33話 驕り昂ればいい
アルシエルは、溢れんばかりの魔力をかつての主、歴代最強と言われた前魔王、クロス・サタンへと向ける。
「上位魔法、悪魔の雷光」
アルシエルが魔法を放った瞬間、その場にいた全員が、まるで景色が移り変わったかのように黒い闇に包まれた。
ゴオオオオオオオオオ、ゴロゴロゴロゴロゴロっと雷が落ちる前兆が聞こえてくる。
その音、一つや二つではない。
数えるのも億劫になる程の音が、黒い空間のすべてから鳴り響いている。
そして、そのすべての音がクロスたちを捉えている。
先ほどの【悪魔の雷光】とは、比べ物にならない規模だ。
逃げ道など一切ない、黒い空間すべてが雷。
黒い雷は、光の速さを超えて一斉にクロスたちを襲いだす。
一撃でも当たればその身は弾け飛び、骨も残さず消し炭になる。
目を閉じる時間も、死を覚悟する時間さえも置き去りにしてクロスたちを蒸発させ。
――――るはずだった。
クロスが放ったアルシエルと同じ【悪魔の雷光】によってアルシエルの魔法が相殺されなければ。
アルシエルの魔法を即座に看破して同じ魔法を放つことで、防がれた逃げ道を無理やりこじ開けたのだ。
黒い空間はなくなり、元の星が見える夜空が顔をのぞかせる。
「チィッ、どんだけ魔力込めてんだよ......」
ボソッと愚痴をこぼすクロスは、背中越しにエリシアたちの無事を確認する。
音速に匹敵する速さを持つレナと光速をも超える速さを持つエリシアが、何の反応も出来ずに、あまりにも一瞬の出来事に目をぱちくりさせていた。
「さすがはクロス様。この程度では傷ひとつ負いませんか」
「はんっ、自分が教えた魔法で俺が後れを取るわけねぇだろ」
そう、上位魔法は、クロスが考案したものだ。
結合の難しい闇属性を極限まで弱く発動させて、その他の属性と組み合わせることで発動する魔法。
会得出来た魔族は、ほんの一握りだけという高難易度魔法。
もちろん≪最強の闇魔法使い≫の二つ名を持つアルシエルは修得済みだ。
しかしこの魔法は、クロスが闇属性の持ち主なら誰でも出来るようにと考え出したものだ。
クロスにとっては、闇属性の結合は造作もないこと。
なので、わざわざ闇属性の力を抑えなくても、結合する属性の力を数段階引き上げることで上位魔法は発動する。
扱いが難しいからといって、レベルを落として発動させる魔法が上位なわけがない。
闇以外の属性のポテンシャルを引き上げ、次元違いの闇属性に匹敵させて結合させるからこその上位魔法。
その実、上位魔法は、クロス・サタンに匹敵する魔力と魔法センスがないと真の力を発揮しない魔法なのだ。
だがアルシエルは、有り余る魔力だけで真の上位魔法を相殺した。
クロスが愚痴をこぼしたのは、このことをよくわかっているからである。
確かにクロスの言う通り、勝負というものは魔力量だけで決まるものではない。
だがしかし、劣化版の上位魔法を真の上位魔法に押し上げるほどの魔力量は、正直、技量や駆け引き云々言ってる場合ではない。
エリシアの言う通り、撤退するのが賢い選択だろう。
「ははっ」
クロスは笑っていた。
そして、クロスは初めて自分から動く。
【空間転移】
アルシエルの頭上に転移したクロスは、その手をアルシエルの頭部へと伸ばし、もう一度【空間転移】を展開しようとする。
しかし、アルシエルはクロスの考えを即座に看破し、大きくバックステップを踏み、その手から逃れる。
顔をしかめたクロスは、「チィッ」と舌打ちひとつ、次には空を切った手をそのまま振りかぶり、アルシエルに向けて【黒の衝撃】を放つ。
ボコンッと爆ぜたのは、アルシエルの手前数メートルの空間。
アルシエルは、クロスの振りかざされた腕を見た瞬間、【空間転移】でさらに後退し、その攻撃を躱した。
この間のやり取りは、わずか3秒未満という驚異の攻防戦。
疲労困憊のエリシアとレナでは、目で追うのがやっとの状態だ。
「【空間転移】で首を刎ねようとするとは......恐ろしいことをしますね」
「ははっ、何言ってやがる。この使い方はお前が考え出したものだろうが」
アルシエルは、肯定するかのようにニヤリと口を釣り上げる。
そして、準備運動は終わりだと両手を掲げだす。
「それではクロス様。これから思う存分に御身体を使わせていただきますッ!」
【連鎖大爆殺】
宵闇から見下ろす無数の輝く星々が照らす薄暗い部屋に突如、赤く染まった魔法陣が埋め尽くす。
その数は、常軌を逸したとしか表現できないほどだ。
空間という空間、隙間など微塵も見られないほどびっしりと魔法陣が埋め尽くしている。
アルシエルが使った魔法は、ただの火属性の魔法。
だが、その数が半端ではない。
これらが発動した瞬間、爆発が爆発を生み、ここら一帯は、まるで隕石でも落ちたかのような跡地になり果てるだろう。
当然、ただの魔法ではどうすることもできない。
次元違いと言われる闇魔法もしかり。
圧倒的魔力にものを言わせた数の暴力的魔法。
アルシエルはドーム型に覆われた無数の魔法陣の外、上空へと【空間転移】する。
クロスも同じように【空間転移】すれば、何事もなく終わる。
――――だが。
「クソッ」
クロスが【空間転移】した先は、エリシアたちのいる場所だった。
そう、アルシエルの狙いは、クロスではなく、その後ろ。
クロスが身を挺してでも守ろうとしていたエリシアたちだ。
突然クロスが目の前に現れたエリシアとレナは、目を丸くして驚いていたが、そんな視線は無視して、ルミナを担ぎ、有無を言わさず残りの2人を両手に抱える。
「最高位魔法、次元転移、連続使用ッ!」
クロスがクロスにしか使えなかった最高難易度の魔法を発動すると同時に、【連鎖大爆殺】が火を噴く。
ボバババババババババババババババババババババッ!!!
