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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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36話 目覚めは美少女と共に




 あぁ、なんだかひんやりして気持ちいなぁ。

 確か前にもこんなことがあったような。

 目を覚ますと大剣を振り被った美少女が......ってそうだ。


「エリシアッ! レナッ! 痛っ――ッ!」


 ふわふわした心地から無理やり体を起こすと、全身に激痛が走った。

 そういや黒マントのヤツにやられたんだっけ、とお腹をさすりながら辺りを見回す。

 白を基調とした壁にでかでかと取り付けられた両開きの窓が一つ。

 そこから見える外の景色は寂しいくらい真っ黒。

 どこか古ぼけた造りでファンタジー感満載の部屋に既視感を覚える。


(レナの隠れ家......)


 オレがそう唇を動かそうとすると、足元から突如「今起きました」という声が聞こえてきた。


「んんぅんっ、うるさいですわね......」


 視線を下に向けると、そこには――。

 

 ――誰......?

 

 きめ細やかな白い柔肌に、小ぶりだがどこか色っぽい桜色の唇。

 本来はくりっとしたつぶらな瞳なのだろうが、寝ぼけまなこと魔族の象徴である猛禽類(もうきんるい)を思わせる金の瞳と相まって、少し目つきが怖くなっている。

 そして、紫水晶(アメジスト)に輝く艶のある髪は左右対称にくるくると巻かれている。

 これは、縦ロールというやつか。

 その髪型によるところだろうか、少し幼く見える。

 

 オレは彼女の美しさにしばらく時を止めていた。

 

「あっ、起きたんですの?」


「えっ!? あ、ああ、う、うん......」


 透き通るような声で話しかけられ、時を動かしたオレはしどろもどろに応える。

 金の双眸(そうぼう)金黒眼(オッドアイ)が交差すること数秒。

 魔族の美少女はオレが沈黙する意図をくみ取ったのだろう、ベッドわきに備えられていた椅子から立ち上がり、(うやうや)しくお辞儀をする。


「初めまして、(わたくし)はルミナ・イリス。この度は助けていただいて本当に感謝していますわ」


 フレアローブの(すそ)をつまみ、一礼する姿はまるで絵画から飛び出したような美しさと優雅さを兼ね備えており、品の良い育ちを思わせる。

 オレは慌ててベッドから降りてお辞儀しようとするが、全身を走る激痛にもだえる。

 ルミナはそんなオレを見るなり、くすりっと口を緩め手を口元へもっていく。

 

 ややあって、自己紹介を済ませたオレはベッドから降りることなくそのままの位置で彼女を見る。

 彼女がレナが助けたがっていた少女なのか、ということを理解すると同時に。

 どうして彼女がここにいるのか?

 そもそもオレは何でこんなところにいるのか?

 エリシアやレナたちはどうしたのか?

 次から次へと湧き上がる答えのわからない疑問に(さいな)まれる。

 ただ一つわかることは、とりあえずルミナを助け出すことができたということだった。

 

 そこへ、突如ずいっと顔を近づけてきたルミナにぎょっとすると、オレは顔を熱くさせる。


(ち、近い......)


「え、えっと、な、なんでしょう?」


「あなた、何者なんですの?」


「えっ? え、えーと......」


 突然の意表を突く質問にどう答えていいか戸惑う。

 自己紹介は先ほど済ませたし、おそらくオレの金黒眼(オッドアイ)のことを言っているのだろう。

 なぜ魔族の眼を持つのか?

 そして、同時に人間の眼を持っているのか?

 そもそもオレは何者なのか?

