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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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26話 背負いきれないもの




 レナはフッとエリシアの前から姿を消す。

 それを見たエリシアは、その場から飛翔した。

 

 先ほどまでエリシアがいた場所に、大きなクレーターが出来上がる。

 そして、砂塵の中からまたフッとレナの気配が消えた。


「何度やっても、同じよッ!」


 エリシアはそう言って、首を傾ける。

 背後に回ったレナの正拳突きは、エリシアが首を曲げる前にあった顔の部分を空ぶっていた。

 そして、レナから受けた攻撃の勢いを利用して、左手でレナの腕をつかみ、背負い投げの要領でレナを投げ飛ばす。

 レナは風車のようにぐるぐると回転して、勢いよく地面に激突した。

 空中でレナの様子をうかがうエリシアは、再びレナの魔力を探る。

 

 魔族軍大元帥であり、属性最速と言われる雷魔法の使い手であったガレイが(かわ)しきれなかったレナの攻撃を難なく避けているのは、ひとえにエリシアのスキルのおかげだ。

 ガレイの開発した【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】は、魔力の量を測れるのであって、探知はできない。

 しかし、エリシアのスキルは探知が主だ。

 魔力量は【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】と違って、おおよその値しか測れないが。

 

 今回の戦闘は、いかに相手(レナ)のスピードについていけるかが勝負。

 エリシアは、レナの魔力を探知することだけに集中すればいい。

 

 

 闇魔法。

 エリシアは、実際に今まで出会ったことがなかったが、知識だけなら持っている。

 

 空間と時間、そして心を操る属性魔法。

 その人知を超えた力は強大で、他のどの属性とも次元が違う。

 そのため、扱える魔族は非常に少ない。

 そして、闇属性の魔法に唯一対抗できると言われているのが、聖法気。

 

 ガレイが言っていた【転移(テレポーテーション)】は、おそらく空間と時間を操っているのだろう。

 いわゆる瞬間移動というやつだ。

 そんな次元違いな移動手段を察知できるのは、相手の魔力を探知できる力を持つ聖法気使いだけだろう。

 瞬時に、闇属性魔法の知識を記憶から掘り起こし、レナの考察を終えたエリシアは、一つの仮説を立てた。

 

 今、レナが無駄に垂れ流している魔力を使い切れば、暴走は収まるのではないか、と。

 

 それならば、レナを傷つけることなくこの場をしのげる。

 そう思い、エリシアは長剣(バスタードソード)(さや)に戻し、レナの魔力探知に集中した。

 

 地面にたたきつけられたレナは、ローブからぽろぽろと小石を落としながらむくりと起き上がる。

 そしてまた、フッと姿を消す。


「何度やっても無駄よ」


 右横に現れたレナの一撃を、エリシアは4枚の翼をはためかせて難なく(かわ)す。

 消えては攻撃を繰り返すレナを、何度も何度も避け続けるエリシア。

 無駄に魔力を放出し続けているレナの動きは、次第に鋭才を欠いていった。

 

 【転移(テレポーテーション)】は相変わらず驚異的なままだが、転移先に現れたレナの動きがお粗末なのだ。

 魔法を操っているというよりは、魔法に振り回されているといった方がいいだろうか。

 無意識に行っているのかわからないが、レナは【転移(テレポーテーション)】にこだわっているようだ。

 おそらくではあるが、無意識化で【黒の衝撃(ブラックインパクト)】程度の速さでは、エリシアの【大天使の加護翼(ミシェルフェザー)】を捉えることができないと分かっているのだろう。

 

 何度目とも知れない攻撃を仕掛けてきたレナに対して、エリシアは、突如、レナの背後に回り込み、その首に手刀を一閃する。


「がはぁっ」


 レナは大きく目を開き、そのまま眠るように意識を飛ばして空中から落下していく。

 先に降り立ったエリシアに優しく受け止められて、レナの暴走が収まる。

 

