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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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32話 魔族奴隷の真相




 黒衣の男――リベラル・アルシエルは、下げた頭のままこの窮地を抜け出す策を考えていた。

 頭がドクンドクンと脈打ち、ひどい頭痛を催すほどに何通りもの策が思い浮かぶが、そのことごとくが、クロス・サタンによって叩き潰されるイメージしか浮かばない。


 なぜだか知らないが、クロス・サタンは力の半分ほどしか魔力を使えないらしいが、それでも魔力操作においては自分よりも圧倒的に長けている。

 自分の魔法がことごとく(かわ)されているのがいい証拠だ。

 このまま戦闘になれば、自分は負ける。

 いや、命すら危うい。

 

 しかし、アルシエルがそんなことを考えているとは、まったくもって思っていないクロスは知らずのうちに核心をついてしまう。

 すなわち。


「そのフード、いい加減に取れよ」


「......それは...」


 アルシエルは当然ためらう。

 当たり前だ、なぜならそのフードの中にある素顔は......。

 

 

 

 かつてクロス・サタンには、4人魔族大元帥という側近がいた。

 そのうちの一人がリベラル・アルシエルだ。

 そして、彼は死したクロス・サタンを生き返らせるため【死者転生(テュエ・リバイバル)】を見つけ出した。

 膨大過ぎる魔力を要するため、彼は他の魔族大元帥たちに協力を求めた。

 しかし、アルシエルが展開した魔法は【死者転生(テュエ・リバイバル)】ではなく、別の魔法だった。

 

 【人体憑依(ダイモニゾメノス)

 

 究極の闇魔法、【死者転生(テュエ・リバイバル)】を発見する過程で見つけた闇魔法の一つ。

 対象の体に自身の魂を空間転移し、時間を同調させることで、他人の体を乗っ取ることができる魔法だ。

 しかし、これは魂あるもの、つまり、生きている人には使うことができない魔法だった。

 それでも、乗っ取られる対象が生前保有していた、運動能力や特殊スキルなどその体に備わっていたものが引き継ぎできる。

 そして、一番のうまみが、最大魔力保有量を受け継ぐことができるということだ。

 

 この魔法があれば、たとえ魔力量が少なくても魔力量が多い人に憑依すれば、必然的に使える魔力が多くなる。

 欠点と言えば、魔力の回復スピードが憑依体の体質によるというところだろうか。

 それともう一つ、この魔法を使うには膨大な魔力を必要とする。

 それこそ、4人の魔族大元帥を寄せ集めなければいけないくらいには。

 

 

 

「なんだよ。現魔王としては、OBの言うことは聞けねぇってか?」


「い、いえ...そんなことは......」


 OBとは何のことかよくわからないが、アルシエルに許された対抗策を練る時間が終わりを告げたことは、はっきりとわかった。

 そして、考えついた策に賭け、意を決してフードを外す。


「「「―――ッ!!!」」」


 切れ長の鋭い金眼と、肩まで伸びた、まるで色素が抜け落ちたかのような白髪(・・)

 透き通るような声からはかけ離れた素顔が現れた。

 顔中に張り巡らされた無数の水膨れのような痕のせいで、本来なら静謐(せいひつ)に整ったおじ様然としたイケメンも思わず目をそむけたくなるほどだ。

 人と呼ぶには(いささ)か人間離れし過ぎたものだった。

 

 アルシエル本来の顔を知るクロスは、そのあまりの変貌ぶりに言葉が出なかった。

 だがしかし、世界広しと言えど、自分が生きていた時代には唯一無二だった白髪。

 最強の魔王の象徴でもあった白髪。

 その白髪を、なぜアルシエルが!?

 

 エリシアとレナもクロスとアルシエルを交互に見やって、どういうことなのかという目で訴えている。

 しかし、それはクロス自身が聞きたいことだ。

 

「お、おい、アルシエル。お前、その髪......」


「はい、この体はクロス様のものでございます」


 アルシエルは、聞かれたから答えた、ただそれだけの事、といった感じで淡々と答える。

 そのあまりにもあまりな反応に、クロスは動揺する。

 

 それもそうだろう。

 まずもって、クロスにはアルシエルの答えの意味が分からない。

 なぜ、アルシエルは自分の髪を身に着けている?

