だから、彼女が答えを出すまで、レナもその場で時を待つことにした。
エリシアは、自分に問いかけていた。
意識を自身の奥深くに向ける。
すると、目の前に砂金のように輝く長髪をした深紅の瞳を持つ少女が現れた。
「あなたが本当に守りたいものって何?」
(私は、みんなを守りたい)
「みんなって何?」
(それは.....)
「あなたは自分の答えを持っていないのよ」
(答え?)
「そう。あなたは親の敷いたレールの上を歩いてきただけ」
(違う)
「じゃあ、どうして騎士になったの? 騎士になって何がしたかったの? 強くなって、今の強さを手に入れて、あなたは何がしたいの?」
(私は......)
エリシアは、そのどれもに答えられなかった。
騎士になったのは、家系的に騎士になるのが当たり前だったから。
騎士になってやったことといえば、ただ目の前の敵を倒して、倒して倒し尽くして、気づけば聖剣姫と呼ばれるまでになっていた。
(私は、私には......何も、ない)
エリシアは、目の前に佇む金髪紅眼少女に自分のこれまでが、自分の意思で生きてこなかったことを思い知らされた。
親や国王の言う通りに振る舞い、戦争に流されて、ここまで自分の意思で何一つ決めてこなかった。
その事実が、エリシアの心を苛む。
空っぽな自分に目の前にいる少女は、僅かに笑みを浮かべてエリシアの背中を押す。
「なら、今から決めればいいじゃない」
(えっ!?)
「あなたは、今、自分には何もないと気づけた。それで? 次はどうするの? このまま何も決めないで、他人の言う通り生きていくの?」
(私は、私はッ!)
エリシアは、決然とした表情で見つめていた手を握りしめる。
前を見るとそこにいたのは、白銀の髪と紫水晶の髪をした2人の少女。
こちらを真っすぐに見つめる透き通るように輝いた金の眼と、自分の答えを持った深紅の眼が交差する。
エリシアが答えを出したと悟ったルミナが確認する。
「どうかしら? 私たちと一緒に来てくれますの?」
「私は、私も、みんなを守りたいッ!」
エリシアの答えは、先ほどと同じみんなを守ることだった。
だが、今度は違う。
誰かに言われたわけでも、状況に流されたわけでもない。
エリシアが自分の意思で決めたのだ。
これまでに助けられなかった騎士団員、今までに出会った大切な人たち。
そして、今日、エリシアは決意した。
今まで敵として屠ってきた魔族も守ろうと。
だから。
「私は、騎士団を抜けるわ」
エリシアのその決断に、ルミナとレナは破顔した。
2人はエリシアに駆け寄り、3人で仲良く手を取る。
「ありがとうございますわ」
「レナは今、すっごい嬉しいっす」
魔族2人の中に人間であるエリシアが混ざり、「よろしくね♪」と笑みを浮かべる光景は、彼女たちが目指す優しい世界の一端を垣間見た気がする。
「さて、私たちの元へ、もう一人加わってほしい人がいるのですが」
ルミナは、エリシアに挑戦的な目を向けて言う。
レナも「そうっすね」とエリシアに目をやる。
2つの優しい金の瞳に見つめられたエリシアは、ため息ひとつ、気持ちを新たにもう一つの決意をする。
「ユウと仲直りしなきゃね」
最後まで読んでくれてありがとうございます。
あなたの人生最大の決断って何ですか?
僕は、ソシャゲのガチャで、課金するかどうかというのが人生最大の決断ですね。
イベントの度に水晶を購入するかどうか。
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いや、しかし、しょせんはソシャゲ、いつかは飽きて捨ててしまうはずだ。
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次話、リンのおむすびを食べて気絶したユウは、いったいどうなってしまったのか!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