轟音、爆音、激音、耳をつんざく音が鳴り響く。
それとほぼ同時に、無数の熱気が肌を焼く。
建物は、破壊されたそばから新たな爆発によって粉々に砕かれ、地下の通路や部屋に至っては、跡形もなくなり、砂地へと変わっていく。
およそ8秒ほどの爆発の連鎖が続き、そこが工場であったことは、もはや誰にもわからなくなっていた。
アルシエルは、「ほぉぅ」と感心の声を漏らし、その鋭い金の双眸を細める。
土煙と火煙の中でゆらゆらと黒い影が動く。
盛大に肩で息をしながら、その額に大量の汗を流しているクロスだった。
彼は、アルシエルの圧倒的数での魔法攻撃を、その数と同じだけの魔法を使った。
それもただの魔法ではない。
空間と空間を入れ替えるという、次元を超える魔法。
しかし、辺り一帯を埋め尽くしたアルシエルの魔法は、空間を入れ替える隙間すらない。
そこでクロスは、爆発して次の連鎖爆発が起こるわずかな時間にできる空間を、自身が立っている空間と入れ替えたのだ。
もちろん、入れ替えた空間にも魔法陣が存在する。
なので、瞬時にまた別の爆発していない空間と入れ替える必要がある。
クロスは、すべての爆発が終わるまでの間、ずっと超高難易度魔法を使い続けていた。
エリシアたちが傷一つ付かなかったのは、彼の天才的な魔力操作と膨大な魔力があってこそだ。
アルシエルが放った魔法は、ただの火属性魔法、されど、その数によって増強された威力は、上位魔法すら凌ぐものだった。
圧倒的魔力があって初めてできる力技。
これぞ【反則強化】と言っても過言ではない。
クロスが自分のことを【反則強化】と言ったのは、決して驕っていたわけではない。
だが、これは認識を改める必要がありそうだ、と両腕に抱えたエリシアたちの無事を確認する。
アルシエルの言う通り、もしもあの身体が本当に自分の物だったなら、自分が生前、陰で恐怖の大魔王と呼ばれていたことも頷ける。
そんなことを思いながら、クロスは少し笑みを漏らして目を閉じる。
そして、ふと自分の口元に手をやり、自分が笑っていることに気付く。
(この窮地に何を笑ってるんだ?)
クロスは、自分に問いかけるも答えは出てこない。
彼が今感じているものは、昂りという感情だ。
クロスは、生まれてから今まで自分よりも強い者に出会ったことがない。
それゆえに、彼が本気になる相手など一人としていなかった。
たった一度だけ、本気になったことはあったが、それは死ぬ間際の『クロス・サタンの惨劇』と呼ばれる多数の魔族を巻き込み、人間を大量に消し飛ばしたもので、決して、クロス自身が強敵へと挑んだものではなかった。
異世界転生を経験し、また元の世界へと召喚されて、今、なぜか生前の魔力の半分ほどしか使えないが。
こと戦闘においては、退屈な日々を送ってきたクロスにとって、初めて出会う自分より強いかもしれないと思う者。
そいつが、今、自分を超える勢いで襲い掛かってきている。
今は、エリシアたちの安全を最優先させなければいけないとわかっているが、どうしてもこの胸の高鳴りが抑えられない。
全盛期の力が出せなく、エリシアたちを庇いながら、自分よりも強いかもしれないヤツを相手にしなければいけない。
誰が見ても圧倒的不利な状況。
魔力を探知できるエリシアが見ると絶望的なこの戦況。
クロス自身、勝てるかどうかわからない未知への挑戦。
「ははっ、おもしれぇ」
この感情が何なのかわからないが、独り口からこぼした通り、悪くはないものだと。
そして、クロスは生前には見せることがなかった獰猛な笑みを見せ、その手に力を入れる。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
あなたが昂る時ってどんな時ですか?
僕は、カッコイイ戦闘や熱い頭脳戦など、何かしらの対決シーンを見ると「うおおおおおおぉぉぉ、僕も書きてぇぇぇぇぇッ!」ってなります。
まぁ、僕に頭脳戦の描写なんて、地球がひっくり返っても無理でしょうがね。
あんなのどうやって書くんだ?
次話、クロスとアルシエルの頂上決戦の勝者が決まる...のか!?
次のページでお会いできることを祈りつつ......。