 レナを床に寝かせてから「はああああぁぁぁっ」と盛大な溜息をもらして、エリシアも腰を下ろした。

 

 そうれもそうだろう。

 魔族軍大元帥との死闘の末に、最強の魔法属性である闇魔法を相手にすれば、いくら聖剣姫と言えど疲れるだろう。

 実際、エリシアはすべての力を使い果たしていた。

 もし、レナがローガ・アームストロングとの戦闘で、疲弊していなかったらどうなっていたことか。

 

 エリシアは魔力探知スキルで周囲の敵を確認して、近くに敵がいないことを確かめる。

 スキルに反応したのは初めに探知してから一歩も動いていない魔族のものと、エリシアによって寝かされているここにいるレナ。

 そして、ここから遠く離れて集団で移動している者たちだけだった。

 敵地のど真ん中だということは重々承知の上で、仰向けに寝転がる。

 

「そういえば、ガレイ(あいつ)の魔力が探知できなかったわね......」


 一抹の不安を覚えるエリシアだが、今は体を休めることの方が優先事項だったようで、それ以上は深く考えなかった。

 そして、しばらく休憩(レスト)を取ったエリシアは、横で気持ちよさそうに寝息を立ててるレナを見て優しく微笑む。

 このまま寝かしてあげたいが、自分たちはまだやることがある。

 この先にいるだろうレナの友達――ルミナを助け出さないと。

 エリシアは心を鬼にして、なんだか楽しそうな夢を見ているのだろうか、よだれを垂らし、にへら顔のレナをゆさゆさと起こそうとする。


「レナちゃん! 起きて、レナちゃん!」


「んんっ...ふぁ、エリシア、?......」


「大丈夫? 痛いところはない?」


「ちょっと全身が重いっすけど、大丈...あっ! じゅるじゅる。え、えへへへ~」


 顔を赤くして慌ててよだれを(ぬぐ)うレナにエリシアは、ふふっと顔を和らげて安堵する。

 するとレナはだらけた顔から一転、どこか思いつめたような表情で、手足がおかしな方向へと曲がって、色々とぐちゃぐちゃになり、辛うじて人間だと分かるローガ・アームストロングを見ながら一言。

 

「あれは...レナが、やったっすか?」


「......」


 エリシアの無言を肯定と受け取ったレナは、自分の両手を見下ろしてわなわなと震えて嘲笑(わら)う。

 

「ははっ、覚悟はしてたっす。でも、でも......」


 エリシアからは、なんてことない女の子の綺麗な手に見えるだろう。

 しかし、レナが見つめる自分の手は、真っ赤に染まっていた。

 血に濡れた殺人者の手だ。


 後悔はしていない、こうなるかもしれないことはわかっていて、禁断の力に手を伸ばした。

 もう、後戻りはできない罪を犯した重責がレナを襲う。


「......きついっす」


「レナちゃん......」


 覚悟はしていたとしても、17歳の女の子が背負うには重すぎるモノだ。

 たまらずレナから本音が漏れる。

 

 エリシアも、何と声をかけていいか戸惑っている。

 戦場で初めて人を――魔族を殺めたことを思い出す。

 あの時は、気が狂いそうになった。

 敵だから、殺さなきゃ殺されるから、魔族だから......。

 無限に言い訳をして、無理やり自分を納得させて、辛うじて正気を保ってきた。

 こればかりは、自分でどうにかするしかない。

 嗚咽(おえつ)をもらし、何度も嘔吐(えず)いているレナの背中を優しくなで続けた。

 

 

 

 しばらくして、落ち着いたレナにエリシアは、現状報告をしていた。

 

「じゃあ、その魔族大元帥が黒幕だったっすか?」


「ええ、おそらくね」


「なんで、魔族同士で......?」


 こればっかりはといった感じで、エリシアは首を横に振った。

 そして、レナに会った時から疑問に思っていたことを口にする。

 ユウはどうしたの? と。

 

