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オレは魔族でも魔王でもねぇ!  作者: 結城ゆき
1章 金黒眼の少年と魔法少女
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24話 聖剣姫




 正対に構えたエリシアは、ガレイが何属性の魔族なのかを考える。

 

 光の速さに対抗されたのが、もし魔道具(マジックアイテム)の力ではないのだとしたら、速さに特化した属性だ。

 早さに定評のある魔法属性は3つ。

 風属性と雷属性、そして闇属性。

 その中でも聖法気の速さと同じくらいの能力を持つのが、雷属性と闇属性だ。

 

 しかし、闇属性は特殊過ぎて、使える魔族がほとんどいないと聞く。

 エリシアが知る限りでも2人だけ。

 そして、そのうちの一人は、もう死んだと聞いている。

 残る一人は、人間たちが最も恐れいている存在、魔族長――魔王だ。

 

 魔王の次に力を持つ存在が、ガレイを含めた4人の魔族軍大元帥。

 魔道具(マジックアイテム)で闇属性の魔法を使うかもしれないが、ガレイが闇魔法の使い手とは聞いたことがない。

 

 

 それに本来、魔族が戦闘をする際は――聖法気の使い手もだけど――何かしらの属性オーラを(まと)うことが一般的だ。

 オーラを(まと)うことで、属性の加護を受けられる。

 例えば、風属性のオーラなら、空気圧で相手の攻撃に対する威力低減といった感じだ。

 

 そして、オーラには属性によって色がある。

 火属性なら赤いオーラ、水属性なら青いオーラといった具合に。

 

 しかし、ガレイからはオーラを(まと)っている様子はないし、色も見えない。

 それでも光の速さに達する自分の攻撃を避けることができたのは、オーラを(まと)っているからではないか。

 あの加工したと言っていたアダマンタイト製のローブが、ガレイのオーラを見えなくしているという事は、十分に考えられる。


 それに、あのアダマンタイト製のローブを装備しながら、自分の剣撃を避けたのも気になる。

 この世界で最高峰の硬さを誇る『オリハルコン』の次に硬いとされる『アダマンタイト』。

 それほどまでの強度を誇るローブを装備しているなら、大抵の攻撃は無効化されるだろう。

 現に、先ほど、聖法気を放った攻撃は無力化された。

 

 また、ガレイは聖法気の量が見えるとも言っていた。

 魔族に探知スキルがあるなんて、聞いたことがない。

 おそらく何かの魔道具(マジックアイテム)を使用しているのだろう。

 まぁ、あのモノクルが一番怪しいのだが。

 

 しかし、探知スキルよりももっと厄介なのが、魔力を回復させる魔道具(マジックアイテム)だ。

 あんなもの、反則(チート)もいいところだ。

 いくら魔力を削ろうが、全快されては意味がない。

 やがて、自身の聖法気を使い切り、必敗を期すだろう。

 

 ガレイとの戦闘と会話でわかったことは、彼が雷属性の可能性が高いということ。

 戦闘中に雷属性のオーラを(まと)っていたかもしれないということ。

 聖法気を(まと)った剣撃なら、あのローブを貫けるかもしれないということ。

 こちらの聖法気量を常に把握されているということ。

 どれだけ魔力を削ってもすぐに回復されるということ。

 そして、オーラを(まと)っていたガレイの魔力消費量が激しかったこと。

 

 なら、あの白い小瓶(回復アイテム)さえ何とかすれば、勝てるッ!

 

 

 

 一方ガレイは、ある想い(・・・・)に突き動かされていた。

 

 ガレイは天才(・・)が嫌いだ。

 今でこそ、天才の名を欲しいままにしているが、彼は魔法も戦闘も普通の魔族兵と変わらなかった。

 どんなに努力しても、どんなに技を磨いても、凡人である彼が上に上がっていくことはなかった。

 

 魔法とは、生まれ持った才ですべてが決まる。

 才能のない者がいくら努力しようと、越えられない天才の壁というものが、確かにある。

 

 才能のないガレイは、軍の中でも落ちこぼれ扱い。

『使い物にならない奴は魔道具(マジックアイテム)の整備でもしてろ』と言われたのがきっかけで、魔道具(マジックアイテム)と出会うことになる。

 そして、ガレイはそこで思わぬ才能を発揮する。

 ガレイが整備した魔道具(マジックアイテム)は、非常に性能がよく、本来の効果よりも改善されているものまであった。

 彼はそこで、『魔道具(マジックアイテム)を使いこなして強くなるのも悪くないんじゃないか』と思うようになった。

 

 それからのガレイの成長はすさまじかった。

 様々な魔道具(マジックアイテム)の開発、強化、改変。

 そして、それらを駆使して数々の手柄をあげていき、軍の中でも頭角を現すようになった。

 