 オレ自身その答えはわからない。

 

 だが、魔法が使えない以上オレは魔族ではない、と思う。

 だから、初めてエリシアに会った時に言った言葉をルミナにも繰り返す。


「オレは人間だよ」


「人間? あなたが? うっふふふっ、どうしてそんな見え透いたウソをつくのかしら?」


「???」


 ルミナは薄く目を開けて口を隠すように手を当ててクスクスと肩を揺らし、それにつられて艶のある紫水晶(アメジスト)の縦ロールがゆらゆらと揺らぐ。

 彼女が何を言っているのかよくわからなかった。

 魔力を感じることができるというエリシアには、魔族じゃないと断言されたし。

 魔法を教えてもらったレナにも、魔法を使えなかったオレは魔族じゃないと言われた。

 

「ウソ...なんか、ついてないぞ?」


 オレが戸惑いながらそう答えると、ルミナは笑みを消しどこか興味深そうな眼差しをして。


「あなたがウソ言う理由はわかりませんけど、あなたみたいな魔族は初めて見ましたわ」


「魔族? オレが?」


 自分を指さして目を丸くするオレに、ルミナはきょとんとして「ええ、そうよ」と答える。

 その顔から「あなたは何を言っているのかしら?」と言っているようだった。

 

 待て、待て待て、オレが魔族?

 いやいや、ない、それはない。

 だって魔法使えなかったし、それにオレは日本生まれの日本育ちだ。

 こっちの世界では魔法や異能は普通のことかも知らないが、向こうの、元の世界では少なくとも魔法や異能といったものは存在しない、ということになっている。

 

 確かに魔法にあこがれてはいる、使ってみたいとも思っている。

 だがそれは、中二病という痛い(・・)病を患っているバカなオレの願望であり妄想である。

 そしてその病の進行はとどまることを知らず、自分の手を見つめる。

 今しがた聞かされた「お前は魔族だ」という言葉。

 魔法が使えるかもしれないという一縷(いちる)の望みを、妄信を、その手に握りしめ、期待に胸を躍らせていた。

 しかし、同時に「何をバカな期待をしているのだ」という冷めた自分が頭の片隅に浮かび上がる。

 

 ひとしきり自分の手を(なが)めていたオレは、苦笑ひとつ、大人な自分の声を聞き入れた。

 そして、自分の生い立ちを話始める。

 オレは魔族じゃなくて人間なんだと言うために。

 

 エリシアやレナには口止めされていたが、彼女たちが救おうとしたルミナなら大丈夫だろうと思った。

 レナから聞く限り、ルミナは人間に一定の理解を示していたはずだし。

 

 しかし、その思いとは裏腹にオレが話を進めるにつれてルミナの顔は険しいものに変わっていく。

 その形相(ぎょうそう)に顔を引きつらせながらもなんとか最後まで話しきったオレは、額から汗を浮かべる。

 そして、そんなオレに超絶不機嫌になったルミナは、まるでゴミくずを見るかのような眼で一言。


「最っ低、ですわね」


「えっ!?」


 オレの過去が?

 何か彼女の気に障ることを言ったかと思い返すが、何もないと結論付ける。

 いじめられていた云々はカッコ悪いので誤魔化しながら伝えたし、ルミナが何に(いら)立っているのかわからない。

 そこへ答えをくれるように彼女は口を開く。


「あなたは約束一つ守れないんですの?」


「約束?」


 ルミナが何のことを言っているのかわからない。

 そもそも今日、初めて会って話すのに約束なんてするわけがない。

 オレが聞き返すと、ルミナはため息交じりに答える。


「はぁっ、あなたは自分のことは誰にも話さないと、レナと約束しましたわよね?」


「あっ! ああ、うん。したけど、なんでキミが知ってるんだ?」


「そんなことはどうだっていいんですの。あなたは女の子との約束一つ守ることができない最低な人だということがわかりましたわ」


「い、いや、ちょ、ちょっと待って......」


 約束とはそのことか、と思うのもつかの間、ルミナから受ける第一印象が最悪のものだと知らされたオレは、必死に反論を試みる。

 何より、こんなキレイな女の子に嫌われるのは、思春期真っただ中のオレにはダメージがでかすぎる。


「オレだって誰彼かまわず話すわけじゃないさ。キミのことを、ルミナを信用したから話したわけだし......」


「今日初めて話す相手なのに、そんな簡単に信用するんですの?」


「確かにルミナとは今日初めて話すけど、レナからキミのことは多少聞いて、キミが悪い奴じゃないって思ってたし。それに、実際話してみてルミナはやっぱりいい奴だって思ったよ」


「......」


「だからっ、話したんだ。ルミナじゃなきゃ話さないさ」


「うぅっ......」


 必死に自分の気持ちをぶちまけるオレの猛攻にルミナは声を詰まらせる。

 何やら顔が赤くなっているが、まだ怒っているのだろうか?