「レナは止めたっすけど、二手に分かれた方が効率がいいってユウが......」


「そう......」


 ユウがもし先にルミナを見つけていたら、ルミナの魔力を使って双子石(ツインストーン)を通してエリシアたちに報告してくるはずだ。

 それがないということは、まだ発見できていないということだろう。

 

 エリシアはユウがどんな気持ちで、二手に分かれたいと言い出したのかわかっている。

 だから、レナを強く追及しなかった。


「あのバカ......」


 最強の戦闘集団である聖十字騎士団のトップクラスに位置する聖剣姫が、苦戦を強いられた敵がいたのだ。

 自らの自我を失うほどの力を使わなければ、倒せなかった敵がいたのだ。

 そんな化け物の巣窟に、何の力もないただの人間が1人で(・・・)進むなんて無茶を通り越した、ただのバカがすることだろう。


「本当にバカっすね」


 レナもクシャっと笑ってエリシアのつぶやきに応える。

 二人はユウの無事を祈るしかない。

 しかしまぁ、強敵とされていた聖法気使いと黒幕と思われる魔族大元帥を倒したのだ。

 おそらくは大丈夫だろうと結論付け、エリシアはこの後のことを話す。

 

「私が今感知してる魔力は3つあるわ。一つはレナちゃん。もう一つは、というかこれは、一つじゃないわね。20人くらいいるわね。集団で移動してる。おそらくこれらの魔族は、奴隷にされていた人たちじゃないかと思うの。なんで急に移動しだしたのかは、わからないけどね。そして最後の一つ。ずっと動かない魔力があるわ」


「それが......」


「ええ、おそらくこれが、レナちゃんのお友達」


「「ルミナ」」


 エリシアは、レナがガレイを吹っ飛ばして出来た壁穴の先を指さして、「あの先よ」と教える。

 レナも「わかったっす」と頷き、二人は立ち上がり歩き出す。

 

 部屋を後にする際に、レナは動かなくなったローガ・アームストロングへと振り返り、少しの間じっとしていたが、エリシアの方へと向き直して歩き出す。

 その顔は、大きな十字架を背負った、しかし、その十字架を背負い続けると覚悟を決めたものだった。




 先の部屋を抜けて、なぜだか開いていた扉をくぐり、細い通路を進むと、目的の場所へとたどり着いた。

 青白く光る部屋の様は、まさにここで何かが行われていたと言わんばかりの怪しさを醸し出している。

 部屋の中央には巨大な祭壇があり、周囲には巨大な石碑が数多く建っている。

 それらの石碑から伸びている鎖の先をたどってみると、祭壇の最上段に建つ石碑ようなものに少女が括り付けられていた。

 まるで、魔女狩りのように幾重(いくえ)もの鎖で十字に繋がれている。

 

 傷つき、憔悴(しょうすい)しきっているにもかかわらず、その腰まで伸びた紫水晶(アメジスト)色の髪は、どこまでも美しく輝いていた。

 静かに眠るように目を閉じたその美少女の顔は、レナのよく知ったものだ。


「ルミナ......ル、ルミナッ!」

 

 レナが(せき)を切ったように少女の元へと走り出す。

 ドサッと音を立ててレナが盛大に転ぶ。

 何かに(つまづ)いたようだ。

 

「もう...何やってるのよ。大丈夫?」とエリシアは、転んだレナへと手を差し伸べたまま時を止めていた。

 レナは伸ばされた手を取ろうとするが、エリシアの異変に気付いて、その視線の先を追いかける。

 

「......えっ!?」






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


今回は、できるだけライトに書いたつもりですが、うつ回なので、どんよりとしてしまったかもしれません。

人を殺めたという経験の持ち主は、なかなかいないでしょうが、あなたはどんなものを背負っていますか?

僕が背負っているのは、早く次の話を更新しなければという重責です(キリッ

いや、まぁ、子供たちとか家族とか、いろいろと背負いきれないものをプルプルと足を震わせながら抱えていたりもしますがww


次話、エリシアたちが知らない、この騒動の黒幕が満を持して登場ッ!


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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