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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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31話 黒衣の男の正体とは




 黒衣の男は、『彼』――自称前魔王、クロス・サタン――の言葉を聞いてかかっと笑い出した。

 それもそうだろう、16年前に死んだ人物が自分だと言い張ったら、誰だって可笑(おか)しくなるだろう。


「貴方の信者っぷりには感心いたしましたよ。先ほどは声を荒げて申し訳ないことをしました。しかし、貴方には答えてもらわなければならないことが少々ありますので、答えていただきますよ......力ずくでも」


「お前のその話し方どっかで.....。まあいいや、力ずくってんなら受けてやるさ。とりあえずその被り物は引っぺがしてやるッ!」


「ユ、ユウ...っすか......」


 これまで状況に流されっぱなしだったレナが、口から流れた血をぬぐい、苦しい顔をして(たず)ねる。

 消えそうな、隣にいるエリシアが聞き取るのがやっとの声に、『彼』は振り返りポンポンとレナの頭に手を置き微笑んだ。


「あいつは今、寝てるよ。大丈夫、今回は特別に(・・・)返してあげるから」


「どういう、ことっすか......」


「あんた、さっきから何言ってんのよッ! それにあの男の魔力、私たちの手に負える代物じゃないわ」


「ほおぅ、たち(・・)ってことは、俺も含まれてんのか?」


「そうよッ! あんたの隠し持ってた魔力も相当えげつないけど、あの男はそれ以上よ。少し足りないわ」


「少し...か。なら問題ない。それに戦闘ってのは、魔力量だけで決まるもんじゃねぇだろ?」


「それはッ...そうかもしれないけど......」


「ちょっと、二人ともレナを無視しないでほしいっすッ!」


 黒い(ほのお)で魔力を遮断していたローブの大半が消え去ったことで、魔力探知が可能になり、黒衣の男の魔力量を推し量るエリシア。

 その忠告を涼しい顔で受け流す『彼』とのやり取りに、二人の服を引っ張り間に入るレナ。

 わいのわいのと3人で盛り上がる一方で、黒衣の男は完全に蚊帳(かや)の外だった。

 

「ここまで、置いてきぼりというのも少々(しゃく)に障りますね......」


 しかし、その言葉が3人に届くはずもなく、黒衣の男は眉間にしわを寄せて首を横に振る。

 そして、しばらくその光景を眺めていると、前魔王と同じ名のクロス・サタンと名乗った『彼』が手をあげて何かを言っている。

 

「よし、わかった。とりあえずお前たちはそこで見てろ。俺が全て片付けるから。なっ?」


「なっ? じゃないわよ。ルミナもこっちにいるわけだし、ここは撤退でしょ? わざわざあんなのと戦う必要ないでしょ」


「それより、ユウが寝てるってどういうことっすかッ! エリシアも、なに普通に接してるっすかッ!」


「だから、ダマされちゃだめよ、レナちゃん。こいつがユウなのよ。今まで私たちをダマしてたのよ」


「もう、だから何度も言わせんなよ。俺はダマしちゃいねぇし、ユウでもねぇって言ったんだろ?」


 またしても、わいのわいのと言い合いをしだす3人に、いい加減待ちきれなくなった黒衣の男は、くっくっくっと含み笑いをしてその手に魔法を宿す。


「いいでしょう。ここまでコケにされたのも初めてです。まとめて死になさいッ!」


 【上位魔法(ハイグレイドマジック)悪魔の雷光フォルゴレ・デェル・ディアブロ

 

 エリシアたちが言い争っている場所が突如として、暗黒色に染まった。

 突然景色が真っ暗に変わったことに驚く暇もなく、辺り一帯に超高電流が流れ出す。

 まるで巨大な積乱雲、通称カミナリグモの中で、四方八方から矢継ぎ早に発生する雷が襲ってくるみたいに。


「だから、効かねぇって言ってんだろ」


 そう、本来なら黒衣の男が放った魔法は、彼らを黒い雷の渦で飲み込み、その身を消し炭にする電撃を浴びせるはずだった。

 しかし、それは、またしても『彼』によって(はば)まれてしまう。

 黒衣の男の背後数十メートルの位置に、都合3度目の景色だけ入れ替わる体験をしたエリシアたち。

 そして、3人は言い争いをやめて黒衣の男へと向き直す。

 その視線を受けて、黒衣の男が『彼』に問う。

 

「貴方のその魔法...まさか、最高位魔法(マキシマムマジック)......ですかな?」


 『彼』は口を釣り上げるだけで、何も答えなかった。

 しかし、黒衣の男は、無言を肯定と受け取り、金色に輝く眼を細める。


(ありえないッ!)