『もっと強く、誰もが私の存在を認めるくらい強く』と、彼は魔道具(マジックアイテム)の研究に没頭していった。

 その結果、人体実験という禁忌に手を伸ばすことになる。

 ただ、強く、凡人の自分でも、持って生まれた才などなくても、強くなれると証明するために。

 

 【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】も禁忌の実験で手に入れたものの一つだ。


 聖法気使いが生まれつき(デフォルトで)持っている魔力・聖法気力の探知スキル。

 そのスキルを宿した眼と魔族の金眼を幾度も掛け合わせて、ようやくできた闇属性を保有する眼球。

 【時を支配する眼(エンペラーアイ)】という、時の流れを緩慢に映し出す闇属性のスキル。

 人が命の危機にさらされたときに、全ての動きがスローモーションに映ることがあるが、その感覚が常に発動していると考えればわかりやすいか。

 それを、ガレイでも装備できるものに開発したのが、【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】。

 

 ガレイが光の速さを体現するエリシアの動きを見ることができたのは、このスキルのおかげだ。

 しかし、動きを見るだけでは、凡人であるガレイがエリシアの光速攻撃を避けることは出来ない。

 そこで、ガレイ自身も光の速さに匹敵する、彼が本来持っていた雷属性のオーラを(まと)って、エリシアの攻撃に対応していた。

 エリシアの予想通り、ガレイが加工したローブが彼のオーラを隠していたので、エリシアには生身で光の速さを避けたように見えたのだ。


 彼の戦闘力は、魔族軍の兵士達と差して変わらないものだ。

 それを彼自身が作りだした魔道具(マジックアイテム)で、彼の強さを何倍、何十倍にも増しているだけだ。

 ガレイの強さは、本来生まれ持ったものでもなく、信念を持ったものでもなく、魔道具(マジックアイテム)によるツギハギだらけの見せかけだけの強さ。

 魔族軍大元帥の地位を得た今でも、彼はそのことを誰よりもわかっている。

 そして、そんな弱い自分を誰よりも嫌っている。

 

 だから、ガレイは天才が嫌いだ。

 ただ持って生まれただけで、何の努力もせずに、軽々と自分を越えていくから。

 

 若くして聖剣姫という強さを手にしているエリシアは、間違いなく才能を持って生まれてきただろう。

 ガレイは、そんな才能ある者たちを自身の作った魔道具(マジックアイテム)を駆使して、戦場で、魔族軍内で、幾度となく倒してきた。

 才能ある者たちが自分に倒される姿を見ることが、ガレイにとって、この上ない愉悦と快感を与える。

 持って生まれた才能に(おご)り、自分の努力の結晶たる魔道具(マジックアイテム)で完膚なきまでに打ちのめすことが、ガレイのすべてだ。

 

 

 今回も愉悦と快感を得るために、天才の象徴である聖剣姫を倒す。

 ガレイは打ちのめされたエリシアの姿を想像して、口元が緩む。

 

 エリシアはガレイの表情の変化に反応し、先手を取る。

 タンッと地を蹴り、光の速さでガレイへと肉薄する。

 剣をクロスに構えて進んでくるエリシアを【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】でとらえるガレイは、大きくサイドステップを踏もうと飛び上がった。

 しかし、エリシアは、ガレイに迫る直前で斜め上へと飛翔する。

 そこから空を蹴り、ガレイの背後へと回りこむ。

 今度は上段に刺突の構えで、ガレイへと全力で翔ける。


「しまっ......」

 

 ガレイは着地寸前のところで首だけ振り返るのがやっとだった。

 片足を地面につけた瞬間には、エリシアの強力な刺突が目前に迫っている。

 無理やり体をひねって致命傷を避けるが、遠心力でガレイの着ているローブがひらりと舞い上がった。

 聖法気を(まと)った剣は、アダマンタイト製のローブを串刺しにして、中に仕込まれていた多数の小瓶がパリンパリンと割れる音がした。

 ローブの中で、でたらめに配合された小瓶(マジックアイテム)はうまく反応せず、ただ液体を垂れ流してるだけに終わった。

 

 しかし、エリシアの猛撃は終わらない。

 アダマンタイト製のローブを貫いた剣を、すかさず薙ぎ払いに変化させてガレイを襲う。

 ガレイはバックステップ踏むが、エリシアの剣の方が一瞬早い。

 

 「ぐはあっ」

 

 鮮血を飛ばし後退するガレイは、胸を押さえて苦渋に顔をしかめている。

 エリシアは姿勢を低くし、さらに追撃をしようとガレイに突っ込む。

 しかし、今度は【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】でとらえたエリシアの攻撃を難なく(かわ)した。

 

 一瞬の油断。

 聖剣姫をただの天才と侮った隙をつかれた。

 今の攻撃で、ローブに仕込んでいたほとんどの魔道具(マジックアイテム)を失った。

 残ったのは。

 