 少し視線を泳がせたルミナはびしっとオレに指さして。

 

「も、もし(わたくし)が悪い奴だったらどうするんですのっ!」


「えっ? ルミナって悪い奴なのか?」


「......はぁぁ、もういいですわ」


 何かを諦めたようにため息をつくルミナはオレに釘を刺してきた。

 曰く、オレが元いた世界のことは話してはいけない、だそうだ。

 オレはその言葉に疑問を抱いた。

 エリシアもレナもオレが魔族の見た目をしていて、問題を起こすから話してはいけないと言っていたと思っていたが、ルミナの話を聞く限りそうではないのかもしれない。

 

「な、なぁ、オレが自分のことを話したらダメなのって、人間の中に魔族に見えるオレがいたら面倒ごとになるから...じゃないのか?」


 はぁーと長い目のため息を漏らすルミナは、首を横に振り、オレに口止めした本当の理由を教えてくれた。




「じゃあアレか? エリシアたちは別にオレの心配をしていたわけじゃないのかっ!」


 ルミナの話を聞くなりオレは大音量で叫んだ。

 初対面のオレに、何の取り柄もないオレに、優しくしてくれたあの美しい思い出がぁぁ。

 聞かされた衝撃の事実に、オレの心はガラスを割ったように崩れ去っていく。

 がっくりと項垂(うなだ)れるオレに、ルミナは「そんなことないですわ」とフォローしてくれるが、ちっとも耳に入ってこない。

 それでもオレは何とか自分の思ったことを口にする。


「要するに、オレのいた世界で発展した『科学力』がこの世界に伝来するのがマズいということだろ?」


「そうですわね」


「あー、えーっと、そのー......」


 オレは非常に言いにくそうに言葉を続ける。

 

「たぶん大丈夫だと思うぞ?」


「どうしてですの?」


「技術が追い付いてなさすぎる、からかな。オレがいた世界は『電気』がすべてを支配してたと言ってもいい。宇宙へ行くにも、世界の裏側の人と話すにも、必ず電気が必要なんだ。けど、この世界じゃ電気なんてないだろ?」


 オレの問いにルミナは首を縦に振り「そうですわね」と肯定する。


「電気がなきゃ始まらない。だから大丈夫だよ」


 しかし、ルミナは納得していないような顔で自分の意見を言う。


「では、ユウさんが尋問されて『でんきー』というものが伝わったらどうするんですの? 全然安心できませんわ」


「ははははははっ......」


「な、何がおかしいんですのっ!」


 真剣な話をしているのに突然笑い出したオレにルミナはすごい顔をしている。

 だが、それこそあり得ない話なのだ。

 だって――。


「オレは電気の仕組みなんてわからないんだから。尋問されたとしても答えられないさ」


 せいぜい、ボタンを押すと灯りがつくくらいのことしかわからないと笑って答える。

 ルミナはしばらく考え込んだ後、「そういうことですの」と納得してくれたみたいだ。

 

 悲しいかな、オレは電気の仕組みやインターネットの仕組みなんてさっぱりわからない。

 高校もろくに通っていないので当たり前なのだが。

 使い方は知っていても作ることはできないのだ。

 この世界で『科学』とりわけ『電気工学』が発展しようとするなら、この世界の誰かが電気を発明するしかない。

 

 オレがそんなことを思っていると、ルミナがにょんとオレの前に現れた。


「うっ!」


 ち、近い、さっきもそうだったが、こいつには距離感ってものがないのか?

