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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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37話 彼は何者ですの?




 真っ黒だった景色がわずかに薄らいで、(にわとり)でも鳴き出しそうな明け方。

 路地裏を駆け抜ける大きな2つの影があった。


「こっちっす」


「わかったわ。大丈夫? キツイなら私が運ぶわよ」


「大丈夫っす」


 ひそひそと端的にやり取りする影たちは、人目を忍んで目的の場所まで走る。

 

 迷宮の路地裏――ラビリンス通り――の更に奥地、いくつもの曲がり角を曲がった先に目的の場所があった。

 どこから見てもただのレンガ造りの壁に囲まれた行き止まり。

 3階建ての建物と大して変わらない大きさの壁は、迷い込んだ者を愕然とさせる雰囲気を(まと)っている。

 誰もが(きびす)を返す袋小路へとやってきたのは、薄暗い夜明け前でも黄金に輝く長髪、深紅の眼を持ち、騎士団の制服に身を包んだ少女エリシア。

 そして、月明かりと昇りかけの朝日によく映える肩まで伸びた銀の髪をなびかせ、らんらんと光る金眼は今は疲労の色を隠せない幼女レナ。

 その二人の背には、それぞれ大きな荷物(・・)が背負われていた。

 

 エリシアの背には、この世界には似つかわしくないTシャツにGパンという奇抜な格好に、闇より深い黒に一部分が白く染まったざんばらに切られた髪を、今は彼女の肩に預けて眠りにつく少年ユウ。

 身長の低いレナには背起ききれないのか、肩を貸す格好で担がれているのは、くたびれたローブに紫水晶(アメジスト)の長髪を垂れ流し、目をつぶったままの少女ルミナ。

 

 【解除(リムーブ)

 

 周囲を警戒しながらレナは壁に向かって手をかざし、魔法を発動する。

 今まで壁だった部分が、ぐにゃりと曲がりドアが現れる。

 土属性の魔法で作ったカモフラージュを解いたレナは、もう一度周囲を見回して素早く中へ入る。

 エリシアも彼女に倣ってレナの隠れ家へと姿を消す。

 

 

 

 ――ドサッ。

 

 エリシアたちが部屋に入り、ソファーとベッド、それぞれにルミナとユウを寝かせた後、レナは力尽きるように倒れこんだ。

 突然の物音にぎょっとしたエリシアは、慌ててレナへと駆け寄り、レナの顔を覗き込むと、すぅすぅと規則正しいリズムで寝息を立てていた。


 ルミナが(さら)われて数か月、レナは息つく暇もないほどあわただしい生活を送ってきた。

 初めて訪れる人間領での隠れて過ごす日々、危険が伴うルミナ捜索の情報収集、敵につかまり奴隷としての苦渋の生活。

 極めつけは、魔王率いる敵アジトへの強行軍、そして、初めて人を殺めてしまったという言葉にはできない感覚。

 この小さな体のどこにそんな気骨があるのかと疑いたくなる銀の魔法少女は、念願の親友を取り戻せたことに心底安堵(あんど)して倒れこむように眠りについた。


「――お疲れ様、レナちゃん」


 エリシアは自身の身についていた騎士団のコートを床に敷いて、ベッドとソファーが埋まっていて、寝る場所がないレナを移動させ額に手を当てて優しくなでた。

 そして自らもまた、横になり眠りについた。

 

 

 

「......これ...ええ......騎士団...――じゃあ、お願いね」


 レナは微睡みに沈む中、聞き覚えのある声が発した聞き捨てならない言葉に反応して、意識を無理やり浮上させる。

 目を開けた先には、朝日に照らされた黄金の髪をかき上げて、窓辺で一羽の鳥と話すエリシアの姿があった。

 レナが目覚めると同時に、鳥はバサバサと羽を鳴らし飛び去って行った。

 かけられていた騎士団のコートをはぎ取り起き上がるレナに、エリシアは優しく微笑んで「おはよう」と声をかけてくる。

 

「身体はもう大丈夫?」


「は、はいっす」


 『騎士団』という言葉を聞いたレナは、自分の身体のことを心配してくるエリシアに戸惑いながら返事をする。

 あれは幻聴だったのだろうか。

 

 聖剣姫であるエリシアとは、ルミナを奪還するまでの一時的な協力関係だ。

 騎士団に所属する彼女は本来、魔族を殲滅(せんめつ)する敵側の人間。

 そのことを思い出したレナは、恐る恐るエリシアに(たず)ねる。


「今のは、何っすか?」


「今のって?」


「鳥に何か手紙を渡してたっす。もしかして聖十字騎士団にレナたちを連行するっすか?」


 今も背後にあるソファーで眠るルミナを片手で(かば)うようにして、エリシアに叫ぶ。

 刺し違えてでもルミナだけは守ると金の双眸(そうぼう)に意思を込めるレナにエリシアは、ふふっと笑みを漏らし。


「大丈夫よ、そんなことしないわ。あれだけ一緒に頑張ったのに、私って信用ない?」


「そ、そんなことないっす。ただ......」


 レナはその先の言葉を詰まらせて、ちらりとルミナの方を向く。

 エリシアはレナの行動に納得したみたいだ。

 そして、胸の内を吐露する。

 

