2話 市場での出来事
感情に任せるまま、ドアを閉めたオレは、勢いよくベッドに座り込む。
「はあああぁぁぁぁ~~~」
深い、それは深いため息をついて、そのまま仰向けに倒れこんだ。
やっちまった。
去り際に見たエリシアの目には、透明の雫がたまっていた。
女の子を、初めて泣かせてしまった。
後悔と罪悪感の渦に巻き込まれる。
全部自分が悪いことはわかっている。
でも、オレもわけわかんねぇことだらけなんだよ。
どうして、マンガの主人公たちは、こんな状況になっても簡単に受け入れられるんだよ。
確かに、オレはラノベ主人公さながらのダメ人間で引きこもりのニートだ。
そういった設定の主人公は、何人も見てきた。
しかし、彼らは何かしらの能力に長けていたり、あるきっかけに異能に目覚めたりと、特別なのだ。
そういうオレはどうだ?
別段、得意なこともなければ、魔法だって使えやしない。
ルミナは、オレが魔法を使ってるなんて言ってたけど。
今も、右手を眺めて、何とか魔法が出ないか力んではいるが、発動する気配すらない。
別にオレが人間だろうと魔族だろうと、そんなことはどうでもいい。
見ず知らずのオレの世話を焼いてくれた、エリシアの力になりたかった。
オレと似た境遇のレナを喜ばせてやりたかった。
ただ、オレ自身が彼女たちの力になれなかったことが、たまらなく悔しかった。
それなのに、挙句、クロスに嫉妬して、エリシアに当たって。
「最低だな......」
エリシアと気まずい別れ方をして、外には陽が昇り始めてきた。
この世界に来てからこの家を出たは、ルミナを助けに行った時くらいだったなぁと思う。
そう感じ始めると、たまらなく外に出たくなった。
まぁ、9割がたエリシアと同じ空間にいるのが気まずい、ということは気にしないことにして。
「......せーのっ!」
すたっ、ゴロゴロゴロゴロ。
「痛っっっってええぇぇ」
玄関は、レナの魔法で封鎖されているし、他に外へ出る手段がなかったとはいえ、ちょっと無茶だったな。
異世界召喚モノの主人公さながら、2階の窓から颯爽と(実際はかなり躊躇した)飛び降りたが、オレに主人公スキルを求めるのは酷というものだ。
着地まではうまくいったが、着地の衝撃をうまく殺しきれず、盛大に転がった。
起き上がった先には、薄暗い路地と突如現れたオレに対する警戒心を含む眼差しの数々。
ズレたフードを深くかぶり直し、ラビリンス通りを駆けて行く。
レナと出会った時と違い、すんなりとメインストリートへ出ることができた。
ルミナ救出作戦の時に一度通ったことと、後は、この人の流れに乗って進んだおかげだ。
貧民街の人たちは、早朝からメインストリートに並ぶ店で働く人が多いようだ。
店の開店準備に取り掛かる人や街の外へ出ていく人なんかをちらほら見かけた。
後は、時折見かける帯剣した人たち。
おそらく、元の世界での警察といったところか。
ここまで来る途中に何度も耳にした、「工場が一夜にして消し飛んだ」という言葉で何となく察する。
ルミナを助ける際に、工場を盛大に吹っ飛ばしたオレたちのことを探しているのだろう。
オレは、彼らの姿を見るとすぐさま、身を隠してその場をやり過ごす。
魔族の瞳を持つオレが、人間領のど真ん中をうろうろしていると色々と面倒になる。
見つかれば、即時捕らえられるだろう。
彼らに注意しながらも、この街のメインストリートを初めてゆっくり堪能できると、少しワクワクしていた。
「おおっ、これがファンタジー世界の市場か」
所々に露店が立ち並ぶが、そのほとんどが、住居一体型の店だ。
元の世界の発展途上国によく見られる市場がほとんどだ。
見たことのある、果物や野菜が並べられていく。
「ん~、いい匂い」
店先から漂ってくる何かを揚げる音と香ばしい匂い。
「さぁ、いらっしゃい。おいしいよ~」
もう回転している店もあるのか、活気のあふれる声が聞こえてくる。
それに伴って、どこも店を開き始める。
