4話 おむすびを食べるか?
巫女服ミニスカ少女がもたらした光景に、女の子は口をあらん限り開き固まった。
ユウもその風呂敷の中身に目を剥いた。
そこには、一人で食べるにはあまりにも多すぎるおにぎりがあった。
そして何より、カラフルだった。
「お、お姉ちゃん、これって......お米、だよね」
「うむ。そうじゃ」
「ええええええええええええええええ~~~~~~~~~っ!」
ユウは、女の子の反応に当然だろうという思いを抱く。
お米の色は、通常、白一色。
五目やわかめ、シソといった多少色が付く混ぜご飯は存在するものの、赤一色や青一色のお米は見たことがない。
しかし、女の子が驚いたことはそんなことではなかった。
「ホントに、ホントにくれるのっ!」
「当然じゃ。これは誰かに食べてもらうために作ったんじゃからな」
「でも、こんな高価なもの......ホントにいいの?」
巫女服ミニスカ少女は、優しい笑みを浮かべて女の子の頭を撫でながら、「うむ」と頷く。
その微笑ましい光景を眺めつつも、ユウは『高価』という言葉に、頭にはてなが浮かぶ。
日本に住んでいれば、お米は当たり前のように食卓に並ぶ。
確かに、お金がない人にとっては高価なものになるのかもしれない。
しかし、それにしても驚きすぎじゃないかと思う。
「えっと、お米って高いの?」
「お兄ちゃん、知らないの? すっっっっごく高いんだよっ!」
思ったことを口に出したユウに対して、女の子は興奮した様子で握りこぶしを作って力説する。
「お米は、ある限定した地域でしか作れなくって、そこは秘境って呼ばれてるんだ。そして、お米は市場に出回ることなんて、ほとんどないんだよ」
「へぇー」
「それにね、それにねっ! すっっっっごく美味しいんだって」
お米とは、極東の一部の地域でのみ作られる特産物で、他の主食である小麦などとは比にならないほどの栄養価を含んでいる。
一杯のご飯を食べると半刻は、空腹にならないと言われるほどである。
小麦を主食にするこの世界の人々にとっては、非常に価値のある食べ物であると同時に頬が落ちる程美味しいのだとか。
大量に生産できる穀物ではあるが、その一部の地域の住民は、その作り方を秘匿にしている。
そのため、市場に出回ることも少なく、価格が吊り上がっているのだ。
女の子は饒舌にユウに説明していた。
まだ10歳そこそこの子供なのに物知りだなぁという感想を抱くユウは、もしかしてこの子もレナと同類なのかと疑い始める。
(見た目は子供、頭脳はおと......じゃなくて、歳はもっと上なのか?)
「ん? お兄ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや、小さいのに物知りなんだなぁと思ってさ」
女の子は、頬を赤らめて愛くるしい笑顔を見せるが、どこか遠くを見つめて「私なんてまだまだだよ」と口にした。
「だって、お姉ちゃんに教えてもらったんだもん」
「お姉ちゃん?」
ユウは、巫女服ミニスカ少女を指さして首をかしげるが、女の子は首を横に振る。
突然自分を指さされた巫女服ミニスカ少女は、目を丸くしていた。
「違うよ。フィリアお姉ちゃんだよ」
「「フィリアお姉ちゃん?」」
誰だか知らない名前を言われて、二人は声をそろえて首をひねる。
しかし、女の子は、「聞いて聞いて」と言わんばかりの顔で話してくれた。
「私はフィアナ。フィリアお姉ちゃんと『希望の星』に住んでるの」
希望の星とは、孤児院の名前で、フィアナは、たくさんの孤児たちと共にそこで暮らしている。
彼女の姉――フィアナ――は、そこで先生をしていた。
そこでは、社会に出ていくための勉強をしたり、自分たちで農作物を作ったりと、元の世界での住み込み式小学校みたいなところだ。
フィアナは3人いる年長組の1人で、今日は夕飯の材料を買い出しに市場へ来ていた。
歳も11歳とユウが懸念していたように年上ではなく、見た目通りの女の子だった。
ユウが胸を撫で下ろしていると、フィアナは、自身に興奮を運び込んだ少女へと目を向ける。
「お姉ちゃんって、もしかして極東の人?」
「うむ。そうじゃ」
「すごいっ! じゃあ、お姉ちゃんがこのお米を作ったの?」
「いや、妾ではない。妾が住んでおった近くの村の者にもらったのじゃ」
「ぐぅぅぅ~~~」
すごいすごいとフィアナが興奮しっぱなしのところに、場違いな音がユウのお腹から鳴り響いた。
二人は目を丸くして、ユウへと振り返る。
そう言えば、ずっと寝込みっぱなしで何も口にしてなかったと思い出すが、さすがに他人の食べ物を見て腹を鳴らすのは恥ずかしい。