 最大火力の合成魔法のみ。

 もう少しエリシアの聖法気を削ってから使いたかったが、こうなってしまっては仕方がないと、ガレイは歯噛(はが)みする。

 

 

 怒涛の剣劇を避け続けるガレイは懐に手を伸ばし、4つの小瓶を手に取る。

 赤、緑、黄、紫の液体が床で混ざり合う。


「|火風雷土四種属性合成魔法クワットキャストシンシティック追尾式火炎雷撃弾テラホーミングファイアボルト


 ガレイが放った小瓶を見るや、攻撃をすぐに中断し迎撃態勢に入った。

 放電した無数の火炎弾がエリシアを襲う。


「くっ!!」

 

 先ほどの電撃よりも明らかに速い。

 そして、おそらく威力も桁違いに強力だろう。

 徐々に差が縮まってきた。

 このままでは追い付かれる。

 

 ガレイと違って回復の手段がないエリシアが、この攻撃を受けるわけにはいかない。

 反撃してもかなりのダメージを食らう、かと言って、このまま逃げつつけても体力がそがれてしまう。

 いつかは追いつかてしまう攻撃。

 

 エリシアは空中で無数の炎雷弾を(かわ)しながら、胸に手を当てて精神を集中させる。

 

 ガレイは言った、魔力を回復する手段があると。

 ガレイは言った、私の速さに対抗する手段があると。

 ガレイは言った、生半可な攻撃じゃ通用しないと。


「ならっ!」


 エリシアの覚悟を決めた声が、ガレイが放った最大威力の魔道具(マジックアイテム)の轟音にかき消される。

 エリシアは残りの聖法気全てをつぎ込んで、この戦いに決着をつけようとする。

 

大天使の加護翼(ミシェル・フェザー)


 エリシアを(まと)っていた聖法気が4枚の翼に姿を変える。

 右手に持った長剣(バスタードソード)のオーラも変化し始めた。

 (つば)の部分が天使の羽のように変わり、刀身に(まと)う白く燃える不死鳥の炎(フェニックス)のようにメラメラと輝きだす。

 そして、次の瞬間。

 

 エリシアの姿がフッと消えた。

 文字通り、本当に消えたのだ。

 ガレイの持つ【達人の隻眼鏡(エキスパートモノクル)】をもってしても、彼女を捉えることはできなかった。

 

 ボオオオオオオオォォォォン!!

 

 一際大きな爆発音がする方を向くと、【追尾式火炎電撃弾テラホーミングファイアボルト】を斬り裂いていた。

 そしてまた、ボオォンと轟音が鳴り響く。

 エリシアは、次々と【追尾式火炎電撃弾テラホーミングファイアボルト】を斬り裂いていく。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁ」


 光の速さに対抗できるなら、光という物理をも超える速さになればいい。

 半端な攻撃が効かないのなら、全力をも超える力で攻撃すればいい。

 回復するというのなら、力尽きるまで何度だって斬り続ければいい。

 

「私の全力を()って、全力を超えて......ガレイを倒すッ!」

 

 

 かつて天使の軍勢を率いてその地を守り戦ったと言われる英雄、大天使(ミカエル)は剣を片手に空を翔け、幾百幾千の敵を(ほふ)ったという。

 今のエリシアは、まさに大天使(ミカエル)がこの世に(よみがえ)ったかのような戦いっぷりだ。



「やあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ボオン、ボボボボボボボボボボボボボオオオォォォォン!!!


 先ほどの神速の剣技をも上回る速さで、すべての炎雷弾を斬り裂いた。



 聖剣姫の由来は、幾千もの魔族軍をたった一人で薙ぎ倒した天賦の剣と聖法気の才を持つ男、剣聖。

 魔王にも匹敵する力を持つと言われる彼と同じく、常人では考えられないような働きをやってのけた4人の少女たち。

 彼女たちもまた、たった一人で数百もの魔族軍を撃退した戦場の修羅。

 その化け物じみた強さから畏怖を抱かれ名付けられた剣聖、それに次ぐ戦乙女、聖剣姫。

 

 ガレイはエリシアの姿を捉え、畏怖を抱いてその名を口にした。

 

「聖剣姫......」






最後まで読んでいただいてありがとうございます。


今回も僕にまとめる力が及ばず、長々とお付き合い下りありがとうございました。

しかし、今までおとなしかったエリシアを、存分に暴れさせてあげることができたと思っています。

戦う美少女って、絵になりますよね?

エリシアの戦いっぷりを想像していただけたのなら、僕は満足です。

そして、まだ決着がつきませんでしたね(汗


次話、ガレイはこのままやられてしまうのか!? それとも......。


次のページでお会いできることを祈りつつ......。


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