パカッと懐から取り出したスマートフォンで時間を確認すると、午前9時8分。
この世界は、店を出す時間が早いようだ。
さぁ、何かおいしそうなものでも買おうかと思うが、肝心なことを思い出す。
そう、オレは今、一文無しなのだ。
ぎゅるるぅぅぅ。
このおいしそうな匂いに刺激されたのだろう、オレのお腹が悲鳴を上げる。
そういえば、3日間眠りっぱなしで、何も口にしていない。
何も買えないとなると、この場は途端に生き地獄に感じられた。
手に届く位置に欲しい物があるのに、どうあがいても手にすることができないなんて。
オレがひもじい思いをしながら通りを歩いていると、先に見える店から袋いっぱいのリンゴを抱える女の子が出てきた。
レナと同じくらいの身長で、肩に届かない短めのボブカット、髪の色と同じ栗色の瞳は、抱えたリンゴを落とすまいと真剣だ。
危なっかしいなぁ、と見ていると前からやってきた小太りの男にドンとぶつかった。
その勢いで、女の子とはころび、抱えていたリンゴもばらばらに散らばる。
「おい、邪魔だぞ......うぐっ、ポムを踏んじゃったじゃないか。うわぁ、靴がべちゃべちゃだ。おいっ! どうしてくれるんだっ!」
見るからに身なりのいい服装、この通りには似つかわしくない煌びやかな指輪などの装飾品。
後ろに控えるのは、190センチはあるだろう大男。
あの身長と体格は、女ではないだろう。
顔まで隠す全身甲冑で、背中には規格外の大剣を担いでいる。
おそらく護衛といったところか。
それにしても、とことんファンタジー世界のテンプレ展開だな。
ここで、主人公があの女の子を助けに入ってトラブルに巻き込まれていく、と。
オレは、もうトラブルとかご免だ。
ルミナの件でよくわかった、もしトラブルになったとしてもオレじゃ何の役にも立たない。
空回りして、みんなに迷惑をかけるだけだ。
それに、オレは主人公なんかじゃないしな。
女の子には悪いが、ここは見なかったことに......。
そこでオレは、ふと周りの反応に目をやった。
誰も女の子を助けようとしない。
それどころか、オレと同じように目を背ける人ばかりだ。
耳を澄ますと、「また、ドルベルの息子だよ」「権力者のボンボンにはかかわらないのが一番さ」などと聞こえてくる。
もう一度渦中の人物に目をやると、確かに金持ちのボンボンに見えてきた。
そして、女の子の方はというと。
今にも泣きだしそうな顔をして、ぺこぺこと必死に頭を下げて謝っている。
小太りの男とは対照的にみすぼらしい衣装は、この通りで見かける人よりもいっそう貧しい生活を送っているのが察せられる。
「あぁ、もう......」
オレは小さくため息をつき、歩みを進める。
マンガの主人公なら率先して行う行為だろうが、オレは仕方なく。
本当に致し方なくだからな。
ここで、あの女の子を見捨てるのは違う、とそんな気がしたのだ。
貧しい生活を送っているだろうことに同情したのか。
それとも、金持ちの横柄な態度に腹を立てたのかはわからないが。
それでも、泣いている小さな女の子を見捨てるのは、男として、人として間違っている気がする。
意を決して、小太りの男に声をかけようとした時。
「おい、もうその辺にしてやってはどうじゃ? この子も謝っておるではないか」
オレの横から、どこか古風な話し方をする桜色をした長髪の少女が割って入った。
上半身は巫女服なのに、ミニスカートとショートブーツを穿いており、何とも言えない格好をしている。
それに、腰には二振りの刀を挿していた。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
なんだかんだ言っても、ユウはトラブルに巻き込まれていくようですねw
そして、ついに登場させることができました。
僕のイチオシのキャラを!!
次話、突如現れた、奇抜なファッションの少女の正体が明らかに!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