 黒衣の男は、内心吠える。

 

 

 クロス・サタンが編み出した魔法の一つである上位魔法(ハイグレイドマジック)は、闇属性の魔法を扱えるものなら、訓練すれば誰でも出来るようになる。

 それでも、会得する者はほんの一握りしかいないが。

 属性の中でも一線を画した闇魔法は、他のどの属性とも結合しない。

 しかし、クロスは闇属性を発動する魔力を極限まで落とすことで、他の属性と結合することに成功した。

 そして、その威力は、5属性すべてを結合させる五属性結合魔法(ペンタコネクト)に匹敵するものだった。

 もっとも、五属性結合魔法(ペンタコネクト)など、前魔王クロス・サタンと前魔族軍大元帥アルトリア・ルキウスしか扱える者はいなかったが。

 

 しかし、最高位魔法(マキシマムマジック)は、そうはいかない。

 そもそも、最高位魔法(マキシマムマジック)とは、前魔王、クロス・サタンにのみ許された多次元魔法だ。

 膨大な魔力量と繊細な魔力操作、そして、天性の魔法適性があって、はじめて発動できる超高位魔法。

 正直、黒衣の男自身、はっきりと理解していない。

 その魔法は、魔族の歴史上でただ一人、クロス・サタンにしかできなかったもの。

 というより、クロス・サタンによって編み出された魔法の一つだ。

 先ほどの上位魔法(ハイグレイドマジック)とは、文字通り次元が違う。

 

 

(それでは本当に......)


 目の前にいる金と黒の瞳を持つ白髪の男が、前魔王クロス・サタンではないか、と。

 握った手に力が入る。

 それに、あの男が放つ上位魔法(ハイグレイドマジック)は、自分のものとは違い、視認できない。

 そして何より、威力が段違いだ。

 自分の上位魔法(ハイグレイドマジック)が『彼』の周り十メートルほどしか効果範囲がなかったのに対して、『彼』が放った上位魔法(ハイグレイドマジック)はこの部屋――100メートル四方――すべてを燃やし尽くした。

 先ほどの彼らの言い合いで聞こえてきた、自分の方が魔力があるというエリシア(聖剣姫)の言葉が本当に正しいのか疑わしくなる。

 

(ヤツは死んだ。16年前、確かにこの手で(・・・・)......。そして、その体は今ここ(・・)にあるッ!)


 そう心に言い聞かせて、『彼』に向かって断言する。


「貴方がクロス・サタンであるはずがありません。彼は16年前、確かに死んだのですから」


「ああそうだ。あんたの言う通りだよ」


 信者なら、本当に気の狂った信者なら、崇拝する者の死を決して認めない。

 その者が常に自分と共にあると信じて疑わない。

 しかし、『彼』は意外にもその言葉を肯定する。

 

「これはもはや......狂気の沙汰、ですな」


 そう、これはもう信者の域を超えている。

 

 『過度の同一化』

 

 他人を自分だと思い込む精神疾患の一つ。

 

 黒衣の男は、そんな心の病のことなどは知らないが、『彼』を妄執に取りつかれた哀れな者と首を横に振る。

 しかし、エリシアとレナは、『彼』が嘘を言っているようには思えなかった。

 『死』という言葉で『彼』が見せた表情は、非常に苦々しいものだったから。

 彼女たちの同情のような憐みのような視線を受ける『彼』は、作ったように笑って黒衣の男に言い放つ。

 『彼』がユウの中で見てきた世界での可能性を。

 そう、それは......。


「なあ、黒いの。異世界転生(・・・・・)って知ってるか?」


「「「!!!」」」


 その言葉に3人の眼は見開かれた。

 しかし、驚いた言葉は黒衣の男とエリシアたちとは異なっていた。

 

 異世界。

 それは、ユウから聞いた、こことは違う別の世界。

 剣が衰退し、魔法というものが存在しない世界。

 しかし、魔法に代わる『科学』が発達した世界。

 