頬を掻いて苦笑いを浮かべるユウに、フィアナは巫女服ミニスカ少女にごにょごにょと話している。
すると、ぱぁっと明るい笑みを浮かべて、ユウに向き直る。
「お兄ちゃんっ! 一緒に食べよっ!」
「えっ!? いいの?」
「うん。こんなに一杯もらったんだもん。みんなで食べたほうがおいしいよ」
「フィアナの言う通りじゃ。妾は、誰かが喜ぶ顔が見たいからおむすびを作ったのじゃ」
「あ、ありがとう」
ユウは、こみ上げてくるものを必死に抑え込んで破顔した。
それから、ユウと巫女服ミニスカ少女は、互いに自己紹介をして3人で輪になっておむすびを食べることとなった。
そして、巫女服ミニスカ少女――リン――が持ってきた大量のおむすびの中から、フィアナは赤いおむすびを選び、ユウは無難に白いおむすびを手に取った。
リンは、ユウとフィアナが自分の作ったおむすびを食べるのを、今か今かと目を輝かせて見つめている。
しかし、ユウは手に取ったはいいが、食べるのをためらっていた。
それもそうだろう、リンが作ってきたおむすびは、ユウが手にしたもの以外すべて着色されているのだ。
フィアナが手にした赤色をはじめ、黄色や緑、紫や青なんてものもある。
何をどうしたらそんな色のおむすびが出来上がるのか、元の世界でのおむすびを知るユウにとって、この手の色の食べ物は、大抵が体に良くないと言うか、毒キノコと同じ部類に属する。
「いっただきまーす」
ユウのそんな懸念をよそに、フィアナは大きな口を開けて一口。
「――――ッ! うっ......」
フィアナはそれ以降、言葉を発することなく涙を流しながらユウの方を見て固まった。
そのフィアナの行動にリンは、食い気味に身を乗り出して。
「美味いか? 美味いのか? そうかそうか、泣いて喜ぶほどか」
握った甲斐があったなどと言いながら、うんうんと頷いていた。
しかし、よく見るとフィアナは小刻みに震えていた。
それはもう、プルプルと。
まるでケータイのマナーモードのように。
あの反応が「美味しい」という反応でないことは、一目見ればすぐにわかる。
わかってしまったからこそ、ユウは、今手にしている爆弾を食べあぐねている。
「そ、そういえば、孤児院にはたくさんお腹を空かせた子供たちが待ってるんだろ? やっぱりオレは......」
遠慮しとくよ、という言葉を言う前に、フィアナがものすごい目でユウを見つめてきた。
まるで、「お前だけ逃げるなんてずるいぞ」と言わんばかりの表情だ。
(ダメだ。あんな顔をされちゃ逃げられない。それに......)
「1つくらい大丈夫じゃ。まだまだいっぱいあるのじゃからな」
妾の作ったおむすびを早く食べてみてくれ、というワクワクドキドキした目で見つめられれば、断るに断れない。
ユウは、もう一度自分の手にしたおおむすびに目をやる。
他のカラフルなおむすびとは異なり、このおむすびだけはユウの知るところのおむすびだった。
おそらく塩味のおむすびだろう。
なら、マズいわけがない、いくら何でも塩味のおむすびがマズいわけがない。
せいぜい塩辛いくらいだろうと、ユウは自分にそう言い聞かせ、恐る恐る三角に握られたおむすびを口にする。
「~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
(なんじゃこりゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)
腫れ上がって開けられなかった右眼も開く勢いで、絶句した。
手にしたおむすびがポロリと地面に落ちて、ユウは泡を吹き出し、そのまま意識を天に捧げた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
圧倒的に料理のできない人の作ったものを食べたことってありますか?
残念ながら(?)僕はありません。
でも、一度でいいからそういったものを食べてみたくなり、昔やっていた「愛のエプロン」という番組に出てきた『ゲテモノ』料理を自分で作って食べたことはありますww
M字開脚で有名だった彼女の料理を再現して、食してみると......味はドS級でした(オロオロォロォ)
さて、リンの料理は果たしておいしかったのかそれとも......?
次話、レナの隠れ家にいる彼女たちは、ユウがいなくなってどうしているのか?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