 アルシエルの体がクロスのもとは、いったいどういうことだ?

 

 動揺冷めやらぬクロスにアルシエルは続ける。

 

「クロス様が死して我々魔族は、聖十字騎士団に大きく領地を占領されました。そこで、このリベラル・アルシエルは愚考しました......貴方様の体を乗っ取ることで力を得ようと」


「なっ!?」


 突然知らされた驚愕の事実をクロスは受け止めきれない。

 しかし、そんなことはお構いなしにアルシエルの熱弁がボルテージを上げる。


「クロス様、貴方の体は本当に素晴らしいッ! 類い稀なる運動神経と無尽蔵の魔力。どれだけ魔法を使っても枯れることを知らない。震えた。打ち震えましたよ。これが歴代最強の魔族の体かと」



 ≪最強の闇魔法使いダークマジックマスター

 

 リベラル・アルシエルがまだ、クロスの配下である魔族大元帥だったころの二つ名だ。

 希少属性である闇属性を持ち、扱いが難しいとされるその属性を自在に使いこなす。

 こと、闇魔法においてはクロス・サタンをも凌駕(りょうが)すると言わしめたほどの大魔族。

 

 クロスはアルシエルの二つ名を思い出し、顔をしかめる。

 おそらくアルシエルは、自分の知らない闇魔法を使っているのだろうと当たりをつける。

 

(人の体を乗っ取るとか、まるで俺が体験した異世界転生と同じようなものじゃないかッ!)


 あっちの世界では妄想だとフィクションだと言われてきたことが、目の前で起こっているではないか。

 クロスはひどく動揺していた。

 そして、その隙をうかがっていたかのようにアルシエルは動いた。

 

「しまっ――!」


 一瞬にしてエリシアたちの中に入ってくるアルシエル。

 そして、横たわるルミナを手に虚空へと消え去ってしまう。

 

 驚愕の連続で魔力探知は出来ても体までは動かなかったエリシアと未知の闇魔法を扱い、常識を打ち破ったアルシエルに動揺して動けなかったクロスは、その出来事を目で追うことしかできなかった。

 

 九死に一生を得た気持ちのアルシエルは、この奴隷騒動の核心を語る。

 

「ははっ、クロス様でも動揺するのですね」


「チィッ」


「これで、私は貴方にも勝る力を得る」


 足元で横たわるルミナに手を掲げ、愉悦に浸るアルシエルは、その手にある魔道具(マジックアイテム)を近づける。


「何をする気だッ!」


「いえ、クロス様、貴方の体に溜め込める魔力の量は、体を乗っ取ってからというもの、一度として全身に満ちたことはありませんでした。それでもこれほどの力を有することが出来る。でしたら、すべてを満たした時、私は貴方と同じ力を得ることができるッ!」


「それとその()とどういう関係があるッ!」


「この魔族の娘は、非常に特殊な体質でして。他人の魔力を吸収することができるのです。そして、その魔力を強制的に取り出すのが......」


「ルミナああああああああああッ!」


 レナの叫びも(むな)しく、「この魔道具(マジックアイテム)」と、アルシエルは口元を釣り上げ、短剣をルミナへと突き立てる。

 

 瞬間、膨大な魔力が、目を開けることが困難なほどの光をもって解き放たれる。

 そして、その魔力が短剣を通じてアルシエルの中へと流れていく。


「ふふっ、ふはははっ、はははははははははははははははッ! 満ちる、満ちてくるぞッ! あはははははははははははははは!」



 エリシアは、今この瞬間に、この魔族奴隷騒動の真相を理解した。

 同じ魔族であり、その長でもある魔王が、同族を捕まえ、表向きの事件としては、人間が魔族を奴隷にしていると見せかける。

 そのすべては、魔王が力を得んとするために。

 

「なんてやつなのッ!」


 エリシアは、あまりにも非道なやり方に声を荒げる。

 それと同時に、アルシエルの魔力を感じてしまう。

 この世のものとは思えないほどの魔力量を。

 

(何よこれは!? こんなの知らない。知らないわよこんな理不尽な力......)