 

 ふわりと揺れる紫水晶(アメジスト)の髪から香る石鹸の匂い。

 オレの腕に当たりそうになっている標準よりも大きな双丘に、どうしても目が行ってしまう。

 ローブの隙間から(のぞ)かせる鎖骨は、その幼顔に反して色っぽさを(かも)し出している。

 シチュエーション的には病人に寄り添う彼女といったところか。

 ルミナが彼女なら、本能のままに抱きついていただろう。

 

 全身が熱くなったオレは、必死にルミナから視線をそらして用件を尋ねる。


「ところで、ユウさん。どうして人間ではないとウソをつくのですか?」


「ん?」


 まさかの質問にオレは首をかしげることしかできなかった。

 つられてルミナも「ん?」といった感じでオレに(なら)う。

 オレは魔族じゃないとエリシアたちに口止めされていた元の世界のことも踏まえて説明したはずだが......。

 ――あれ?

 信じてもらえてない?

 

「だ、だから、オレは魔族じゃなくて人間だってさっき......」


「レナやあの聖剣姫さんはダマせたかもしれませんが、(わたくし)はそうはいきませんわ」


 それからオレが散々魔族じゃないと言っても聞いてもらえず、どうしようかと悩んでいると。

 ルミナから衝撃の言葉を投げかけられた。


「だってユウさん、あなた自分の身体を魔法で治してたじゃないですの」


「へ?」


 間抜けな声をあげるオレを置き去りにルミナは自分の見てきたものを伝える。

 

「あなたが異世界人だということはわかりましたけど、魔族であることははっきりしていますわ。あなたのそのお腹の傷、内臓が潰れていてとてもじゃないですけど、生きていられるものじゃありませんわ」


 言われて、いまだに痛むお腹に視線を落としさする。

 

「魔法で治療というのは、この世界でもまだ確立されていませんわ。ですが、あなたはそれをやってのけた」


「オレが!?」


「ええ、まさかそんな魔法の使い方をするなんて発想はなかったですわ」


「感心してるところ悪いんだが、オレにはさっぱり心当たりがないんだが。オレが、いつ、どこで、魔法なんか使ったんだ?」


「え? 寝ている間ずっと使ってましたわよ。器用ですこと」


 オレが、魔法を......。

 自分の手をまじまじと見つめるも何も変化はなかった。

 ふと脳裏に白髪の青年が浮かんだが、密着したルミナに目が行ってしまい、すぐに思考が中断された。

 な、何でこんなに近いんだ。

 すると、どたどたと大きな足音が近づいてきたので、音のする方へ目を向ける。

 ドンっと勢いよく扉が開くと、肩を揺らしたレナが現れた。


「ユウ、目が覚めたっすか? さっきの大声はいったい......」


 突然言葉を詰まらせたレナは、オレを見るなり拳を握りプルプルと震えだした。

 レナの顔は、心配した表情から怒りの色へと変わっていく。

 

「なっ! そんなにくっついて......」


 レナがもごもごと何かを言ったようだが、よく聞こえない。

 だが、レナが無事であることをこの目で確かめることができてよかった。


「レナ、無事でよかった」


「ユウこそ目覚めて早々、ルミナに甲斐甲斐しくお世話をしてもらってよかったっすね。レナはお邪魔みたいっすから、もう行くっす」


「お、おい......」


 笑顔で無事を喜ぶオレを置き去りに、プイっとそっぽを向いたレナはすたすたと去ってしまった。


「ふふっ、可愛いですわね」


 呆然と誰もいなくなった廊下を見つめるオレの隣で、ルミナの言葉が耳朶(じた)を打つが、何のことを言っているのかさっぱりわからなかった。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


はじめに、更新が遅くなってすみません。

さっさと新しい職を見つけるよう努力しますので、もうしばらくこのペースに付き合って下さると幸いです。


ようやく登場させることができたルミナちゃん。

この作品を作る前から縦ロールは絶対に出してやると思っていたので、願いが叶ってうれしいです。

イメージとしては重音テトですかね。

そして、お嬢様言葉って難しいです...わ。


次話、ユウがのんきに寝ていた間に起きた舞台裏(?)で起きた出来事とは?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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