 ユウからは少しだけしか彼がいた世界の話を聞いていないが、もし、この世界に『科学』が伝来したら、おそらく世界は混とんに陥る。

 頭のキレるエリシアとレナならそれがわかる。

 この世界ではまだ、空の果て――宇宙へと行った者はいない。

 しかし、『科学』は人を宇宙へと連れていくという。

 この世界ではまだ、離れた場所にいる人の様子をうかがうことはできない。

 しかし、『科学』はインターネットというもので地球の反対側――およそ2万キロも離れた場所にいる人と会話ができるという。

 そんなものが魔法と掛け合わさったら.......。

 

 間違いなく平和とは遠い世界になる。

 正しい者が使用すれば平和になるかもしれない。

 しかし、世の中すべてが善というわけではないことは、誰もが知るところだ。

 だからこその他言無用。

 ユウに口止めしていた最大の理由。

 

 そして、もう一つの言葉に反応したのは、黒衣の男だ。

 

 転生。

 死者の魂が、(めぐ)(めぐ)って、またこの世に現れるというもの。

 しかし、そんなものは妄想だ。

 この世界では、死者はすべて消えてなくなる、というのが常識だ。

 いかに魔法が発達していようとも、それがこの世界の人々の一般的解釈だ。

 ただ一人、前魔族大元帥の一人を除いては。

 

 そう、前魔王クロス・サタンを復活させようという妄言を言い出した彼は、体とは別に魂があると考えていた。

 誰よりも闇魔法を愛し、誰よりも闇魔法の鍛錬を怠らなかったからこそ辿りついた境地。

 空間と時間と精神を操る闇魔法。

 その奥義とも呼べる極地。

 

 【死者転生(テュエ・リバイバル)

 

 しかし、その試みは失敗に終わった。

 そう、言い伝えられている。

 

 

 『彼』が発した言葉に驚きを隠せない黒衣の男の反応を無知と受け取ったのか、残念だ、とばかりに首を横に振り続ける。

 

「俺が見てきた世界ではな、死者の魂が神によって新たな世界に生まれ直させるんだよ。記憶はそのままにな。そして、その神とやらは力を与えてくれるんだ。その力の名は...」


 手を振りながら力説する『彼』は、金黒眼(オッドアイ)をらんらんに輝かせて高らかに自分を指さして言う。

 

 【反則強化(チート)

 

 まあ、どれも人間が考え出した妄想なんだがな、と付け加えて目を閉じる。

 そして今度は、鋭い眼をして黒衣の男を見る。

 その眼を見た黒衣の男は、全てを鷲掴(わしづか)みにされる感覚に陥った。

 

 恐れ、怖れ、(おそ)れ、(おそ)れ、そして、(おそ)れ。

 

 ただ見られただけ、ただそれだけなのに、黒衣の男は膝を屈する。

 あの魔族大元帥をも退けた聖剣姫を手玉に取った男が。

 簡単に(ひざま)く。

 その様子を見た『彼』は、満足したように笑みを漏らして、確信をもって告げる。

 

「お前、アルシエルだな」


「――ッ!?」


「やっぱりか。声が変わってたからわからなかったぜ。その感覚で思い出したか? 俺のこと」


「......はい。クロス様」


 どんなに否定しても、どんな理由を並べても、黒衣の男は、この感覚を忘れるはずがなかった。

 魔王クロス・サタンが放つ畏怖を抱かせる感覚は、誰よりも黒衣の男が長年の間、間近で感じてきたものだったから。

 そして、ただそうするのが当然のごとく、(ひざまず)く。

 

 だが、さすがの『彼』――クロス・サタンといえど、黒衣の男の内心までは計り知れない。

 そう、黒衣の男は焦っていた。

 自分が犯した大罪を、そしてこれから起こりうる惨劇を想像して。

 床につける拳の内側は、汗でびしょびしょに濡れていた。

 

 そして、クロスからその名を聞いたエリシアとレナも驚きをあらわにしてた。

 エリシアにいたっては、クロスの服をつかむ勢いだ。

 それもそうだろう、なぜならその名を持つ者は。

 

 現魔王(・・・)、リベラル・アルシエル。

 

 全魔族中最強の称号を持つ魔王その人なのだから。






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


早く戦いを始めろよッ!という声はごもっともです。

僕自身、なぜ戦闘が始まらないのかが謎です(汗

そして、1章からキャストが豪華すぎないか?と自分でも驚きです。

まぁ、でも歴代最強の魔族に対抗できる相手を考えると仕方ないんですがねww


次話、歴代最強の魔法使いであるクロス・サタンが!?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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