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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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28話 絶体絶命




 エリシアは、ルミナを(かば)い仰向けに倒れていくレナの動きが緩慢に流れていくのを感じるだけで、黒衣の男がレナに襲い掛かったことに全く反応できずにいた。


「なっ!? レナちゃんッ!」


 エリシアは、慌てて黒衣の男とレナの間に割って入り、レナをかばうように正対に構える。


「がぁはぁ、ぜぇはぁ」


「ほぉう、まだ息がありますか」


 黒衣の男は、息をするのもやっとの状態になっているレナを見下ろして、あごをさする。

 それから、エリシアへと視線を移し、虚空に消えた。


「!?」


 エリシアが辺りを見回すと、黒衣の男は、崩壊した祭壇の瓦礫で出来た山の頂上に(たたず)んでいた。

 

 いったいいつ魔法を使ったのよ、と内心吠えるエリシアは、黒衣の男が闇属性の魔法を使っていることを突き止めていた。

 瞬間移動にも似たあの動きは、レナが使っていたものと同じだ。

 しかし、レナの時とは違い、黒衣の男が使う闇魔法は魔力が一切探知できない。

 

 闇魔法に唯一対抗できる聖法気使いが持つ魔力探知スキル。

 それが、全く機能しないのでは、対応のしようがない。

 どうする、どうする?

 

 全神経を研ぎ澄ませて、黒衣の男を見据える。

 そして、はたと気づく。


「あれは.....」


 男が羽織っている真っ黒なローブのデザインは、どこか見覚えがあった。

 色こそ違えど、あのデザインは先ほど死闘を繰り広げたガレイ・アインツィッヒが着ていたものと同じだ。

 完全なる死角からの不意打ちの聖法気の斬撃波にも無傷で耐えて見せたのは、アダマンタイト製ローブの力だろう。

 あれの耐久力は、さすが世界最高峰のアダマンタイト鉱石を使用しているだけはあり、直接聖法気を纏った剣を突き立てないと、破壊できない。

 

 しかし、今回はガレイの時と違い、相手は属性最速の闇魔法使い。

 エリシアの最高速に匹敵する相手を追い詰めるのは、容易(たやす)いことではない。

 それに、レナの時とも違い、魔力を完全に遮断(シャットアウト)する装備(ローブ)を着用しているので、いつ魔法を使うのかが全くわからない。

 ああ、まったく厄介極まりない敵だ、と内心愚痴をこぼす。

 それなら、ガレイの時と同じく、会話から突破口を見つけるまでと黒衣の男へと話しかける。

 

「そのローブ、あの魔族大元帥と同じものね?」


「ふふふっ、やはりガレイくんをヤったのはあなたでしたか。彼、ずいぶん苦しそうにしてましたよ?」


「その彼は、今どこにいるのかしら?」


「ああ、彼は辛そうだったので帰ってもらいましたよ」


「帰った!?」


「彼にはまだやってもらわないといけないことがあるのでね」


「やってもらわないといけないことって何ッ! あんたはいったい何を企んでるのッ!」


「ふふふっ、質問が多いですね」


「いいから答えなさいッ!」


「これから死にゆくあなたが知っても仕方ないことですよ」


 のらりくらりとエリシアの会話を(かわ)す黒衣の男をにらみつけるエリシアは、4枚の翼をはためかせてその場から消えた。

 

 一歩、たった一蹴りで黒衣の男へと肉薄し、長剣(バスタードソード)を振り下ろす。

 その一撃で黒衣の男はゆらゆらと揺れて霧散した。

 しかし、聖法気を乗せたエリシア渾身の一撃は、全く手ごたえがなかった。

 エリシアが斬りつけたのは、あまりに速い回避速度で発生した黒衣の男の残像だった。


 更に最悪の事実を把握したエリシアは、苦虫を()み潰したような顔になる。

 先に動いたエリシアの攻撃を、後から動いた黒衣の男が避けたという事実。

 これは、エリシアのスピードよりも黒衣の男の方が上だということの証明になる。

 

 戦闘において速度という項目は、最も重要なものになってくる。

 どんなにすさまじい威力を誇る攻撃も、当たらなければどうということはない。

 

 ガレイとの戦いで消耗した体力と聖法気。

 自身の攻撃は当たらず、魔力の探知もかなわない。

 そして、口ぶりを見る限り、黒衣の男はガレイより強い。

 これらを見る限り、エリシアは詰んでいる。

 