「あの協力関係だけど、もう少し続けてもいいかしら?」


「えっ!?」


「アイツらがルミナちゃんのことを諦めたという保証はないわ。それに...今回のことで私の力のなさを痛感させられたし、レナちゃんにもいっぱい助けられた......」


 エリシアは一拍おいて、ここにはいない人物が眠る方を向いて続ける。

 

「ユウ......彼の存在も気になるわ。魔王のことを知ってる風だったし」


「......」


 レナもエリシアの視線の先へと目を向けてこくりと頷く。


「だからっ、これからもよろしくね。レナちゃん♪」


「はいっす」


 太陽のような笑顔で手を差し伸べてくるエリシアに、レナもにっこりと破顔してその手を取る。

 しばらくしてから、「ここはどこですの?」と戸惑うルミナが目を覚ました。





「この度は本当にありがとうございましたわ」


 ルミナは、斜め45度に腰をきれいに曲げてエリシアに頭を下げていた。

 

 目を覚ましたルミナは最初、騎士団の服を着たエリシアを見て怪訝(けげん)な顔をしていたが、レナから事のあらましを聞いて、すぐにこのような行動を起こした。

 エリシアも「私だけの力じゃないわ」と手を振り、無事に目を覚ましてよかったとルミナの帰還を喜ぶ。

 

 お嬢様育ちで律儀な性格のルミナは、今回一番ひどい重症を負ったユウにもきちんとお礼を言いたいと、ユウが眠る隣の部屋へと足を運ぼうとする。

 すると当然のようにレナが隣を歩き、その後ろをエリシアがついてくる。


「どうしましたの? (わたくし)ひとりで大丈夫ですわよ?」


「レナもユウの様子が気になるっす」


「......私もよ」


「ふふっ、優しいんですのね」


 ルミナが微笑(ほほえ)む中、3人はぞろぞろと廊下を歩く。

 

 ガチャっと音を立ててドアを開けるルミナに続きレナ、エリシアの順でユウが眠る部屋に入る。

 ベッドの上では、黒髪の一部分を白く染め上げた男の子がすやすやと寝息を立てて眠っていた。

 するとルミナが驚いたように声をあげる。


「彼...人間、なんですのよね?」


 レナからユウのことを人間と聞いていたルミナは、どういうことなのかと疑問を口にする。

 正直言って、『わからない』というのがレナとエリシアの答えだ。

 一切魔力がなかったのに、突然、前魔王クロス・サタンと名乗りだし、圧倒的魔法を扱い、現魔王を退けた男。

 どういうことなのか聞きたいのは二人も同じ思いだろう。

 だが、エリシアはルミナの次の言葉に驚きをあらわにする。


「彼、寝ながら魔法を使ってますわよ」


「はぁっ!?」


 魔力を感知できる聖法気使いのエリシアが、今感じている魔力の元は、隣にいるレナと前でユウをのぞき込んでいるルミナのものだけだ。

 ユウからは一切の魔力を感じ取れない。


「しかも彼、魔法で傷を癒してますわ」


「どういうことっすか? 魔法で治癒なんて聞いたことないっすよ」


「そうですわね。でも......」


 ルミナはユウを見つめること数秒、言葉を続ける。


「闇魔法ですわね」


「闇魔法ですって!? というか、ルミナちゃん、どうしてそんなことがわかるの?」


「どうしてと言われましても......エリシアさんはわからないんですの? 聖法気使いは魔力を感知できるんですのよね?」


「ええ、そうよ。そのはずなんだけど......」


 これだけそばにいても、ユウからは一切の魔力を感知することができない。

 隣にいるレナと目の前にいるルミナから魔力を感じることから、エリシアの魔力感知能力は正常に働いている。

 ルミナの言う通り本当に魔力など使われているのか?