クロスは、すぐさま【次元転移ディメンション・シフト】で目の前の空間とルミナのいる空間を入れ替えた。

そして、涙に暮れるレナに「大丈夫だ」と声をかけ、ルミナの無事を告げる。

剣を突き立てられたルミナの胸部は、驚くことに傷一つ付いていなかった。

今も静かに眠る彼女から、魔力のすべてを奪い去っていったのだ。


そして、その魔力を得たアルシエルが静かに立ち上がり、クロスに向けて安堵を浮かべて一言。


「よかったです......」


「何がだよ」


「貴方が変わってしまったままで、よかったです」


「変わった?」


「ええ、貴方はあの女(・・・)に出会ってから変わってしまった」


 昔起こったある出来事(・・・・・)をアルシエルは、とても忌々しそうな顔をしながらその手にを強く握りしめる。


「最強の魔族としての器と冷酷無比な圧倒的支配力。私は貴方が、貴方こそが、すべての魔族をあるべき世界へと連れて行ってくれると信じて疑わなかった」


 しかし、クロスは一人の人間の女の子に出会って、人としての温かさに触れ『情』というものを知った。

 それからというもの、規律と秩序を絶対とした完全実力主義の魔族軍は、少しずつ変わっていった。

 これまで魔族至高主義だったクロスの考えは、人も魔族も共に生きる争いのない世界を目指すようになっていった。

 その変化をよく思わないものも少なからずいた。

 その筆頭がリベラル・アルシエルだ。

 そして、ことあるごとにクロスとアルシエルの意見はぶつかった。

 

 16年の歳月が経ってもまた、クロスとアルシエルの意見はぶつかる。

 

「あの女は、貴方に余計なものを吹き込んだッ! 弱者を救うという甘さを。弱者など切って捨てるか、利用するしか価値がないというのにッ!」

 

「はっ、確かに昔は俺もお前の考えに何の疑問も持たなかったさ。だがな、争って争って、争って争って争って......気に入らない奴を殺して、従わない奴を殺して、殺して殺して殺して殺しまくって...」


 クロスは、沸き立つ感情を鎮めるように目を閉じて一拍。

 

「そこに何が残るっていうんだ?」


 そして、その眼は悲しみに満ちていた。

 その眼を見たエリシアは、疑問に(さいな)まれる。


 冷酷、卑劣、無情、その圧倒的力で躊躇(ちゅうちょ)なく人を殺し、人間に恐怖を植え付け、挙句、自身の魔力をすべて使い、大量の人間を抹殺した最凶最悪の魔王。

 それが、人間に伝わるクロス・サタンの評価。

 しかし、その顔は、自分が伝え聞く魔王クロス・サタンとは、かけ離れたものだった。

 

 だが、その眼こそ甘さの象徴だとアルシエルは(わら)う。

 

「残りますよ。私が理想とする世界がッ! ただ数が多いだけの下等な人間がいなくなった世界がッ! 我々魔族が、魔法という人間にはない力を持った上位の存在だけが住まう理想郷がッ!」

 

「ははっ、そのために魔族にも手をかけるなんてバカげてる。恐怖政治は長続きしないぞ?」


「それは、恐怖が足りないからですよ。圧倒的力を持つ者の前には、等しく無力。私は貴方のその比類なき力にそれを見ました。それをあの女が...貴方を変えてしまった」


「あの女、か。アルシエル、ずいぶんな物言いだな? ちょっと力を手にした途端に大きくなるのは、小物(ザコ)のすることだぞ?」


小物(ザコ)かどうかは......貴方自身でお確かめくださいッ!」


 クロスとアルシエルの意見は、どこまで行っても平行線。

 そして、アルシエルは自身の考え通り、力をもって理想の世界を創るべく、かつての主に牙をむく。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


想いがあるから人は戦う。

僕はそう思っています。

そして、その想いが強ければ強いほど人は力を発揮できると。


僕の想いは、「僕の描いた物語はあなたの心に突き刺さる。あなたの心に突き刺さる。感動する。面白いと言う。楽しんでくれる......さぁ、あなたはだんだん楽しくな~る」

なんだか最後の方は、暗示のようになってしまいましたが、これからもよろしくお願いします(ぺこり)


次話、新旧魔王対決の火蓋が切って落とされる!!


次のページでお会いできることを祈りつつ......。




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