 突破口を見いだせないまま黒衣の男をにらみつけること数秒。

 目深にかぶったローブの中でフッと笑みを漏らすのが見えた。


「不意打ちとは......天下の聖剣姫殿ともあろう御方が、随分と味な真似をしてくれますな」


「あら、不服だったからしら?」


「そうですな...せめて、これくらいはやってもらいたいものです」


 黒衣の男はそう言って、フッと姿を消す。

 瞬時にエリシアの背後を取り、薙ぎ払いの一撃を振るう。

 しかし、エリシアもまた敵の姿を見失った瞬間、しゃむににその場を後にした。

 大きく前転の要領で飛び込んだエリシアのふわりと翻った髪に、チチッと触れた黒衣の男の拳は、完全に彼女を捉えることなく空を切る。

 

「ほぅ...では、これではどうですかな?」


黒の衝撃(ブラックインパクト)


 黒衣の男が腕を伸ばし発動した闇魔法もエリシアに直撃することはなかったが、エリシアのすぐ後ろで爆ぜた空間爆発の衝撃が彼女を襲う。

 しかし、エリシアは「うぐっ」と声を押し殺し、何事もなかったかのように涼しい顔でふるまう。


「その程度かしら? まだ、ガレイ・アインツィッヒの方が手応えがあったわよ」


「フフフッ、あの程度の男に劣っていると言われるのも、少々心外ですな。それではお言葉に甘えて、少しまじめにやってみましょうかね」


重力核弾(グラビティコア)


 黒衣の男の手から黒いソフトボール大の球体が出現する。

 すると、ぎゅいいぃぃんとその周囲にある瓦礫を吸い込み始めた。


「なっ!?」


 エリシアもズルズルと黒い球体に引き寄せられていく。

 必死に剣を突き立てて耐えようとするも、球体の引力が強すぎて耐え切れない。


「それなら......」


 タンッと地を蹴り、光よりも早く黒衣の男へと驀進(ばくしん)する。

 聖法気を己の長剣(バスタードソード)(まと)わせて、振り上げの一閃。


「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「!? おっと」


 相手の魔法を利用したエリシア渾身の一撃。

 黒衣の男は、まさか自分の魔法を利用されると思っていなかったのか、金の瞳を大きく見開くが、それだけだ。

 【空間転移(テレポーテーション)】で、エリシアの前斜め上空へと逃れる。

 はらりとアダマンタイト製ローブの一部がエリシアの足元に舞い落ちる。

 

 しかし、エリシアの片腕はあさっての方向を向いていた。

 全てを吸い込み尽くす引力の塊である【重力核弾(グラビティコア)】ごとぶった斬った聖法気を纏う長剣(バスタードソード)は、剣を握ったエリシアの腕を代償に、見事、黒衣の男の魔法を打ち破ったのだ。

 左手で長剣(バスタードソード)を握りしめて、はぁはぁと大きく肩で息をするエリシアは、上空で優雅に(たたず)む黒衣の男をにらみつける。

 

「さすがは聖剣姫と呼ばれるだけはありますな。しかし、その腕はもう使い物にならないようだ。なぁに心配はいりませんよ。もう片方の腕もすぐにお仲間に入れて差し上げましょう」


黒の衝撃(ブラックインパクト)


「うぅっ」


 ボンッとエリシアの左腕数センチ横の空間が爆ぜつする。

 悪寒を感じたエリシアは、咄嗟にサイドステップで(かわ)すも、完全には避けきれなかった。

 カランとその手から長剣(バスタードソード)(こぼ)れ落ちる。

 

 またしてもフッと姿を消した黒衣の男は、エリシアのどてっ腹に回し蹴りをお見舞いする。

「がはぁっ」と肺にあるすべての空気を吐き出したエリシアは、くの字に曲がり弾丸ライナーで崩落した祭壇へと突っ込んだ。


 エリシアは霞む視界の先で、黒衣の男がゆっくりと歩いてくるのをぼんやりと眺める。

 そして、その奥では、横たわり()いずるようにこちらへと手を伸ばすレナが、涙ながらに何かを叫んでいるのが見えた。

 口元を見る限り、自分の名前を呼んでくれているのだろうか。

 

 やはり、無謀な戦いだったと悔しさを()みしめる。

 まさか魔族大元帥を利用するような奴が関わっているとは、と自分の甘さを後悔する。

 

 こんなところで終わってしまうのか。

 私はまだ、まだ何も成し遂げていない。

 聖剣姫としての役目も、私自身の夢も。

 まだ、何も......。

 

 薄れゆく視界の中で最後に見たものは、ありえない光景だった。


「なん、で......!?」






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


ようやく現れました、この事件の黒幕。

察しのいいあなたなら、彼が何者なのかすぐにわかるでしょうね♪

さりげない伏線ってやっぱり難しいです(汗


次話、エリシアが目にしたありえない光景の正体が明らかに!?


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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