4話 エピローグ ~ポムとリンゴ~
オレは、エリシアが行く予定だった街へ同行することになった。
しかし、問題はすぐに起きた。
そう、オレは。
「はぁ、はぁ、はぁ。な、なぁエリシア、まだか?」
長年のヒキコモリのせいで、致命的に体力が衰えていたのを忘れていた。
「もぉ、さっきから何度も言ってるでしょ。ま・だ・よ」
「うげぇ~」
もうかれこれ30分は歩きっぱなしだ。
泉で少し休んだとはいえ、金髪紅眼の裸美少女に会ったり、剣を振り回されたりで正直、心は全くもって休めてない。
「なあ、エリシア......」
特に可愛い顔立ちでもないオレが上目遣いで訴えても、当のエリシアはゴミを見るかのような眼でオレを見る。
ある属性の人達からは『ご褒美いただきましたー!』となるかもしれないが、あいにくとオレはそういう属性ではないので、引きつらせた笑を浮かべるのだった。
「はああぁ、わかったわよ! 少しだけだからねっ!」
盛大にため息をついたエリシアは、休憩を渋々了承してくれた。
オレはどかっと座りこみ、エリシアとは違った意味で盛大なため息をついた。
「なぁ、この世界って車とかないのか?」
「くるま?」
「あぁ、ないのかぁ」
オレはエリシアの反応を見て落胆した。
まぁ、剣とか魔法とかの世界で車がないのはテンプレなのか。
せめてもう少し楽して移動できないものかと思っていると、エリシアが辺りをキョロキョロして。
「ふふっ、あったわ♪」
「......?」
そう言うと、上にかざした右手が光だした。
光が次第に人差し指に収束していき、レーザー光線のようなものが放たれた。
パスッ。
高い木の枝を撃ち抜いたのだろう、何に当たる音がしてから赤くて丸い何かが落ちてきた。
エリシアは赤い何かを受け取って、そっぽを向きながらオレに差し出してきた。
「ほ、ほら、これでも食べなさい...」
「あ、ありがとう」
「べ、別にユウのためじゃなくて......そ、そう、ユウにこれ以上休まれると私が困るから。私のためなんだからねっ!」
「お、おう」
エリシアは、まるでどこかのツンデレ女子が言いそうなことを言って顔を赤くしている。
そして、エリシアから受け取った赤くて丸い果物のようなもの......というかリンゴだ。
この世界でもリンゴは赤いんだなぁ、などとまじまじとリンゴを見ていると、エリシアがオレに訊ねてくる。
「ポムは初めて見るのかしら?」
「......ポム?」
「ポム......」
オレは首をかしげてエリシアを見ると、彼女はさも当然のようにうなずいた。
「リンゴじゃないのか?」
「リンゴ? 何それ?」
どうやらこの世界ではリンゴのことをポムと言うらしいが、色形は一緒でも味は違うかもしれない。
普段なら絶対やらないが、空腹と疲労も手伝って皮も剥かずポムにガブッとかじりついた。
もぐもぐもぐ。
エリシアは自分の渡したポムがおいしいのかどうか、オレの様子をうかがっているみたいだが。
「いや、リンゴじゃん!」
思わずツッコんでしまった。
だってリンゴなんだもん。
シャキシャキとした食感で、甘みの中にほのかに感じる酸味が、よりおいしさを引き立たせて。
などと言った語彙力はないので、素直な感想、もといツッコミを入れることしかできなかった。
「ポムって言ってるでしょ! ...ってもしかして、ユウの世界では......」
「ああ、リンゴって言うんだ。いや~異世界に来てリンゴを食べれるとは思わなかったな」
「ふふふっ、ユウの知ってるものでよかったわね」
「そうだな。おいしかったよ、ありがとう」
「えっ、だ、だから、ユウのためじゃないんだからねっ!」
「素直じゃないなぁ...」
エリシアはそっぽを向いてしまい、その頬は少し赤かったが見なかったことにしてあげた。
騎士団(?)に所属しているからなのか、他人にも自分にも厳しくしようとしているフシがあるし。
おそらく根は優しいんだろう。
なんだかんだ言いながら、見ず知らずのオレの世話までしてくれるしな。
「さて、もうひと踏ん張りいきますか!」
オレは、あぐらをかいている足を両手でパンっと叩き気合を入れる。
騎士団に所属しているエリシアの歩くスピードはかなり速い。
オレは付いていくのがやっとだ。
先程よりも速度を落としてくれたみたいだが、それでも万年運動不足のオレにとってはかなりきつい。
さっき頑張るって言ったばかりなのに、ここで弱音を吐いたらかっこ悪いよなぁ。
とにかく、ゆっくり歩いてもらうにはどうすればいいのか頭を悩ませる。
そうだ、会話だ! 会話をすれば歩くスピードが落ちるって聞いたことがある。
でも、1年以上も誰とも話さずに過ごしてきたし、こんな可愛い女の子との会話とかどうすればいいんだ?
と、とりあえず褒めればいいって聞いたことがるし。
よしっ!
「そういえば、エリシアの魔法ってすごいな」
「魔法じゃない! 聖法気っ!」
「あ、あぁ、聖法気、聖法気な」
うわ~、なんか怒らせちまった。
これ以上機嫌を損ねないようにしないと。
「その聖法気って人間なら誰でも使えるのか?」
「使えないわ。素質によるところが大きいみたいだけど、訓練でできるようになるって聞いたこともあるわ」
「聞いたことあるって、じゃあ、エリシアは生まれつきなんだ」
「ええ、そうよ。この力で魔族軍を殲滅するのが私の使命よ」
使命って、やっぱり騎士団員って感じだな。
「じゃあ、オレも訓練すればできるようになったりして。へへっ」
「あははっ、ユウじゃ無理ね」
「なんでさ?」
オレは即答で無理と言われて、ちょっとムキになってしまった。
そんなオレのことなど気にせずに、エリシアは続ける。
「訓練って言うけど、地獄の試練って言われてるのよ。死者も出るって聞くし、ちょっと歩いただけでへたばっちゃうユウじゃ無理に決まってるじゃない」
「はははっ、そりゃ無理だわ」
そんな話をしていると森の出口が見えてきた。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
冒険、始まらなかったですね。
引きこもりは体力が致命的なのです。
引きこもりが動く時は、トイレとお風呂と宅配ご飯を取りに行くことだけなのです。
後は、ゲーミングチェアに座ったままなのです。
部屋にあるものはイスのローラーで事足りるのです。
序章も終わり、次はいよいよ本格的な本格的な物語が始まります。
ここまで楽しんでいただけたでしょうか?
まだまだ、至らない点は多々ありますが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします(ぺこり
次話、ユウは異世界でファンタジーを実感する!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。