 しかし、ここで彼女がウソを言う理由はない。

 それなら、ルミナとエリシアとでは魔力の感知できる方法が違うのではないかと思い。


「ルミナちゃんはどうやって魔力を感知してるのかしら?」


(わたくし)は感知など出来ませんわ。視えてる(・・・・)だけですの」


「視えてる?」


「ええ、そうですわ」


 ルミナは魔力を感知するのではなく、直接、目で見ることができるという。

 属性の区別は色で判別するらしい。

 火属性なら赤色といった具合に。

 戦闘においては非常に便利な力ではあるが、感知系ではないので、面と向かった状態かつ魔法を試行していないと効果を発揮できないのが難点だとか。


「そんなことよりも、魔法で回復ってどういうことっすか?」


 レナはルミナと幼馴染というだけあって彼女の能力は知っているのか、それよりも魔法で回復という未知の行為について説明を求めていた。

 ルミナによると時間、空間を操る闇魔法で、傷ついた内臓を時空ロックし、その空間だけを加速度的に時間を早めているという。

 自然治癒の高速バージョンといったところか。


 にわかには信じ難いが、ルミナは魔力を見ることができる特殊な魔族なのだろう。


「じゃあ、ユウは魔族なの?」


「......わからない、ですわ」


 エリシアは自身の判断が間違っていたのかとルミナに(たず)ねるも、ルミナは渋い顔で首を横に振った。

 

 ルミナ自身よくわからないのが正直なところだ。

 魔族であれば、聖法気使いであるエリシアが魔力を感知するはずだ。

 それも剣聖に次ぐ聖法姫、魔力感知ができないわけがない。

 しかし、ルミナの目にははっきりと黒色の――闇属性の――魔力が見えている。

 

「彼とはどこで会ったのかしら?」


「それは......」


 ルミナの問いにレナが言葉を詰まらせてエリシアに視線を飛ばす。

 レナの視線に気づいたエリシアもうつむいて考えこむ。

 異世界人ということを話していいものか。

 そもそも異世界などというバカげた話を信じるだろうか。

 

 しばらく考え込んでいると、レナがエリシアの沈黙を否定的にとったのか、重い空気をはねのけて声を出す。


「ルミナにも、話せないっす......」


「えっ?」


 ルミナかエリシアか、それとも両者か、レナの言葉に目を見開く。

 その声には構わずレナは続ける。


「ユウと約束したっす。ユウのことは誰にも話さないって。だから......ルミナにも話せないっす。ごめんっす」


 レナは必至に笑顔を取り(つくろ)ってルミナに頭を下げる。

 そんなレナの事を慌てて止めようとするエリシアより先にルミナは、少しため息をつき優しい笑顔で答える。


「わかりましたわ。レナがそこまで言うならもう聞きませんわ」


「違うのよルミナちゃん......」


「大丈夫ですの。(わたくし)はレナの親友ですから」


 ルミナはエリシアの言葉を(さえぎ)ってにっこりと笑う。

 それはレナに対する信頼の色を含んでいた。

 そういうことならと、エリシアはそれ以上何も言わなかった。

 それから3人はユウが眠る部屋を後にした。

 

 

 

「......ああは言いましたけど、やはり気になりますわ」


 ソファーや床に敷物を敷いて眠りについたレナたちをやり過ごし、夜中にこそこそと隣の部屋へと足を踏み入れたルミナは、自分の好奇心が抑えられずといった感じでつぶやく。

 そして、先ほどと同様にユウの顔を(のぞ)き込む。

 

 ――やはり、魔法ですわね。

 

 しばらくユウを――正確にはユウが使っている闇魔法――眺めていたルミナは、突如「んんっ」と寝言を発したユウに肩を跳ね上げる。

 好奇心が抑えられなかったとはいえ、夜中に男が眠る部屋へ忍び込む、ともすれば、夜這(よば)いと勘違いされても仕方がない行為に内心ドキドキしていた。


「これは、調査、調査ですわ。うん」


 断じて不純な気持ちなどないと、誰に対して言っているのか言い訳をしていた。

 そこで、ふとユウがうなされていることに気付く。

 額からは大量の汗がにじみ出ている。

 仕方ないですわねぇと言って、布切れを水にぬらして汗まみれになった顔を拭いてやる。

 さすがに服を脱がして体までとはいかなかったが、自分を助けるために尽力してくれた恩人に尽くしていた。

 

 程なくして、ルミナはユウの足元で静かに(まぶた)を落とした。

 

 窓から顔をのぞかせる静謐な月が、眠りにつく2人を優しく見守り、レナの隠れ家にも静かな時間が流れ出した。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


大変お待たせ致しました。

就活も終わり(惨敗でしたが)、現状維持のまま半年後にまた転職先を見つけようと思います。

1章ラストまであと少しのところで、更新が滞ってしまったのは本当に申し訳ありません。

これからも懲りずに付き合っていただけると嬉しいです。

と言っても、1章が終われば、少し更新をストップさせます。

僕の力の無さが招いたことです。

本当にすみません。


さて、1章も残すところ、あと1話となりました。

終盤で登場したルミナが「私の出番はどうしましたのっ!」と詰め寄られて、急いで書き上げたものです。

2章からはしっかりと出番があると言っても聞いてくれなかったのです(汗)

彼女は特殊な魔族だよってことが伝わってくれれば幸いです。


次話、1章のラストを飾るのは......?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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