3話 オレの名は..
オレが助かる道は、今も笑顔で剣を鞘から出し入れしている彼女が納得する答えを示すことだけだろう。
でも、オレが本当のことを話したところで、はたして彼女は信じてくれるだろうか。
異世界召喚なんて突拍子もないことを。
そんなことを考えていると、彼女からの尋問、もとい質問がきた。
「まずは、あんたはどうやってここまで来たの?」
「それは......」
オレが答えあぐねていると。
カチンッ!
彼女は剣を鞘に勢いよく収めた。
恐る恐る彼女を見ると、笑顔なのに笑えない顔がそこにあった。
こうなったら、この世界に召喚魔法があることを祈るだけだ。
「じ、実はですね......」
オレは、今に至るまでの経緯を嘘偽りなく全て話した。
そして、オレの話が終わると彼女は開口一番に。
「うふふっ、斬られたいようですね」
なぜか1周して、しゃべり方がおかしくなっていた。
相変わらずはんにゃのような笑みはそのままだ。
だが、事実なんだからどうしようもない。
「ちょ、ちょっと待ってくれぇ。嘘じゃない、嘘じゃないですから。ほ、ほら、オレが今嘘ついてもなんのメリットもないだろ?」
「確かに、そうね......」
そうそうと、オレは首をブンブンと縦に振る。
「でも、信じられないわ、そんな話」
「わからんでもないが、事実なんだ」
「うーん......確かに変な服装ではあるし、とりあえずは、信じてあげる。ただし...」
オレは彼女の次の言葉にゴクリと喉を鳴らし、彼女を見つめる。
彼女は太陽のような笑顔でオレに忠告した。
「少しでもおかしな事したら斬るわよ♪」
「......はい」
頷く以外の選択肢は、なかった。
オレはこれからどうしようか、いや、どうなるのか気になって尋ねてみた。
「あ、あの......」
「何かしら?」
「オレはこれからどうなるのかなぁなんて......」
「そうね、考えてなかったわ。えーと......」
彼女は、オレの顔を見て言葉をつまらせた。
そういえば、お互い名前すら知らなかったな。
「あー、自己紹介がまだだったかな。オレは三舌悠」
「ミシタユー? 変わった名前ね」
「まぁ、異世界ならそうなるのか? 呼びにくいなら悠でいいよ」
「ユウね、わかったわ」
異性に下の名前を呼ばれるのは幼稚園以来だろうか、自分で提案しといてなんだが、ちょっとドキドキする。
そんなことを思っていると、彼女は姿勢を正して自己紹介しはじめた。
「私は聖十字騎士団所属、エリシア・シュペッツボルクよ」
「シュ、シュペッツェ......」
「エリシアでいいわよ」
「エ、エリシア......うん、わかった」
同年代の異性を下の名前で呼ぶのは、非常に気恥ずかしかったが、それでも天使のような美少女に少し近づけた気がしたので、いい気分だった。
同時にオレは、一つの疑問を口にした。
「ところで、聖十字騎士団って何?」
「あぁ、そっか、ユウは違う世界から来たって言ってたわね。聖十字騎士団って言うのはね......」
聖十字騎士団とは対魔族用戦闘集団のことで、国王直轄の軍隊のようなものらしい。
そしてオレはこの国のこと、世界のことについて聞いた。
何でも、この世界では人間族と魔族がいるらしく、両種族は敵対していて今は戦争中らしい。
16年前に魔族側が大規模な攻撃を仕掛けてきたのを皮切りに、戦争は激化していった。
そして、人間は16年前に魔族が使う魔法に対抗する力――聖法気を手にした。
それまで魔族優位だったが聖法気の力を得た人間サイドが押し返し、今は拮抗しているとのこと。
魔族と人間との見分けは簡単で、魔族は瞳の色が金色、それ以外の瞳の色をしたものが人間と分類される。
金眼を持つ魔族は魔力を有しており、人間にとっては異能や超能力と言った類いのものらしい。
例えば、手から火や水といったものを放出したり出来きたり。
他にも、土や風や雷などと言ったものまで。
まぁ、元の世界で、夢にまで見た魔法と言ったところだ。
そして、聖法気というのが魔法と同じようなものらしい。
魔力が自然界のエネルギーに対して、聖法気は人体の内なるエネルギーとかなんとか。
あまりよくわからないが、ただ、使うのが人間か魔族かという違いだという解釈でいいのかな?
オレはこの世界のことをなんとなく理解した。
そして、エリシアの話をふむふむと聞いてばかりいると。
「さっきから私ばかり話してるじゃない。ユウのことも教えてもらいたいわ」
「まぁ、この世界に来てわからないことだらけだし、でもだいたいわかった。ありがとう。っでオレのことだっけ?」
「そう、ユウは何者でどこから来たのか。なぜ魔族と同じ瞳を片方だけ持っているのかとか」
「あははっ、質問が多いなぁ。まず、オレがいた世界はな......」
オレのいた世界のことを話す度に、エリシアは信じられないと言った感じはすごい新鮮だった。
そしてオレはこの眼のことをエリシアに話した。
15歳の誕生日に突然発現したこと。
この眼のせいで色々と大変な目にあってきたこと。
いじめられていたとかは、かっこ悪いので曖昧にしておいたが。
だから、オレが魔族と言われてもピンとこないし、むしろずっと人間として生きてきたので、オレは人間だと言い張った。
そんなオレのことを見たエリシアはププッと笑って。
「あはははっ、ユウの話は面白いね。作り話でもないみたいだし......うん、信じるわ。ユウが魔族じゃないって」
「ウソなんかつかないさ。信じてくれてありがとう」
オレは少し照れてるのを隠しながら、エリシアとの話を続けた。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
名前って難しいです。
記憶に残る名前って特に難しいです。
ユウとエリシア、あなたの記憶に残るかどうかはさておき、覚えやすい名前ではないでしょうか?
次話、ユウとエリシアの冒険が始ま......る?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。